作用・角変数

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作用・角変数 (さよう・かくへんすう, action-angle variable) とは、解析力学において可積分な正準力学系に対して導入される、作用変数と角変数の組からなる正準変数のこと。

定義

可積分系

n自由度の自励正準力学系がLiouvilleの意味で可積分であるとは、n個の関数的に独立[注釈 1]孤立積分 Fi (i=1,2,,n) が存在し、互いにPoisson可換であること、すなわち

[Fi,Fj]=0

を満足することである[1][2]。このとき、リウヴィル=アーノルドの定理は、各積分 Fi が値 fi を取る超曲面 i=1nFi1(fi) が連結かつコンパクトであるならば、この曲面はトーラス 𝕋n と同相であること(Arnoldトーラスと呼ばれる)、そしてArnoldトーラスを含む近傍で定義された正準変数 (𝐉,θ) が存在しハミルトニアン H𝐉 だけの関数になることを主張する[1][3]。この定理により保証される正準変数 (𝐉,θ) が作用・角変数である[1][3]

変数分離系

変数分離可能 (separable) な系に関しては、作用・角変数をより明示的に導入することができる。このような系では、適切な正準変数 (𝐩,𝐪) を用いると、ハミルトンの特性関数 S(𝐪,α)S=S1(q1,α)+S2(q2,α)++Sn(qn,α) という形に書くことができる[4]。積分定数 α=(α1,α2,,αn) の値が特定されると、各座標 qi が周期運動をするならば、その運動のパターンは次の二通りが可能である[5][6]

  • ある有界な範囲を周期的に運動する秤動 (libration)
  • 運動量が座標の周期関数となる回転 (rotaion)

このとき、定数 α により定まる解軌道に沿った一周期に関する次の積分

Ji:=12πpidqi=12πSiqi(qi,α)dqi

により作用変数 (action variable) Ji=Ji(α) が定義できる[7][8][9][10][注釈 2]。この定義のもとでハミルトンの特性関数は S=S(𝐪,𝐉) という関数に読み替えることができ、この特性関数を母関数とする正準変換 (𝐩,𝐪)(𝐉,θ) により角変数 (angle variable)

θi:=SJi

が導入される[7][8][11]。角変数 θi は運動の一周期の間に 2π 変化する[9][11]

性質

Kronecker軌道

作用・角変数 (𝐉,θ) を用いるとき、系のハミルトニアンは H=H(𝐉) であるため、正準方程式

dJidt=Hθi=0,  dθidt=HJi=:ωi(𝐉)

となる。従ってその解はただちに

Ji=Const.,  θi=ωi(𝐉)t+βi

と求まる (βi は定数)。従って ωi=HJi は運動の角振動数である。この解がArnoldトーラス上に描く軌道をKronecker軌道と呼ぶ[3]

振動数 ω=(ω1,ω2,,ωn) がすべて互いに有理数比にある場合には、解軌道 θ=ωt+β はArnoldトーラス上の周期軌道となる[12]。一方、そうでない場合には、解軌道はArnoldトーラスを稠密に埋め尽くし、準周期軌道 (qusi-periodic orbit) または条件周期軌道 (conditionally periodic orbit) と呼ばれる[12]

正準摂動論

可積分ハミルトニアン H0 に摂動 ϵH1 が加わったハミルトニアン

H=H0(𝐉)+ϵH1(𝐉,θ)

を取り扱うことはしばしばある。このような近可積分系に対して適用される正準摂動論は作用・角変数に立脚して定式化される。これは、非摂動ハミルトニアン H0 に関する作用・角変数 (𝐉,θ) から摂動後のハミルトニアンに関する作用・角変数 (𝐉*,θ*) への正準変換 S=S(θ,𝐉*) を摂動的に決定するというアイデアに基づいている[13][14]

断熱不変量

作用変数 J は、ハミルトニアンの断熱的な(運動の時間スケールに比べてゆっくりとした)変化に際して保存する断熱不変量になる[15]

テンプレート:詳細記事

具体例

調和振動子

1次元調和振動子は次のハミルトニアンにより記述される。

H=p22m+12mω02q2

この系はエネルギー E が保存するため可積分であり、ハミルトンの特性関数 S はエネルギーを積分定数とする

S=±2mEm2ω02q2dq

という形に求まる。ここから調和振動子の作用・角変数は J=E/ω0, θ=arcsin(mω02Jq) と計算できる[16]

q=2Jmω0sinθ,  p=2mω0Jcosθ
H=ω0J

ケプラー問題

3次元ケプラー問題のハミルトニアンは、球座標 (r,θ,ϕ) を用いるとき変数分離系となる。

H=12(pr2+1r2pθ2+1r2sin2θpϕ2)μr

対応するハミルトンの特性関数は次式で与えられる。

S=±2C+2μrG2r2dr+±G2Gz2sin2θdθ+Gzϕ

系のエネルギーが負であるときには運動は有界であり、作用・角変数 (Jr,Jθ,Jϕ,wr,wθ,wϕ) は次のように求められる[17]

Jr=μa[11e2],  Jθ=μa(1e2)(1cosI),  Jϕ=μa(1e2)cosI
wr=M,  wθ=M+ω,  wϕ=M+ω+Ω

ここに a は軌道長半径、e は軌道離心率、I は軌道傾斜角、M は平均近点離角、ω は近点引数、Ω は昇交点黄経である。このときハミルトニアンは H=μ22(Jr+Jθ+Jϕ)2 と表示される。なお、天体力学において用いられるドローニー変数ポアンカレ変数は、この作用・角変数に対して接触変換を施すことで得られる正準変数である[18]

脚注

注釈

  1. 位相空間上で稠密な開集合が存在し、その各点で勾配 Fi が一次独立であること。
  2. ゴールドスタインは因子 2π を含めずに定義しているが、本記事ではそれ以外のすべての参考文献に従いこの因子を含めて定義する。

出典

テンプレート:Reflist

参考文献

関連項目

  1. 1.0 1.1 1.2 大貫&吉田, pp. 100-110.
  2. 柴山, p. 70.
  3. 3.0 3.1 3.2 柴山, p, 72.
  4. Lichtenberg & Lieberman, p. 21.
  5. ゴールドスタイン, pp. 627-628.
  6. Lichtenberg & Lieberman, p. 29.
  7. 7.0 7.1 大貫&吉田, pp. 109-110.
  8. 8.0 8.1 ゴールドスタイン, pp. 629-630.
  9. 9.0 9.1 テンプレート:Cite book
  10. Lichtenberg & Lieberman, pp. 21-22.
  11. 11.0 11.1 Lichtenberg & Lieberman, p. 23.
  12. 12.0 12.1 柴山, pp. 73-75.
  13. ゴールドスタイン, pp. 744-749.
  14. Lichtenberg & Lieberman, pp. 78-80.
  15. ゴールドスタイン, pp. 754-756.
  16. 大貫&吉田, pp. 110-112.
  17. ゴールドスタイン, pp. 646-660.
  18. テンプレート:Cite book