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{{Unreferenced|date=January 2012}} [[数学]]における'''拡大実数'''(かくだいじっすう、{{lang-en-short|extended real number}})あるいはより精確に'''アフィン拡大実数'''({{en|affinely extended real number}})は、通常の[[実数]]に正の[[無限|無限大]] {{math|+∞}} と負の無限大 {{math|−∞}} の2つを加えた体系を言う。 新しく付け加えられた[[元 (数学)|元]](無限大、無限遠点)は(通常の)実数ではないが、文脈によってはこれらを含めた全ての拡張実数を指して便宜的に「実数」と呼ぶこともあり、その場合、通常の実数は'''有限実数'''と呼んで区別する<ref>ブルバキ, p.115</ref>。 拡張実数の概念は、[[微分積分学]]や[[解析学]](特に[[測度論]]と[[積分法]])において種々の[[函数の極限]]についての記述を簡素化するのに有効である。(アフィン)拡張実数全体の成す集合 {{math|'''R''' ∪ {±∞}}} は、その上の適当な順序構造や位相構造などを持つものとして'''補完数直線'''(ほかんすうちょくせん、{{lang-en-short|extended real line}})と呼ばれ、{{math|{{overline|'''R'''}}}} や {{math|[−∞, +∞]}} と書かれる。 文脈から明らかな場合には、正の無限大の記号 {{math|+∞}} はしばしば単に {{math|∞}} と書かれる。 == 意義 == === 極限 === 函数 {{mvar|f}} において、引数 {{mvar|x}} や函数値 {{math|''f''(''x'')}} がある意味で「非常に大きく」なるときのふるまいを記述したい場面というのはよくある。例えば函数 :<math>f(x) = x^{-2}</math> を考えると、グラフは ''g''(''x'') = 0 を水平[[漸近線]]に持つ。幾何学的に、{{mvar|x}}-軸を右へどんどん辿って行けば、1/''x''<sup>2</sup> の値は 0 へ近づく。この極限的な振る舞いというのは、{{mvar|x}} が何らかの実数へ近づくときの[[函数の極限]]と、{{mvar|x}} が近づく実数がないことを除けば同じである。 仮に、実数の集合 {{math|'''R'''}} に二つの元 {{math|+∞}} と {{math|−∞}} を添加するとすれば、「無限遠における極限」を {{math|'''R'''}} におけると同様の[[位相的性質]]を以って定式化することができる。 事を完全に厳密にするには、{{math|'''R'''}} の[[コーシー列|有理コーシー列]]による定義において、さらに任意の {{math|''K'' > 0}} に対して十分大きな番号の項で {{mvar|K}} を超えるものが取れるような有理コーシー列全体の成す集合として {{math|+∞}} を、同様の仕方で {{math|−∞}} を、それぞれ定義することにすればよい。 === 測度論および積分 === [[測度論]]において、測度無限大の集合や値が無限大になる積分の存在を許すことが有効であることがよくある。 このような測度は微分積分学でも自然に表れてくる。例えば、{{math|'''R'''}} における[[測度]]として、各区間の測度が区間の通常の長さと一致するようなものを考えると、全空間 {{math|'''R'''}} の測度というのはどんな有限実数よりも大きいものでなければならない。あるいはまた、 :<math>\int_1^{\infty}\frac{dx}{x}</math> のような[[広義積分|無限積分]]を考えるとき、値は「無限大」になる。他にも、 :<math>f_n(x) = \begin{cases} 2n(1-nx), & \mbox{if } 0 \le x \le \frac{1}{n} \\ 0, & \mbox{if } \frac{1}{n} < x \le 1\end{cases}</math> のような函数列の極限を考えることも有用であることは多く、函数値が無限大となることを許容しない場合には[[単調収束定理]]や[[優収束定理]]のような本質的な結果が意味を成さない。 == 順序構造および位相的性質 == 任意の(有限)実数 {{mvar|a}} に対して {{math|−∞ ≤ ''a'' ≤ +∞}} と置くことにより、実数直線 {{math|'''R'''}} における順序の拡張として、補完数直線 {{math|{{overline|'''R'''}}}} は[[全順序集合]]になる。この順序に関して {{math|{{overline|'''R'''}}}} は「任意の部分集合が[[上限 (数学)|上限]]と[[下限]]を持つ」([[完備束]]を成す)という良い性質を持つ。 この順序から導かれる {{math|{{overline|'''R'''}}}} 上の{{仮リンク|順序位相|en|Order topology}}では、集合 {{mvar|U}} が正の無限大 {{math|+∞}} の[[近傍 (位相空間論)|近傍]]となる必要十分条件は {{mvar|U}} が適当な実数 {{mvar|a}} に対する集合 {{math|{{mset|''x'' : ''x'' > ''a''}}}} を含むことであり、負の無限大 {{math|−∞}} についても同様のことが言える。