リン

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テンプレート:Otheruses テンプレート:Elementbox リン(燐、テンプレート:Lang-en-shortテンプレート:Lang-lan-short[1])は原子番号15番の元素である。元素記号P原子量は30.97。窒素族元素(15族)のひとつ。周期は3。

名称

ギリシャ語で「光を運ぶもの」という意味の「テンプレート:Lang」から命名された。テンプレート:Lang が「光」、テンプレート:Lang が「運ぶもの」の意。

同素体

白リン(黄リン)・赤リン・紫リン・黒リンなどの同素体が存在する。+III(例:六酸化四リン、Pテンプレート:SubOテンプレート:Sub)、+IV(例:八酸化四リン、Pテンプレート:SubOテンプレート:Sub)、+V(例:五酸化二リン、Pテンプレート:SubOテンプレート:Sub)などの酸化数をとる。

リンは数種類の同素体をもつことが古くから知られている。白リン以外の同素体は、安定でほぼ無毒である。

白リン(Pテンプレート:Sub)は四面体形の分子からなり、比重が1.82、融点が44.1 °C、沸点が280 °Cの、常温常圧で白色ロウ状の固体である。発火点は約44 °Cで些細なことで自然発火するため、水中で保存する。空気中で室温でも徐々に酸化され、熱および青白い光を発する。現在、燐光は別の発光現象の意味で用いられているが、その語源でもある。ベンゼン二硫化炭素(CSテンプレート:Sub)などの有機溶媒によく溶ける。強い毒性を持ち[2]ニンニクのような臭いがある。日光にあたると赤リンに変化する。

赤リンは比重が2.05~2.34。紫リンを主成分とする白リンとの混合体で、融点590 °C、発火点260 °Cの赤褐色の粉末である。二硫化炭素に不溶。マッチの材料に使われる。密閉した容器で白リンを約250 °Cで加熱すると得られる。

紅リンは比重が1.88の深紅色の粉末である。微細な粒子からなる赤リンと考えられている。

紫リンは比重が2.36の固体である。褐色を帯びた暗紫色で金属光沢を持ち、α金属リンとも呼ばれる。白リンを鉛に溶かして密閉して加熱し、再結晶させることで得られる。電気伝導性は小さい。1865年にヴィルヘルム・ヒットルフが発見したのでヒットルフの金属リンと呼ばれることもある。

黒リンは比重が2.69の固体である。黄リンを約12000気圧で加圧し、約200 °Cで加熱すると得られる。リンの同素体中でもっとも安定である。半導体であり鉄灰色の金属光沢を持ち、β金属リンとも呼ばれる。空気中ではなかなか発火しない。

また、京都大学などによる研究チームは2025年にオレンジ色の新しい同素体の合成に成功したという[3]

二リン(Pテンプレート:Sub、P≡P)は、リン同士が三重結合して二原子分子になったものである。

結晶構造

同素体ではないもの

黄リンは同素体とされていたが、実際には不純物(赤リンなど)を含む粗製白リンであり同素体ではない。リン鉱石リン酸カルシウム)をケイ砂コークスとともに混合強熱して得られる淡黄色蝋状固体である。黄色は白リンの表面が微量の赤リンの膜で覆われたもので、融点沸点などの物理的性質は白リンに準じる。19世紀にマッチの材料として使用されたが、自然発火事故や健康被害(白リン顎)により20世紀初頭に使用が禁止された。赤リンの乾留でも得られる。

反応

燃焼すると十酸化四リン五酸化二リン)が生成する。

4P+5OA2PA4OA10

白リンは強塩基の水溶液と反応するとホスフィンを生成する。

PA4+4OHA+2HA2O2HPOA3A2+2PHA3[4]

歴史

1669年ヘニッヒ・ブラントが、錬金術の実験としてバケツ60杯の尿を蒸発させていたところ、尿の残留物からリンを発見した[5]

2023年、日米欧の研究者チームは、土星衛星エンケラドゥスの海に、高濃度のリンが含まれていることを発表した[6]

