誤謬
テンプレート:一部転記 テンプレート:出典の明記 テンプレート:Pathnav テンプレート:Misinformation 論理的な誤謬(ごびゅう)あるいは虚偽(きょぎ)(テンプレート:Lang-en-shortテンプレート:Refnest)とは、推論の過程における論理的な誤りや間違い[1]。または、誤った推理(推論)そのものを指す[2]。論理的誤謬においては、誤った論理展開、根拠のない主張、妥当性を欠く推測、裏付けのない議論や結論などが、意図的または非意図的に利用される[3]。その内、前者の行為を指して「詭弁」というテンプレート:Sfnp。
概説
誤謬に関する体系的な研究は、アリストテレスの『詭弁論駁論』より始まった[4]。そこで彼は誤謬を、「言語上の虚偽」(言語表現に基づくもの)と、「言語外の虚偽」(言語表現に関わらないもの)に大別し、その分別のもと具体的に13種類の誤謬を列挙している[5]。アリストテレスは、三段論法の理論において、見かけ上は三段論法であっても実は正しくない議論はすべて機械的に発見することができるとした[6]。
誤謬の分類法
各誤謬の分類方法は論者によって異なり、学術的な合意は得られていない[4]。
分類の考え方の一つとして、論理的な推論規則に瑕疵があるものか、それ以外かで分ける方法がある。その代表的なものが、「形式的誤謬(虚偽)」と「非形式的誤謬(虚偽)」である[4][7][8]。近藤洋逸と好並英司は、「演繹論理についていえば」虚偽は推理規則に反する「形式的虚偽」とその他の「非形式的虚偽」に分けられ、「非形式的虚偽」がさらに「言語上の虚偽」と「言語外の虚偽」とに分けられると整理している[9]。太田莞爾は分類の基準を「論理的虚偽にもとづく非妥当推理」か「非論理的理由から結果として論理的虚偽を生じさせているもの」かに定め、前者に該当する「形式的虚偽」、後者に該当する「言語的虚偽」及び「資料的虚偽」の三種に分類しているテンプレート:Sfnp。足立幸男は「論証のあり方という観点」から、論理学的規則に違反する「論理的虚偽」と論理学的規則をどれ一つ犯していない「無論理的虚偽」に分類した[10]。
他方に、誤謬同士の類似性において分類する考え方がある[4]。T・エドワード・デイマーは「優れた議論」という観点から、誤謬を「構造的欠陥」「関連性のない前提」「許容できない前提」「不十分な前提」「予測される批判に対する効果的な反論の欠如」の五種に分類しているテンプレート:Sfnp。塩谷英一郎はクリティカルシンキングにより回避すべき誤ちという視点から、誤謬を「論理的な誤り」「帰納法関係の誤謬」「因果関係理解の誤り」「用語選択の誤り」「論点ずらし」の五種に分類している[11]。「前提の誤謬」など議論の構成要素で誤謬を分類する立場もある[12][13]。
その他の独自の分類法としては、フランシス・ベーコンの「イドラ」が有名である。ベーコンは著書『ノヴム・オルガヌム』において、(誤謬自体ではなく)各誤謬を導く論者の認識論上の問題として「イドラ」を提唱し、それを四種に分類している[14]。
形式的誤謬
形式的誤謬の例
- 連言錯誤
- 形式的には2つの事象AとBについて、不等式を and のように書くことができるような問題を誤答する。つまり、ある前提について A という推論と A & B という推論を提示したとき、A だけの方が可能性が高いにも拘らず A & B の方を尤もらしいと感じてしまうこと。「K氏が関西弁をしゃべるとき、彼が大阪出身である確率と、大阪出身で阪神ファンである確率はどちらが高いか」テンプレート:Sfn。
- 後件肯定
- 「もし P ならば Q である。Q である、従って P である」という形式の推論。「もし魚ならひれがある。この生物にはひれがある。従って魚である」という推論で、クジラなどの存在によって誤謬となる。
- 前件否定
- 「もし P ならば Q である。P でない、従って Q でない」という形式の推論。「もし人間ならば脊椎動物である。この生物は人間でない、従って脊椎動物でない」という推論であるが、犬や魚などの存在で誤謬となる。
- 選言肯定
- 「A または B である。A である、従って B ではない」という形式の推論。「ゴッホは天才または狂人である。ゴッホは天才である、従ってゴッホは狂人ではない」という形式で、天才と狂人が同時に成り立ちうる可能性を無視している。
- 4個概念の誤謬
