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[[数学]]において'''不変測度'''(ふへんそくど、{{Lang-en-short|invariant measure}})とは、ある[[函数]]によって保存される[[測度]]のことを言う。[[エルゴード理論]]は、[[力学系]]における不変測度についての研究である。[[クリロフ=ボゴリューボフの定理]]は、函数と考えている空間に関するある条件の下での不変測度の存在を示すものである。 == 定義 == [[可測空間]] {{math|(''X'', Σ)}} 上の[[可測函数|可測変換]] {{mvar|f}} に対し、{{math|(''X'', Σ)}} 上測度 {{mvar|μ}} が '''{{mvar|f}} の下で不変'''または短く {{mvar|f}}-不変であるとは、 : <math>\mu( f^{-1}(A)) = \mu (A)\quad(\forall A\in\Sigma)</math> が成立することを言う。これは、{{仮リンク|押し出し測度|en|pushforward measure}}を用いれば、{{math|1=''f''{{sub|∗}}(''μ'') = ''μ''}} とも書ける。さらに、可測変換のあつまり {{mvar|T}} に対し、測度 {{mvar|μ}} が {{mvar|T}}-不変であるとは、任意の {{math|''f'' ∈ ''T''}} に対し {{mvar|μ}} が {{mvar|f}}-不変となるときに言う。{{mvar|T}} が何等かの[[モノイド]](変換モノイド)となっている場合も少なくない。 {{mvar|X}} 上の {{mvar|f}}-不変測度(通常は[[確率測度]])全体の成す集合を、しばしば {{math|''M{{sub|f}}''(''X'')}} と表す。[[エルゴード性|エルゴード測度]]の集合 {{math|''E{{sub|f}}''(''X'')}} は、{{math|''M{{sub|f}}''(''X'')}} の部分集合である。さらに、二つの不変測度の任意の[[凸結合]]はまた不変であり、したがって {{math|''M{{sub|f}}''(''X'')}} は[[凸集合]]を成す。{{math|''E{{sub|f}}''(''X'')}} は {{math|''M{{sub|f}}''(''X'')}} の[[極点]]からなる。可測変換のあつまり {{mvar|T}} に対する {{mvar|T}}-不変測度の空間を同様に {{math|''M{{sub|T}}''(''X'')}} などで表す。 [[力学系]] {{math|(''X'', ''T'', ''φ'')}} に対しても変換の一径数族 {{math|1=''φ'' = {{mset|''φ{{sub|t}}''}}}} に関して不変な測度というものを考えることができる。すなわち、{{mvar|T}} を[[モノイド]](直観的には時刻 {{mvar|t}} の成す径数モノイド)、{{math|''φ'': ''T'' × ''X'' → ''X''}} をフロー写像とするとき、{{math|(''X'', Σ)}} 上の測度 {{mvar|μ}} が {{mvar|φ}}-'''不変測度'''であるとは、任意の {{math|''t'' ∈ ''T''}} に対する {{mvar|X}} 上の可測変換写像 {{math|''φ{{sub|t}}'': ''X'' → ''X''}} に対して不変であることを言う。より明示的に、{{mvar|μ}} が不変測度であるための[[必要十分条件]]は、 : <math>\mu(\varphi_{t}^{-1}(A)) = \mu (A) \qquad (\forall t\in T, A\in\Sigma)</math> である。また、{{mvar|μ}} が[[確率変数]]列 {{math|(''Z{{sub|t}}''){{sub|''t''≥0}}}}(それは[[マルコフ連鎖]]や、[[確率微分方程式]]の解であるかも知れない)に対する不変測度であるとは、初期条件 {{math|''Z''{{sub|0}}}} が {{mvar|μ}} に従って分布する限りにおいて、その後の任意の時刻 {{mvar|t}} に対する {{mvar|Z{{sub|t}}}} もそうであることを言う。 == 例 == [[File:Hyperbolic sector squeeze mapping.svg|250px|right|thumb|{{仮リンク|圧搾写像|en|squeeze mapping}}は、{{仮リンク|双曲扇形|en|hyperbolic sector}} (紫) を面積が等しい別の双曲扇形へ写すもので、{{仮リンク|双曲角|en|hyperbolic angle}}を不変に保つ。青と緑の長方形もまた同じ面積に保たれている]] * [[実数直線]] {{mathbf|R}} 上で、通常の[[ボレル集合|ボレル集合族]]を考える。各 {{math|''a'' ∈ '''R'''}} に対して[[平行移動]]変換: <math display="block">T_{a} (x) = x + a</math> をとれば、一次元[[ルベーグ測度]] {{mvar|λ}} は {{mvar|T{{sub|a}}}}-不変測度である。したがって特に、平行移動変換からなる任意の変換族 {{mvar|T}} に対して {{mvar|λ}} は {{mvar|T}}-不変であって、ルベーグ測度 {{mvar|λ}} は平行移動不変であるという。 * より一般に、{{mvar|n}}-次元[[ユークリッド空間]] {{math|'''R'''{{sup|''n''}}}} に通常のボレル集合族を考えるとき、その上の {{mvar|n}}-次元ルベーグ測度 {{mvar|λ{{sup|n}}}} は、ユークリッド空間の任意の[[等長写像|等長変換]]について不変である。そのような変換 {{math|''T'': '''R'''{{sup|''n''}} → '''R'''{{sup|''n''}}}} は、<math display="block">T(x) = A x + b\quad(A\in O(n), b\in\mathbb{R}^n)</math>と書ける。ここに、{{math|''O''(''n'')}} は[[直交群]](つまり {{mvar|A}} は {{math|''n'' × ''n''}} [[直交行列]]である。 最初に挙げた例である一次元ルベーグ測度は、定数倍による正規化定数の取り換えという自明な操作を除いて一意に決まる。しかし、一般の場合には必ずしもそのような一意性が存在するわけではない。例えば、二点集合 {{math|1=''S'' = {{mset|''A'', ''B''}}}} と、各点を動かさない恒等写像 {{math|1=''T'' = id{{sub|''S''}}}} を考えると、任意の(確率)測度 {{math|''μ'': ''S'' → '''R'''}} は {{mvar|T}}-不変である。{{mvar|S}} は明らかに {{mvar|T}}-不変成分 {{math|{{mset|''A''}}}} および {{math|{{mset|''B''}}}} に[[集合の分割|分割]]される。 * [[度 (角度)|度]]や[[ラジアン]]で測った(円)角の[[角度]](角測度)は、[[回転 (数学)|回転]]不変である。同様に、{{仮リンク|双曲角|en|hyperbolic angle}}は{{仮リンク|圧搾写像|en|squeeze mapping}}の下で不変である。 * ユークリッド平面における面の[[面積]](面測度)は、行列式が 1 であるような 2 × 2 実行列に対して不変である。そのような行列は、[[特殊線型群]] {{仮リンク|SL(2,R)|en|SL(2,R)}} として知られている。 * すべての[[局所コンパクト群]]は、群作用の下で不変な[[ハール測度]]を持つ。ルベーグ測度はハール測度の例になっている。 == 関連項目 == * {{仮リンク|準不変測度|en|Quasi-invariant measure}} == 参考文献 == * Invariant measures, John Von Neumann, AMS Bookstore, 1999, ISBN 978-0-8218-0912-9 == 外部リンク == * {{SpringerEOM|urlname=Invariant_measure|title=Invariant measure}} {{DEFAULTSORT:ふへんそくと}} [[Category:力学系]] [[Category:測度論]] [[Category:数学に関する記事]]
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