確率の公理

テンプレート:Probability fundamentals コルモゴロフの公理は、1933年にアンドレイ・コルモゴロフが導入した、確率論の基礎となる公理である。これらの公理は依然として確率論の基盤となっており、数学、物理科学、および現実世界の確率の事例の理解にとりわけ重要である。ベイズ確率を形式化する代替的アプローチは、テンプレート:仮リンクによって与えられる。

コルモゴロフによる公理系

まず、コルモゴロフ自身による公理系を解説し、次節で現代の定義について解説する。

$\mathrm{\Omega }$ は、根元事象と呼ばれる要素の集合、$𝔉$ は $\mathrm{\Omega }$ の部分集合から構成される族であり、その要素は事象と呼ばれる。$P$ は $𝔉$ 上の集合関数とする。以下の5公理を満たす系$(\mathrm{\Omega },𝔉,P)$ を確率空間と呼ぶ。

1. $𝔉$ は有限個の要素による集合和、集合差、共通部分について閉じている。

2. $𝔉$ は $\mathrm{\Omega }$ を含む。すなわち $\mathrm{\Omega }\in 𝔉.$

3. $P$ は非負の実数値をとる。すなわち、$P:𝔉\to {ℝ}_{\ge 0}$

4. $P(\mathrm{\Omega })=1.$

5. $A,B\in 𝔉$ が互いに素な集合 (Disjoint sets) ならば、$P(A\cup B)=P(A)+P(B).$（有限加法性）

さらに $\mathrm{\Omega }$ が無限集合の場合には次の連続牲の公理を導入するテンプレート:Refnest。

6. $𝔉$ の減少列 $A_1\supset A_2\supset A_3\supset \cdots$ が、$\bigcap _{n=1}^{\mathrm{\infty }}{A}_n=\mathrm{\varnothing }$ を満たすならば、$\underset{n\to \mathrm{\infty }}{\lim }P(A_n)=0.$

公理5と6より、次の一般化加法定理（完全加法牲）が導かれる。

一般化加法定理

集合列 $\{A_n{\}}_{n\in \mathbb{N}}$ は、互いに素であり、$\bigcup _{n=1}^{\mathrm{\infty }}{A}_n\in 𝔉$ ならば、

$P(\bigcup _{i=1}^{\mathrm{\infty }}{A}_i)=\sum _{i=1}^{\mathrm{\infty }}P(A_i).$

一般化加法定理を満たす $P$ は、$𝔉$ が生成する完全加法族（σ-集合体）上の非負かつ完全加法的な集合関数に一意的に拡張可能である。

公理

以上の議論をまとめて、現代では以下のように要約する。

$\mathrm{\Omega }$ は任意の集合、$𝔉$ は $\mathrm{\Omega }$ 上の完全加法族（σ-集合体）（あるいは有限加法族）、$P$ は $𝔉$ 上の集合関数とする。$P$ が次の3条件を満たすとき、$P$ は $(\mathrm{\Omega },𝔉)$ 上の確率測度となり、$\mathrm{\Omega }$ は標本空間、$𝔉$ は事象空間と呼ばれる。

第一の公理

事象の確率は非負の実数を取る。

$P:𝔉\to {ℝ}_{\ge 0}$

ここで $𝔉$ は事象空間である。従って確率測度 $P$ は、測度の中でも特に、有限値しか取らない。負の確率を取る理論では、第一の公理は緩和される。

第二の公理

これは、テンプレート:仮リンクの仮定である。すなわち、標本空間全体において、少なくとも1つの根元事象が起こる確率は1となる。

$P(\mathrm{\Omega })=1.$

第三の公理

これは、σ-加法性の仮定である。互いに素な集合 (Disjoint sets) の任意の可算個の列（テンプレート:仮リンクと同義）$E_1,E_2,\cdots \in 𝔉$ は、下記を満たす。

$P(\bigcup _{i=1}^{\mathrm{\infty }}{E}_i)=\sum _{i=1}^{\mathrm{\infty }}P(E_i).$

単に有限加法的な確率空間を考えている研究者もおり、この場合、$𝔉$ は完全加法族ではなく有限加法族であることだけが要求される。一般に、テンプレート:仮リンクは第三の公理を緩和する。

結果

コルモゴロフの公理から、確率を研究する上でその他の有用な法則を演繹することができる。これらの法則の証明は、第三の公理の力と、残りの2つの公理との相互作用を深い洞察をもって描き出す手順となる。即座に導ける4つの系とその証明を以下に示そう。

