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{{Distinguish|代数的数}} [[数論]]において'''代数的整数'''(だいすうてきせいすう、{{lang-en-short|algebraic integer}})とは、ある[[整数]]係数[[モニック多項式]]の[[関数の零点|根]]となる[[複素数]]のことである。代数的整数の全体 {{math|'''A'''}} は加法と乗法について閉じており、ゆえに複素数環 {{math|'''C'''}} の[[部分環]]をなす。この環 '''A''' は[[整数|有理整数]]環 '''Z''' の '''C''' における[[整拡大|整閉包]]となっている。 [[代数体]] ''K'' の整数環 ''O{{sub|K}}'' は ''K'' ∩ '''A''' に等しく、また体 ''K'' の極大整環({{lang-en-short|maximal [[:en:Order (ring theory)|order]]}})となっている。全ての代数的整数はそれぞれ何らかの代数体の整数環に属している。''x'' が代数的整数であることは、環 '''Z'''[''x''] が[[アーベル群]]として[[有限生成]](即ち[[自由アーベル群|有限生成 '''Z'''-加群]])であることと同値である。 == 定義 == 以下は {{math|α ∈ ''K''}} が代数的整数であることの同値な定義である。ここで ''K'' は[[代数体]](有理数体 '''Q''' の[[有限拡大]])とする。[[原始元定理]]より、この ''K'' は適当な[[代数的数]] θ ∈ '''C''' によって ''K'' = '''Q'''(θ) とすることもできる。 * {{math|''f'' (''α'') {{=}} 0}} を満たすモニック多項式 {{math|''f'' (''x'') ∈ '''Z'''[''x'']}} が存在する。 * {{mvar|α}} の {{math|'''Q'''}} 上の[[最小多項式 (体論)|最小モニック多項式]] {{math|''f'' (''x'') ∈ '''Z'''[''x'']}} が存在する。 * '''Z'''[α] が有限生成 '''Z'''-加群となる。 * α''M'' ⊆ ''M'' を満たす有限生成 '''Z'''-部分加群 0 ≠ ''M'' ⊂ '''C''' が存在する。 代数的整数は[[有限拡大]] ''K'' / '''Q''' の[[整拡大|整元]]となっている。即ち代数的整数は環の拡大における整元の特別な場合である。 代数的整数をこのように定義する背景には次のような考え方がある{{sfn|高木|1971|pages=10–11}}。まず、有理数に対する整数のように、代数的数全体の集合の中で「整数の集合」{{mvar|S}} が何らかの方法で定義できたとする。すると {{mvar|S}} は次の性質を持っているはずである。 : (S1) {{mvar|S}} は加減算と乗算で閉じている。 : (S2) {{mvar|S}} の元の任意の共役は {{mvar|S}} に含まれる。 : (S3) 有理整数はすべて {{mvar|S}} に属し、{{mvar|S}} に含まれる有理数は有理整数のみである。 : (S4) {{mvar|S}} は以上の性質を持つ集合の中でなるべく大きいものである。 このような性質を持つ集合 {{mvar|S}} は実は代数的整数の集合と一致する。実際、{{mvar|S}} の任意の元 {{mvar|α}} に対してその有理数体上の最小多項式 {{mvar|f}} を取ってみる。{{mvar|f}} の係数は {{mvar|α}} の共役達の基本対称式であるから、(S2)と(S1)よりこれは {{mvar|S}} に含まれる。{{mvar|f}} の係数は有理数であるから、(S3)よりこれらは有理整数である。よって {{mvar|f}} は有理整数係数のモニック多項式であるから {{mvar|α}} は代数的整数である。したがって {{mvar|S}} は代数的整数の集合に含まれる。代数的整数の集合は(S1)~(S3)を満たす集合であるので、(S4)により {{mvar|S}} は代数的整数の集合に一致する。 == 代数的整数となる例 == * [[有理数]]のうち代数的整数となるのは[[整数|有理整数]]に限る{{sfn|高木|1971|loc=定理 2|page=7}}。