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{{簡易区別|'''アーベルの(級数)変形法''' (Abel transformation) は{{仮リンク|アーベル変換|en|Abel transform}}(Abel transform)}} [[数学]]における'''部分和分'''(ぶぶんわぶん、{{lang-en-short|''summation by parts''}})は、積の[[総和|和分]]を計算あるいは評価しやすい特定の形に変形する方法の一種である。数列の定和分に関する部分和分法は[[ニールス・アーベル]]に因んで'''アーベルの補題'''あるいは'''アーベルの級数変形法'''とも呼ばれる。 == 部分和分法 == 函数 {{math|''f''(''x''), ''g''(''x'')}} に対し、{{math|∑{{sub|''x''}}}} を[[不定和分]]とすると、 : <math>\sum_x f(x)(g(x+1)-g(x))=f(x)g(x)-\sum_x g(x+1)(f(x+1)-f(x))</math> が成り立つ。これを'''不定和分に関する部分和分の公式'''と呼ぶ。{{math|Δ}} を[[前進差分作用素]]とすれば、 :<math>\sum_x f(x)\Delta g(x)=f(x)g(x)-\sum_x (g(x)+\Delta g(x)) \Delta f(x),</math> あるいは :<math>\sum_x f(x)\Delta g(x)+\sum_x g(x)\Delta f(x)=f(x)g(x)-\sum_x \Delta f(x)\Delta g(x)</math> と書ける。 不定和分に関する部分和分は、不定積分に関する[[部分積分]] :<math>\int f\,dg = f g - \int g\,df</math> の離散的なアナロジー(類似対応物)である。比較して部分和分の方は {{math|Δ''f'' Δ''g''}} の項が余分に加わっていることに注意。これは部分積分の方では対応する項 {{math|''df'' ''dg''}} は二次の微分として消えることによる。 同様の公式はいわゆる「定和分」についても成立する。すなわち 二つの[[数列]] {{math|(''f''{{sub|''k''}}), (''g''{{sub|''k''}})}} に対して、 :<math>\sum_{k=m}^n f_k(g_{k+1}-g_k) = \left[f_{n+1}g_{n+1} - f_m g_m\right] - \sum_{k=m}^n g_{k+1}(f_{k+1}- f_k),</math> あるいは前進差分を用いて書けば : <math>\sum_{k=m}^n f_k\Delta g_k = \left[f_{n+1} g_{n+1} - f_m g_m\right] - \sum_{k=m}^n g_{k+1}\Delta f_k,</math> が成立する([[#アーベルの級数変形法|後述]])。 == ニュートン級数を用いた表示 == 定和分に関する公式を少し違った形に書くことができる。即ち、部分和分の公式を繰り返し適用することにより、 : <math>\begin{align} \sum_{k=0}^n f_k g_k &= f_0 \sum_{k=0}^n g_k+ \sum_{j=0}^{n-1} (f_{j+1}-f_j) \sum_{k=j+1}^n g_k\\ &= f_n \sum_{k=0}^n g_k - \sum_{j=0}^{n-1} \left( f_{j+1}- f_j\right) \sum_{k=0}^j g_k, \end{align}</math> あるいはより一般に、 :<math>\begin{align}\sum_{k=0}^n f_k g_k &= \sum_{i=0}^{M-1} f_0^{(i)} G_{i}^{(i+1)}+ \sum_{j=0}^{n-M} f^{(M)}_{j} G_{j+M}^{(M)}=\\ &= \sum_{i=0}^{M-1} \left( -1 \right)^i f_{n-i}^{(i)} \tilde{G}_{n-i}^{(i+1)}+ \left( -1 \right) ^{M} \sum_{j=0}^{n-M} f_j^{(M)} \tilde{G}_j^{(M)}\end{align}</math> が成り立つ({{math|''M'' {{=}} 1}} とすると先の式)。ここで補助的に用いた数列 {{math|''f''{{su|b= ''j''|p= (''M'')}}}} は{{仮リンク|ニュートン級数|en|Newton series}} * <math>f_j^{(M)}:= \sum_{k=0}^M \left(-1 \right)^{M-k} {M \choose k} f_{j+k},</math> * <math>G_j^{(M)}:= \sum_{k=j}^n {k-j+M-1 \choose M-1} g_k,</math> * <math>\tilde{G}_j^{(M)}:= \sum_{k=0}^j {j-k+M-1 \choose M-1} g_k</math> である。ただし、<math>\textstyle {n \choose k}</math> は[[二項係数]]。 