スターリング数

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スターリング数(スターリングすう、テンプレート:Lang-en-short)は、上昇階乗冪 (テンプレート:En) や下降階乗冪 (テンプレート:En) を数値の冪乗と関係づけるための級数の展開係数として、イギリスの数学者テンプレート:仮リンクが1730年に彼の著書 Methodus Differentialis で導入した数[1]である。スターリング数は第1種スターリング数と、第2種スターリング数に分類される。第1種スターリング数はべき乗から階乗への変換に、第2種スターリング数は階乗からべき乗への変換に現れる。また、スターリング数は組合せ数学において意味をもった数値を与える。

第1種スターリング数

第1種スターリング数 (en:Stirling numbers of the first kind) [nk] は、上昇階乗冪 xnx(x+1)(x+2)(x+n1)x のべき級数:

xn=k=0n[nk]xk

で表現したときの展開係数として定義される。この定義では 0kn である。また、便宜上 [00]=1 と定義する。第1種スターリング数は、

[nk]=[n1k1]+(n1)[n1k]

なる漸化式で計算できる。この漸化式は、べき級数の展開係数としての定義から導出できる。第1種スターリング数の中で、簡単な数式で書ける成分として、

[n0]=0,[n1]=(n1)!,[nn1]=(n2),[nn]=1

が挙げられる。なお、(n2) は二項係数(二項定理を参照)である。これらは上記の漸化式を用いれば証明できる。特に、第1の関係式は、0n=0 であることから導くこともできる。上に示した漸化式に従い、第1種スターリング数は下表のように計算される。なお、表中の空欄に位置する数値はゼロであると解釈する。

nk 0 1 2 3 4 5 6 7
0 1
1 0 1
2 0 1 1
3 0 2 3 1
4 0 6 11 6 1
5 0 24 50 35 10 1
6 0 120 274 225 85 15 1
7 0 720 1764 1624 735 175 21 1

下降階乗冪 xn_x(x1)(x2)(xn+1) も第1種スターリング数を含む展開係数を伴い、x のべき級数で表現できる。具体的には、

xn_=k=0n(1)n+k[nk]xk

と書けるので、展開係数は第1種スターリング数に符号補正 (1)n+k を施した値である。この展開式は、

xn_=x(x1)(x2)(xn+1)=(1)n(x)(x+1)(x+2)(x+n1)=(1)n(x)n

であることに注意すれば容易に証明できる。

第1種スターリング数の性質

k=0n[nk]=n!,k=0n2k[nk]=(n+1)!,k=0n(1)k[nk]=0(n2)

第1の関係式は、1n=n! から導かれる。第2の関係式は 2n=(n+1)! から導かれる。第3の関係式は n2 に関して、(1)n=0 であることから導かれる。

第1種スターリング数はベルヌーイ数 Bk と次のような関係がある。

1m!k=0m[m+1k+1]Bk=1m+1,1(m1)!k=0m[mk]Bk=1m+1(m1).

第1の関係式は、上昇階乗冪の和の公式:

k=0n1(k+1)m=nm+1m+1

から導くことができる。第2の関係式は、第1の関係式に第1種スターリング数の漸化式を適用すれば導かれる。

組み合わせ数学における意味

第1種スターリング数 [nk] は、組合せ数学において、n 個の要素を k 個の巡回列に分割する組み合わせの数を与える。巡回列は山手線の駅のように繰り返される要素を示したデータ列である。ここでは、巡回列を (0,2,1,3) のように書こう。この場合、0, 2, 1, 3の順に数値が繰り返される場合を意味する。巡回列の場合、順列ではあるが (0,2,1,3)(2,1,3,0) のように要素を巡回置換した巡回列どうしは同一とみなす。したがって、n 個の要素で構成される巡回列の組み合わせは (n1)! 通りである。また、(1) は1個の要素で構成される巡回列であると考える。

