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[[数学]]における'''等化子'''(とうかし、{{lang-en-short|''equalizer'', ''equaliser''}})は、与えられた複数の[[写像]]に対してそれらの値が等しくなるような引数全体の成す集合を言う。従って各等化子は特定の形の方程式の{{仮リンク|解集合|en|solution set}}として得られる。特定の文脈では、ちょうど二つの写像の等化子を、それら写像の'''差核''' (''difference kernel'') と呼ぶ。 == 定義 == [[集合]] {{mvar|X, Y}} と二つの[[写像]] {{math|''f'', ''g'': ''X'' → ''Y''}} に対し、{{mvar|f}} と {{mvar|g}} との'''等化子'''(ここでは {{math|Eq(''f'', ''g'')}} と書く)とは、{{mvar|Y}} において {{math|''f''(''x'') {{=}} ''g''(''x'')}} が成り立つような {{math|''x'' ∈ ''X''}} 全体の成す集合、記号で書けば : <math> \operatorname{Eq}(f,g) := \{x \in X \mid f(x) = g(x)\}</math> を言う。等化子を表す記号は文脈によって違いうるが、例えば情報理論の文脈ではふつう {{math|{{mset|1=''f'' = ''g''}}}} という記法が用いられる。 上記定義においては {{mvar|f, g}} 二つの写像しか用いていないが、二つと限らず、さらに言えば[[有限集合|有限個]]と限らず無数の写像に対してそれらの等化子を定義することができる。一般に、{{mvar|X}} から {{mvar|Y}} への写像からなる任意の集合 {{mvar|ℱ}} に対し、{{mvar|ℱ}} のどの二元 {{mvar|f, g}} に対しても {{mvar|Y}} において {{math|''f''(''x'') {{=}} ''g''(''x'')}} が成り立つような {{math|''x'' ∈ ''X''}} 全体の成す集合 : <math> \operatorname{Eq}(\mathcal{F}) := \{x \in X \mid \forall f,g \in\mathcal{F},\, f(x) = g(x)\}</math> を {{mvar|ℱ}}(に属する元たち)の等化子と呼ぶ。これは {{math|1=''ℱ'' = {{mset|''f'', ''g'', ''h'', …}}}} のような集合であるときには {{math|Eq(''f'', ''g'', ''h'', …)}} のように書くこともできる。情報理論の文脈では {{math|{{mset|1=''f'' = ''g'' = ''h'' = …}}}} のようにも書かれる。 この一般化した定義において {{mvar|ℱ}} が[[単元集合]] {{math|{{mset|''f''}}}} に[[退化 (数学)|退化]]した場合を考えると、{{math|''f''(''x'')}} は常に自分自身と等しいから、その等化子は {{math|1=Eq({{mset|''f''}}) = ''X''}} となる。さらに退化して {{mvar|ℱ}} が[[空集合]] {{mvar|∅}} のときは、定義における{{仮リンク|普遍量化|en|Universal quantification|preserve=1}}は[[空虚な真|自明な意味で真]]となるから、やはり定義域全体 {{math|1=Eq(∅) = ''X''}} となる。 == 差核 == 二変数の等化子(つまり、ちょうど二つの写像の等化子)は'''差核'''とも呼ばれ、{{math|DiffKer(''f'',''g''), Ker(''f'',''g''), Ker(''f'' − ''g'')}} などのようにも書かれる。最後の記法は「{{mvar|f, g}} の差核とは単に差 {{math|''f'' − ''g''}} の[[核 (代数学)|核]]のことである」ことによるもので、この用語の由来でもあり、これが[[抽象代数学]]の文脈で後半に現れる理由を説明するものである。さらに言えば、単一の写像 {{mvar|f}} に対する核は、零写像すなわち値 {{math|0}} の[[定値写像]]との差核 {{math|Eq(''f'', 0)}} として定式化しなおすことができる。 もちろんこれらの議論は写像の核が {{math|0}} の[[逆像]]となっているような代数学的な文脈でのことであって、どんな場合にも成り立つというわけではないが、「差核」という用語法に他意はない。 == 圏論における等化子 == 等化子は[[普遍性]]によって定義することもできるので、[[集合の圏]]から任意の[[圏 (圏論)|圏]]に一般化することができる。この一般の文脈において、{{mvar|X, Y}} は想定する圏の対象であり、{{math|''f'', ''g'': ''X'' → ''Y''}} はその圏の射である。等化子は単に、これら対象と射からなる特定の[[可換図式|図式]]の[[極限 (圏論)|極限]]として定義される。 より明示的に書けば、等化子は適当な対象 {{mvar|E}} と射 {{math|eq: ''E'' → ''X''}} で {{math|1=''f'' ∘ eq = ''g'' ∘ eq}} を満たすものの組 {{math|(''E'', eq)}} であって、普遍性「任意に対象 {{mvar|O}} と射 {{math|''m'': ''O'' → ''X''}} の組 {{math|(''O'', ''m'')}} で {{math|1=''f'' ∘ ''m'' = ''g'' ∘ ''m''}} を満たすものが与えられたとき、射 {{math|''u'': ''O'' → ''E''}} で図式 [[Image:Equalizer-01.svg|center|200px|等化子の普遍性]] を可換にする(すなわち {{math|1=eq ∘ ''u'' = ''m''}} を満たす)ものが{{仮リンク|一意量化|label=一意的に存在|en|Uniqueness quantification}}する」を満足するものを言う。