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五次方程式
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'''五次方程式'''('''ごじほうていしき'''、{{lang-en|quintic equation}})とは、次数が5であるような[[代数方程式]]のこと。 ==概要== 一般に一変数の五次方程式は :{{math|''a''<sub>5</sub> ''x''<sup>5</sup> + ''a''<sub>4</sub> ''x''<sup>4</sup> + ''a''<sub>3</sub> ''x''<sup>3</sup> + ''a''<sub>2</sub> ''x''<sup>2</sup> + ''a''<sub>1</sub> ''x'' + ''a''<sub>0</sub> {{=}} 0, (''a''<sub>5</sub> ≠ 0)}} の形で表現される。 [[代数学の基本定理]]によれば、任意の[[複素数]]係数方程式は複素数の中に'''根が存在する'''。その一方、五次以上の一般の方程式に対する'''代数的解法は存在しない'''。すなわち、一般の五次方程式に対して''代数的な'''''根の公式は存在しない'''。もう少し詳しく書くと、五次の一般方程式の根を、その式の各項の係数と[[有理数]]の、''有限回''の[[四則演算]]及び''有限回''の[[根号]]をとる操作の組み合わせで表示することはできない。 これは[[パオロ・ルフィニ|ルフィニ]]、[[ニールス・アーベル|アーベル]]らによって示された([[アーベル–ルフィニの定理]]参照)。 また[[エヴァリスト・ガロア|ガロア]]によって方程式が代数的に解ける条件が裏付けられている([[ガロア理論]]参照)。 なお、代数的ではないが、[[楕円関数]]などを用いた根の公式は存在する。 ==解の公式== 五次方程式の解を超越的な手続を許して構成する方法としては、 * レベル5のモジュラー方程式の解を利用する方法 * [[超幾何級数]]を利用する方法 の2つが知られている。 前者は[[シャルル・エルミート|エルミート]]によって、後者は[[フェリックス・クライン|クライン]]によって導出された<ref>F.クライン、正20面体と5次方程式改訂新版、シュプリンガー・ジャパン、2005、ISBN 978-4-431-71118-6.</ref><ref>F.Klein, Lectures on the Icosahedron and the Solution of the Fifth Degree (''English translation''), Cosimo Inc., 2007, ISBN 978-1-602-06306-8.</ref>。 ===エルミートによる解法=== 五次方程式の解を構成するためには、まず、次の3つの事実を知っておく必要がある。 *任意の五次方程式は代数的操作のみによってブリング-ジェラード({{lang|en|Bring-Jerrard}})の標準形に変形できる。 *レベル5のモジュラー方程式の解が具体的に求められる。 *それらの解のある特定のコンビネーションが五次方程式を満足し、ブリング-ジェラードの標準形と関係付けることができる。 これらを結合することで五次方程式の解を構成することができる<ref name="umemura">梅村浩著、楕円関数論、東京大学出版会、2000年、ISBN 4-13-061303-0</ref>。 ====ブリング-ジェラードの標準形==== 任意の五次方程式 :<math>x^5 + a_4 x^4 + a_3 x^3 + a_2 x^2 + a_1 x + a_0 =0</math> は[[チルンハウス変換]] :<math>y=x^4 + b_3 x^3 + b_2 x^2 + b_1 x + b_0</math> において係数 ''b<sub>j</sub>'' をうまく選ぶことにより、ブリング-ジェラードの標準形 :<math>y^5 + y + b = 0</math> への変換が可能であるので、まずこの形へ帰着させる。係数''b<sub>j</sub>'' と ''b'' は元の方程式の係数 ''a<sub>l</sub>'' から複雑な代数的な演算(四則と冪根の組み合わせ)で表されたものとなる。 ====レベル5のモジュラー方程式==== {{仮リンク|複素トーラス|en|Complex torus}}の周期をそれぞれ <math>\omega_1, \omega_2</math> として、<math>\tau</math> を :<math>\tau=\frac{\omega_2}{\omega_1}</math> で定義する。ただし、<math>\tau</math> は[[虚数#用語について|純虚数]]と仮定する。また、 :<math>q=e^{i\pi \tau}</math> と定義する<ref group="注釈">τ や ''q'' を楕円テータ関数で定義する方法もある。ただし、本や論文によって楕円テータ関数の定義が異なることがあるので注意する必要がある。</ref>。この時 <math>q</math> と <math>q^n</math> が満足する関係式、または同値だが <math>\tau</math> と <math>n\tau</math> とが満たすべき関係式のことを「'''レベル <math>n</math> のモジュラー方程式'''」と言う。