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階数・退化次数の定理
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{{出典の明記|date=2021-07}} [[数学]]の[[線型代数学]]の分野における'''階数・退化次数の定理'''(かいすう・たいかじすうのていり、{{Lang-en-short|rank–nullity theorem}})とは、最も簡単な場合、ある[[行列]]の[[行列の階数|階数]] (rank) と[[行列の階数#線型写像の階数|退化次数]] (nullity) の和は、その行列の列の数に等しいということを述べた定理である。'''次元定理'''<ref>{{Cite|和書 |author=中原幹夫 |title=量子物理学のための線形代数 |publisher=培風館 |year=2016 |isbn=978-4-563-02516-8 |page=71}}</ref>とも呼ばれる。 == 行列 == {{mvar|A}} がある[[可換体|体]]上の {{math2|''m'' × ''n''}} 行列(行の数が {{mvar|m}} で、列の数が {{mvar|n}})であるなら、 :{{math2|rank ''A'' + nullity ''A'' {{=}} ''n''}} が成立する<ref>{{harvtxt|Meyer|2000}}, page 199.</ref>。 == 線型写像 == [[画像:Rank-nullity.svg|right]] この定理は[[線型写像]]に対しても同様に適用される。{{mvar|V}} と {{mvar|W}} をある体上の[[ベクトル空間]]とし、{{math2|''T'' : ''V'' → ''W''}} をある線型写像とする。このとき、{{mvar|T}} の階数は {{mvar|T}} の像の[[ハメル次元|次元]]であり、{{mvar|T}} の退化次数は {{mvar|T}} の[[核 (代数学)|核]]の次元である。したがって、 : {{math2|dim (im ''T'') + dim (ker ''T'') {{=}} dim ''V''}} が成立する。あるいは、同値であるが : {{math2|rank ''T'' + nullity ''T'' {{=}} dim ''V''}} が成立する。これは実際、{{mvar|V}} と {{mvar|W}} が無限次元であることも許しているため、前述の行列の場合よりもより一般的な定理となっている。 この定理の内容は、{{仮リンク|分割補題|en|splitting lemma}}あるいは後述の証明を用いることで、次元のみならず、空間の間の[[同型写像]]に関する内容へと精練することができる。 より一般的に、[[線型代数学の基本定理]]によって関連付けられる像、核、余像、余核について考えることができる。 == 証明 == ここでは2つの証明を与える。初めの証明では、線型写像のための用語・記号を用いるが、{{math2|''T''('''x''') {{=}} ''A'''''x'''}}({{mvar|A}} は {{math2|''m'' × ''n''}} 行列)とすることにより、行列の場合にも示されることが分かる。2番目の証明では、[[行列の階数|階数]]が {{mvar|r}} のある {{math2|''m'' × ''n''}} 行列 {{mvar|A}} に関する同次系について考え、{{mvar|A}} の零空間を張る {{math2|''n'' − ''r''}} 個の[[線型独立]]な解が存在することを陽的に示す。 === 第一の証明 === {{math2|{'''u'''{{sub|1}}, …, '''u'''{{sub|''m''}}}}} を {{math|ker ''T''}} の基底とする。この基底を {{mvar|V}} の基底に拡張して {{math2|{'''u'''{{sub|1}}, …, '''u'''{{sub|''m''}}, '''w'''{{sub|1}}, …, '''w'''{{sub|''n''}}}}} となるとする。{{math|ker ''T''}} の次元は {{mvar|m}} であり、{{mvar|V}} の次元は {{math2|''m'' + ''n''}} であるため、{{math|image ''T''}} の次元が {{mvar|n}} であることを示せば十分である。 {{math2|{''T'''''w'''{{sub|1}}, …, ''T'''''w'''{{sub|''n''}}}}} が {{math|image ''T''}} の基底であることを示す。