生化学

DNAなどの核酸におけるホスホジエステル結合

生体内では、遺伝情報の要であるDNARNAのポリリン酸エステル鎖として存在するほか、生体エネルギー代謝に欠かせないATP、細胞膜の主要な構成要素であるリン脂質など、重要な働きを担う化合物中に存在している。また、脊椎動物ではリン酸カルシウム骨格の主要構成要素としての役割も持つ。このため、あらゆる生物にとっての必須元素であり、地球上におけるリンの存在量が、地球生態系バイオマスの限界量を決定すると言われている。農業においてはリン酸が、カリウム窒素などとともに肥料の主要成分である。

リンの原子が地上に現れるおもな循環システムは、植物を起点として考えた場合、

  1. 植物が枯死するか、その植物を食べた動物が死ぬ
  2. 微生物に分解され土壌に戻る
  3. 再び植物の根から吸い上げられる

となる[7]。この循環は短期間で一巡する場合もあるが、10年単位の時間を要する場合もある。雨や風によってループから外れ、海に流出してしまうリンもあり、そうしたリンが海底で堆積してできるのがリン灰石である。 海底で生成されたリン灰石がプレートテクトニクスで運ばれて地表に現れるまでには100万年以上の年月がかかる[7]

海洋においては浅い地域に多く、元素の中では偏在性が強い。メキシコ、コンゴ、南米付近の海底には大規模なリンの鉱床がある[8]

摂取

多くの食品にはリンが含まれ、その存在形態には無機リンと有機リンがある。無機リンの例としてはリン酸があり、牛乳に比較的多く含まれる。加工食品によっては無機リンがpH調整剤として添加されることもある。有機リンはタンパク質や糖、脂質とリン酸とが結合している。肉ではその多くが有機リンであり、たとえば、キナーゼによりリン酸化されたタンパク質であったり、ホスファチジルコリンなどのリン脂質として存在している。一方、穀類や豆類などではリンはと結合していることが多く、例としてはフィチン酸を挙げることができる[9]

体内での存在

に一番多くヒドロキシアパタイトとして存在する。血液中では7割が有機リンとして存在している[9]

摂取基準
リンの食事摂取基準(2015年)[10]
年齢 男性(目安量) 女性(目安量)
18歳以上 1000 mg 800 mg

用途

資源としてのリンの原料は主にリン鉱石である。

用途としては、化学肥料の原料として使われるものがもっとも大きい。近年では、過リン酸石灰の生産が落ち込んでいるのに加え、従来の重過リン酸石灰の生産量は減少し、代わりにリン酸アンモニウム肥料がその重要性を増している。リン酸は金属の表面加工や工業用触媒に用いられるほか、食品添加物としてコーラなどにも少量添加されている。

代表的なリン酸の関連化合物の用途については、農薬殺虫剤としての利用も多く、化学兵器として研究されるほど強力な毒性を持った製品も開発されたが、その多くは使用が中止されている。現在はリン酸エステル系の殺虫剤が主力になっている。

同じくリン酸化合物であるリン酸ナトリウム水溶液は強塩基性を示すため、単独で金属の洗浄剤として使われるほか、次亜塩素酸と混合することで強力な洗剤となるため、三リン酸ナトリウムは洗剤として広く利用されていたが、排水に高濃度のリンが含まれるために微生物の異常な繁殖の原因となり、赤潮などの公害を引き起こした。それゆえ、環境への配慮から日本国内での使用はほとんどなくなってきている。リン酸水素カルシウム研磨剤として歯磨きなどに含まれ、フッ素を含む歯磨きには二リン酸カルシウムなど、口腔衛生に関わる場面でもリン酸化合物が数多く配合されている。

そのほかにも、コーンフレークベーキングパウダー飼料にもリン酸化合物が含まれるほか、ハムチーズなどの製造時にも使用されている。燃料の不凍液にリン酸化合物が加えられたり、繊維製品の難燃加工にも利用されたりしている。製紙工業では消泡剤として、核燃料の再処理ではウランプルトニウム抽出の際の溶剤としてなど、多様なリン酸化合物が開発され、さまざまな場面で利用がある。

