円周率は3のソースを表示

{{円周率}}
'''円周率は3'''（えんしゅうりつは3）は、「[[2002年]]度実施の[[小学校]][[学習指導要領]]の改訂に伴って、[[日本]]の[[算数]]教育にてそれまで3.14と教えていた[[円周率の近似]]値を3{{Efn|「円周率3」{{R|曽我2001|細野2001}}や円周率「およそ3」{{Sfn|朝日新聞|2012}}{{R|山下2001}}というフレーズの場合もある。}}と教えることになった」という内容が世間に広まった事象である。'''実際にはこれは事実ではなく、改訂後も円周率の近似値は3.14で教えている'''。

[[1998年]]（平成10年）12月公示、2002年度実施の学習指導要領において小数乗算の桁数制限などで規程が変わったため、手計算では「円周率を3」として計算させざるを得ないという誤解が生じた{{Sfn|関沢正躬|2000|pp=8-9}}{{Sfn|黒木哲徳|2001|p=25}}{{Sfn|大西俊弘|2002|p=18}}。「円周率は3.14」で計算することには変わりが無かったものの、「目的に応じて3を用いて処理」という記述と小数計算についての歯止め規定が誤解され、[[ゆとり教育]]の象徴として「円周率は3」で教えることになったとの誤報が広まってしまった{{Sfn|朝日新聞|2012}}{{Sfn|関沢正躬|2000|p=9}}{{Sfn|大西俊弘|2002|p=14}}{{Sfn|木村寛治|2004|p=138}}。この誤解はなかなか解消されなかった{{Sfn|木村寛治|2004|p=138}}{{Sfn|神永正博|2008}}{{Sfn|池上彰|2013}}。

== 概要 ==
{{See also|ゆとり教育#受験産業の反応}}
[[1999年]]秋に[[学習塾]]大手の[[日能研]]が『ウッソー!?円の面積を求める公式 半径×半径×3!?』、『円周率を3.14ではなく、「およそ3」として円の求積計算を行います』と書かれた広告を首都圏の通勤電車の中に大量に張り出すなどして大々的なキャンペーンを行った{{Sfn|朝日新聞|2012}}。マスコミもこれを大いに取り上げ、「ゆとり教育（2002年度からの学習指導要領以降）」になった結果、「円周率=3」が誤解として「'''円周率は3'''と教えることになった」ということがゆとり教育を（否定的に）象徴するものとして、社会に広く認識されることとなった{{R|産経20080218}}{{Sfn|木村寛治|2004}}。

学力低下やゆとり教育への批判として、「円周率は3」は週刊誌{{R|週刊新潮2001|週刊文春2000|週刊朝日2001}}や月刊誌{{R|細野2001|プレジデント2002}}、数学関係の雑誌{{R|曽我2001|山下2001}}などでも盛んに取り上げられた。学校ドラマで数学教師が「円周率は3ではない」と嘆くシーンが放映されるなど{{R|金八先生}}、フィクションで扱われることもあった{{R|クビキリサイクル|ゆとりちゃん}}。この誤解はなかなか解消されなかった{{Sfn|神永正博|2008}}{{Sfn|池上彰|2013}}{{Sfn|木村寛治|2004}}。

