天井温度

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天井温度(てんじょうおんど)(Tc) は、ポリマーモノマーに戻る傾向の尺度である。天井温度にあるポリマーは、その重合速度と解重合速度が釣り合った状態となる。一般に、ポリマーの天井温度は、そのモノマーの立体障害と相関している(立体障害は天井温度の低下をもたらす)。高い天井温度を示すポリマーは、商業的に有用であるものが多い。一方、低い天井温度のポリマーは、より簡単に解重合してしまう。

重合の熱力学

一定温度において、重合の可逆性はギブスの自由エネルギーの式を用いて表すことができる。

ΔGp=ΔHpTΔSp

ここでΔSpは重合中のエントロピーの変化である。重合中のエンタルピーの変化ΔHpは重合熱としても知られており、これは以下によって定義される。

ΔHp=EpEdp

ここでEpEdpは、それぞれ重合と解重合の活性化エネルギーを示す(重合の逆の反応機構で解重合が起こると仮定)。

エントロピーは乱雑さ、または混沌の尺度である。系内に物質がほとんどないときには、その系はより低いエントロピーを有し、系内に多くの物質があるときにはより高いエントロピーを有する。解重合ではポリマーがモノマーに分解されるので、解重合はエントロピーを増加させる。この場合、ギブス自由エネルギーの式では、エントロピーは負となる。一方、エンタルピーは重合を促進する。低温では、エンタルピー項はTΔSpよりも大きくなり、重合が起こりやすくなる。天井温度では、エンタルピー項とエントロピー項は等しいので、重合速度と解重合速度は等しくなり、見かけの重合速度はゼロになる[1]。天井温度を超えると、解重合速度は重合速度よりも大きくなり、ポリマーの生成が阻害される[2]。以上から天井温度は次のように定義される、

Tc=ΔHpΔSp

モノマー - ポリマー平衡

この現象は、1943年、SnowとFreyによって初めて報告された[3]。この現象の熱力学的な説明として、DaintonとIvinは、重合の連鎖成長が可逆的に起こっていると提案した[4] [5]

天井温度では、重合と解重合との平衡のためにポリマー中に常に過剰のモノマーが存在する。単純なビニルモノマーから誘導されたポリマーは非常に高い天井温度を示し、常温では、ごくわずかな量のモノマーしかポリマー中に残らない。一方、α-メチルスチレン 、PhC(Me)=CH2では、天井温度は約66℃と例外的に低い。 α-メチルスチレンから重合したポリマーは、フェニル基とメチル基が同じ炭素に結合しているので、 立体障害は極めて大きい。これらの立体障害効果と三級ベンジルα-メチルスチリルラジカルの安定性 との組み合わせにより、α-メチルスチレンがより低い天井温度を示す結果となる。非常に高い天井温度を有するポリマーでは、解重合の代わりに結合開裂反応により分解を起こす。ポリ(イソブチレン)のより低い天井温度は、α-メチルスチレンと同様の理由により説明される。

一般的なモノマーの天井温度

モノマー 天井温度(℃) [6] 構造
1,3-ブタジエン 585 CH2=CHCH=CH2
エチレン 610 CH2=CH2
イソブチレン 175 CH2=CMe2
イソプレン 466 CH2=C(Me)CH=CH2
メタクリル酸メチル 198 CH2=C(Me)CO2Me
α-メチルスチレン 66 PhC(Me)=CH2
スチレン 395 PhCH=CH2
テトラフルオロエチレン 1100 CF2=CF2

参考文献

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