リンドハード理論
リンドハード理論[1][2](リンドハードりろん)とは、固体中の電子による遮蔽効果を計算する手法である。リンドハード理論は、量子力学(第一原理摂動論)と乱雑位相近似に基づいている。
トーマス-フェルミ遮蔽は、より一般的なリンドハード公式の特別な場合として導出される。具体的に言うと波数ベクトルがフェルミ波数ベクトルよりはるかに小さいときのリンドハード公式、すなわち長距離極限がトーマス-フェルミ遮蔽である[2]。
この記事はCGSガウス単位系を用いることにする。
公式
縦誘電関数のリンドハード公式は次式で与えられる。
ここでは、は熱力学的な平衡にある電子のフェルミ分布関数であるキャリア分布関数である。しかしこのリンドハード公式は非平衡分布関数においても有効である。
リンドハード公式の解析
リンドハード公式を理解するために、2次元と3次元における極限状態を考える。1次元の場合も、別のやり方で考える。
3次元
長波長極限
まず長波長極限()を考える。 リンドハード公式の分母について、
- ,
また分子について、
- .
これらをリンドハード公式に代入し、極限をとると、
ここで、、を用いた。
(SI単位では因子をに置き換わる)
この結果は古典的な誘電関数と同様である。
静止限界
次に静止極限()を考える。 リンドハード公式は次のようになる。
- .
分母と分子に上記の式を代入すると、
熱平衡におけるフェルミ-ディラックキャリア分布を仮定すると、
ここで、を用いた。
よって、
ここではで定義される3次元遮蔽波数(3次元遮蔽長の逆数)である。
ここで3次元での静的に遮蔽されたクーロンポテンシャルは次のように与えられる。
またこの結果のフーリエ変換は、
これは湯川ポテンシャルとして知られる。 ここで、このフーリエ変換では基本的に「全ての」についての和をとり、「各」における小さなについての表現を使用するのは正しくないことに注意。

縮退したガス(T=0)において、フェルミエエネルギーは次式で与えられる。
- ,
よって密度は、
- .
T=0では、よって。
これを上述の3次元遮蔽波数の式に代入すると、
.
これは3次元におけるトーマス-フェルミ遮蔽波数である。
なお、デバイ遮蔽は非縮退極限の場合を記述する。結果はであり、3次元のデバイ遮蔽波数である。
2次元
長波長極限
まず長波長極限 ()を考える。リンドハード公式の分母について、
- ,
また分子について、
- .
これらをリンドハード公式に代入し、極限をとると、
ここで、、を用いた。
静止限界
次に静止極限()を考える。リンドハード公式は次のようになる。
- .
上述の式を分母と分子に代入すると、
熱平衡でのフェルミ-ディラックキャリア分布を仮定すると、
ここで、を用いた。
よって、
はで定義される2次元での遮蔽波数(2次元での遮蔽長の逆数)である。
ここで2次元での静的に遮蔽されたクーロンポテンシャルは次式で与えられる。
- .
2次元フェルミ気体の化学ポテンシャルは次式で与えられることが知られている。
- ,
またである。
よって2次元での遮蔽波数は、
これはnに依存しないことに注意。
1次元
ここでは次元を下げたいくつかの限られた場合を考える。次元を下げると、遮蔽効果は弱くなる。低次元では、一部の力線が遮蔽効果が無い物質を貫く。1次元の場合、ワイヤ軸に非常に近い力線にのみ遮蔽が影響を与えると考えられる。
実験
実際の実験では、単一フィラメントのような1次元の場合を扱っていたとしても、3次元バルクの遮蔽効果も考慮する必要がある。D. Davisは、フィラメントと同軸円筒に閉じ込められた電子ガスにトーマス-フェルミ遮蔽を適用した[3]。K2Pt(CN)4Cl0.32·2.6H20では、フィラメントと同軸円筒との間の領域内のポテンシャルはで変化し、有効遮蔽長は金属白金の約10倍であることが分かっている。
関連項目
参考文献
- ↑ テンプレート:Cite journal
- ↑ 2.0 2.1 N. W. Ashcroft and N. D. Mermin, Solid State Physics (Thomson Learning, Toronto, 1976)
- ↑ D. Davis Thomas-fermi screening in one dimension, Phys. Rev. B, 7(1), 129, (1973)