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[[圏論]]という[[数学]]の分野において、与えられた2つの圏の間の[[関手]]たちは'''関手圏'''(かんしゅけん、{{lang-en-short|functor category}})と呼ばれる圏をなす。その対象は関手であり、[[射 (圏論)|射]]は関手の間の[[自然変換]]である{{sfn|Mac Lane|1998|p={{google books quote|id=gfI-BAAAQBAJ|page=40|40}}}}。関手圏は主に2つの理由によって興味が持たれる: * よく現れる多くの圏は(暗に)関手圏であり、したがって一般の関手圏に対して証明された任意のステートメントは広く適用可能である; * すべての圏は([[米田埋め込み]]によって)'''関手圏'''に埋め込まれる;関手圏はもとの圏よりもよい性質をしばしば持っており、もとの設定では利用可能ではなかった操作ができる。 == 定義 == {{mvar|C}} を[[小さい圏]]とし(すなわち対象たちや射たちは[[真クラス]]ではなく集合をなす)、{{mvar|D}} を任意の圏とする。{{mvar|C}} から {{mvar|D}} への関手全体のなす圏は、{{math|Fun(''C'', ''D'')}}, {{math|Funct(''C'', ''D'')}}, {{math|[''C'', ''D'']}}, {{math|''D''<sup>''C''</sup>}} などと書かれ、対象として {{mvar|C}} から {{mvar|D}} への共変関手を持ち、射としてそのような関手の間の自然変換を持つ。自然変換は合成できることに注意:{{math|''μ''(''X''): ''F''(''X'') → ''G''(''X'')}} が関手 {{math|''F'': ''C'' → ''D''}} から関手 {{math|''G'': ''C'' → ''D''}} への自然変換で、{{math|''η''(''X''): ''G''(''X'') → ''H''(''X'')}} が関手 {{mvar|G}} から関手 {{mvar|H}} への自然変換であるとき、集まり {{math|''η''(''X'')''μ''(''X''): ''F''(''X'') → ''H''(''X'')}} は {{mvar|F}} から {{mvar|H}} への自然変換を定義する。自然変換のこの合成(垂直合成と呼ばれる;[[自然変換]]を参照)によって、{{math|''D''<sup>''C''</sup>}} は圏の公理を満たす。 全く同様に、{{mvar|C}} から {{mvar|D}} への''反変''関手全体の圏を考えることもできる;これは{{math|Funct(''C''<sup>op</sup>, ''D'')}} と書かれる。 {{mvar|C}} と {{mvar|D}} がともに[[前加法圏]](すなわち射の集合が[[アーベル群]]であり、射の合成が[[双線型]])であれば、{{mvar|C}} から {{mvar|D}} への[[加法的関手]]全体のなす圏を考えることができ、{{math|Add(''C'', ''D'')}} と書かれる。 == 例 == * {{mvar|I}} が小さい[[離散圏]](すなわち射が恒等射のみ)のとき、{{mvar|I}} から {{mvar|C}} への関手は本質的には {{mvar|I}} で添え字付けられた {{mvar|C}} の対象の族からなる;関手圏 {{math|''C''<sup>''I''</sup>}} は対応する[[積 (圏論)|積圏]]と同一視できる:元は {{mvar|C}} の対象の族で、射は {{mvar|C}} の射の族である。 * {{仮リンク|射圏|en|arrow category}} {{math|''C''<sup>→</sup>}} 対象は {{mvar|C}} の射で、射は {{mvar|C}} の可換正方形)は単に {{math|''C''<sup>'''2'''</sup>}} である、ただし {{mathbf|2}} は2つの対象を持ち恒等射と一方から他方への1つの射を持つ(逆向きの射は持たない)圏である。 * [[有向グラフ]]は矢印の集合と頂点の集合と、矢印の集合から頂点の集合への各矢印の始点と終点を決める2つの写像からなる。すべての有向グラフの圏はしたがって関手圏 {{math|'''Set'''<sup>''C''</sup>}} に他ならない、ただし {{mvar|C}} は2つの射で結ばれる2つの対象からなる圏であり、{{math|'''Set'''}} は[[集合の圏]]を表す。 * 任意の[[群 (数学)|群]] {{mvar|G}} は対象が1つのすべての射が可逆な圏と考えることができる。すべての [[群作用|{{mvar|G}} 集合]]の圏は関手圏 {{math|'''Set'''<sup>''G''</sup>}} と同じである。 * 直前の例と同様に、群 {{mvar|G}} の {{mvar|k}} 線型[[群の表現|表現]]の圏は関手圏 {{math|'''''k''-Vect'''<sup>''G''</sup>}} と同じである(ただし {{math| '''''k''-Vect'''}} は[[可換体|体]] {{mvar|k}} 上のすべての[[ベクトル空間]]の圏を表す)。 * 任意の[[環 (数学)|環]] {{mvar|R}} は対象が1つの前加法圏と考えることができる;{{mvar|R}} 上の左[[環上の加群|加群]]の圏は加法的関手圏 {{math|Add(''R'', '''Ab''')}} と同じであり(ただし {{mathbf|Ab}} は[[アーベル群の圏]]を表す)、右 {{mvar|R}} 加群の圏は {{math|Add(''R''<sup>op</sup>, '''Ab''')}} である。この例により、任意の前加法圏 {{mvar|C}} に対して、圏 {{math|Add(''C'', '''Ab''')}} を「{{mvar|C}} 上の左加群の圏」、{{math|Add(''C''<sup>op</sup>, '''Ab''')}} を「{{mvar|C}} 上の右加群の圏」と呼ぶことがある。 * [[位相空間]] {{mvar|X}} 上の[[前層]]の圏は関手圏である:位相空間を対象が {{mvar|X}} の開集合で、{{mvar|U}} が {{mvar|V}} に含まれるとき、かつそのときに限り {{mvar|U}} から {{mvar|V}} へのただ1つの射があるような圏 {{mvar|C}} と思う。すると {{mvar|X}} 上の集合(あるいはアーベル群、環)の前層の圏は {{mvar|C}} から {{mathbf|Set}}(あるいは {{mathbf|Ab}}, {{mathbf|Ring}})への反変関手の圏と同じである。この例により、圏 {{math|Funct(''C''<sup>op</sup>, '''Set''')}} は、位相空間から生じない一般の圏 {{mvar|C}} に対してさえも、「{{mvar|C}} 上の集合の{{仮リンク|前層 (圏論)|label=前層の圏|en|Presheaf (category theory)}}」と呼ばれることがある。一般の圏 {{mvar|C}} 上の[[層 (数学)|層]]を定義するには、さらなる構造が必要である、すなわち {{mvar|C}} 上の[[グロタンディーク位相]]である。({{math|'''Set'''<sup>''C''</sup>}} に[[圏同値|同値]]な圏を“前層圏”と呼ぶ著者もいる<ref>{{cite book | author = Tom Leinster | year = 2004 | title = Higher Operads, Higher Categories | publisher = Cambridge University Press | url = http://www.maths.gla.ac.uk/~tl/book.html }}</ref>。) == 事実 == {{mvar|D}} において実行できるほとんどの構成は、「成分ごと」に、{{mvar|C}} の各対象に対してバラバラに実行することで、{{math|''D''<sup>''C''</sup>}} においても実行できる。例えば、{{mvar|D}} の任意の2つの対象 {{mvar|X}} と {{mvar|Y}} が[[積 (圏論)|積]] {{math|''X'' × ''Y''}} を持つとき、{{math|''D''<sup>''C''</sup>}} の任意の2つの関手 {{mvar|F}} と {{mvar|G}} は次で定義される積 {{math|''F'' × ''G''}} を持つ:{{mvar|C}} の任意の対象 {{mvar|c}} に対して {{math|1=(''F'' × ''G'')(''c'') = ''F''(''c'') × ''G''(''c'').}} 同様に、{{math|''η''<sub>''c''</sub>: ''F''(''c'')→''G''(''c'')}} が自然変換で各 {{math|''η''<sub>''c''</sub>}} が圏 {{mvar|D}} において核 {{math|''K''<sub>''c''</sub>}} をもつとき、関手圏 {{math|''D''<sup>''C''</sup>}} における {{mvar|η}} の核は、{{mvar|C}} のすべての {{mvar|c}} に対して {{math|1=''K''(''c'') = ''K''<sub>''c''</sub>}} なる関手 {{mvar|K}} である。 