補完数直線 {{math|{{overline|'''R'''}}}} は、[[単位閉区間]] {{math|[0, 1]}} に同相な[[コンパクト空間|コンパクト]][[ハウスドルフ空間]]であるから、単位閉区間の通常の距離から同相を通じて[[距離化可能]]であるが、しかし {{math|'''R'''}} 上の通常の距離の延長となるような距離を入れることはできない。 この位相に関して、実変数 {{mvar|x}} が {{math|+∞}} や {{math|−∞}} へ近づく極限や、函数の値が {{math|+∞}} や {{math|−∞}} へ近づく極限を、一般的な極限の位相的定義を簡略化して定義することができる。 == 算術演算 == 実数全体 {{math|'''R'''}} における四則演算は、以下の規約により部分的に {{math|{{overline|'''R'''}}}} まで拡張することができる。 :<math> \begin{alignat}{2} a + \infty = (+\infty) + a &{} = +\infty &&\quad (a \neq -\infty) \\ a - \infty = (-\infty) + a &{} = -\infty &&\quad (a \neq +\infty) \\ a \cdot (\pm\infty) = (\pm\infty) \cdot a &{} = \pm\infty &&\quad (a \in (0, +\infty]) \\ a \cdot (\pm\infty) = (\pm\infty) \cdot a &{} = \mp\infty &&\quad (a \in [-\infty, 0)) \\ \frac{a}{\pm\infty} &{} = 0 &&\quad (a \in \mathbb{R}) \\ \frac{\pm\infty}{a} &{} = \pm\infty &&\quad (a \in \mathbb{R}^+) \\ \frac{\pm\infty}{a} &{} = \mp\infty &&\quad (a \in \mathbb{R}^-) \end{alignat} </math> ここで、式 "{{math|''a'' + ∞}}" は "{{math|''a'' + (+∞)}}" の意味でもあり "{{math|''a'' − (−∞)}}" の意味でもある。また、式 "{{math|''a'' − ∞}}" は "{{math|''a'' − (+∞)}}" の意味でもあり "{{math|''a'' + (−∞)}}" の意味でもある。 しかし、所謂{{仮リンク|不定形の式|en|Indeterminate form}} {{math|∞ − ∞}}, {{math|0 × (±∞)}}, {{math|{{fraction|±∞|±∞}}}} などはやはり{{仮リンク|未定義|en|Undefined (mathematics)|label=意味を成さない}}とするのが普通である。これらの規約は函数の無限大に関する極限についての法則をモデル化するものになっているが、確率論および測度論ではさらに、"{{math|1=0 × (±∞) = 0}}" を規約に追加することが多い(確定した {{math|0}} を掛けた {{math|0 × (有限)}} の形の式の極限としての意味を持つことが多いため<ref>伊藤『ルベーグ積分入門』p.12</ref>)。 また、数式 {{math|1/0}} は {{math|+∞}} とも {{math|−∞}} とも定めることができない。これは[[連続函数]] {{math|''f''(''x'')}} が {{math|''f''(''x'') → 0}} を満たすとすると、これは逆数函数 {{math|1/''f''(''x'')}} が集合 {{math|{{mset|−∞, +∞}}}} の任意の[[近傍 (位相空間論)|近傍]]に殆ど含まれる (eventually contained in) ことは意味するけれども、必ずしも {{math|1/''f''(''x'')}} が {{math|−∞}} か {{math|+∞}} の何れか一方に収斂することを意味'''しない'''ことによる(それでも、その[[絶対値]] {{math|{{abs|1/''f''(''x'')}}}} は {{math|+∞}} へ近づく)。何となれば {{math|1=''f''(''x'') = 1/(sin(1/''x'')}}) を考えるとよい。 == 代数的性質 == 今までの定義に従えば、拡張実数の全体 {{math|{{overline|'''R'''}}}} は[[可換体|体]]にも[[環 (数学)|環]]にも'''ならない'''。それでも以下のような十分扱いやすい性質が成立する: * {{math|''a'' + (''b'' + ''c'')}} および {{math|(''a'' + ''b'') + ''c''}} は等しいかさもなくば両者とも無意味。 * {{math|''a'' + ''b'' および ''b'' + ''a''}} は等しいかさもなくば両者とも無意味。 * {{math|''a'' × (''b'' × ''c'')}} および {{math|(''a'' × ''b'') × ''c''}} は等しいかさもなくば両者とも無意味。 * {{math|''a'' × ''b'' および ''b'' × ''a''}} は等しいかさもなくは両者とも無意味。 * {{math|''a'' × (''b'' + ''c'')}} および {{math|(''a'' × ''b'') + (''a'' × ''c'')}} は両者が定義される限り等しい。 * {{math|''a'' ≤ ''b''}} であり {{math|''a'' + ''c''}} および {{math|''b'' + ''c''}} がともに定義されるならば ''a'' + ''c'' ≤ ''b'' + ''c'' が成り立つ。 * {{math|''a'' ≤ ''b''}} かつ {{math|''c'' > 0}} であり {{math|''a'' × ''c''}} および {{math|''b'' × ''c''}} がともに定義されるならば {{math|''a'' × ''c'' ≤ ''b'' × ''c''}} が成り立つ。 一般に、現れる式がすべてきちんと定義される限りにおいて、{{math|{{overline|'''R'''}}}} における四則演算の法則は '''R''' におけると同様にすべて成り立つ。 == その他の性質 == 実函数の中には極限をとることで {{math|{{overline|'''R'''}}}} まで[[連続写像|連続的]]に延長することができるものもある。例えば[[指数函数]] {{math|exp}} や[[自然対数]] {{math|ln}} は {{math|1=exp(−∞) = 0, exp(+∞) = +∞}} や {{math|1=ln(0) = −∞, ln(+∞) = +∞}} として連続的に延長できる。 また実函数に対する[[不連続性の分類|不連続性]]の中には {{math|{{overline|'''R'''}}}} を考えることで除くことができるようになるものもある。例えば、函数 {{math|1=''f''(''x'') = {{fraction|1|''x''<sup>2</sup>}}}} は {{math|1=''f''(0) = +∞}} および {{math|1=''f''(+∞) = ''f''(−∞) = 0}} と置くことにより(連続性の定義にもよるが)連続にすることができる。一方、函数 {{math|{{fraction|1|''x''}}}} は {{mvar|x}} が左から {{math|0}} へ近づけば {{math|−∞}} となり、右から {{math|0}} に近づけば {{math|+∞}} となるから、連続にすることができない。 正の無限大 {{math|+∞}} と負の無限大 {{math|−∞}} とを区別できない[[実射影直線]]と比べれば、結果として実射影直線上では極限 {{math|∞}} を持つ函数が、片や補完数直線上では絶対値をとらなければ極限を持つようにならないという場合があり得る(例えば 函数 {{math|1/''x''}} の {{math|1=''x'' = 0}} における極限)。他方、 :<math>\lim_{x \to -\infty}{f(x)}</math> および <math>\lim_{x \to +\infty}{f(x)}</math> なる極限は実射影直線上では {{math|1=''x'' = ∞}} でのそれぞれ右側および左側極限に対応し、極限が存在するというためには両者が一致しなければならないから、指数函数 {{math|''e''<sup>''x''</sup>}} や逆正接函数 {{math|arctan(''x'')}} は実射影直線上の {{math|1=''x'' = ∞}} において連続にすることはできない。 == 関連項目 == * {{仮リンク|射影補完数直線|en|Projectively extended real line}} * [[零除算]] * [[超実数]] * [[実射影直線]] * [[リーマン球面]]: 拡張複素数平面 {{overline|'''C'''}} * [[広義積分]] * [[級数]] * {{仮リンク|対数半環|en|Log semiring}} == 注記 == <references/> == 参考文献 == * {{Cite book|和書|author=ニコラ・ブルバキ|authorlink=ニコラ・ブルバキ|title=位相 2|others=土川真夫・村田全訳|series=ブルバキ数学原論|publisher=東京図書|year=1968}} == 外部リンク == * {{PlanetMath|title=extended real numbers|urlname=ExtendedRealNumbers}} * {{MathWorld|author= David W. Cantrell|title=Affinely Extended Real Numbers|urlname=AffinelyExtendedRealNumbers}} {{巨大数}} {{DEFAULTSORT:かくたいしつすう}} [[Category:無限]] [[Category:解析学]] [[Category:実数論]] [[Category:数学に関する記事]]
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