一様可積分性

一様可積分性（いちようかせきぶんせい、テンプレート:Lang-en-short）とは、数学の実解析、関数解析学および測度論の分野における重要な概念で、ルベーグ可積分性の概念を拡張し、条件付き期待値やマルチンゲールの理論の発展のために重要な役割を担うものである。確率変数の収束において、この性質は、確率の意味において収束する確率変数が ${𝕃}^p$ の意味において収束するための必要十分条件を与える。

形式的定義

次の定義が適用される。

• 確率変数のクラス $𝒞$ が一様可積分であるとは、$ϵ>0$ が与えられた時、$E(|X|I_{|X|\ge K})\le ϵ$ がすべての $X\in 𝒞$ に対して成立するような $K\in [0,\mathrm{\infty })$ が存在することを言う。ただし $I_{|X|\ge K}$ は指示関数 $$I_{|X|\ge K}=\{\begin{array}{cc}1& \text{if }|X|\ge K,\\ 0& \text{if }|X|<K\end{array}$$ である。

• 二箇条を必要とするような、別の定義は次のようなものである: 確率変数のクラス $𝒞$ が一様可積分であるとは、
  • $𝒞$ に含まれるすべての $X$ に対して、$\mathrm{E}(|X|)⩽K$ となるような有限の $K$ が存在する。
  • すべての $ϵ>0$ に対してある $\delta >0$ が存在し、$\mathrm{P}(A)⩽\delta$ となるようなすべての可測な $A$ および、すべての $X\in 𝒞$ に対して、$\mathrm{E}(|X|:A)⩽ϵ$ が成立する。

の二つが成立することを言う。

関連する系

次のような結果がある。

• 上の一つ目の定義は、次のような極限を用いることで書き換えられる:

$\underset{K\to \mathrm{\infty }}{\lim }\underset{X\in 𝒞}{\sup }E(|X|||X|\ge K)=0.$

• 確率変数 $X_n,n=1,2,\dots$ の列を考える。$$X_n(\omega )=n,\mathrm{\forall }\omega \in (0,\frac{1}{n}),X_n(\omega )=0\text{ otherwise}$$ と定義する。すべての n に対して $E(|X_n|)=1$ であるため、明らかに $X_n\in {𝕃}^1$ である。しかし、上の一つ目の定義に従えば $$E(|X_n|,|X_n|\ge K)=1\mathrm{\forall }n\ge K$$ であることから、この数列は一様可積分ではない。すなわち、ルベーグ可積分ではあるが、一様可積分ではない。

  

  一様可積分でない確率変数列の例。図の黒帯（strip）の部分は、$X_n\to 0$ としても $\mathrm{\infty }$ へと向かう。

• 上の二つ目の定義によれば、$X_n$ が有界でないときにはその第一箇条目は成立しないことが分かる。もし $X$ が一様可積分な確率変数であれば、$$E(|X|)=E(|X|,|X|>K)+E(|X|,|X|<K)$$ と区分し、それぞれを上から抑えることにより、その確率変数は ${𝕃}^1$ に含まれることが分かる。また、任意の ${𝕃}^1$ 確率変数は、上の二つ目の定義の第二箇条目を満たすことが分かる。
• 確率変数 $X_n$ のどのような列も、ある可積分な非負の $Y$ によって支配されているなら、すなわち、任意の ω と n に対して、$$|X_n(\omega )|\le |Y(\omega )|,Y(\omega )\ge 0,E(Y)<\mathrm{\infty }$$ が成立しているなら、確率変数 $\{X_n\}$ のクラス $𝒞$ は一様可積分である。
• ${ℒ}^p$ ($p>1$) において有界な確率変数のクラスは、一様可積分である。

関連する定理

• テンプレート:Ill2–テンプレート:Ill2の定理

確率変数 $X_n\subset L^1(\mu )$ のクラスが一様可積分であるための必要十分条件は、それが弱位相においてテンプレート:仮リンクであることである。

• テンプレート:Ill2の定理

族 $\{X_{\alpha }{\}}_{\alpha \in \mathrm{A}}$ が一様可積分であるための必要十分条件は、ある非負の増加凸関数 $G(t)$ で $$\underset{t\to \mathrm{\infty }}{\lim }\frac{G(t)}{t}=\mathrm{\infty }$$ および $\underset{\alpha }{\sup }E(G(|X_{\alpha }|))<\mathrm{\infty }$ を満たすようなものが存在することである。

確率変数の収束との関係

• 数列 $\{X_n\}$ が $L_1$ ノルムにおいて $X$ へと収束するための必要十分条件は、それが $X$ へと測度収束し、かつ一様可積分であることである。
• 確率の意味において収束する確率変数列が、期待値の意味においても収束するための必要十分条件は、それが一様可積分であることである。

参考文献

• テンプレート:Cite book
• テンプレート:Cite book
• J. Diestel and J. Uhl (1977). Vector measures, Mathematical Surveys 15, American Mathematical Society, Providence, RI ISBN 978-0-8218-1515-1