即ち {{math|'''Q''' ∩ '''A'''}} は {{math|'''Z'''}} に等しい。有理数 {{math|{{sfrac|''a''|''b''}}}} は {{mvar|b}} が {{mvar|a}} を割り切らなければ代数的整数とはならない(多項式 {{math|''bx'' − ''a''}} の主係数が {{mvar|b}} であることに注意)。ほか、非負整数 {{mvar|n}} の平方根 {{math|{{sqrt|''n''}}}} が有理整数となるのは {{mvar|n}} が[[平方数]]のときに限り、それ以外のときは無理数となる。 * {{mvar|d}} が[[平方因子をもたない整数]]のとき、拡大 {{math|''K'' {{=}} '''Q'''({{sqrt|''d''}})}} は[[二次体]]となる。ここで {{math|{{sqrt|''d''}}}} は[[モニック多項式]] {{math|''x''{{sup|2}} − ''d''}} の根であるから、{{mvar|K}} の代数的整数環 {{math|''O{{sub|K}}''}} は {{math|{{sqrt|''d''}}}} をもつ。加えて {{mvar|d}} が {{math|''d'' ≡ 1 (mod 4)}} を満たすとき、元 {{math|{{sfrac|1 + {{sqrt|''d''}}|2}}}} もまた代数的整数となる。これは、{{math|''x'' {{=}} {{sfrac|1 + {{sqrt|''d''}}|2}}}} を根として持つ二次多項式 {{math|''x''{{sup|2}} − ''x'' + {{sfrac|1 − ''d''|4}}}} の{{仮リンク|定数項|en|constant term}}が、{{math|''d'' ≡ 1 (mod 4)}} のとき整数となるためである。{{mvar|O{{sub|K}}}} は {{math|{{sqrt|''d''}}}} と {{math|{{sfrac|1 + {{sqrt|''d''}}|2}}}} よりそれぞれ生成される。詳細は [[:en:Quadratic integer]] を参照。 * 平方因子を持たない[[互いに素 (整数論)|互いに素]]な整数 {{math2|''h'', ''k''}} に対し {{math|''m'' {{=}} ''hk''{{sup|2}}}} とし、さらに {{math|''α'' {{=}} {{radic|''m''|3}}}} とする。このとき体 {{math|''F'' {{=}} '''Q'''(''α'')}} の整数環は以下の[[代数体|整数底]]を持つ<ref>{{Citation |last1=Marcus |first1=Daniel A. |title=Number fields |publisher=[[Springer-Verlag]] |location=Berlin, New York |isbn=978-0-387-90279-1 |year=1977}}, chapter 2, p. 38 and exercise 41.</ref>。 *: <math>\begin{cases} 1 ,~ \alpha ,~ \dfrac{\alpha^2 \pm k^2 \alpha + k^2}{3k} & \mbox{if}~ m \equiv \pm 1 \mod 9 \\ 1 ,~ \alpha ,~ \dfrac{\alpha^2}k & \mbox{otherwise} \end{cases}</math> * {{mvar|ζ{{sub|n}}}} を[[1の冪根| 1 の原始 {{mvar|n}} 乗根]]とする。このとき[[円分体]] {{math|'''Q'''(''ζ{{sub|n}}'')}} の整数環は {{math|'''Z'''[''ζ{{sub|n}}'']}} に等しい。 * {{mvar|α}} が代数的整数ならば {{math|{{radic|''α''|''n''}}}} もまた代数的整数となる。これは {{mvar|α}} についての多項式に {{mvar|x{{sup|n}}}} を代入すると {{math|{{radic|''α''|''n''}}}} についての多項式が得られるためである。 == 代数的整数とならない例 == * {{math|''P'' (''x'')}} を[[モニック多項式|モニック]]でない整数係数{{仮リンク|原始多項式 (環論)|label=原始多項式|en|primitive polynomial (ring theory)}}で、かつ {{math|'''Q'''}} 上[[既約多項式|既約]]であるとする。