マッカラーの公式

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ジェームズ・マッカラー1809年 - 1847年

マッカラーの公式(マッカラーのこうしき、テンプレート:Lang-fr-short)は、球状でない物体が、物体から十分に離れてはいるが、物体の径と比べれば極端には離れていない点で作る万有引力の場を記述するのに重要な公式である。万有引力ポテンシャルの基本的な定義が基になっているが、ポテンシャルの一般的なラプラス展開をするのではなく、2次近似までで切ることで得られる。測地学の理論や地球物理学で広く用いられる。

万有引力ポテンシャルの一般表示

球面座標系で、ポテンシャルが作られる点 P(位置 𝐫)、ポテンシャルを作る点 P(位置 𝐫)の動径成分をそれぞれ rr とする。座標の原点 O は当面は任意としておく。ベクトル 𝐫𝐫 が成す角を ψP での体積要素を dM(𝐫) 、物体Bの全質量を M と書く。このとき、物体Bによって作られる万有引力ポテンシャルは一般的に

V(P)=GM1𝐫𝐫dM(𝐫)

と書ける[1]。ここで

𝐫𝐫=r12rrcosψ+(rr)2

で、Gニュートン万有引力定数である。

1x+1 のとき (1+x)1/2=1x/2+3x2/8+o(x3) だから[2]x=2(r/r)cosψ+(r/r)2 とおくと

112rrcosψ+(rr)2=1+rrcosψ12(rr)2+32(rr)2cos2ψ+o[(rr)3]

よって、

r𝐫𝐫=1+rrcosψ+(rr)232(rr)2sin2ψ+

が得られる[3] 。これより P での万有引力ポテンシャルは次のようになる。

V(P)=GrMdM+Gr2MrcosψdM+Gr3Mr'2dM3G2r3Mr'2sin2ψdM+

マッカラーの定理

このように万有引力ポテンシャルの2次までの近似 V(P) は、V0(P), V1(P), V2(P), V3(P) の4つの項に分解できることがわかる。つまり

V(P)=V0(P)+V1(P)+V2(P)+V3(P).

第1項

V0=Gr1MdM=GMr1

は球対称な質量分布のポテンシャルに対応する。これは物体の全質量が1点に集められている場合と同じである。減少の度合 1/r が他の項と比べ緩やかであるため、非常に遠距離ではこの項が支配的となる。これは惑星のケプラー軌道を確立するのに用いられた、古典的なニュートンポテンシャルである。単極子(monopôle)、または単極子的質量分布(distribution de masse monopolaire)と呼ばれる。

第2項

V1=Gr2MrcosψdM

双極子(dipôle)、または双極子的質量分布(distribution de masse dipolaire)に対応する。座標の原点を物体の質量中心に一致させると、この項は消える[4]。実際、右の図を参照すると次のように書くことができる。

V1=Gr2MrcosψdM=Gr2MxdM=GMr2x0

ここで x0 は物体の質量中心の Ox-軸成分。

第3項と第4項、V2, V3四極子(quadrupôle)、または四極子的質量分布(distribution de masse quadrupolaire)である。V2 の計算を続けると

V2=Gr3Mr'2dM=Gr3M(x2+y2+z2)dM=12Gr3M[(y2+z2)+(x2+z2)+(x2+y2)]dM=12Gr3(A+B+C)

となる。ここで A, B, C はそれぞれOx, Oy, Oz-軸のまわりの慣性モーメントを表す。慣性モーメントの平均 I¯

I¯=13(A+B+C),

とおくと、

V2=32Gr3I¯

となる。V3 に対しては、

V3=32Gr3Mr'2sin2ψdM=32Gr3Mr'2cos2αdM=32Gr3I

ここで IOP-軸のまわりの慣性モーメントである。これより、次のマッカラーの公式(マッカラーの定理とも)が得られる。

V(P)=GMr132Gr3(II¯)

この公式は、地球や他の惑星等の球状に近い物体に適用するのに非常に便利である。物体に何らかの対称性があれば、近似は十分遠距離でも有効である。明らかに、2次までの近似であることから有効な適用範囲には限界があり、外部重力場をさらに正確に表すためにはより高次の調和関数が必要になる。

対称性のある物体に対するマッカラーの公式

質量中心を通る軸 OP のまわりの慣性モーメントは、慣性テンソルを表す 3×3行列を対角化することで得られる主慣性モーメント A, B, C を使って

I=nx2A+ny2B+nz2C

と書くことができる。ここで nx, ny, nzOP (単位ベクトル)の慣性主軸 Ox, Oy, Oz への方向余弦を表す。

物体が Oz-軸を中心に回転する(Oz について軸対称である)と仮定する。このとき A=B である。ϕOP が Oxy-平面となす角とする[5]。このとき nz=sinϕ であり、nx2+ny2+nz2=1 だから方向余弦は

sin2ϕ=1nx2ny2

である。A=B としているので、マッカラーの公式は

V(P)=GMr112Gr3(3I2AC)

となる。慣性モーメント I は

I=A(nx2+ny2)+Csin2ϕ=A(1sin2ϕ)+Csin2ϕ

となるから、回転体に対するマッカラーの公式は最終的に次の形になる [6]

V(P)=GMr1+12Gr3(CA)(13sin2ϕ)

地球の力学的形状係数

軸対称性があるとき、万有引力ポテンシャルの多重極展開を2次まで行ったものは常に次の一般式で書ける。

V(P)=GMr1J2GMa2r3P2(cosθ)=GMr112J2GMa2r3(13sin2ϕ)

ここで

P2(cosθ)=32sin2ϕ12,(ϕ=π2θ)

は2次のルジャンドル多項式である。地球の場合、2次の帯調和重力係数 J2 はしばしば地球の力学的形状係数(facteur de forme géodynamique)と呼ばれる。この式をマッカラーの公式と等しいと置くと、

J2=CAMa2

この最後の関係式もマッカラーの公式と呼ばれることがある。

注釈

  1. ここでは V を仕事として定義しているが、物理学(の他分野)では、万有引力(重力)ポテンシャルは Φ=V を満たす相互作用エネルギー Φ と定義されるのが慣習である。
  2. 112rrcosψ+(rr)2=112[2rrcosψ+(rr)2]+38[2rrcosψ+(rr)2]2+ =1+rrcosψ12(rr)2+38[4(rr)2cos2ψ4(rr)3cosψ+(rr)4]+=1+rrcosψ12(rr)2+32(rr)2cos2ψ+o[(rr)3]
  3. r𝐫𝐫=1+rrcosψ+12(rr)2(3cos2ψ1)+=1+rrcosψ+12(rr)2(33sin2ψ1)+ =1+rrcosψ+(rr)232(rr)2sin2ψ+ .
  4. このように、(近似を続けつつ)万有引力ポテンシャルの双極子項が消えるように座標軸の取り方を決めることで、地球の質量中心を正確に決定できる。
  5. 地球物理学の文脈では、 ϕ は一般に地点の緯度(もしくは緯度にほぼ一致する角)を表す。
  6. V(P)=GMr112Gr3(3I2AC) =GMr112Gr3(3A3Asin2ϕ+3Csin2ϕ2AC) =GMr112Gr3[AC3(AC)sin2ϕ] =GMr1+12Gr3(CA)(13sin2ϕ)

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