例として4個の要素を巡回列2個に分割する組み合わせを考えよう そのような分割においては、構成要素が1個と3個の巡回列に分割する組み合わせと、構成要素が2個と2個の巡回列に分割する組み合わせがある。前者の分割法では、4個の要素から、単独で巡回列をなす要素1個を選び、残りの3個の要素で巡回列を作る組み合わせを考えればよい。要素4個から1個を選ぶ組み合わせは4通りであり、3個の要素から巡回列を作る組み合わせは2通りである。したがって、前者の分割法による組み合わせは全部で8通りとなる。後者については、4個の要素から巡回列をなす2個を選び、それぞれ2個の巡回列の組み合わせを考えればよい。要素4個から2個を選ぶのは6通りの組み合わせがあり、2個の要素が巡回列は1通りしかない。しかし、得られる2個の巡回列は同一構造の巡回列なので、6通りの組み合わせからその自由度を補正する必要がある。つまり、2分の1するということであり、後者の分割法による組み合わせは3通りである。つまり、4個の要素を巡回列2個に分割する組み合わせは全部で11通りとなる。この数値は [42] と一致する。そのような組み合わせをすべて列挙すると以下のようになる。

[(0),(1,2,3)],[(0),(1,3,2)],[(1),(0,2,3)],[(1),(0,3,2)][(2),(0,1,3)],[(2),(0,3,1)],[(3),(0,1,2)],[(3),(0,2,1)][(0,1),(2,3)],[(0,2),(1,3)],[(0,3),(1,2)]

上で説明した直接的な順列の作り方のほかに、4個の要素から巡回列2個を作る方法として次の手順を考える。手順1として、3個の要素から巡回列1個を作り、4番目の要素を単独要素の巡回列として追加する。手順2として、3個の要素から巡回列2個を作り、4番目の要素を既に作られた巡回列に追加する。手順1では、3個の要素から巡回列を作る組み合わせとして2通りが可能である。手順2では、3個の要素から巡回列2個を作る組み合わせが3通りある。さらに、4番目の要素を既存の巡回列に挿入する組み合わせは3通りずつあるので、手順2による組み合わせは9通りとなる。よって、手順1と手順2による組み合わせの合計として11通りになる。

この考え方を一般化し、n 個の要素から 巡回列 k 個を作るには、手順1として、n1 個の要素から 巡回列 k1 個を作った後、k 番目の巡回列として n 番目の要素を単独で追加する。その組み合わせの数は、n1 個の要素から 巡回列 k1 個を作る組み合わせの数に等しい。手順2として、n1 個の要素から巡回列 k 個を作った後、n 番目の要素を既存の巡回列に挿入する。その組み合わせの数は、n1 個の要素から 巡回列 k 個を作る組み合わせの数を n1 倍した値となる。手順1と手順2の組み合わせの和であることを考えると、n 個の要素から 巡回列 k 個を作る組み合わせの数は第1スターリング数の漸化式で与えられることがわかる。したがって、その組み合わせの数は第1スターリング数 [nk] に等しい。

第2種スターリング数

第2種スターリング数 (en:Stirling numbers of the second kind) {nk} は、xn を下降階乗冪 xk_x(x1)(x2)(xk+1) の級数:

xn=k=0n{nk}xk_

で展開したときの展開係数として定義される。この定義では、0kn である。便宜上、{00}=1 と定義する。第2種スターリング数は

{nk}={n1k1}+k{n1k}

なる漸化式で計算できる。この漸化式は、上記の級数展開による定義から導出できる。その漸化式に従うと、第2種スターリング数は下表のよう計算される。

nk 0 1 2 3 4 5 6 7
0 1
1 0 1
2 0 1 1
3 0 1 3 1
4 0 1 7 6 1
5 0 1 15 25 10 1
6 0 1 31 90 65 15 1
7 0 1 63 301 350 140 21 1

第2種スターリング数 {nk} は、第1種スターリング数に符号補正を施した (1)n+k[nk] に対して逆行列の関係、すなわち、

k=0N(1)n+k[nk]{km}=δnm

の関係を満たす。ただし、Nn,m とする。また、δnmクロネッカーのデルタである。この関係は、xn を下降階乗冪 xk_ で展開した数式に対し、xk_x のべき級数で展開すれば導出できる。べき乗 xn は 上昇階乗冪 xk で展開した場合も、第2種スターリング数を含む展開係数を伴う。その展開した結果は、

xn=kn(1)n+k{nk}xk

となり、展開係数は第2種スターリング数に符号補正 (1)n+k を施した値である。この展開式は、xk_=(1)k(x)k であることに注意すれば導出できる。

第2種スターリング数の性質

k=1n(1)k(k1)!{nk}=0(n2),k=0n(1)n+kk!{nk}=1,k=0n(1)n+k(k+1)!{nk}=2n

第1の関係式は第2種スターリング数の漸化式から導出できる。第2の関係式は、(1)k_=(1)kk! であることから導出できる。第3の関係式は (2)k_=(1)k(k+1)! から導出できる。