この方程式は次の形をとる<ref>G.H.Hardy, Ramanujan---Twelve lectures on subjects suggested by his life and work(reprint), AMS Chelsy Publishing, 1999, ISBN 0-8218-2023-0, p.214.</ref>。 :<math>\frac{L'}{L} = n \frac{K'}{K}.</math> ただし、<math>K, L</math> はそれぞれ母数が <math>k, l</math> の第1種完全[[楕円積分]]、<math>K', L'</math> はそれぞれ母数が <math>k':=\sqrt{1-k^2}</math><ref group="注釈">すなわち <math>k'</math> は <math>k</math> の補母数である。</ref>、<math>l':=\sqrt{1 - l^2}</math> の第1種完全楕円積分を表す<ref group="注釈">これ以外でも楕円テータ関数の双線形形式による表現方法もある。</ref>。この方程式によって、2つの母数 <math>k, l</math> が満たすべき方程式が決まる。<math>n = 5</math> のとき <math>\tau</math> と <math>5\tau</math> は次の関係式を満足することが分かっている。 :<math>F\left[-\sqrt[4]{\kappa(5 \tau)}, \sqrt[4]{\kappa(\tau)}\right] = 0,\quad F(x,y)=x^6 - y^6 + 5 x^2 y^2 (x^2 - y^2) - 4 x y (x^4 y^4 - 1)=0,</math> ただし、<math>\kappa(\tau)</math>は母数を表す。また、この式の証明の途中で次の2つの命題が証明される。 *<math>K=\mathbb{Q}[\sqrt[4]{\kappa}(\tau)]</math> と定義すると、<math>F[x,\sqrt[4]{\kappa}(\omega)]\in\mathbb{Q}[\sqrt[4]{\kappa}(\omega)][x] = K[x]</math> は <math>K</math> 上で既約である。 *この方程式の解が <math>\alpha_{\infty}=-\sqrt[4]{\kappa(5\tau)},\quad \alpha_{l}=\sqrt[4]{\kappa\left(\frac{\tau + 16 l}{5}\right)}\quad l\in\{1,2,3,4\} </math> で与えられる<ref name="umemura"></ref>。 ====解の構成==== 今、 :<math>\begin{align} r_0 &=(\alpha_\infty - \alpha_0)(\alpha_1 - \alpha_4)(\alpha_2 - \alpha_3)\sqrt[4]{\kappa}(\tau)\\ r_1 &=(\alpha_\infty - \alpha_1)(\alpha_2 - \alpha_0)(\alpha_3 - \alpha_4)\sqrt[4]{\kappa}(\tau)\\ r_2 &=(\alpha_\infty - \alpha_2)(\alpha_1 - \alpha_3)(\alpha_0 - \alpha_4)\sqrt[4]{\kappa}(\tau)\\ r_3 &=(\alpha_\infty - \alpha_3)(\alpha_2 - \alpha_4)(\alpha_1 - \alpha_0)\sqrt[4]{\kappa}(\tau)\\ r_4 &=(\alpha_\infty - \alpha_4)(\alpha_0 - \alpha_3)(\alpha_1 - \alpha_2)\sqrt[4]{\kappa}(\tau) \end{align}</math> と定義すると、<math>r_i</math> は <math>\;K(\sqrt{5\,})\;</math> 上の方程式 :<math>x^5 - 2^4 \cdot 5^3 \kappa^2 (1 - \kappa^2)^2 x - 2^6 \cdot 5^{\frac{5}{2}} \kappa^2 (1 - \kappa^2)^2 (1 + \kappa^2) = 0</math> の解であることが証明できる<ref group="注釈">[[シャルル・エルミート|エルミート]]によって証明された。</ref>。この式とブリング-ジェラードの標準形とを結合することで五次方程式の解が構成できる。具体的には、 :<math>b=-{\rm{i}} \frac{2(1 + \kappa^2)}{5^{\frac{5}{4}}\sqrt{\kappa(1-\kappa^2)}}</math> の変換で互いに移り変わる。これより、複素数 <math>\kappa(\tau)</math> は、[[四次方程式]]を解くことで決定できる。<math>r_i</math> を決定するには、この他に <math>\tau</math> そのものの値も必要であるので、残されている手続はパラメータ <math>\tau</math> の決定である。そして、この部分が超越的操作を含んでいる。