== 問題の詳細 ==
=== 「目的に応じて3」の導入 ===
[[学習指導要領]]はあくまでも目安として始められたものであるが、ある時期から法的拘束力を持つとされるようになった<ref>[https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52713 伝習舘高校事件・最高裁判所第一小法廷判決・平成2年1月18日]『民集』第44巻第1号、1頁。</ref>。またこれに加えて「過不足なく教えなければいけない」という、いわゆる「歯止め規定」も存在した<ref>{{Cite news |url=http://www.nishinippon.co.jp/wordbox/display/881/ |title=歯止め規定 |newspaper=西日本新聞 |date=2003-10-07 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20090221152207/http://www.nishinippon.co.jp/wordbox/display/881/ |archivedate=2009-02-21}}</ref>。{{独自研究範囲|ところがこの規定を厳密に取ると、円の[[円周]]や[[面積]]の求め方についての導入学習（ある単元の最初期に手始めとして行う学習）において、およその数としての円周や円の面積を求めるのに「円周率を（暫定的に）3で計算」するという教え方をした場合に[[学習指導要領]]を逸脱しているとされるおそれがあった。このため[[1989年]]の学習指導要領の改訂時（小学校では[[1992年]]度実施）において「目的に応じて3を用いて処理」という記述が加えられ、|date=2022年7月}}これは[[1998年]]の改訂時（小学校では[[2002年]]度実施）にもこの記述は引き継がれた。
{{Quotation|内容の「B量と測定」の（1）のウ及び「C図形」の（1）のエについては、円周率としては3.14を用いるが、目的に応じて3を用いて処理できるよう配慮する必要がある。|平成元年公示学習指導要領{{Sfn|木村寛治|2004|p=138}}}}
{{Quotation|内容の「B量と測定」の（1）のイ及び「C図形」の（1）のエについては、円周率としては3.14を用いるが、目的に応じて3を用いて処理できるよう配慮するものとする。|平成10年度告示・平成14年度施行の小学校[[学習指導要領]]第2章 第3節「算数」第5学年「3 内容の取扱い」(4){{Sfn|木村寛治|2004|p=138}}}}

なお、「目的に応じて3を用いて処理」には
* 見積もりをしたい場合に、3で素早く計算する<ref name="monkasho_Q">{{Cite web|和書 |url=https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/gakuryoku/faq/001.htm#19 |title=Q「円周率は3」で教えていると聞きましたが、本当ですか。|publisher=文部科学省 |date= |accessdate=2014-02-26}}</ref>。
* 最初から小数点以下の計算をせず、3でだいたいのアタリを付けて計算間違いをしにくくする。
* 円に近い形状のものに対して[[周長]]や[[面積]]を概算したいときに、円周率を3として円周や円の面積の計算を行う{{Sfn|木村寛治|2004|p=138}}。
といったケースが想定され、状況・用途に応じて適切な判断・処理ができる能力の育成を期待している{{Sfn|木村寛治|2004|p=138}}という解釈もある。

=== 1998年改訂指導要領の問題点 ===
いわゆる「[[ゆとり教育]]」の一環として掛け算や割り算や小数点の算数の学習内容が削減される一方で算数の学習の段階から計算機の使用が許可されるようになった。一方でゆとり教育においては学習内容は削減されているにもかかわらず学習分野は削減しないままであるため、[[幾何学]]における円の周の長さや面積の手計算には[[円周率]]の概数として3.14ではなく3を授業で使用せざるを得ない状態に陥ったとの誤解が生じた{{Sfn|関沢正躬|2000|p=}}{{Sfn|黒木哲徳|2001|pp=25-26}}<ref name="鴨志田2007">{{Cite journal|和書|author=鴨志田英樹 |year=2007 |url=https://doi.org/10.7210/jrsj.25.57 |title=ロボットを通した実学 : 教育とロボットの融合 |journal=日本ロボット学会誌 |ISSN=02891824 |publisher=日本ロボット学会 |volume=25 |issue=1 |pages=57-59 |doi=10.7210/jrsj.25.57 |CRID=1390001204728075904}}</ref>。

また、従来の指導要領で5年生からであった[[電卓]]の使用が4年生から可能になっており{{Sfn|大西俊弘|2002}}{{Sfn|黒木哲徳|2001|pp=24-25}}{{R|原田2003}}<ref>{{Cite journal|和書|author=西村宏太 |date=2005-04 |url=https://repository.lib.tottori-u.ac.jp/records/3053 |title=小学校算数科教育における計算指導 : 電卓の利用のあり方 |journal=鳥取大学数学教育研究 |ISSN=18816134 |publisher=鳥取大学数学教育学研究室 |volume=7 |pages=08 |CRID=1050578304504614528}}</ref>、電卓を用いても3.14による計算が可能であった{{Sfn|大西俊弘|2002}}。