第2種スターリング数もベルヌーイ数との関係を示すことができる。

Bk1=m=1k(1)k+m(m1)!m{km},Bk=m=0k(1)mm!m+1{km}

第1の関係式は、第1種スターリング数とベルヌーイ数の関係式から導出できる。第2の関係式は、第1の関係式に第2種スターリング数の漸化式を適用すれば導出できる。さらに、第2種スターリング数は公式:

{nk}=1k!m=1k(1)km(km)mn

によって一般項が計算できる。しかし、この公式も総和記号を含んでいるため、漸化式よりも便利な公式とは言いがたいが、この公式をベルヌーイ数との関係式(第2の関係式)に代入すればベルヌーイ数の一般項を得ることができる。

組み合わせ数学における意味

第2種スターリング数 {nk} は、組合せ数学において、番号づけされた n 個の要素をグループ k 個に分割する組み合わせの数を与える。分割する要素は番号付けされているので個別に区別できるが、グループは順序を特に区別しないものとする。選択された要素を (0,2,3) と書いた場合、(0,3,2) のように要素を置換した列も同一であるとみなす。分割されたグループに含まれる要素の数は均等である必要はなく、1個の要素しか含まないグループがあってもよいとする。要素4個をグループ2個に分割するには、要素が1個と3個のグループに分割する場合と、要素が2個と2個のグループに分割する組み合わせが挙げられる。前者の分割法では、要素4個から単独グループをなす要素1個を選ぶ組み合わせ、すなわち、4通りだけが存在する。後者の分割法では、要素4個から一方のグループを構成する2個を選ぶ組み合わせを考えればよい。その組み合わせは6通りあるのだが、分割される双方のグループが要素2個で構成されることから、グループ間に対称性がある。その対称性から2の自由度がある。その自由度を補正すると、後者の分割法は3通りの組み合わせがあることになる。したがって、要素 0, 1, 2, 3 をグループ2個に分割する組み合わせは、全部で以下の7通りがある。

[(0),(1,2,3)],[(1),(0,2,3)],[(2),(0,1,3)],[(3),(0,1,2)],[(0,1),(2,3)],[(0,2),(1,3)],[(0,3),(1,2)]

上で列挙した要素4個をグループ2個に分割する組み合わせは、次のように構成することもできる。手順1として、要素3個をグループ1個に分割し、4番目の要素を第2のグループとして単独で追加する。手順2として、要素3個をグループ2個に分割し、4番目の要素をどちらかのグループに挿入する。手順1で構成される組み合わせは、要素3個をグループ1個に分割する組み合わせの数:1通りに等しい。手順2で構成される組み合わせは、要素3個をグループ2個に分割する組み合わせの数:3通りに対して、4番目の要素を2つのグループのどちらかに挿入する組み合わせ(2 通り)があるので、全部で6通りである。手順1と手順2による組み合わせの和は7通りとなり、上で列挙した組み合わせの数と一致する。

これを一般化して、要素 n 個をグループ k 個に分割するには、次の2つの手順で組み合わせを作ればよい。手順1として、要素n1 個をグループ k1 個に分割し、n 番目の要素を k 番目のグループとして単独で追加すればよい。手順2として、要素 n1 個をグループ k 個に分割し、n 番目の要素を k 個のグループのどれかに挿入する。手順1で構成される組み合わせの数は、要素 n1 個をグループ k1 個に分割する組み合わせの数に等しい。手順2で構成される組み合わせの数は、要素 n1 個をグループ k に分割する組み合わせの数の k 倍に等しい。したがって、手順1と手順2で構成される組み合わせの和として、求める組み合わせの数は第2種スターリング数の漸化式で与えられる。要素 n 個をグループ k 個に分割する組み合わせは、第2種スターリング数 {nk} で与えられる。

脚注

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関連項目

外部リンク

テンプレート:二項演算

  1. Charalambos A., Charalambides, "Combinatorial Methods in Discrete Distributions," John Wiley & Sons, Inc., p.73, 2005.