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[[群論]]において、[[群 (数学)|群]]の'''半直積'''(はんちょくせき、{{lang-en-short|semidirect product}})とは、ふたつの群から新たな群を作り出す方法の一種。 [[群の直積]]の一般化であり、通常の直積をその特別な場合として含む。 == 定義 == === 内部半直積 === ふたつの[[群 (数学)|群]] {{mvar|N}}, {{mvar|H}} に対して {{mvar|N}} の {{mvar|H}} による'''内部半直積'''とは、次の性質を満たす群 {{mvar|G}} のことで、 {{math|''G'' {{=}} ''N'' ⋊ ''H''}} と表す{{Sfn|Alperin|Bell|1995|p=20}}。 * {{mvar|N}} は群 {{mvar|G}} の[[正規部分群]]かつ {{mvar|H}} は群 {{mvar|G}} の部分群であって、{{math|''G'' {{=}} ''NH''}} を満たす * {{mvar|N}} と {{mvar|H}} は自明な[[共通部分]]をもつ:{{math|''N'' ∩ ''H'' {{=}} 1}} {{mvar|G}} を群とし、{{mvar|H}} をその部分群、{{mvar|N}} を正規部分群 ({{math|''N'' ◁ ''G''}}) とすると、以下は同値である。 * ''G'' = ''NH'' かつ ''N'' ∩ ''H'' = 1. * ''G'' のすべての元は積 ''nh'' (''n'' ∈ ''N'', ''h'' ∈ ''H'') として一意的に書ける。 * ''G'' のすべての元は積 ''hn'' (''h'' ∈ ''H'', ''n'' ∈ ''N'') として一意的に書ける。 * 自然な埋め込み {{nowrap|''H'' → ''G''}} を自然な射影 {{nowrap|''G'' → ''G'' / ''N''}} と合成すると、''H'' と[[商群]] {{nowrap|''G'' / ''N''}} の間の[[群同型|同型写像]]となる。 * ''H'' 上恒等写像で[[核 (代数学)|核]]が ''N'' の群準同型 {{nowrap|''G'' → ''H''}} が存在する。 <!-- <math>G = N \rtimes H</math> であることを、''G'' は ''N'' 上分裂する (split)、''G'' は ''N'' に作用する ''H'' の半直積である、あるいは ''H'' と ''N'' の半直積であるとさえいう。曖昧さを避けるために、2つの部分群のどちらが正規であるかを明記するのが賢明である。--> === 外部半直積 === {{math|''G''}} を正規部分群 {{mvar|N}} と部分群 {{mvar|H}} の(内部)半直積であるとする。{{math|Aut(''N'')}} を {{mvar|N}} のすべての[[自己同型]]からなる群とする。次で定義される写像 {{math|''φ'': ''H'' → Aut(''N'')}} は[[群準同型]]である。{{math|''φ''(''h'') {{=}} ''φ''<sub>''h''</sub>}}, ただしすべての {{math|''h'' ∈ ''H''}} と {{math|''n'' ∈ ''N''}} に対し、{{math|''φ''<sub>''h''</sub>(''n'') {{=}} ''hnh''<sup>−1</sup>}}.({{mvar|N}} は {{mvar|G}} の正規部分群であるから {{math|''hnh''<sup>−1</sup>∈''N''}} であることに注意。){{math|''N''}}, {{math|''H''}}, {{math|''φ''}} の三つ組は以下で示すように {{math|''G''}} を同型の[[up to|違いを除いて]]決定する。 2つの群 {{math|''N''}} と {{math|''H''}}(与えられた群の部分群である必要はない)と群準同型 {{math|''φ'': ''H'' → Aut(''N'')}} が与えられると、次のように定義される、{{math|''φ''}} に関する {{mvar|N}} と {{mvar|H}} の('''外部''')'''半直積'''と呼ばれる新しい群 <math>N\rtimes_{\varphi}H</math> を構成することができる<ref>{{cite book |last1=Robinson |first1=Derek John Scott |title=An Introduction to Abstract Algebra |year=2003 |publisher=Walter de Gruyter |isbn=9783110175448 |pages=75–76}}</ref>{{Sfn|Alperin|Bell|1995|p=22}}。 * 集合としては、<math>N\rtimes_{\varphi}H</math> は[[デカルト積]] {{math|''N'' × ''H''}} である。 * <math>N\rtimes_{\varphi}H</math> の元の乗法は、準同型 <math>\varphi</math> によって決定される。演算は {{math|''n''<sub>1</sub>, ''n''<sub>2</sub> ∈ ''N''}} と {{math|''h''<sub>1</sub>, ''h''<sub>2</sub> ∈ ''H''}} に対して ::<math>(n_1, h_1)*(n_2, h_2) = (n_1\varphi_{h_1}(n_2), h_1h_2)</math> :によって定義される ::<math>*\colon (N\times H)\times(N\times H)\to N\rtimes_{\varphi} H</math> :である。 これは群を定め、単位元は {{math|(1<sub>''N''</sub>, 1<sub>''H''</sub>)}} で、{{math|(''n'', ''h'')}} の逆元は {{math|(''φ''<sub>''h''<sup>−1</sup></sub>(''n''<sup>−1</sup>), ''h''<sup>−1</sup>)}} である。対 {{math|(''n'', 1<sub>''H''</sub>)}} 全体は {{math|''N''}} と同型な正規部分群をなし、対 {{math|(1<sub>''N''</sub>, ''h'')}} 全体は {{math|''H''}} に同型な部分群をなす。群全体はこれら2つの部分群の内部半直積になっている。 逆に、群 {{mvar|G}} と正規部分群 {{math|''N''}} と部分群 {{math|''H''}} が与えられていて、{{mvar|G}} のすべての元 {{math|''g''}} が一意的に {{math|''g {{=}} nh''}}, ただし {{math|''n'' ∈ ''N''}}, {{math|''h'' ∈ ''H''}}, の形に書けるとしよう。{{math|''φ'' : ''H'' → Aut(''N'')}} を {{math|''φ''(''h'') {{=}} ''φ''<sub>''h''</sub>}}、ただしすべての {{math|''n'' ∈ ''N'',''h'' ∈ ''H''}} に対して :<math>\varphi_h(n) = hnh^{-1},</math> によって与えられる準同型とする。すると {{math|''G''}} は半直積 <math>N\rtimes_{\varphi}H</math> に同型である。同型写像は積 {{math|''nh''}} を対 {{math|(''n'',''h'')}} に送る。{{math|''G''}} において次が成り立ち :<math>(n_1h_1)(n_2h_2) = n_1 h_1 n_2 h_1^{-1}h_1h_2 = (n_1\varphi_{h_1}(n_2))(h_1h_2)</math> これは上の写像が確かに同型であることを示しておりまた <math>N\rtimes_{\varphi}H</math> の乗法の規則の定義の説明もしている。 直積は半直積の特別な場合である。これを見るためには、{{math|''φ''}} を自明な準同型、すなわち {{mvar|H}} のすべての元を {{mvar|N}} の恒等自己同型に送るものとしよう。すると <math>N\rtimes_{\varphi}H</math> は直積 <math> N \times H</math> である。 <!-- 群に対する[[分裂補題]]のあるバージョンによると、群 {{math|''G''}} が2つの群 {{math|''N''}} と {{math|''H''}} の半直積に同型であることと、[[短完全列]] :<math> 1\longrightarrow N \longrightarrow^{\!\!\!\!\!\!\!\!\!\beta}\ \, G \longrightarrow^{\!\!\!\!\!\!\!\!\!\alpha}\ \, H \longrightarrow 1</math> と、群準同型 {{math|''γ'': ''H'' → ''G''}} であって {{math|α ∘ γ {{=}} id<sub>''H''</sub>}}({{mvar|H}} 上の[[恒等写像]])なるものが存在することが、同値である。このとき、{{math|''φ'': ''H'' → Aut(''N'')}} は {{math|''φ''(''h'') {{=}} ''φ''<sub>''h''</sub>}}, ただし :<math>\varphi_h(n) = \beta^{-1}(\gamma(h)\beta(n)\gamma(h^{-1})),</math> によって与えられる。