一般的に工業用の材料として使用されるものは、無機被覆または樹脂被覆処理を行った被覆リンとして流通している。被覆されることによって有毒なホスフィンの発生を抑制して自然発火が起きないようにすることで取り扱いを容易にしている。販売されている被覆リンは保存に特別な設備を必要とせず、常温の空気中に保存することができる。

潤滑用途ではさまざまな種類のリン系添加剤が使用されており、特に耐摩耗性、極圧性に優れたものが多く存在する。ジチオリン酸亜鉛などは磨耗防止、酸化防止、腐食防止といった機能を持つ多機能添加剤であるため昔から潤滑油用途で多用され、現在でも一般的な4ストロークエンジンオイルのほとんどに添加されている。

煙幕として白リン弾赤リン発煙弾が使われている。

規制

リンは細胞の不可欠な構成要素であるため、環境中に過剰に存在すると微生物の大量増殖を導いてしまう。赤潮などの公害が多発した1960年代以降、合成洗剤洗浄助剤としての使用が禁止されるなどの対策が講じられ、その後も閉鎖性水域を中心に、環境基準の項目として定番となっている。

ガソリンエンジンの排ガスを浄化する三元触媒はエンジンオイルに含まれるリンによって被毒する。そのためILSACなどのエンジンオイル規格においてリンの含有量規制が存在する。ただしリンは磨耗防止などさまざまな機能を担っている重要な要素であり、現状では潤滑性能を維持する観点から最低含有量も同時に設定されている。

白リン(黄リン)への習慣的曝露によりリン中毒性顎骨壊死を生じ、これは1880年代から1910年代にかけてマッチ工場の労働者の職業病であった。1906年のベルヌ条約によりマッチへの白リンの使用を禁じる取り組みが始まり、日本では1921年の黄燐燐寸製造禁止法とそれを受け継いで戦後制定された労働安全衛生法、毒物及び劇物取締法により黄リンマッチの製造・使用・譲渡等が禁止されている。

リンの化合物

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リンのオキソ酸

リンのオキソ酸は慣用名を持つ。次にそれらを挙げる。

リンのオキソ酸およびホスフィンの命名法。互変異性体の関係にあるものは両矢印で示した
オキソ酸の名称 化学式
(酸化数)
オキソ酸塩の名称 備考
ホスフィン酸
(phosphinic acid)
HPHテンプレート:SubOテンプレート:Sub
(+I)
ホスフィン酸塩
( - phosphinate)
水素原子のうち2個がリンに直接結合しているため、リンの原子価は5価。
ホスホン酸
(phosphonic acid)
Hテンプレート:SubPHOテンプレート:Sub
(+III)
ホスホン酸塩
( - phosphonate)
亜リン酸の互変異性体。水素原子のうち1個がリンに直接結合しているため、リンの原子価は5価。
亜リン酸
(phosphorous acid)
Hテンプレート:SubPOテンプレート:Sub
(+III)
亜リン酸塩
( - phosphite)
詳しくは亜リン酸三酸化二リンを参照。
リン酸
(phosphoric acid)
Hテンプレート:SubPOテンプレート:Sub
(+V)
リン酸塩
( - phosphate)
詳しくはリン酸五酸化二リンを参照。
ペルオキソ一リン酸
(peroxomonophosphoric acid)
Hテンプレート:SubPOテンプレート:Sub
(+V)
ペルオキソ一リン酸塩
( - peroxomonophosphorate)
水溶液としてのみ得られ、強い酸化力がある。

※オキソ酸塩名称の '-' にはカチオン種の名称が入る。

同位体

テンプレート:See

参考文献

ダン・イーガン『肥料争奪戦の時代―希少資源リンの枯渇に脅える世界』(原書房、2023年)

出典

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関連項目

外部リンク

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