与えられた数より小さい素数の個数についてのソースを表示

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[[ファイル:Ueber die Anzahl der Primzahlen unter einer gegebenen Grösse.pdf|thumb|right|『ベルリン学士院月報』（1859年11月号）に掲載された論文。]]
『'''与えられた数より小さい素数の個数について'''』（あたえられたすうよりちいさいそすうのこすうについて<ref>訳は右記文献の平林幹人による。（[[#鹿野1991|鹿野(1991)]]、17–28頁）</ref>、ドイツ語の原題: {{lang|de|Ueber die Anzahl der Primzahlen unter einer gegebenen Grösse}}, [[英語]]での定訳: {{lang|en|On the Number of Primes Less Than a Given Magnitude}}）は、[[19世紀]]の[[ドイツ]]の[[数学者]]である[[ベルンハルト・リーマン]]が[[1859年]]に発表した論文である。同年の学術誌『ベルリン学士院月報』(''{{lang|de|Monatsberichte der Königlich Preußischen Akadademie der Wissenschaften zu Berlin}}'') 上に掲載された。[[解析学]]や[[幾何学]]の分野における業績が多かったリーマンが[[数論]]の分野で唯一発表した論文であり、わずか9ページしかなかったが、数々の画期的な内容を含み、後世に甚大な影響を及ぼした。特に[[解析的整数論]]においては、本論文は同分野の基本文献とされている。内容的には、この論文はあるべき大論文の要約版・研究速報と見なすことができたが、リーマン自身は7年後の[[1866年]]に39歳で没したため、本論文の詳細版が出版されることはついになかった。もし詳細版が出版されていれば、関連分野の研究は70年は短縮されただろうという指摘がある<ref>{{harvnb|黒川|梅田|若山|中島|1999|p=123}}</ref><ref>{{harvnb|黒川|小山|2009|p=31}}</ref><ref>{{harvnb|黒川|2009|pp=29–31}}</ref>。

本論文には6個の予想が含まれていたが、リーマン没後、うち5つまでは後の数学者達によって証明が与えられた。最後に残されたのが[[リーマン予想]]であり、これは数論における最も重要な未解決問題の一つとされている。

この論文の影響はあまりに大きかったため、例えば複素数の表記方法として普通は {{math|1=''z'' = ''x'' + ''iy''}}（特に {{math|1=''z'' = 1/2 + ''iy''}}）と書くところを、[[リーマンゼータ関数]]の非自明な零点を論じる場合に限っては、本論文にちなんで {{math|1=''s'' = 1/2 + ''it''}} と書く慣習がある<ref group="注">{{math|1=''s'' = ''&sigma;'' + ''it''}} と書く慣習は[[エトムント・ランダウ]] (1903年) から始まる。</ref>。また、「リーマンのゼータ関数」という名称も、元々[[レオンハルト・オイラー|オイラー]]が導入した関数であるにもかかわらず、本論文でリーマンが記号 {{math|''&zeta;''(''s'')}} を用いて記述したことから以後定着した。

== 導入された新定義 ==
*リーマンゼータ関数 {{math|1=''&zeta;''(''s'')}} の {{math|1=''s'' = 1}} を除く全[[複素平面]]への[[解析接続]] 
*[[整関数]] [[リーマンのクシー関数|{{math|''&xi;''(''t'')}}]]<ref group="注">{{math|1=''s'' = 1/2 + ''it''}} として
:<math>\xi(t)=\Gamma \left( \frac{s}{2}+1 \right) (s-1)\pi^{-s/2}\zeta(s)\,</math>
で定義する。ここに、{{math|1=&Gamma;}} は[[ガンマ関数]]である。現代においてよく用いられる {{mvar|&xi;}} とは異なることに注意。</ref>
*離散関数 {{math|''J''(''x'')}}<ref group="注">原論文では {{math|''f''(''x'')}} と表されている。{{math|''x'' &ge; 0}} で定義され、{{math|1=''J''(0) = 0}} かつ {{math|''J''(''x'')}} は素数の冪 {{math|''p''<sup>''n''</sup>}} 毎に {{math|1/''n''}} ずつ飛び飛びの値をとる。</ref>

== 記載された証明又は証明のあらまし ==
*{{math|''&zeta;''(''s'')}} の[[リーマンゼータ関数#ゼータ関数の表示と関数等式|関数等式]]についての二通りの証明
*{{math|''&xi;''(''t'')}} の積表示<ref group="注">{{mvar|&xi;}} の積表示とは、次の等式のこと。
:<math>\xi(t)=\xi(0)\prod_{\alpha}\left( 1-\frac{t^2}{\alpha^2} \right)</math>
ここに {{mvar|&alpha;}} は {{mvar|&xi;}} の零点で、実部が正であるものをわたる。</ref>の証明のあらまし（1896年に[[ジャック・アダマール|アダマール]]が完全に証明）
*{{math|''&xi;''(''t'')}} の零点のうち虚部が {{math|0}} と {{mvar|T}} の間であるものの近似的な個数についての証明のあらまし（1905年に{{仮リンク|フォン・マンゴルト|en|Hans Carl Friedrich von Mangoldt}}が完全に証明）
*[[リーマンの素数公式]]の証明のあらまし（1895年にフォン・マンゴルトが完全に証明）

