モジュラー形式の保型因子

数学において、モジュラー形式論に現れる保型因子（ほけいいんし、テンプレート:Lang-en-short）は SL(2, R) 上で定義されるある種の解析函数である。さらに一般の群に対する議論は保型因子の項に譲る。

定義

重さ k の保型因子 テンプレート:Lang とは

$\nu :\mathrm{\Gamma }\times ℌ\to ℂ$

なる函数 ν で、以下に掲げる四つの性質を満足するものを言う。ここで $ℌ$ は上半平面、C はガウス平面をそれぞれ表し、また Γ は例えばフックス群のような SL(2, R) の部分群である。したがって、Γ の元 γ は二行二列の行列として

$\gamma =\left(\begin{array}{cc}a& b\\ c& d\end{array}\right)$

のように書くことができる。ただし、a, b, c, d は全て実数で、ad − bc = 1 を満たすものとする。

保型因子 ν が満足すべき条件とは、

1. Γ の元 γ を固定したとき、函数 ν(γ, z) は z に関して $ℌ$ 上の正則函数である。
2. 一定の実数 k が存在して、$ℌ$ の任意の元 z と Γ の任意の元 γ に対して、
   $|\nu (\gamma ,z)|=|cz+d{|}^k$
   が成立する。
3. $ℌ$ の任意の元 z と Γ の任意の元 γ に対して、
   $\nu (\gamma \delta ,z)=\nu (\gamma ,\delta z)\nu (\delta ,z)$
   が成立する。ここに、δz は δ の定める一次分数変換による z の像である。
4. I を二次の単位行列として、−I が Γ に属するならば、$ℌ$ の任意の元 z と Γ の任意の元 γ に対して、
   $\nu (-\gamma ,z)=\nu (\gamma ,z)$
   が成り立つ。

性質

任意の保型因子は ‖υ(γ)‖ = 1 なる函数 υ を用いて

$\nu (\gamma ,z)=\upsilon (\gamma )(cz+d{)}^k$

の形に書くことができる。 函数 υ: Γ → S¹ は乗因子系 テンプレート:Lang と呼ばれる。明らかに

$\upsilon (I)=1$

が成り立つ。一方、−I ∈ Γ なるときは

$\upsilon (-I)=e^{-i\pi k}$

が成り立つ。

参考文献

• Robert Rankin, Modular Forms and Functions, (1977) Cambridge University Press ISBN 0-521-21212-X. (Chapter 3 is entirely devoted to automorphic factors for the modular group.)