=== 小数の桁数制限 ===
1998年改訂学習指導要領では小学校第5学年の小数の計算について
{{Quotation|内容の取扱い（３）・・・内容の「A 数と計算」の（３）のウについては、1/10の位までの小数の計算を取り扱うものとする。|平成10年度告示・平成14年度施行の小学校学習指導要領第2章 第3節「算数」第5学年{{Sfn|木村寛治|2004|p=138}}}}
という歯止め規定が置かれていたため、これにより円周率として3を使う必要があるとの誤解が生じた。ただし、円周率としては3.14を用いることが明記されているため、歯止め規定が小数の計算全般に及ぶと仮定しても用いられる円周率は3.14であり<ref group="注釈">歯止め規定が小数の計算全般に及ぶものとして、その場合は「（円の面積を指導・学習する際に）円周率としては3.14を用いる」という文言との間に衝突が生じる。同一の領域に複数の規定が置かれている場合、特別規定の死文化を防ぐために、より限定された規定を優先するのが通例である。([[一般法・特別法]])</ref>、仮に小数の計算全般が1/10の位までに制限される場合、使われる円周率は3.1になるため、いずれにせよ円周率として3が使われることは無い。実際に、文科省がゆとり教育実施前に公表した見解<ref name="monkasho">{{Cite web|和書 |url=https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/cs/1321018.htm |title=新しい学習指導要領のねらいの実現に向けて |publisher=文部科学省 |date= |accessdate=2021-08-17}}</ref>においても「目的に応じて3を用いる」の文言の扱いは現行と同様しており、桁数制限のために置かれた規定とはしていない。

=== 「円周率およそ3」という誤解 ===
そんな折、[[1999年]]秋に[[学習塾]]大手の[[日能研]]が
{{Quotation|円の面積を求める公式 半径×半径×3!?<br />2002年、小学5年生は円周率を3.14ではなく、「およそ3」として円の求積計算を行います。ホントです。|日能研、1999年秋、チラシ・ポスター{{Sfn|朝日新聞|2012}}}}
と書かれた広告を首都圏で大々的なキャンペーンを行い{{Sfn|朝日新聞|2012}}、マスコミもこれを大いに取り上げた{{R|本田2002}}。これにより、「ゆとり教育（2002年度からの学習指導要領以降）になった結果、円周率は3と教えることになった<!--この文章は引用ではありません。-->」ということがゆとり教育を（否定的に）象徴するものとして、社会に広く認識されることとなった{{Sfn|朝日新聞|2012}}{{Sfn|池上彰|2013}}{{R|産経20080218}}{{Sfn|木村寛治|2004}}。

これに対し、当時の文部相としてゆとり教育を進めた[[有馬朗人]]は、取材の度に「あれにはがくぜんとしたよ」と繰り返しており<ref name="arima">{{Cite web|和書 |url=https://www.asahi.com/articles/ASND764BSND7UTIL034.html |title=ゆとり教育貫いた有馬朗人さん　怖い目をした2つの話題 |publisher=朝日新聞 |date=2020-12-07 |accessdate=2022-07-09}}</ref>、「全国を回り、丁寧に説明することをさぼった私の失敗である」と悔いていたという<ref name="arima">{{Cite web|和書 |url=https://www.asahi.com/articles/ASND764BSND7UTIL034.html |title=ゆとり教育貫いた有馬朗人さん　怖い目をした2つの話題 |publisher=朝日新聞 |date=2020-12-07 |accessdate=2022-07-09}}</ref>。