結果として、関手圏 {{mvar|D{{sup|C}}}} は {{mvar|D}} のほとんどの「よい」性質を共有するという一般的 {{仮リンク|rule of thumb|en|rule of thumb}} がある: * {{mvar|D}} が[[完備圏|完備]](あるいは余完備)ならば {{mvar|D{{sup|C}}}} もそうである。; * {{mvar|D}} が[[アーベル圏]]ならば {{mvar|D{{sup|C}}}} もそうである; また次も成り立つ: * {{mvar|C}} が任意の小さい圏ならば、{{仮リンク|前層 (圏論)|label=前層|en|presheaf (category theory)}}の圏 {{math|'''Set'''<sup>''C''</sup>}} は[[トポス (数学)|トポス]]である。 なので上の例から、有向グラフ、{{mvar|G}} 集合、位相空間上の前層の圏はすべて完備かつ余完備なトポスで、{{mvar|G}} の表現、環 {{mvar|R}} 上の加群、位相空間 {{mvar|X}} 上のアーベル群の前層の圏はすべてアーベル、完備、余完備であることがただちに結論付けられる。 先に述べた圏 {{mvar|C}} の関手圏への埋め込みは主な道具として[[米田の補題]]を用いる。{{mvar|C}} の任意の対象 {{mvar|X}} に対して、{{math|Hom(–, ''X'')}} を {{mvar|C}} から {{mathbf|Set}} への反変[[表現可能関手]]とする。米田の補題は割り当て :<math>X \mapsto \operatorname{Hom}(-, X)</math> が圏 {{mvar|C}} の圏 {{math|Funct(''C''<sup>op</sup>, '''Set''')}} への[[充満埋め込み]]であると言っている。したがって {{mvar|C}} は自然にトポスの中にいる。 同じことは任意の前加法圏 {{mvar|C}} に対して実行できる:すると米田は {{mvar|C}} の関手圏 {{math|Add(''C''<sup>op</sup>, '''Ab''')}} への充満埋め込みを生む。したがって {{mvar|C}} は自然にアーベル圏の中にいる。 上でのべた直感({{mvar|D}} で実行できる構成は {{mvar|D{{sup|C}}}} に「持ち上げる」ことができること)はいくつかの方法で正確にできる;もっとも簡潔な定式化は[[随伴関手]]のことばを用いる。すべての関手 {{math|''F'': ''D'' → ''E''}} は({{mvar|F}} との合成により)関手 {{math|''F''<sup>''C''</sup>: ''D''<sup>''C''</sup> → ''E''<sup>''C''</sup>}} を誘導する。{{mvar|F}} と {{mvar|G}} が随伴関手の対であるとき、{{math|''F''<sup>''C''</sup>}} と {{math|''G''<sup>''C''</sup>}} もまた随伴関手の対である。 関手圏 {{math|''D''<sup>''C''</sup>}} は[[指数対象]]のすべての形式的な性質を有する;特に関手たち {{math|''E'' × ''C'' → ''D''}} は {{mvar|E}} から {{mvar|D{{sup|C}}}} への関手たちと自然な1対1対応にある。関手が射であるすべての小さい圏の圏 {{mathbf|Cat}} はしたがって[[デカルト閉圏]]である。 == 注 == {{reflist}} == 参考文献 == * {{cite book |last1 = Mac Lane |first1 = S. |authorlink1 = Saunders Mac Lane |year = 1998 |title = Categories for the Working Mathematician |edition = Second |series = Graduate Texts in Mathematics |volume = 5 |url = {{google books|gfI-BAAAQBAJ|plainurl=yes}} |publisher = Springer-Verlag |isbn = 0-387-98403-8 |mr = 1712872 |zbl = 0906.18001 |doi = 10.1007/978-1-4757-4721-8 |ref = harv }} ==関連項目== * [[図式 (圏論)]] == 外部リンク == * {{nlab|id=functor+category}} * {{PlanetMath|urlname=functorcategory|title=functor category}} {{圏論}} [[Category:関手]] [[Category:数学に関する記事]] [[Category:圏の類]] {{DEFAULTSORT:かんしゆけん}}
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