- 三段論法には通常3つの(論理形式に関わらない)語句が出現するが、4つめの語句を導入することで誤謬となる。例えば、「魚にはひれがある。人間は脊椎動物である。魚は脊椎動物である、従って人間にはひれがある」は明らかな誤謬。通常、二枚舌 (equivocation) との組合せで巧妙化する。
- 媒概念不周延の誤謬
- 三段論法において媒概念が周延的でない。「全ての Z は B である。Y は B である。従って、Y は Z である」の場合、媒概念 B が周延的でない。「すべての魚は脊椎動物である。人間は脊椎動物である。よって、人間は魚である」。
非形式的誤謬
テンプレート:出典の明記 テンプレート:See also テンプレート:要出典範囲
- s は P であり、かつ s は Q である。
- 従って、全ての P は Q である。
これにさらに前提を追加すると次のようになる。
- 任意の X と 任意の Φ について、X が P でありかつ X が Φ なら、全ての P は Φ である。
非形式的誤謬の例
- 公正世界誤謬
- 全ての正義は最終的には報われ、全ての罪は最終的には罰せられる、と考える。「我欲に天罰が下った」「ハンセン病に罹患するのは宿業を負ったものが輪廻転生したからだ」「カーストが低いのは前世でカルマが悪かったからだ」など、加害者や天災に原因を求めるよりも被害者や犠牲者の「罪」を非難する。
- 早まった一般化
- 十分な論拠がない状態で演繹的な一般化を行うこと。「1, 2, 3, 4, 5, 6はいずれも120の約数だ。よってすべての整数は120の約数である」。
- 誤った二分法
- 選択肢をいくつか提示し、それ以外に選択肢がないという前提で議論を進めること。例えば、多重債務者の「このまま借金取りに悩まされる人生を送るか、自殺するか、二つに一つだ」という思考。すなわち、自己破産という選択肢を除外している。
- 間違った類推
- 重大な相違を無視して事象の類似性に基づいて論証(類推)すること。「酒とコーヒーは似たような嗜好品だ。飲酒は法律で規制されている。よってコーヒーを飲むのは法律で規制されているはずだ」。
- 例外の撲滅(en)
- 例外を無視した一般化を元に論旨を展開すること。「ナイフで人に傷をつけるのは犯罪だ。外科医はナイフで人に傷をつける。従って、外科医は犯罪者だ」。
- 偏りのある標本
- 母集団から見て偏った例(標本)だけから結論を導くこと。「(日本在住の人が)周囲には黄色人種しかいない。よって世界には黄色人種しかいない」。
- 相関と因果関係の混同 (擬似相関)
- 相関があるものを短絡的に因果関係があるものとして扱う。「撲滅された病気の数とテレビの普及には相関がある。よってテレビが普及すれば病気が撲滅される」
- 両者は時間の経過により独立に進んだだけだが、数値上は両者に相関ができてしまうので、因果関係があるかのような勘違いをしてしまった。
- 前後即因果の誤謬 (羅:post hoc ergo propter hoc)
- A が起きてから B が起きたという事実を捉えて、A が B の原因であると早合点すること。呪術と病気の治癒は因果関係ではなく前後関係である。
- 滑り坂論法(en)
- 「風が吹けば桶屋が儲かる」的な論法で、何らかの事物の危険性を主張すること。ドミノ理論。必ずしも誤謬とは限らない。「風が吹けば桶屋が儲かる」という諺は誤謬といってもよいが、「第一次世界大戦でロシア軍が劣勢になるとコーカサスバイソンが絶滅する」という一連の事象はそれぞれ実際に起こった事態であり、(ロシア皇室は絶滅の危機にあったコーカサスバイソンを保護していたために)因果関係があった可能性がある。しかし、ロシア皇室がコーカサスバイソンを保護した時点で保護を必要とするほどに絶滅傾向にあったためこれも確実とは言い切ることはできない(複雑で迂遠な因果で結ばれた遠くはなれた二点の事象自体はバタフライ効果と言ってその存在が指摘される)。
- 因果関係の逆転
- 因果関係を逆転させて主張する。例えば「車椅子は危険である。なぜなら、車椅子に乗っている人は事故に遭ったことがあるから」。「バスケットボールの選手は身長が高い。よってバスケットボールをすると背が伸びる」(バスケットボールをしたから背が伸びたとは限らない。もともと背の高い人を選手として採用している可能性もある)。
- テキサスの狙撃兵の誤謬
- 本来相関のないものを相関があるとして扱う。クラスター錯覚ともいう。
- その名前は、上官が狙撃兵に腕前を問うたところ、遠くにある壁の標的の真中に命中しているのを指し示したため腕前に感心したが、実は壁の銃痕にあとから標的を描いただけだった、というテキサスのジョークに由来する。