=== 文言の消滅 ===
[[2003年]][[2月23日]]の中央教育審議会二答申において、学力重視路線が打ち出される{{R|原田2003}}。[[2003年]]12月に[[学習指導要領]]の一部改正が行われて「過不足なく教えなければいけない」という歯止め規定が撤廃され、必要に応じて指導要領に書かれている内容以上の内容（=発展的記述）を教えても良いという最低基準に変更された<ref>{{Cite web|和書 |title=小学校、中学校、高等学校等の学習指導要領の一部改正等について（通知）15文科初第923号 平成15年12月26日 |author=文部科学事務次官 御手洗康 |publisher=文部科学省 |url=https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/cs/1320953.htm |accessdate=2014-03-01}}</ref><ref>板谷裕子 [https://doi.org/10.4044/joma1947.116.1_29 医学教育概説 教育評価とその運用]『岡山医学会雑誌』2004年、116巻1号、pp.29-38,{{doi|10.4044/joma1947.116.1_29}}。</ref>。<!--これにより手計算において3.14と教えることも可能となったが、「目的に応じて3を用いて処理」という指導がなくなったわけではない。実際に小数点以下2桁以上を含む計算の習得がなされていない場合は、3.14による手計算はしようにもできない。-->

その後に2008年2月15日に、文部科学省は[[教育基本法]]全面改正後初となる新学習指導要領（小学校は2011年度施行）を公表、歯止め規定についても完全撤廃された<ref>{{Cite web|和書 |url=https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/tosho/003/gijiroku/08090901/004.htm |title=新学習指導要領における、いわゆる「はどめ規定」について |publisher=文部科学省 |author=初等中等教育局教科書課 |accessdate=2014-02-26}}</ref><ref>鵜澤武俊、文有彬「[https://doi.org/10.5956/jriet.43.286 環境教育に有用な電気泳動を用いたDNA検出法の開発]」、『環境技術』第43巻第5号、2014年、286-292頁、{{doi|10.5956/jriet.43.286}}。</ref>。学習内容が増加した結果、円周率を使う段階までに小数点の計算の学習が行われる内容になっており、円周率に関する項については「円周率は3.14とする」とだけ記述しており、「目的に応じて3を用いる」という記述が削除された{{Sfn|学習指導要領|2009}}。

<!--
なお、{{要出典範囲|円周率に関する項についても移行措置先行実施の適用対象とされたため、「目的に応じて3を用いて処理」という指導は2009年の移行措置実施とともに廃止された|date=2014年9月}}。また、{{要出典範囲|2008年の新学習指導要領が「脱ゆとり教育」と認識されたため、「目的に応じて3」の記述の削除はそれを表す象徴的なものとしてとらえられている|date=2014年9月}}。
-->
== 社会的な影響 ==
=== 理数系・教育関係者への影響 ===
円周率3の問題は、数学関係の雑誌{{R|曽我2001|山下2001}}や各種学術誌{{R|原田2003}}<ref>霍見芳浩、高田博和 [https://doi.org/10.5651/jaas.18.157 インタビュー]『経営行動科学』第18巻第2号、2005年、157-174頁、{{doi|10.5651/jaas.18.157}}。</ref>でも取り上げられた。この誤解はなかなか解消されず、教育関係者でも誤解が多かった{{Sfn|木村寛治|2004|p=138}}。このような状況に対して[[神永正博]]は自著の中で、自身やまわりの教員が小学校の学習指導要領を調べるまで「ゆとり教育は円周率を3と教えるおろかな改革だ」と信じ込んでいたという事実を告白しつつ、「自分で納得いくまで調べてきなさい、などといっている教師がこれでは、教育改革以前の問題だろう」と、自省と周囲への警告で結んでいる{{Sfn|神永正博|2008|pp=19-20}}。

なお、円周率をおよそ3として扱う問題点として、様々な指摘がなされた。円周率は[[無理数]]であるので、正確には3でも3.14でもない。後者の方がより正確（[[有効数字]]はそれぞれ1桁と3桁）であるが両方とも[[概数]]である。よって手順の学習においては前者と後者は基本的に同等であるが、概算の精度においては明確な差が存在する{{R|藤原2005}}。「問題点」としての様々な指摘としては、前述のように概数ではあるけども、概算の精度においては明確な差が存在する{{R|藤原2005}}。円周率を3として計算する場合、円とそれに内接する正六角形の周長が等しくなってしまうこと{{R|藤原2005}}、直径10cmの円の円周の場合誤差が1.4cmになってしまうこと{{Sfn|大西俊弘|2002|p=26}}、などといった指摘がなされた。