特に {{math|''M'' {{=}} ''n'' + 1}} として得られる等式 :<math>\sum_{k=0}^n f_k g_k = \sum_{i=0}^n f_0^{(i)} G_i^{(i+1)} = \sum_{i=0}^n (-1)^i f_{n-i}^{(i)} \tilde{G}_{n-i}^{(i+1)}</math> は有用なものとして著しい。 == アーベルの級数変形法 == 部分和分を特に級数に対して考えたものは、ふつう'''アーベルの級数変形法''' (Abel transformation) と呼ばれるものである。すなわち、二つの数列 {{math|1=(''a''<sub>''n''</sub>), (''b''<sub>''n''</sub>) (''n'' = 0, 1, 2, …)}} に対して、それらの[[アダマール積|項ごとの積]]から得られる和 : <math>S_N = \sum_{n=0}^N a_n b_n</math> の振舞いを知りたいとする。ここで {{math|''B''<sub>''n''</sub> {{=}} ∑{{su|b= ''k''{{=}}0|p= ''n''}} ''b''<sub>''k''</sub>}} と置けば、{{math|''b''<sub>0</sub> {{=}} ''B''<sub>0</sub>, ''b''<sub>''n''</sub> {{=}} ''B''<sub>''n''</sub> − ''B''<sub>''n''−1</sub> (''n'' ≥ 1) }} であって、かつ : <math>\begin{align} S_N &= a_0 b_0 + \sum_{n=1}^N a_n (B_n - B_{n-1})\\ &= a_0 b_0 - a_0 B_0 + a_N B_N + \sum_{n=0}^{N-1} B_n (a_n - a_{n+1}) \end{align}</math> すなわち : <math>\sum_{n=0}^N a_n b_n = a_N B_N - \sum_{n=0}^{N-1} B_n (a_{n+1} - a_n)</math> が得られるが、このような変形を施すことをアーベルの級数変形法と呼ぶのである。これは {{mvar|S<sub>N</sub>}} のいくつかある収束判定法の証明に用いられる。 ここで、特に、 ''a''<sub>''n''</sub> が微分可能な関数 <math>f(x)</math> によって <math>a_n=f(n)</math> と定義されているとき、''B''<sub>''n''</sub> を実数全体に拡張して <math>B(x)=\sum_{k\leq x} b_k, N=\lfloor x \rfloor</math> とおくことで : <math>\begin{align} S_x=S_N &= a_N B_N - \int_{0}^{N} B(t) f^\prime (t) dt\\ &= f(x) B(x) - \int_{0}^{x} B(t) f^\prime (t) dt \end{align}</math> が導かれる。これを[[アーベルの総和公式]]という(この方法自体を単に部分和分と呼ぶこともある)。 定積分に対する部分積分の公式 : <math>\int_a^b f(x)\,dg(x) = [f(x)\,g(x)]_{a}^{b} - \int_a^b g(x)\,df(x)</math> は[[境界条件]]をさておけば、左辺の積分記号下で掛けられた二つの函数が、右辺の積分記号下では一方は積分され (つまり {{mvar|dg}} は {{mvar|g}} に) 他方は微分される (つまり {{mvar|f}} は {{mvar|df}} に) という形になっている。アーベルの級数変形法でも同様に、左辺の掛けられた二つの数列のうち、右辺では一方が総和され (つまり {{mvar|b<sub>n</sub>}} が {{mvar|B<sub>n</sub>}} に) 他方は差分される (つまり {{mvar|a<sub>n</sub>}} が {{math|''a''<sub>''n''+1</sub> − ''a''<sub>''n''</sub>}} に)。[[前進差分作用素]] {{math|Δ}} を用いて書けば上式は : <math>\sum_{n=0}^N a_n \Delta B_n = a_N B_N - \sum_{n=0}^{N-1} B_n \Delta a_n</math> となり、部分積分との類似性は見易い。 なお、アーベルの級数変形法を応用する場面ではほとんどの場合において級数の収束性を問題にすることになるが、ここで述べた変形法自体は純代数的なものであり、従って「数列」の成分を任意の[[可換体|体]]の元としてもそのまま成り立つ。あるいは一方を[[ベクトル空間]]におけるベクトル列とし、他方をそのベクトル空間の係数体に成分を持つスカラー列としたような場合などでも有効である。 == 応用 == * アーベルの級数判定法は{{仮リンク|クロネッカーの補題|en|Kronecker's lemma}}の証明に用いられる。同補題は[[分散 (確率論)|分散]]が従属関係にある制約条件下での[[大数の法則|大数の強法則]]の証明に利用できる。 * [[アーベルの連続性定理|アーベルの定理]]の証明にアーベルの級数変形法はよく用いられる。 