<math>\kappa(\tau)</math> と <math>\tau</math> とは、楕円曲線 ''C'' : <math>y^2 = (1 - x^2)(1 - \kappa^2 x^2)</math> 上の第1種積分 : <math>\xi = \frac{dx}{y} =\frac{dx}{\sqrt{(1 - x^2)(1 - \kappa^2 x^2)}}</math> の周期の比、すなわち第一種完全楕円積分 : <math>K=K(\kappa)=\int^1_0\frac{dx}{\sqrt{(1 - x^2 )(1 - \kappa^2 x^2)}},\quad K'=K'(\kappa)=K(\kappa')=\int^1_0\frac{dx}{\sqrt{(1 - x^2 )(1 - {\kappa'}^2 x^2)}},\quad \kappa'=\sqrt{1 - \kappa^2}</math> を用いて、 :<math>\tau = \frac{{\rm{i}} K'}{K}</math> の関係で結ばれている。これが <math>\kappa(\tau) </math>から <math>\tau</math> を決定する式である。この式は代数的には解けないが、この方程式を満足する <math>\tau</math> を <math>r_i</math> に代入して五次方程式の解が得られる。 === クラインによる解法 === [[ファイル:Sphere symmetry group ih.png|200px|サムネイル|右|[[正二十面体#対称性|正二十面体]]的対称性([[:en:Icosahedral symmetry|Icosahedral symmetry]])]] 五次方程式を正20面体方程式(60次方程式)に帰着させ、正20面体方程式の解は[[超幾何関数]]で示される。 正20面体を二次元球面 {{math|''S''<sup>2</sup>}}に内接。 二次元球面 {{math|''S''<sup>2</sup>}}と[[リーマン球面]](複素射影直線)を同一視。複素射影直線の斉次座標を<math>z_1,z_2 (z={z_1}/{z_2})</math>とし、以下の式を得る。 :<math>f = z_1z_2 (z_1^{10}+11z_1^5z_2^5-z_2^{10}),</math> :<math>H = -(z_1^{20}+z_2^{20} )+228(z_1^{15}z_2^5-z_1^5z_2^{15})-494z_1^{10}z_2^{10},</math> :<math>T = (z_1^{30}+z_2^{30})+522(z_1^{25}z_2^5-z_1^5z_2^{25})-10005(z_1^{20}z_2^{10}+z_1^{10}z_2^{20}).</math> これらを用いて(と書いているのにTは使われていない?) :<math>q(z)=\frac {H(z_1,z_2)^3}{1728f(z_1,z_2)^5}=\frac {H(z,1)^3}{1728f(z,1)^5}</math> となり、 <math>q(z)=u</math> は(uが何であるか言及がない?)60次の方程式、いわゆる正20面体方程式 :<math>((z^{20}+1)-288(z^{15}-z^5)+494z^{10})^3+1728uz^5(z^{10}+11z^5-1)^5=0</math> となる。 逆を求めると F(α,β,γ;z)をガウスの超幾何関数として<ref>{{Cite journal|和書|author=関口次郎|year=2004|title=クラインとポアンカレの往復書簡について―保型関数論の源流|url=https://www2.tsuda.ac.jp/suukeiken/math/suugakushi/sympo14/14_4sekiguchi.pdf|journal=津田塾大学数学・計算機科学研究所報|volume=25|pages=49–75|format=PDF}}</ref> :<math>z=\frac {F(\frac {11}{60},\frac {31}{60},\frac {6}{5};\frac {1}{u})}{\sqrt[5]{1728}F(-\frac {1}{60},\frac {19}{60},\frac {4}{5};\frac {1}{u})}</math> ===限定的な代数的解法=== 一般の5次方程式が代数的には解かれないということは、上記に示したとおりであるが、特定の五次方程式がどのような場合に解けるかについては分かっている。[[ジョゼフ=ルイ・ラグランジュ|ラグランジュ]]が3次、4次で用いた手法をそのまま持ち込んだ場合、<math>\alpha_i</math>を元の方程式の根として、 : <math>x=(\alpha_1+\zeta\alpha_2+\zeta^2\alpha_3+\zeta^3\alpha_4+\zeta^4\alpha_5)^5</math> (ただし ζ は1の原始5乗根) の置換を考察することになるが、この場合5次対称群の位数は120で、出現する式は5次巡回群の位数=5で割った24通りである。つまりその為に解かなければならない<math>x</math>の方程式は24次のものとなり、次数が5次よりも高くなり,困難の程度がはるかに増す。 そこでより位数の低い置換を与えるような式を考察する必要があるが、これは[[1861年]]に[[アーサー・ケイリー]]が与えたものが最良となる。 : <math>x=(\alpha_1\alpha_2+\alpha_2\alpha_3+\alpha_3\alpha_4+\alpha_4\alpha_5+\alpha_5\alpha_1-\alpha_1\alpha_3-\alpha_2\alpha_4-\alpha_3\alpha_5-\alpha_4\alpha_1-\alpha_5\alpha_2)^2</math> この場合に置換により現れる式の値は6通りであり、<math>x</math>の6次方程式を解くことに帰着する。