また、有効数字の観点から、円周率を3で扱うことに妥当性があること、無駄に「.14」を付ける危険性も指摘されている{{Sfn|木村寛治|2004|p=138}}<ref>{{Cite journal|和書|author=[[熊谷正朗]] |date=2013-09 |url=https://tohoku-gakuin.repo.nii.ac.jp/records/206 |title=「円周率は3 」と有効数字 |journal=プラントエンジニア |ISSN=02890178 |publisher=日本プラントメンテナンス協会 |volume=45 |issue=9 |pages=74-75 |CRID=1050282812550288000}}</ref>{{Efn|円周率の値（[[誤差]]論の用語で「真値」）は3.14というわけではない。3よりは3.14の方が、3.14よりは3.1416の方がより正確（[[有効数字]]が 1, 3, 5 桁と、順に伸びている）であるが、いずれにしても[[概数]]である。}}。

=== 世間一般への影響 ===
日能研のキャンペーンをマスコミが取り上げた頃、学校ドラマでも数学教師が「円周率は3ではない」と嘆くシーンが放映されるなど、反響は大きかった<ref name="金八先生">[[3年B組金八先生]]第5シリーズ（1999年10月14日 - 2000年3月30日）<!--数学担当の乾先生が最後の授業で数学の奥深さを語るとともに「円周率は3ではない」と嘆く--></ref>。さらに週刊誌{{R|週刊新潮2001|週刊文春2000|週刊朝日2001}}や月刊誌{{R|細野2001|プレジデント2002}}などでも盛んに取り上げられ、公立学校の教育に対する不信感を煽る結果になった{{Sfn|朝日新聞|2012}}。

また、小説の中で切り捨てられた小数点以下を『0.14の悲劇』として紹介する場面が登場したり<ref name="クビキリサイクル">[[西尾維新]]『クビキリサイクル』〈[[戯言シリーズ]]〉2002年2月。<!--園山赤音が切り捨てられた小数点以下を『0.14の悲劇』として紹介する場面--></ref>、テレビのコントで「円周率は3でOK」を決め台詞としたキャラが登場{{R|朝日20120408}}{{Efn|テレビのお笑い番組「[[ピカルの定理]]」（フジテレビ系列）では「のびのび戦士 ユトリンジャー」というコントが放送され、「円周率は3でOK」が決め台詞のユトリブルーというキャラがいた{{R|朝日20120408}}。}}、さらにはゆとり世代を題材にしたアニメにおいても、主題歌に「3.1415 円周率およそ3」というフレーズが入る<ref name="ゆとりちゃん">「[[ゆとりちゃん]]」主題歌『ゆとりのゆとり』（フルバージョンの1:34～39）、作詞：yozuca*、2010年4月21日リリース、レーベル：Lantis (LACM-4716)。{{歌ネット|id=93846|song=ゆとりのゆとり}}</ref>など、世間一般への浸透は大きかった。

円周率を3と教えることの誤解は2013年のテレビ番組でも[[池上彰]]が指摘しており、番組内で[[マツコデラックス]]が驚いていた{{Sfn|池上彰|2013}}。