単調性

$A\subseteq B⟹P(A)\le P(B).$

AがBの部分集合の場合、Aの確率はBの確率以下となる。

単調性の証明

単調性を作るため、$E_1=A,E_2=B\setminus A$ とする。ただし、$A\subseteq B$とし、$i\ge 3$ に対して $E_i=\varnothing$ とする。集合列 $\{E_i{\}}_{i\in \mathbb{N}}$ は互いに素であり、$\bigcup _{i=1}^{\mathrm{\infty }}{E}_i=B$ となることは自明である。したがって、第三の公理から次が得られる。

$P(A)+P(B\setminus A)+\sum _{i=3}^{\mathrm{\infty }}P(E_i)=P(B).$

第一の公理により、この左辺の各項は非負であり、有限値 $P(B)$ に収束するため、$P(A)\le P(B)$ および $P(\varnothing )=0$ が得られる。

空集合の確率

$P(\varnothing )=0.$

事象が非可算の場合において、逆に確率が0でも事象が $\varnothing$ とは限らない。

空集合の確率の証明

1つ前の証明で、$P(\varnothing )=0$ は示されている。ただし、この結論は背理法で示される。

$P(B)=P(A)+P(B\setminus A)+\sum _{i=3}^{\mathrm{\infty }}P(E_i)$

は収束するから、$P(\varnothing )=:a$ とおくと、

$\sum _{i=3}^{\mathrm{\infty }}P(E_i)=\sum _{i=3}^{\mathrm{\infty }}P(\varnothing )=\sum _{i=3}^{\mathrm{\infty }}a=\{\begin{array}{cc}0& (a=0)\\ \mathrm{\infty }& (a>0)\end{array}$

も収束する。$a>0$ と仮定すると、右辺は発散し、矛盾するから、$a=P(\varnothing )=0$ となる。

余事象の法則

$P\left(A^c\right)=P(\mathrm{\Omega }\setminus A)=1-P(A)$

余事象の法則の証明

$A,A^c$ は排反であり、$A\cup A^c=\mathrm{\Omega }$ である。よって、

$P(A\cup A^c)=P(A)+P(A^c)$ （公理3に従う）

そして $P(A\cup A^c)=P(\mathrm{\Omega })=1$（公理2に従う）

$\Rightarrow P(A)+P(A^c)=1$

$\therefore P(A^c)=1-P(A)$

確率の値域

単調性から即座に次が従う。

$0\le P(E)\le 1\mathrm{\forall }E\in F.$

有界性の証明

$\varnothing \subset E\subset \mathrm{\Omega }$ に単調性の性質を使うと、$P(\varnothing )=0$ より、

$0\le P(E)\le 1$

その他の性質

もう一つの重要な性質は下記である。

$P(A\cup B)=P(A)+P(B)-P(A\cap B).$

これは、確率の加法定理と呼ばれる。つまり、AまたはBが起こる確率は、Aが起こる確率とBが起こる確率の和からAとBの両方が起こる確率を引いたものである。この証明は次の通りである。

まず、

$P(A\cup B)=P(A)+P(B\setminus A)$（公理3による）

であるから、

$P(A\cup B)=P(A)+P(B\setminus (A\cap B))$ （$B\setminus A=B\setminus (A\cap B)$ であるため）

また、

$P(B)=P(B\setminus (A\cap B))+P(A\cap B)$

$P(B\setminus (A\cap B))$ を消去すれば、求める結果が得られる。

加法定理の任意の数の集合への拡張は、包除原理である。

また、加法定理においてBをAの余事象Aテンプレート:Supとすると

$P\left(A^c\right)=P(\mathrm{\Omega }\setminus A)=1-P(A)$

つまり、事象が発生しない確率（つまり余事象）は、1から発生する確率を引いたものである。

簡単な例：コイントス

一回のコイントスを考え、コインが表 (H) または裏 (T) のいずれかで着地するものとする（両方は起きえない）。コインが公正であるかどうかに関して仮定はしない。

この場合、下記のように定義できよう。

$\mathrm{\Omega }=\{H,T\}$

$F=\{\varnothing ,\{H\},\{T\},\{H,T\}\}$

コルモゴロフの公理から次が分かる。

$P(\varnothing )=0$

表でも裏でもない確率は0となる。

$P(\{H,T{\}}^c)=0$

表か裏かいずれかの確率は、1となる。

$P(\{H\})+P(\{T\})=1$

また、上記の通り、表の確率と裏の確率の合計は1である。

参照項目

• ボレル集合
• 完全加法族
• 集合論
• 条件付き確率
• テンプレート:仮リンク

参考文献

• テンプレート:Cite book
• テンプレート:Cite book
• テンプレート:Cite book
• テンプレート:Cite book
• Mizarシステムにおける確率の正式な定義、および正式に証明されている定理の一覧。