このとき {{math|''P'' (''x'')}} の根は代数的整数とならない。(ここで原始多項式とは、係数の最大公約数が 1 であるような多項式のことを言う。これは「係数が互いに素であるような多項式」よりも弱い条件である。) == 性質 == * 二つの代数的整数の和、差、積もまた代数的整数となる。ただし一般に商は代数的整数とならない。これは代数的整数 {{math2|''p'', ''q''}} とその積 {{mvar|pq}} について、それらを根とするモニック多項式の次数を比べると、一般に {{mvar|pq}} のほうが高くなるためである。このことは終結式を求めて因数分解することで分かる。例として、代数的整数 {{math2|''x'', ''y''}} がモニック多項式 {{math|''x''{{sup|2}} − ''x'' − 1 {{=}} 0, ''y''{{sup|3}} − ''y'' − 1 {{=}} 0}} を満たすとし、加えて積を {{math|''z'' {{=}} ''xy'' (⇔ ''z'' − ''xy'' {{=}} 0)}} とおく。これらの左辺の多項式から[[終結式]]を用いて {{mvar|x}} と {{mvar|y}} を消去することで、{{mvar|z}} に関するモニック多項式 {{math|''z''{{sup|6}} − 3''z''{{sup|4}} − 4''z''{{sup|3}} + ''z''{{sup|2}} + ''z'' − 1}} が得られる。この多項式は[[既約多項式|既約]]であり、{{math|''z'' {{=}} ''xy''}} を根に持つ。({{mvar|xy}} は多項式 {{math|''z'' − ''xy'', ''x''{{sup|2}} − ''x'' − 1}} に対して {{math|''y'', ''z''}} を定数とみたときの終結式となっている。このことは「与えられた多項式 {{math2|''f'', ''g''}} の終結式は {{math2|''f'', ''g''}} が生成するイデアルに属する」ことからも確認できる。) * 上の理由より、整数から冪根・加法・乗法を用いて構成可能な数は全て代数的整数である。しかしその逆、即ち「全ての代数的整数が整数から冪根・加法・乗法を用いて構成可能」は成り立たない。素朴な例としては、[[五次方程式|五次]]の既約多項式の根の殆どは整数から冪根・加法・乗法を用いて構成可能でないことが[[アーベル・ルフィニの定理]]から従う。 * 代数的整数を係数とするモニック多項式の根は全て代数的整数となる。即ち代数的整数は、任意の拡大に対し[[整閉整域|整閉]]であるような環をなす。 * {{仮リンク|単項イデアル定理|en|Principal ideal theorem}}より、代数的整数環 {{math|'''A'''}} は[[ベズー整域]]となる。 == 脚注 == {{Reflist}} == 参考文献 == * {{Cite book|和書 |author = 高木貞治 |authorlink = 高木貞治 |year = 1971 |title = 代数的整数論 : 一般論及類体論 第2版 |publisher = [[岩波書店]] |isbn = 978-4-00-005630-4 |id = {{NDLDC|12623673|format=NDLJP}} |ref = {{sfnref|高木|1971}} }} * Daniel A. Marcus, ''Number Fields'', third edition, Springer-Verlag, 1977 == 関連項目 == *[[ガウス整数]] *[[アイゼンシュタイン整数]] *[[1の冪根]] *[[ディリクレの単数定理]] *[[代数体#基本単数系|基本単数]] *[[整元]]:代数的整数の環への拡張 *[[代数的数]] *[[シルベスター行列]] {{代数的数}} {{デフォルトソート:たいすうてきせいすう}} [[Category:代数的整数論]] [[Category:整数|*たいすうてきせいすう]] [[Category:数学に関する記事]] {{DEFAULTSORT:たいすうてきせいすう}}
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