=== 入試問題への影響 ===
[[2003年]][[東京大学]]理系前期の第6問に「'''円周率が3.05より大きいことを証明せよ'''」という問題が出題され、「円周率を3として教える」という政府の姿勢に反対するというメッセージ性のある問題として有名となった。非常に短く、シンプルでありながら、強いメッセージ性をもつ良問としてたびたび引用されている<ref>早田幸政 編集、清成忠男 監修、金沢大学大学教育開発支援センター 企画 [https://books.google.co.jp/books?id=l6U6AAAAMAAJ&q=%E5%86%86%E5%91%A8%E7%8E%87%E3%81%8C3.05%E3%82%88%E3%82%8A%E5%A4%A7%E3%81%8D%E3%81%84%E3%81%93%E3%81%A8%E3%82%92%E8%A8%BC%E6%98%8E%E3%81%9B%E3%82%88%E3%80%80&dq=%E5%86%86%E5%91%A8%E7%8E%87%E3%81%8C3.05%E3%82%88%E3%82%8A%E5%A4%A7%E3%81%8D%E3%81%84%E3%81%93%E3%81%A8%E3%82%92%E8%A8%BC%E6%98%8E%E3%81%9B%E3%82%88%E3%80%80&hl=en&sa=X&ei=tqn6U9rSJdXr8AW2hYKICA&ved=0CCUQ6AEwAQ 国立大学法人化の衝撃と私大の挑戦] エイデル研究所、2005年3月、249頁、ISBN 978-4871683845。</ref><ref>安田亨『入試数学 伝説の良問100 ―良い問題で良い解法を学ぶ―』[[講談社]]〈ブルーバックス〉2003年4月、ISBN 978-4062574075。</ref><ref>京極一樹『東大入試問題で数学的思考を磨く本』アーク出版、2013年8月、12頁、ISBN 978-4-86059-130-4。</ref>{{Efn|Z会による{{Cite web|和書 |url=http://www.zkai.co.jp/juku/todai_c/org_info/todai_approach.pdf |format=PDF |title=東大数学へのアプローチ |page=7 |accessdate=2017-03-25 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20140826114156/http://www.zkai.co.jp/juku/todai_c/org_info/todai_approach.pdf |archivedate=2014-08-26}}においても、東大理系の入試問題の性質を説明するためにこの問題が紹介されている。}}。
;解答例
:直径 {{math|1}} の円 {{mvar|C}} と、円 {{mvar|C}} に内接する正12角形を考える。半径 {{mvar|r}} の円の円周の長さは {{math|2{{pi}}''r''}} なので、半径が {{sfrac|1|2}} である円 {{mvar|C}} の円周の長さ {{mvar|l}} は
::<math>l=2\pi \cdot \frac{1}{2}=\pi</math>
:となる。また、円 {{mvar|C}} に内接する正12角形の辺の長さを {{mvar|L}} とすると
::<math>L=12 \sin 15^{\circ} =12\sqrt{\frac{1- \cos {30^{\circ}} }{2}}=6\sqrt{2-\sqrt{3}}</math>
:であり、{{mvar|L}} を2乗すると
::<math>L^2=36\left(2-\sqrt{3}\right)>36(2-1.74)=9.36>9.3025=3.05^2</math>
:となる。よって、正12角形の辺の長さ {{mvar|L}} は 3.05 よりも大きい。円に内接する正12角形の辺の長さ {{mvar|L}} よりも円 {{mvar|C}} の円周の長さ {{mvar|l}} の方が大きいことから
::<math>\pi = l>L>3.05</math>
:となる。すなわち
::<math>\pi>3.05</math>
:である。（証明終）

上記の解法では円周率が {{math|3.05}} よりも大きいことを正12角形を用いて証明した。この解法と同様に考えることにより、円周率を {{math|3}} として扱うと、円とそれに内接する正6角形の周長が等しくなってしまう<ref>[[三田紀房]]『[[ドラゴン桜]]』第10巻、[[講談社]]、2005年9月、ISBN 978-4063724660。</ref><ref>{{Cite web|和書 |url=http://sid.co.jp/cn9/cn28/pg497.html |title=あなたにも解ける東大数学入試問題 1.1 円周率とは何か |work=京極一樹の東大数学 |publisher=京極一樹の数学塾 |accessdate=2014-10-23 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20150326024509/http://sid.co.jp/cn9/cn28/pg497.html |archivedate=2015-03-26}}</ref>。

== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Notelist}}

=== 出典 ===
{{Reflist|2|refs=
<ref name="原田2003">原田昭治 [https://doi.org/10.4307/jsee.51.3_9 大学が目指す及び企業が求める技術者教育地殻変動する教育環境と今後の産学連携]『工学教育』第51巻第3号、2003年、9-17頁。</ref>
<ref name="曽我2001">{{Cite journal|和書|author=曽我昇平 |date=2001-01 |url=https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R000000004-I5593424 |title=円周率「3」の子どもたち |journal=数学セミナー |ISSN=03864960 |publisher=東京 : 日本評論社 |volume=40 |issue=1 |pages=23-27 |id={{国立国会図書館書誌ID|5593424}} |CRID=1523951029891203968}}</ref>
<ref name="山下2001">山下純一 [https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R000000004-I5799863 入試問題からの旅立ち/円周率は「およそ3」]『理系への数学』第34巻、第7号、2001年7月、81-85頁。</ref>
<ref name="本田2002">本田由紀 [https://doi.org/10.11151/eds1951.70.105 90年代におけるカリキュラムと学力]『教育社会学研究』第70巻、2002年、105-123頁。</ref>
<ref name="藤原2005">[[藤原正彦]]『祖国とは国語』[[新潮社]]〈新潮文庫〉、2005年12月、55-56頁、ISBN 978-4101248080。</ref>
<ref name="週刊新潮2001">[https://cir.nii.ac.jp/crid/1522543655337386112 円周率はちゃんと「3.14」と教えろ]『[[週刊新潮]]』第46巻第16号、2001年4月、48-49頁。</ref>
<ref name="週刊文春2000">[https://cir.nii.ac.jp/crid/1523951029456388480 新学習指導要領で 「円周率は3」「必須英単語は100個」日本の生徒がバカになる!?]『[[週刊文春]]』第42巻第9号、2000年3月、35-37頁。</ref>
<ref name="週刊朝日2001">[https://cir.nii.ac.jp/crid/1520573330840301312 それでも聞きたい「円周率」はやっぱり「3」で教える?]『[[週刊朝日]]』第106巻第21号、2001年5月、182-183頁。</ref>
<ref name="細野2001">[[細野真宏]] [https://cir.nii.ac.jp/crid/1524232505362322432 「円周率3」時代の勉強法]『[[文芸春秋]]』第79巻、第3号、2001年3月、156-160頁。</ref>
<ref name="プレジデント2002">[https://cir.nii.ac.jp/crid/1520010381081434112 緊急特集 円周率=3の教育システムは、吉と出るか凶と出るか 「ゆとり教育」開始!わが子はどうなる]『[[プレジデント (雑誌)|プレジデント]]』第40巻第7号、2002年4月、133-142頁。</ref>
<ref name="産経20080218">{{Cite news |url=http://sankei.jp.msn.com/life/education/080218/edc0802182202000-n1.htm |title=「総合学習」進化する塾 |newspaper=msn産経ニュース |archiveurl=https://web.archive.org/web/20080327203544/http://sankei.jp.msn.com/life/education/080218/edc0802182202000-n1.htm |archivedate=2008-03-27}}</ref>
<ref name="朝日20120408">[https://www.asahi.com/national/intro/TKY201204070228.html ミスターゆとり教育の反論 元文部官僚・寺脇研さん] ''朝日新聞デジタル''（2012年4月8日）2017年3月25日閲覧。</ref>
}}
{{Go to top}}