--> === ホモロジー代数的定義 === 群 {{mvar|N}} の 群 {{mvar|H}} による半直積とは、[[分裂 (数学)|分裂]]する[[短完全列]] :<math> 1 \to N \to G \to H \to 1 </math> を持つような群 {{mvar|G}} のことである{{sfn|Rotman|2008|p=500}}{{sfn|Alperin|Bell|1995|p=26}}。ここで、短完全列が分裂するとは[[完全系列#短完全列|切断]] {{math|''s'' : ''H'' → ''G''}} が存在することである。(つまり半直積 {{mvar|G}} とは群 {{mvar|N}} の群 {{mvar|H}} による[[群の拡大]]のなかで「もっとも単純なもの」である。) == 導入 == 定義は直観的にやや分かりにくく、奇妙に見えるかもしれないが、分かりやすい例として、n次元[[ユークリッド空間]]における[[アフィン変換群]] をあげることができる。{{mvar|n}} 次元アフィン変換 : <math>(A,b)\colon \mathbb{R}^n \to \mathbb{R}^n;\; (A,b)x = Ax + b</math> は {{mvar|n}} 次元一般線型変換 <math>A \in \mathit{GL}(n, \mathbb{R}) </math> と {{mvar|n}}次元の並進変換 <math>b \in \mathbb{R}^n </math> を合成したものであり、この変換の全体は群を成し、これを <math>\operatorname{Aff}(\mathbb{R}^n)</math> で表し、{{mvar|n}} 次元'''アフィン変換群'''と呼ぶ。2つのアフィン変換 <math>(A_1, b_1)</math> と <math>(A_2, b_2)</math> の合成変換を考えると、 : <math>(A_1, b_1)(A_2, b_2)x = (A_1, b_1) (A_2 x + b_2) = A_1 A_2 x + A_1 b_2 + b_1</math> である。従って、アフィン変換群 <math>\operatorname{Aff}(\mathbb{R}^n)</math> の群演算は、 : <math>(A_1, b_1)(A_2, b_2) = (A_1 A_2, A_1 b_2 + b_1)</math> となり、<math>\mathit{GL}(n, \mathbb{R})</math> と <math>\mathbb{R}^n </math> の単純な直積群ではないことが分かる。しかし <math>\mathit{GL}(n, \mathbb{R})</math> と <math>\mathbb{R}^n </math> は共に <math>\operatorname{Aff}(\mathbb{R}^n)</math> の部分群を成し、とくに <math>\mathbb{R}^n </math> は[[正規部分群]]になる。 このような関係をさらに一般化したものが半直積である<ref name="Kobayashi,Oshima_1999">小林俊夫・大島利雄 『Lie群とLie環 1』、岩波書店、1999年、pp6-8。</ref>。 == 例 == === 直積 === [[直積群]]は半直積群でもある。 === 二面体群 === [[位数 (群論)|位数]] {{math|2''n''}} の[[二面体群]] {{math|''D''<sub>2''n''</sub>}} は位数 {{mvar|n}} の[[巡回群|巡回的]]正規部分群 {{math|''C''<sub>''n''</sub>}} の位数 {{math|2}} の巡回群 {{math|''C''<sub>2</sub>}} による半直積である{{Sfn|Alperin|Bell|1995|loc=Proposition 2.13}}。 :<math> D_{2n} = \langle\, r, s \mid r^n = s^2 = 1,~s^{-1}rs = r^{-1} \,\rangle </math> :<math> C_n := \langle r \rangle,~C_2 := \langle s \rangle,~D_{2n} = C_n \rtimes C_2 </math> === 標準ボレル部分群 === [[一般線型群]]の[[上三角行列]]からなる部分群 {{mvar|B}} を取る。 {{mvar|U}} を対角成分がすべて {{math|1}} からなる群 {{mvar|B}} の部分群とし、 {{mvar|T}} を[[対角行列]]からなる群 {{mvar|B}} の部分群とする。このとき次が成り立つ{{Sfn|Alperin|Bell|1995|loc=Proposition 5.1}}。 :<math> B = U \rtimes T</math> === アフィン変換群 === 正則[[アフィン変換]]からなる群 {{math|[[アフィン群|GA]](''V'') {{=}} ''V'' ⋊ ''GL''(''V'')}} も半直積の例である。 === 運動群 === {{mvar|n}} 次元[[ユークリッド空間]]の[[ユークリッドの運動群|運動群]] {{math|''E''(''n'')}} は[[並進]]部分群 {{math|''T''(''n'')}} と[[直交群]] {{math|''O''(''n'')}} の半直積 {{math|''E''(''n'') {{=}} ''T''(''n'') ⋊ ''O''(''n'')}} である。 === 半直積で表せない例 === [[位数 (群論)|位数]] {{math|8}} の[[四元数群]] {{math|''Q''<sub>8</sub> {{=}} ⟨ ''i'', ''j'', ''k'' {{!}} ''i''<sup>2</sup> {{=}} ''j''<sup>2</sup> {{=}} ''k''<sup>2</sup> {{=}} ''ijk'' ⟩}} は自身より小さなふたつの群の半直積で表すことはできない{{sfn|Alperin|Bell|1995|p=26}}。 == 性質 == === 位数 === [[位数 (群論)|位数]]はそれぞれの積である。 :<math> \vert N \rtimes H \vert = \vert N \vert \vert H \vert </math> === 埋め込み === もとの群は半直積群に[[単射#埋め込み|埋め込まれる]]。 つまり、ふたつの[[単射]]準同型写像 {{math|''N'' → ''N'' ⋊ ''H''}} と {{math|''H'' → ''N'' ⋊ ''H''}} がある。 さらに {{mvar|N}} の単射準同型像は {{math|''N'' ⋊ ''H''}} の[[正規部分群]]で、その[[剰余群]]は {{mvar|H}} と[[同型]]である。 === 異なる作用における同型 === 一般に、ふたつの異なる[[群作用]] {{math|''φ'', ''ψ'' : ''H'' → Aut(''N'')}} が非同型な半直積群を定めるとは限らない{{Sfn|Alperin|Bell|1995|p=23}}。 もし {{mvar|H}} が巡回群で作用 {{math|''φ'', ''ψ''}} が[[単射]]かつ {{math|''φ''(''H'') {{=}} ''ψ''(''H'')}} を満たすならば {{math|''N'' ⋊<sub>''φ''</sub> ''H'' ≅ ''N'' ⋊<sub>''ψ''</sub> ''H''}} である{{Sfn|Alperin|Bell|1995|loc=Proposition 2.11}}。 == 関連項目 == * [[群の直積|直積]] * [[輪積]] * {{仮リンク|シューア・ツァッセンハウスの定理|en|Schur-Zassenhaus theorem}} ([[有限群]]論における基本的な定理{{Sfn|Alperin|Bell|1995|p=81}}) * [[群の拡大]] ({{math|1 → ''N'' → ''N'' ⋊ ''H'' → ''H'' → 1}}) == 脚注 == {{Reflist|2}} == 参考文献 == * {{Cite book |last1 = Alperin |first1 = J. L. |last2 = Bell |first2 = Rowen B. |year = 1995 |title = Groups and representations |url = {{google books|EroGCAAAQBAJ|Groups and representations|plainurl=yes}} |publisher = Springer-Verlag |series = Graduate texts in mathematics |volume = 162 |isbn = 0-387-94526-1 |ref = harv }} * {{cite book |last1 = Rotman |first1 = Joseph. J. |year = 2008 |title = An Introduction to Homological Algebra |url = {{google books|P2HV4f8gyCgC|An Introduction to Homological Algebra|plainurl=yes}} |publisher = Springer |isbn =978-0-387-24527-0 |ref = harv }} * R. Brown, Topology and groupoids, Booksurge 2006. ISBN 1-4196-2722-8 {{DEFAULTSORT:はんちよくせき}} [[Category:群論]] [[Category:数学に関する記事]]
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