射 {{math|''m'': ''O'' → ''X''}} は {{math|1=''f'' ∘ ''m'' = ''g'' ∘ ''m''}} を満たすとき、{{mvar|f}} と {{mvar|g}} を'''等化する''' (''equalise'') という<ref>{{cite book |last1=Barr |first1=Michael |authorlink1=Michael Barr (mathematician) |last2=Wells |first2=Charles |authorlink2=Charles Wells (mathematician) |year=1998 |title=Category theory for computing science |page=266 |url=http://www.math.mcgill.ca/triples/Barr-Wells-ctcs.pdf |accessdate=2013-07-20 |format=PDF}}</ref>。 差核が用いられる圏を含む任意の[[普遍代数学]]的圏において、集合の圏のとき同様に、対象 {{mvar|E}} は常に通常の集合としての等化子として取ることができ、この場合の射 {{math|eq}} は {{mvar|X}} の[[部分集合]]としての {{mvar|E}} に関する[[包含写像]]として取ることができる。 この圏論的な定義は二つより多くの射に関するものへ直接的に一般化することができる(単に上記の図式と同様の、複数の射を含むより大きな図式を用いればよい)。退化して一つの射しかない場合も同様で、{{math|eq}} は対象 {{mvar|E}} から {{mvar|X}} への任意の[[同型射]]として取れる。一方、退化して射が一つもない場合に対する正確な図式は少々微妙である。普通に対象 {{mvar|X, Y}} からなり射を持たない図式を書くと、この図式の極限は等化子ではなく {{mvar|X}} と {{mvar|Y}} の[[積 (圏論)|積]]となる(そして実際に、例えば集合論的に定義した積と上述の如く集合論的に定義した等化子とは一致しないので、積と等化子とは相異なる概念である)から、この図式は等化子に対するものとしては正しくない。そうではなく、{{mvar|Y}} は図式に現れる射の[[余域]]に過ぎないのであるから、任意の等化子図式は基本的に {{mvar|X}} に注目するのが適切なのである。このように見るとき、図式に射がないならば {{mvar|Y}} も図式に現れず、等化子図式は {{mvar|X}} のみからなり、そしてこの図式の極限は {{mvar|E}} と {{mvar|X}} の間の任意の同型射となる。 任意の圏において任意の等化子が[[モノ射|単型射]](圏論的単射)であることが示せる。この逆が与えられた圏において成り立つならば、その圏は(単型射の意味において)'''正則''' (''regular'') であるという。より一般に、任意の圏における{{仮リンク|正則単型射|en|regular monomorphism}}とは、適当な射集合の等化子と一致するような任意の射 {{mvar|m}} のことを言う。より狭義に、二項の等化子(つまりちょうど二つの射の等化子)に限って正則と呼ぶ文献もあるが、考えている圏が[[完備圏|完備]]ならば両者の定義は一致する。 差核の概念も圏論的文脈において意味を成し、任意の二項等化子に対して「差核」と呼ぶ用語法は圏論全体を通じて広く用いられる。[[前加法圏]](つまり[[アーベル群]]の圏で[[豊饒化された圏]])の場合には射の差が意味を持つから、「差核」という用語は文字通り差の[[核 (圏論)|(圏論的な)核]] {{math|1=Eq(''f'', ''g'') = Ker(''f'' - ''g'')}} として解釈することができる。 [[ファイバー積]] (引き戻し) と[[積 (圏論)|積]]を持つ任意の圏は等化子を持つ。 ==性質== * ''X'' を位相空間、''Y'' を[[ハウスドルフ空間]]、''f'', ''g'': ''X'' → ''Y'' を[[連続写像]]とするとき、イコライザ Eq(''f'', ''g'') は ''X'' の[[閉集合]]である。 == 関連項目 == * [[余等化子]]: 等化子の双対概念 * {{仮リンク|一致論|en|Coincidence theory}}: [[位相空間]]に対する等化子を用いた手法 * [[引戻し (圏論)]]: 等化子や圏論的積で構成される特定の[[極限 (圏論)|極限]] == 注 == {{reflist}} == 参考文献 == * {{nlab|id=equalizer|title=Equalizer}} == 外部リンク == * [http://www.j-paine.org/cgi-bin/webcats/webcats.php Interactive Web page ] which generates examples of equalisers in the category of finite sets. Written by [http://www.j-paine.org/ Jocelyn Paine]. * {{MathWorld | title= Equalizer | urlname= Equalizer}} * {{PlanetMath | title= equalizer | urlname= Equalizer}} {{圏論}} {{DEFAULTSORT:とうかし}} [[Category:集合論]] [[Category:極限 (圏論)]] [[Category:数学に関する記事]]
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