{{mvar|V}} 内の任意のベクトル {{mathbf|v}} に対して、以下を満たすスカラーが一意に存在する: : <math>\boldsymbol{v}=a_1 \boldsymbol{u}_1 + \cdots + a_m \boldsymbol{u}_m + b_1 \boldsymbol{w}_1 +\cdots + b_n \boldsymbol{w}_n</math> : <math>\Rightarrow T\boldsymbol{v} = a_1 T\boldsymbol{u}_1 + \cdots + a_m T\boldsymbol{u}_m + b_1 T\boldsymbol{w}_1 +\cdots + b_n T\boldsymbol{w}_n</math> : <math>\Rightarrow T\boldsymbol{v} = b_1 T\boldsymbol{w}_1 + \cdots + b_n T\boldsymbol{w}_n \; \; \because T\boldsymbol{u}_i = \boldsymbol{o}</math> したがって、{{math2|{''T'''''w'''{{sub|1}}, …, ''T'''''w'''{{sub|''n''}}}}} は {{math|image ''T''}} の生成系であることが分かる。 あとは、{{math2|{''T'''''w'''{{sub|1}}, …, ''T'''''w'''{{sub|''n''}}}}} が線型独立であることを示せばよい。今 : <math>c_1 T\boldsymbol{w}_1 + \cdots + c_n T\boldsymbol{w}_n = \boldsymbol{o}</math> とする。 : <math>c_1 T\boldsymbol{w}_1 + \cdots + c_n T\boldsymbol{w}_n = T\{c_1 \boldsymbol{w}_1 + \cdots + c_n \boldsymbol{w}_n\}</math> より : <math>T\{c_1 \boldsymbol{w}_1 + \cdots + c_n \boldsymbol{w}_n\} = \boldsymbol{o}</math> : <math>\therefore c_1 \boldsymbol{w}_1 + \cdots + c_n \boldsymbol{w}_n \in \operatorname{ker} \; T</math> すると、{{math2|{''T'''''w'''{{sub|1}}, …, ''T'''''w'''{{sub|''n''}}}}} は {{math|ker ''T''}} を張るから、 : <math>c_1 \boldsymbol{w}_1 + \cdots + c_n \boldsymbol{w}_n = d_1 \boldsymbol{u}_1 + \cdots + d_m \boldsymbol{u}_m</math> とスカラー {{mvar|d{{sub|i}}}} で表せる。しかし、{{math2|{'''u'''{{sub|1}}, …, '''u'''{{sub|''m''}}, '''w'''{{sub|1}}, …, '''w'''{{sub|''n''}}}}} は {{mvar|V}} の基底であるから、線形結合の表示は一意であり、ゆえに、全ての {{mvar|c{{sub|i}}}} および {{mvar|d{{sub|i}}}} はゼロに等しい。したがって、{{math2|{''T'''''w'''{{sub|1}}, …, ''T'''''w'''{{sub|''n''}}}}} は線型独立であり、{{math|image ''T''}} の基底である。このことから、{{math|image ''T''}} の次元は {{mvar|n}} であることが分かり、目標は達成された。 より抽象的な言い方をすると、写像 {{math2|''T'': ''V'' → image ''T'' }} は[[完全系列|分裂]]する。 === 第二の証明 === {{mvar|A}} を、{{mvar|r}} 個の[[線型独立]]な列を含む {{math2|''m'' × ''n''}} 行列とする(すなわち、{{mvar|A}} の階数は {{mvar|r}} である)。以下では次を示す: # 同次系 {{math2|''A'''''x''' {{=}} '''0'''}} に対して {{math2|''n'' − ''r''}} 個の線型独立な解からなる集合が存在する # その他のすべての解は、それら {{math2|''n'' − ''r''}} 個の解の線型結合で与えられる。 すなわち言い換えると、列ベクトルが {{mvar|A}} の零空間の[[基底 (線型代数学)|基底]]を形成する、ある {{math2|''n'' × (''n'' − ''r'')}} 行列 {{mvar|X}} を、以下では作る。 一般性を失うことなく、{{mvar|A}} の初めの {{mvar|r}} 個の列が線型独立であると仮定できる。すると、{{mvar|r}} 個の線型独立な列ベクトルを含むある {{math2|''m'' × ''r''}} 行列の {{math|''A''{{sub|1}}}} と、{{math2|''n'' − ''r''}} 個の各列が {{math|''A''{{sub|1}}}} の列ベクトルの線型結合で与えられるある {{math2|''m'' × (''n'' − ''r'')}} 行列の {{math|''A''{{sub|2}}}} を用いて、{{math2|''A'' {{=}} [''A''{{sub|1}}:''A''{{sub|2}}]}} と書くことができる。