もちろんこれを代数的に解くことは一般的な状況では不可能であるが、根の平方が有理数となる場合に限り、実質的な次数が下がり、代数的に解ける。その後は3次、4次のラグランジュの解法と同様にして元の方程式の根が得られる。これが五次方程式が代数的に(四則と開冪で)解かれるための必要十分条件である。 === 超冪根による解法 === {{Main|超冪根}} 四則演算と通常の冪根をとることに加えて[[超冪根]](すなわち既約な方程式 {{math|''x''<sup>5</sup> + ''x'' - ''a'' {{=}} 0}} の唯一の実根)をとる操作も「代数的操作」として許容した場合、この拡張された意味において一般五次方程式が「代数的に」解けることが知られている。 == ガロア群 == 方程式が係数体上で既約ならそのガロア群は推移群になる。5次の推移群は以下の 5種類である<ref>エム・ポストニコフ、日野寛三(訳):「ガロアの理論」、東京図書 (1964年6月25日). ※ 5次方程式が解かれる場合の解説がある。</ref><ref>{{Cite journal |和書 |author=元吉文男 |year=1993 |title=5次方程式の可解性の高速判定法(数式処理における理論と応用の研究) |url=https://hdl.handle.net/2433/83668 |journal=数理解析研究所講究録 |publisher=[[京都大学数理解析研究所]] |volume=848 |pages=1–5 |hdl=2433/83668 |CRID=1050282677087499264}}</ref>。 * {{math|''S''<sub>5</sub>}} [[対称群]]([[位数 (群論)|位数]] 120) * {{math|''A''<sub>5</sub>}} [[交代群]](位数 60) * {{math|''B'''<sub>5</sub>}} {{仮リンク|メタ巡回群|en|Metacyclic group}}(位数 20) * {{math|''B''<sub>5</sub>}} [[半メタ巡回群]](位数 10) * {{math|''C''<sub>5</sub>}} [[巡回群]](位数 5) 既約な <math>\mathbb{Q}</math> 係数の 5 次方程式 <math> x^5 + a x^4 + b x^3 + c x^2 + d x + e = 0 </math> のガロア群 G の位数(群の要素の数) は 120, 60, 20, 10, 5 のどれかである<ref>[https://www.tsuyama-ct.ac.jp/matsuda/eBooks/galois_equations.pdf 方程式のガロア群]</ref>。 * 5次対称群 {{math|''S''<sub>5</sub>}} * 5次交代群 {{math|''A''<sub>5</sub>}} * 位数20の{{仮リンク|フロベニウス群|en|Frobenius group}} {{math|''F''<sub>20</sub>}} * 10次[[二面体群]] {{math|''D''<sub>10</sub>}} * 5次巡回群 {{math|''C''<sub>5</sub>}} (同じことを、群の記号だけを変えて2度くりかえして書いているのはなぜだろうか? 既約な5次方程式のガロア群は推移群であり、係数体が標数零であればこれら5通りのうちのどれかになる。そのうちで方程式が代数的に解けるのはガロアG群が可解である群Gの位数が20、10、5の3通りの場合に限られる.Gが対称群や交代群の場合には5次方程式は代数的操作によっては解かれない。) ==脚注== ===注釈=== {{Notelist}} ===出典=== <references/> ==関連項目== *[[アーベル-ルフィニの定理]] *[[ガロア理論]] *[[群論]](可解群) *[[ヤコビの虚数変換式]] == 外部リンク == * [https://neqmath.blogspot.com/2018/08/5.html 5次方程式の解の公式を求める] * [https://keisan.casio.jp/exec/system/1436509596 n次方程式の解をDKA法を用いて求める] * [https://www.ams.org/journals/notices/202404/noti2923/noti2923.html Bruce Bartlett:''The Quintic, the Icosahedron, and Elliptic Curves'', [[AMS Notices]] (April 2024)] * [https://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/~kyodo/kokyuroku/contents/pdf/0848-01.pdf 5次方程式の可解性の高速判定法 元吉文男 数理解析研究所講究録] {{代数方程式}} {{Algebra-stub}} {{DEFAULTSORT:こしほうていしき}} [[Category:代数方程式]] [[Category:数学に関する記事]]
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