== 参考文献 ==
* {{Cite book|和書 |url=http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=16418 |chapter=〈「脱ゆとり」の真相：中〉円周率「3」の波紋（2012年9月6日木曜日33頁、教育面） |title=朝日新聞縮刷版（2012年9月号）|publisher=[[朝日新聞出版]] |page=311 |asin=B00OABTKZ6 |ref={{Sfnref|朝日新聞|2012}}}}
* {{Cite web|和書 |url=https://web.archive.org/web/20141217101649/https://datazoo.jp/w/%e5%86%86%e5%91%a8%e7%8e%87/14236359 |title=2013年4月4日放送 19:00-21:48 テレビ朝日 池上×マツコ ニュースな話 池上×マツコ 教育問題を考える |work=「円周率」に関するテレビ情報 |publisher=テレビでた蔵 |accessdate=2017-03-25 |ref={{Sfnref|池上彰|2013}}}}
* {{Cite book|和書 |author=伊藤敏雄 |url=http://www.sbrain.co.jp/theme/T-30188.htm |title=誰も教えてくれない教育のホントがよくわかる本 -ゆとり教育になって学校はどうなった?- |publisher=[[文芸社]] |date=2006-02|isbn=978-4286009544 |ref=harv}}
* {{Cite journal|和書 |author=大西俊弘 |url=http://www.math.ryukoku.ac.jp/~t-onishi/sj231422.pdf |format=PDF |title=「学力低下」問題と新学習指導要領 |journal=SIGMA JOURNAL |number=23 |publisher=文英堂 |year=2002 |pages=14-22 |ref=harv}}
* {{Cite book|和書 |author=[[神永正博]] |title=学力低下は錯覚である |publisher=[[森北出版]] |date=2008-06 |isbn=978-4-627-97511-8 |ref=harv}}
* {{Cite journal|和書 |author=木村寛治 |title=小学校算数教科書から3.14は消えたか |journal=工学教育 |volume=52 |number=1 |year=2004 |pages=138-139 |ref=harv}}
* {{Cite book|和書 |url=http://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/02/5/0255520.html |title=理科・数学教育の危機と再生 |author=[[黒木哲徳]] |editor=左巻健男、苅谷剛彦 |publisher=岩波書店 |date=2001-07 |isbn=4-00-025552-5 |chapter=算数，数学の教育の時間と内容はこれだけでいいのか |pages=20-30 |ref={{Sfnref|黒木哲徳|2001}}}}
* {{Cite book|和書 |author=関沢正躬 |url=https://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/00/8/0092130.html |title=算数があぶない |series=岩波ブックレット |publisher=[[岩波書店]] |date=2000-07 |isbn=978-4000092135 |ref=harv}}
* {{Cite book|和書 |title=小学校学習指導要領 第4版―平成20年3月告示 |author=[[文部科学省]] |publisher=東京書籍 |date=2009-08 |isbn=978-4487286959 |ref={{Sfnref|学習指導要領|2009}}}}
* {{Cite book|和書 |author=[[文部省]] |title=小学校学習指導要領解説 算数編 |publisher=東洋館出版社 |date=1999-06 |isbn=978-4491015507 |ref={{Sfnref|学習指導要領|1999}}}}

== 関連項目 ==
* [[ゆとり教育]]
* [[学習指導要領]]
* [[教科書問題#学習内容の問題]]

== 外部リンク ==
* [[文部科学省]] [https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/gakuryoku/faq/001.htm#19 Q「円周率は3」で教えていると聞きましたが、本当ですか。]
* 佐々木彰 (2000年4月16日) [http://www2.chokai.ne.jp/~assoonas/UC278.HTML 円周率3騒動] 佐々木彰の「うんちく講座」278.
* [[奥村晴彦]] (2008年2月16日) [https://oku.edu.mie-u.ac.jp/~okumura/blog/node/1950 円周率は3？] okumura's blog.
** boiseweb (2008年2月17日) [https://oku.edu.mie-u.ac.jp/~okumura/blog/node/1950#comment-19701 掛け算桁数制限と「円周率は3」問題]
** boiseweb (2008年2月17日) [https://oku.edu.mie-u.ac.jp/~okumura/blog/node/1950#comment-19701 「ゆとり教育で円周率は3」の真相]
* たばかれーら (2012年9月7日) [https://ameblo.jp/gallina50/entry-11347478875.html 散歩話 第139回 デマと教育] メモ垣露文.

{{DEFAULTSORT:えんしゆうりつはさん}}
[[Category:円周率]]
[[Category:日本の教育問題]]
[[Category:算数]]
[[Category:数学に関する記事]]
[[Category:2002年の日本]]
[[Category:2002年の教育]]
[[Category:広く信じられた謬説]]
[[Category:戦後日本の教育]]