このことは、ある {{math2|''r'' × (''n'' − ''r'')}} 行列 {{mvar|B}} に対して {{math2|''A''{{sub|2}} {{=}} ''A''{{sub|1}} ''B''}} が成立することを意味し([[階数因数分解]]を参照)、したがって {{math2|''A'' {{=}} [''A''{{sub|1}}:''A''{{sub|1}}''B'']}} である。 {{math2|''n'' − ''r''}} 次[[単位行列]] {{math2|''I''{{sub|''n'' − ''r''}}}} に対し、 :<math>X:= \begin{bmatrix} -B \\ I_{n-r} \end{bmatrix}</math> とする。この {{mvar|X}} は :<math>AX = [A_1:A_1B] \begin{bmatrix} -B \\ I_{n-r} \end{bmatrix} = -A_1B + A_1B = O</math> を満たす {{math2|''n'' × (''n'' − ''r'')}} 行列であることに注意されたい。したがって、{{mvar|X}} の {{math2|''n'' − ''r''}} 個の各列は、{{math2|''A'''''x''' {{=}} '''0'''}} の特殊解である。さらに、以下に示すように {{math2|''X'''''u''' {{=}} '''0'''}} であれば {{math2|'''u''' {{=}} '''0'''}} であることから、{{mvar|X}} の {{math2|''n'' − ''r''}} 個の列は線型独立である: :<math>X\boldsymbol{u} = \boldsymbol{0} \Rightarrow \begin{bmatrix} -B \\ I_{n-r} \end{bmatrix}\boldsymbol{u} = \boldsymbol{0} \Rightarrow \begin{bmatrix} -B\boldsymbol{u} \\ \boldsymbol{u} \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} \boldsymbol{0} \\ \boldsymbol{0} \end{bmatrix} \Rightarrow \boldsymbol{u} = \boldsymbol{0}.</math> したがって、{{mvar|X}} の列ベクトルは {{math2|''A'''''x''' {{=}} '''0'''}} に対する {{math2|''n'' − ''r''}} 個の線型独立な解の集合を構成する。 続いて、{{math2|''A'''''x''' {{=}} '''0'''}} の解はどのようなものでも {{mvar|X}} の列ベクトルの[[線型結合]]で表現されることを示す。このことを示すために、{{math2|''A'''''u''' {{=}} '''0'''}} を満たす任意のベクトル :<math>\boldsymbol{u} = \begin{bmatrix} \boldsymbol{u}_1 \\ \boldsymbol{u}_2 \end{bmatrix}</math> を定める。{{math|''A''{{sub|1}}}} の列ベクトルは線型独立であることにより、{{math2|''A''{{sub|1}}'''x''' {{=}} '''0'''}} であれば {{math2|'''x''' {{=}} '''0'''}} が成立することに注意されたい。したがって、 :<math>\begin{align} A\boldsymbol{u} = \boldsymbol{0} &\Rightarrow [A_1:A_1B] \begin{bmatrix} \boldsymbol{u}_1 \\ \boldsymbol{u}_2 \end{bmatrix} = \boldsymbol{0} \\ &\Rightarrow A_1(\boldsymbol{u}_1 + B\boldsymbol{u}_2) = \boldsymbol{0}\\ &\Rightarrow \boldsymbol{u}_1 + B\boldsymbol{u}_2 = \boldsymbol{0} \\ &\Rightarrow \boldsymbol{u}_1 = -B\boldsymbol{u}_2 \\ &\Rightarrow \boldsymbol{u} = \begin{bmatrix} \boldsymbol{u}_1 \\ \boldsymbol{u}_2 \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} -B \\ I_{n-r} \end{bmatrix} \boldsymbol{u}_2 = X\boldsymbol{u}_2 \end{align}</math> が成立する。