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{{about|部分線型空間|結び目|結び目補空間}} [[線型代数学]]における[[ベクトル空間]]の与えられた[[線型部分空間]]に対し、別の部分空間がその'''相補部分空間'''(そうほぶぶんくうかん、{{lang-en-short|''complementary subspace''}})または'''補空間'''(ほくうかん、{{lang-en-short|''complementary space''}})あるいは互いに相補的 (complement) であるとは、もとの部分空間と[[零ベクトル]]のみで交わる可能な限り大きな部分空間を言う。これにより、もとのベクトル空間全体は二つの互いに線型独立な成分に分解される。 == 定義 == [[可換体|体]] {{mvar|K}} 上の[[ベクトル空間]] {{mvar|V}} とその部分空間 {{mvar|U}} が与えられているとき、{{mvar|V}} の部分空間 {{mvar|W}} が {{mvar|V}} における {{mvar|U}} の'''補空間'''であるとは、ふたつの条件 <math display="block">U\cap W = \{0\},\qquad U+W=V</math> が満たされるときに言う。ここに {{math|{{mset|0}}}} は[[零ベクトル空間]]で、[[和空間]] {{math|''U'' + ''W''}} は <math display="block">\{u+w \mid u\in U,\,w\in W\}</math> を表す。 == 性質 == * {{mvar|U}} と {{mvar|W}} が {{mvar|V}} において互いに相補的な部分空間であるとき、{{mvar|V}} は {{mvar|U}} と {{mvar|W}} の[[ベクトル空間の直和|内部直和]] {{math|1=''V'' = ''U'' ⊕ ''W''}} である。 * {{mvar|V}} の部分空間 {{mvar|U, W}} の[[ベクトル空間の直和|外部直和]] {{math|''U'' ⊞ ''W''}} に対し、線型写像 <math>U \boxplus W \to V;\; (u, w)\mapsto u+w</math> が同型となるための必要十分条件は、{{mvar|U}} と {{mvar|W}} が {{mvar|V}} において相補的、すなわち {{mvar|V}} が {{mvar|U, W}} の内部直和となることである。 * {{mvar|V}} の任意の部分空間 {{mvar|U}} に対し、その補空間が常に存在することは{{ill2|補基底定理|de|Basisergänzungssatz}}(基底の延長定理)からわかるが、補空間は一般には一意に決まらない。例えば <math display="inline">\mathbb{R}^2=\langle\tbinom{1}{0}\rangle\oplus\langle\tbinom{0}{1}\rangle=\langle\tbinom{1}{0}\rangle\oplus\langle\tbinom{1}{2}\rangle</math> である。 * {{mvar|W}} がちょうど {{mvar|V}} における {{mvar|U}} の補空間となるのは、任意のベクトル {{math|''v'' ∈ ''V''}} が <math display="block">v=u+w\qquad(u\in U,\,w\in W)</math> と一意に書けるときである。 * {{mvar|U, W}} が {{mvar|V}} において互いに相補的な部分空間であるとき、その次元については <math display="block"> \dim V = \dim U + \dim W</math> が成り立つ。 * {{mvar|U}} の補空間 {{mvar|W}} の次元を {{mvar|U}} の {{mvar|V}} における{{ill2|余次元|en|codimension}}とも呼ぶ。 * {{mvar|W}} が {{mvar|V}} における {{mvar|U}} の補空間であるとき、{{mvar|U}} は同じ空間 {{mvar|V}} における {{mvar|W}} の補空間である。 * [[商写像|標準射影]] {{math|''V'' → ''V/U''}} の {{mvar|U}} の補空間 {{mvar|W}} への[[制限 (数学)|制限]]は[[線型同型|同型]]である([[商線型空間]]の項も参照)。 == 射影のとの関係 == ベクトル空間 {{mvar|V}} の部分空間 {{mvar|U}} に対して * {{mvar|W}} が {{mvar|U}} の補空間ならば、上記の如く {{mvar|V}} の各元 {{mvar|v}} は {{math|1=''v'' = ''u'' + ''w''}} となる {{math|''u'' ∈ ''U'', ''w'' ∈ ''W''}} が一意的にとれる。このとき、{{math|1=''P{{sub|W}}'': ''V'' → ''V''; ''v'' = ''u'' + ''w'' {{mapsto}} ''u''}} は[[値域|像]] {{math|1=im(''P{{sub|W}}'') = ''U''}} および[[核 (代数学)|核]] {{math|1=ker(''P{{sub|W}}'') = ''W''}} を持つ[[射影作用素|射影]]である。 * 逆に、{{math|1=im(''P'') = ''U''}} となる射影 {{math|''P'': ''V'' → ''V''}} に対し、核 {{math|ker(''P'')}} は {{mvar|U}} の補空間である。 これにより、{{mvar|U}} の補空間全体の成す集合と像が {{mvar|U}} であるような {{mvar|V}} 上の射影全体の成す集合との間に[[一対一対応]]があることがわかる。{{mvar|U}} を像に持つ射影全体の成す空間はベクトル空間 {{math|Hom(''V/U'', ''U'') (⊂ Hom(V, V))}} 上の[[アフィン空間]]を成す。 == 例 == [[file:Komplement im R2.png|thumb|{{mvar|W{{sub|a}}}} はどれも {{mvar|U}} の補空間である]] ベクトル空間 {{math|''V'' {{coloneqq}} '''ℝ'''{{exp|2}}}}([[デカルト平面]])の部分空間として {{math|''U'' {{coloneqq}} {{mset|(0, ''y'') | ''y'' ∈ '''ℝ'''}}}}({{mvar|y}}-軸)を考える(図を参照)。 任意の[[実数]] {{mvar|a}} に対して、{{mvar|W{{sub|a}}}} は[[原点 (数学)|原点]]を通る[[傾き (数学)|傾き]] {{mvar|a}} の[[直線]]とすれば、それら部分空間 {{mvar|W{{sub|a}}}} の各々すべてが {{mvar|V}} における {{mvar|U}} の補空間であり、対応する射影は[[行列表示]]すれば <math display="inline">P_{a} = \begin{pmatrix} 0 & 0 \\ -a & 1 \end{pmatrix}</math> で与えられる(行列の第一行はすべて {{math|0}} だから、この像が {{mvar|U}} となることを直接確かめることは難しくない)。{{mvar|P{{sub|a}}}} の核が {{mvar|W{{sub|a}}}} となることは、{{math|1=''P{{sub|a}}''({{subsup|3=''x''|2=''y''}}) = ({{subsup|2=0|3=0}})}} を解けばわかるが、実際 <math display="block">\begin{pmatrix} 0 \\ 0 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 0 & 0 \\ -a & 1 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 0 \\ -ax+y \end{pmatrix}</math> だから、核は {{math|1=''y'' = ''ax''}} を満たす {{math|({{subsup|3=''x''|2=''y''}})}} の全体、すなわち原点を通る傾き {{mvar|a}} の直線である。 == 直交補空間 == {{main|直交補空間}} [[可換体|体]] {{mvar|K}} 上の[[ベクトル空間]] {{mvar|V}} は[[対称双線型形式|対称]]または[[歪対称双線型形式|交代双線型形式]]もしくは[[エルミート形式|エルミート半双線型系形式]] {{math|{{angbr|,}}}} を持つものとする。{{mvar|V}} の部分空間 {{mvar|U}} に対し、部分空間 <math display="block">U^{\perp} := \{v\in V\mid \forall u\in U:\langle u,v\rangle =0\}</math> を {{mvar|U}} の {{mvar|V}} における'''直交補空間'''と呼ぶ。直交補空間 {{mvar|U{{sup|⊥}}}} は、一般には上で述べた意味での {{mvar|U}} の補空間とは限らないことに注意すべきである。双対性定理によれば、{{mvar|V}} が[[有限次元]]で形式 {{math|{{angbr|,}}}} が {{mvar|U}} 上でも {{mvar|V}} 上でも[[非退化形式|非退化]]ならば、{{math|1=''V'' = ''U'' ⊕ ''U''{{sup|⊥}}}} が成り立つ。例えば、実または複素ベクトル空間上の[[内積]]はこの性質を常に満足する。 === ヒルベルト空間の場合 === {{mvar|V}} が[[ヒルベルト空間]]の場合、部分空間 {{mvar|U}} の直交補空間は、{{mvar|U}} の閉包 {{mvar|{{overline|U}}}} の補空間になる。つまり、<math display="block">V=\overline{U}\oplus U^{\perp}</math> が成り立つ({{math|⊕}} はヒルベルト空間の内部直和)。 この場合の直交補空間は必ず閉であり、<math display="block">(U^{\perp})^{\perp}=\overline{U}</math> を満たす。 == バナッハ空間における補空間 == {{mvar|V}} は(有限または無限次元の)[[完備距離空間|完備]]な[[ノルム空間]]、すなわち[[バナッハ空間]]とし、{{mvar|U}} をその[[閉部分集合|閉]]部分空間で補空間 {{mvar|W}} を持つものとする。