アーベルの級数変形法はある種の級数の収束判定法の証明に用いられる。 ; 判定法 1: {{math|∑ ''b''{{sub|''n''}}}} が[[収斂級数]] で、{{mvar|a{{sub|n}}}} が[[有界数列|有界]]{{仮リンク|単調数列|label=単調列|en|monotone sequence<!-- リダイレクト先の「[[:en:Monotonic function]]」は、[[:ja:単調写像]] とリンク -->}} ならば、{{math|''S''{{sub|''N''}} {{=}} ∑{{su|b= ''n''{{=}}0|p= ''N''}} ''a''{{sub|''n''}}''b''{{sub|''n''}}}} は収束する。 ; 判定法 2: 以下の三条件 :# 部分和 {{mvar|B{{sub|N}}}} が {{mvar|N}} によらず[[有界数列]]を成す。 :# <math>\sum_{n=0}^\infty |a_{n+1} - a_n| < \infty</math>. (従って <math>\sum_{n=N}^{M-1} |a_{n+1}-a_n| \to 0 (\text{ as } N\to \infty)</math> :# <math>\lim a_n = 0</math> : がすべて満たされるならば {{math|''S''{{sub|''N''}} {{=}} ∑{{su|b= ''n''{{=}}0|p= ''N''}} ''a''{{sub|''n''}}''b''{{sub|''n''}}}} は収束する。 何れの場合においても、収束値 {{math|''S'' {{=}} ∑{{su|b= ''n''{{=}}0|p= ∞}} ''a''{{sub|''n''}}''b''{{sub|''n''}}}} は : <math> |S| = \left|\sum_{n=0}^\infty a_n b_n \right| \le B \sum_{n=0}^\infty |a_{n+1}-a_n|</math> なる評価を得る。ただし、{{mvar|B}} は部分和 {{math|''B''{{sub|''N''}} {{=}} ∑{{su|b= ''n''{{=}}0 |p= ''N''}} ''b''{{sub|''n''}} }} の成す列の({{mvar|N}} に依らない)上界とする。 実際に上記の判定法が成り立つことを見よう。{{仮リンク|コーシーの判定法|en|Cauchy's convergence test}}を用いるために {{math|''S''{{sub|''M''}} − ''S''{{sub|''N''}}}} を計算すれば、アーベルの級数変形法を適用して : <math>S_M - S_N = a_M B_M - a_N B_N + \sum_{n=N}^{M-1} B_n (a_{n+1} - a_n)</math> と書ける。後者の判定法においては {{math|''B''{{sub|''N''}}}} の適当な上界 {{mvar|B}} を取れば : <math>|S_M-S_N| \le |a_M|B + |a_N|B + B\sum_{n=N}^{M-1} |a_{n+1} - a_n| \to 0\quad (\text{as }N\to \infty)</math> であるからよい。前者の場合にはさらに {{mvar|a{{sub|n}}}} の極限を {{mvar|a}} として : <math> S_M - S_N = (a_M-a) B_M - (a_N-a) B_N + a(B_M - B_N) + \sum_{n=N}^{M-1} B_n (a_{n+1} - a_n)</math> と書きなおせば、{{math|∑''b''{{sub|''n''}}}} が収束することにより {{mvar|N}} に依らず {{mvar|B{{sub|N}}}} は有界ゆえ、その上界を {{mvar|B}} として最初の二項は : <math>|(a_M-a) B_M - (a_N-a) B_N| \le |a_M -a|B + |a_N -a|B \to 0\quad (\text{as }N,M\to\infty)</math> であり、また第三項は {{math|∑''b''{{sub|''n''}}}} に対するコーシーの判定法により 0 へ行き、残りは {{mvar|a{{sub|n}}}} の単調性により : <math>\sum_{n=N}^{M-1} |B_n| |a_{n+1}-a_n| \le B \sum_{n=N}^{M-1} |a_{n+1}-a_n| = B|a_N - a_M|</math> と評価できて所期の結果を得る。 == 参考文献 == {{reflist}} == 関連項目 == * [[収斂級数]] * [[発散級数]] * [[部分積分]] * [[チェザロ総和法]] * [[アーベルの連続性定理]] * [[アーベルの総和公式]] == 外部リンク == *{{Planetmath reference|id=3843|title=Abel's lemma}} {{DEFAULTSORT:ふふんわふん}} [[Category:総和法]] [[Category:実解析]] [[Category:級数]] [[Category:数学に関する記事]]
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