これより、{{math2|''A'''''x''' {{=}} '''0'''}} の解であるような任意のベクトル {{mathbf|u}} は、{{mvar|X}} の列ベクトルで与えられる {{math2|''n'' − ''r''}} 個の特殊解の線型結合でなければならない、ということが証明される。さらにすでに、{{mvar|X}} の列ベクトルは線型独立であることが分かっている。したがって、{{mvar|X}} の列ベクトルは {{mvar|A}} の[[零空間]]の基底を形成する。すると、{{mvar|A}} の[[零空間|退化次数]]は {{math2|''n'' − ''r''}} である。{{mvar|r}} は {{mvar|A}} の階数に等しいために、{{math2|rank ''A'' + nullity ''A'' {{=}} ''n''}} が成立する。QED. == 再定式化と一般化 == 階数・退化次数の定理は、代数学の第一[[同型定理]]のベクトル空間の場合に対する内容の一つである。{{仮リンク|分割補題|en|splitting lemma}}へと一般化される。 より現代的な言葉を用いると、この定理はまた次のように記述することができる: :{{math2|0 → ''U'' → ''V'' → ''R'' → 0}} をベクトル空間の短[[完全系列]]とすると、 :{{math2|dim ''U'' + dim ''R'' {{=}} dim ''V''}} が成立する。ここで {{mvar|R}} は {{math|im ''T''}} の役割を担い、{{mvar|U}} は {{math|ker ''T''}} である。すなわち、 : <math>0 \rightarrow \ker T~\overset{Id}{\rightarrow}~V~\overset{T}{\rightarrow}~\operatorname{im} T \rightarrow 0</math> である。 有限次元の場合、この定式化は一般化しやすいものとなる: :{{math2|0 → ''V''{{sub|1}} → ''V''{{sub|2}} → ⋯ → ''V{{sub|r}}'' → 0}} が有限次元ベクトル空間の[[完全系列]]であるなら、 :<math>\textstyle\sum\limits_{i=1}^r (-1)^i \dim V_i = 0</math> が成立する。 有限次元ベクトル空間に対する階数・退化次数の定理は、線型写像の「指数」(index) を用いて定式化することもできる。有限次元の {{mvar|V}} および {{mvar|W}} に対し、ある線型写像 {{math2|''T'' : ''V'' → ''W''}} の指数は :{{math2|index ''T'' {{=}} dim(ker ''T'') − dim([[:en:cokernel|coker]] ''T'')}} で定義される。直感的に、{{math|dim(ker ''T'')}} は方程式 {{math2|''T'''''x''' {{=}} '''0'''}} を満たす線型独立な解 {{mathbf|x}} の個数であり、{{math|dim(coker ''T'')}} は {{math2|''T'''''x''' {{=}} '''y'''}} を解くことができるように {{mathbf|y}} について課すべき独立な制限の個数である。有限次元ベクトル空間に対する階数・退化次数の定理は、次の式と同値である: :{{math2|index ''T'' {{=}} dim(''V'') − dim(''W'').}} 考えている空間における線型写像 {{mvar|T}} の指数は、{{mvar|T}} について詳細な解析を行うことなく読み取ることができるということが分かっている。この影響は、より深い結果に対しても同様に現れる:[[アティヤ=シンガーの指数定理]]によると、ある微分作用素の指数はその考えている空間の幾何によって読み取ることができるとされている。 == 注釈 == {{Reflist}} == 参考文献 == * {{Citation |last=Meyer |first=Carl D. |title=Matrix Analysis and Applied Linear Algebra |url=http://www.matrixanalysis.com/ |publisher=[[Society for Industrial and Applied Mathematics|SIAM]] |isbn=978-0-89871-454-8 |year=2000}}. == 外部リンク == * {{高校数学の美しい物語|1077|次元定理の意味,具体例,証明}} {{DEFAULTSORT:かいすうたいかしすうのていり}} [[Category:線型代数学]] [[Category:証明を含む記事]] [[Category:数学に関する記事]]
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