== 提起された予想 ==
*[[リーマン予想]]：「{{math|''&xi;''(''t'')}} の全ての零点は実数である」。{{mvar|&alpha;}} を {{math|''&xi;''(''t'')}} の零点として、{{math|''&zeta;''(''s'')}} の負の偶数を除く零点は {{math|1/2 + ''i&alpha;''}} と書けるので、これは次のよく知られた形に言い換えられる。「{{math|''&zeta;''(''s'')}} の非自明な零点の実部は {{math|1/2}} に等しい」

== 導入された新たな技法等 ==
*[[解析接続]]（ただし[[カール・ワイエルシュトラス|ワイエルシュトラス]]流のものとは異なる）
*[[複素線積分|線積分]] (contour integration)
*[[フーリエ変換|フーリエ逆変換]]

リーマンはまた関数 {{math|''J''(''x'')}} を本質的に[[スティルチェス積分]]の尺度として用い、{{math|''&zeta;''(''s'')}} と[[素数定理|素数分布]]との関連を論じた。そして {{math|log ''&zeta;''(''s'')}} との比較を通じて、論文の主結果として {{math|''J''(''x'')}} を定式化した。リーマンは更に進んで、一部に困難が残ることを認めつつ、[[素数計数関数|素数の数を与える関数]] {{math|''&pi;''(''x'')}} の近似公式の導出を試みた。素数分布をある程度正確に記述する[[素数定理]]は、後の1896年に{{仮リンク|ド・ラ・ヴァレ・プーサン|en|Charles Jean de la Vallée-Poussin}}とアダマールによって独立に示された。もしリーマン予想が証明されれば、さらに精密な素数分布が導かれることが知られている。

== 日本語訳 ==
* [[杉浦光夫]]訳「与えられた限界以下の素数の個数について」（[[#リーマン2004|リーマン(2004)]]、155–162頁）
* 鈴木治郎訳「与えられた数より小さな素数の個数について」（[[#エドワーズ2012|エドワーズ(2012)]]、314–321頁<ref>{{Cite web|author=リーマン|coauthors=鈴木治郎訳|date=2012-01-27|url=https://hdl.handle.net/10091/13515|format=PDF|title=与えられた数より小さな素数の個数について|publisher=[[信州大学]]|language=日本語|accessdate=2012-07-20}}</ref>）
* 平林幹人訳「与えられた数より小さい素数の個数について」（[[#鹿野1991|鹿野(1991)]]、17–28頁）

== 注釈 ==
{{脚注ヘルプ}}
{{reflist|group="注"}}

==出典==
{{Reflist}}

== 参考文献 ==
*{{Cite book|和書|author=リーマン|authorlink=ベルンハルト・リーマン|others=[[足立恒雄]]・[[杉浦光夫]]・[[長岡亮介 (数学者)|長岡亮介]]編|date=2004-02-20|title=リーマン論文集|publisher=[[朝倉書店]]|isbn=4-254-11460-5|url=https://www.asakura.co.jp/books/isbn/978-4-254-11460-7/|ref=リーマン2004}}
*{{Cite book|author=Harold M. Edwards|authorlink=ハロルド・M・エドワーズ (数学者)|year=2001|title=Riemann's Zeta Function|publisher=Dover Publications|isbn=0-486-41740-9|ref=Edwards2001}}
**{{Cite book|和書|author=ハロルド・M・エドワーズ|authorlink=ハロルド・M・エドワーズ (数学者)|others=鈴木治郎訳|date=2012-06-25|title=明解　ゼータ関数とリーマン予想|publisher=講談社|isbn=978-4-06-155799-4|url=https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000149191|ref=エドワーズ2012}}
*{{Cite book|和書|editor=鹿野健編|year=1991|month=9|title=リーマン予想|publisher=[[日本評論社]]|isbn=4-535-78181-8|url=https://www.nippyo.co.jp/shop/book/1261.html|ref=鹿野1991}}
*{{Cite book|last1=黒川|first1=信重|authorlink1=黒川信重|last2=梅田|first2=亨|last3=若山|first3=正人|last4=中島|first4=さち子|authorlink4=中島さち子|year=1999|month=6|title=ゼータの世界|publisher=[[日本評論社]]|isbn=978-4-535-78261-7|url=https://www.nippyo.co.jp/shop/book/1262.html|ref=harv}}
*{{cite book|last1=黒川|first1=信重|last2=小山|first2=信也|authorlink2=小山信也|year=2009|month=12|title=リーマン予想のこれまでとこれから|publisher=[[日本評論社]]|isbn=978-4-535-78550-2|url=https://www.nippyo.co.jp/shop/book/5182.html|ref=harv}}
*{{cite book|last1=黒川|first1=信重|year=2009|month=11|title=リーマン予想の150年|publisher=[[岩波書店]]|isbn=978-4-00-006792-8|url=https://www.iwanami.co.jp/book/b259806.html|series=数学，この大きな流れ|ref=harv}}

== 関連項目 ==
*[[リーマンゼータ関数|ゼータ関数]]
*[[素数定理]]
*[[ベルンハルト・リーマン]]
*[[リーマン予想]]

== 外部リンク ==
*{{PDFLink|[https://hdl.handle.net/10091/13515 原論文の日本語訳]}}
*{{PDFLink|[https://www.maths.tcd.ie/pub/HistMath/People/Riemann/Zeta/EZeta.pdf 原論文の英訳]}}
*{{PDFLink|[https://www.claymath.org/sites/default/files/zeta.pdf 原論文]}}
*{{PDFLink|[https://www.claymath.org/sites/default/files/riemann1859.pdf リーマンの手稿]}}

{{DEFAULTSORT:あたえられたすうよりちいさいそすうのこすうについて}}
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