- 論点先取
- 結論を前提の一部として明示的または暗黙のうちに使った論証。形式的には間違っていないが、結論が前提の一部となっているため、全体として真であるとは言えない。「彼は正直者なんだから、ウソを言うわけないじゃないか」。
- 曖昧語法 (amphibology)
- 文法的に曖昧な文形で主張をすること。「十代の若者に自動車を運転させるべきではない。それを許すのは非常に危険だ」という文章では、若者が危険な目にあうと言っているのか、若者が他者を危険にさらすと言っているのか曖昧である。
- 多義語の誤謬 (equivocation)
- 複数の意味をもつ語を使って三段論法を組み立てること。例えば、「車(自動車)の運転には免許が必要だ。自転車は車(車両)である。したがって自転車の運転には免許が必要だ」。(媒概念曖昧の虚偽も参照)
- 連続性の虚偽
- 術語の曖昧性により常識的な認識とのズレが生じる誤謬。「砂山のパラドックス」、「テセウスの船」とも。「砂山から砂粒を一つ取り出しても、砂山のままである。さらにもう一粒取り出しても砂山である。したがって砂山からいくら砂粒を取り出しても砂山は砂山である」。
- 多重質問の誤謬
- 質問の前提に証明されていない事柄が含まれており、「はい」と答えても「いいえ」と答えてもその前提を認めたことになるという質問形式。「君はまだ天動説を信じてるのかね?」という質問は、「はい」でも「いいえ」でも「過去に天動説を信じていた」という暗黙の前提を認めたことになる。
関連項目
テンプレート:Wiktionary テンプレート:Div col
- エビデンス
- パラドックス
- 誤り (法律)
- 詭弁
- 権威
- 人身攻撃 (羅:ad hominem)
- 権威に訴える論証 (argument from authority)
- 事例証拠 (anecdotal evidence)
- 陽否陰述 (apophasis)
- 認知バイアス(cognitive bias)
- 限定合理性(bounded rationality)
- 批判的思考 (critical thinking)
- 非形式論理学 (informal logic)
- 探究 (logical argument)
- 健全性 (soundness)
- 擬似相関 (spurious correlation)
- 妥当性 (validity)
- 伝統に訴える論証 (appeal to tradition)
- 論点先取 (begging the question)
- 錯誤
- 誤用
- 合成の誤謬(fallacy of composition)
- テンプレート:Ill(fallacy of division)
- カチッサー効果
- 認知の歪み
- マーヤー
脚注
注釈
出典
参考文献
関連文献
- Aristotle, "On Sophistical Refutations", De Sophistici Elenchi.
- William of Ockham, Summa of Logic (ca. 1323) Part III.4.
- John Buridan, Summulae de dialectica Book VII.
- Francis Bacon, "the doctrine of the idols" in Novum Organum Scientiarum, Aphorisms concerning The Interpretation of Nature and the Kingdom of Man, XXIIIff.
- The Art of Controversy | Die Kunst, Recht zu behalten - The Art Of Controversy (bilingual), by Arthur Schopenhauer (also known as "Schopenhauers 38 stratagems")
- John Stuart Mill, A System of Logic - Raciocinative and Inductive. Book 5, Chapter 7, Fallacies of Confusion.
- C. L. Hamblin, Fallacies. Methuen London, 1970年.
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