すると {{mvar|V}} と {{math|''U'' ⊕ ''W''}} の代数的な意味での線型同型 {{math|''U'' ⊕ ''W'' → ''V''; (''u'', ''w'') {{mapsto}} ''u'' + ''w''}} を通じて、位相的な意味での線型同型(つまり、[[連続写像|連続]]かつ[[逆写像]]も連続となるような線型同型)が定まる。 バナッハ空間において、閉部分空間は常に補空間を持つが、それは閉補空間を見つけることができるということを意味しない。それはむしろヒルベルト空間の持つ[[位相線型空間]]構造を特徴付ける性質である({{ill2|ジョラム・リンデンシュトラウス|en|Joram Lindenstrauss}}と[[Lior Tzafriri]]の定理による<ref>J. Lindenstrauss, L. Tzafriri: ''On the complemented subspaces problem'', Israel Journal of Mathematics (1971), Band 9 (2), Seiten 263–269</ref>): ; 定理 (Lindenstrauss–Tzafriri) : バナッハ空間が適当なヒルベルト空間に同型となるための必要十分条件は、その任意の閉部分空間が閉補空間を持つことである。 補空間の存在性については、次の Sobczyk の定理<ref>R. Meise, D. Vogt: ''Einführung in die Funktionalanalysis'', Vieweg, 1992 ISBN 3-528-07262-8, Satz 10.10</ref> が利用できる: ; 定理 (Sobczyk) : [[可分空間|可分]]なバナッハ空間の[[数列空間]] {{math|''c''{{sub|0}}}} に同型な部分空間は常に閉補空間を持つ。 しかし、可分とは限らない場合にはこの主張は真とは言えない(実際、{{math|''c''{{sub|0}}}} を {{math|''ℓ''{{sup|∞}}}} の部分空間と見たときには、閉補空間は存在しない<ref>R. Meise, D. Vogt: ''Einführung in die Funktionalanalysis'', Vieweg, 1992 ISBN 3-528-07262-8, Satz 10.15</ref><ref>{{MathWorld|urlname=ComplementarySubspaceProblem|title=Complementary Subspace Problem}}</ref>)。 == 不変補空間 == ベクトル空間 {{mvar|V}} 上の[[自己準同型写像]] {{math|''f'': ''V'' → ''V''}} と {{mvar|V}} の {{mvar|f}}-[[不変部分空間]] {{mvar|U}}(すなわち、{{math|''f''(''U'') ⊂ ''U''}} となるような部分空間)に対し、{{mvar|U}} は必ずしも {{mvar|f}}-不変な補空間を持つわけではない。自己準同型 {{mvar|f}} に対し、任意の {{mvar|f}}-不変部分空間が{{mvar|f}}-不変補空間を持つとき、{{mvar|f}} は'''半単純'''であると言う。この半単純性は、[[代数閉体]]上で[[対角化可能]]ということと同値である。 似た用語が[[表現論]]においても用いられる。[[ユニタリ表現]]に対して、不変部分空間の直交補空間はふたたび不変部分空間となり、したがって任意の有限次元ユニタリ表現は[[半単純加群|半単純]]である。 不変部分空間を部分加群として解釈することにより、不変補空間は次の節で言う意味において相補部分加群と見なせる。 == 一般化 == 補空間の定義は(体上でなく[[環 (数学)|環]]で考えれば)そのまま加群に対しても一般化することができるが、[[環上の加群]]の部分加群に対しては常に相補部分加群(補加群)が存在するとはもはや言えなくなる。任意の部分加群が相補部分加群を持つような加群は[[半単純加群]]と呼ばれる。この用語を用いれば、例えば任意のベクトル空間は半単純加群であるということができる。例えば[[整数]]の加法群 {{mathbf|ℤ}} を整数環 {{mathbf|ℤ}} 上の加群と見ると半単純ではない(実際、部分加群 {{math|2'''ℤ'''}} は補加群を持たない)。 「補加群を持つ」と言う代わりに「直和因子である」と言うこともできる。[[射影加群]]は適当な[[自由加群]]の直和因子(に同型)となるような加群として特徴づけられる。同様に[[入射加群]]は任意の拡大加群において補加群を持つことで特徴づけられる。 上記の射影との関係だけでなく {{mvar|U}} の {{mvar|V}} における補空間全体の成す集合上への {{math|Hom(''V/U'', ''U'')}} の単純推移的な作用も、加群(あるいはもっと一般の[[アーベル圏]])の場合に対するものへ引き写すことができる。 == 関連項目 == * {{ill2|補基底|de|Komplementärbasis}} * [[束_(束論)#補元と擬補元|補元]] == 参考文献 == {{reflist}} == 外部リンク == * {{PlanetMath|urlname=ComplementarySubspace|title=complementary subspace}} {{DEFAULTSORT:ほくうかん}} [[Category:ベクトル空間]] [[Category:線型代数学]] [[Category:関数解析学]] [[Category:数学に関する記事]]
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