二項定理

初等代数学における二項定理(にこうていり、テンプレート:Lang-en-short)または二項展開 (binomial expansion) とは、二項式の冪を代数的に展開した式を表したものである。
定理の主張から、冪 テンプレート:Math2 を展開すると、テンプレート:Mvar次の項 テンプレート:Math2[注 1]の総和になる。ここでの係数 テンプレート:Math2 を二項係数と呼び、正整数となる。
二項係数 テンプレート:Math は2つの観点から解釈することができる。一つには
から帰納的に求めることができる。二項係数を並べるとパスカルの三角形となる。例えば
二項係数 テンプレート:Math は直接的、組合せ数学的には
である。これは有限集合から相異なる テンプレート:Mvar個の元を選ぶ組合せの総数を与える。
歴史
二項定理の特殊な場合については、古代より知られていた。紀元前4世紀ギリシャの数学者エウクレイデスは指数が テンプレート:Math の場合の二項定理に言及している[1][2]。また、三次の場合の二項定理が6世紀のインドでは知られていた[1][2]。
二項係数は相異なる テンプレート:Mvar個のものから重複無く テンプレート:Mvar個を選ぶ総数に等しくなるが、このことについては、古代ヒンドゥーで着目されていた。現在知られているもので最古のものは、ヒンドゥーの詩人テンプレート:仮リンク (c. 200 B.C.) による Chandaḥśāstra で、それにはその解法も含まれている[3]テンプレート:Rp。紀元後10世紀に評者テンプレート:仮リンクはこの解法を今日でいうパスカルの三角形を用いて説明した[3]。この数が テンプレート:Math であることが、6世紀ごろのヒンドゥーの数学者には、おそらく知られていた[4]し、この規則についての言及を12世紀にバースカラ2世の表した文書 Lilavati に見つけることができる[4]。
二項係数を組合せ論的量として表記した二項定理は、二項係数の三角形パターンについて記述した11世紀アラビア数学テンプレート:仮リンクの業績にも見つけることができる[5]。アル゠カラジはまた、原始的な形の数学的帰納法を用いて二項定理およびパスカルの三角形に関する数学的証明も与えている[5]。ペルシアの詩人で数学者のウマル・ハイヤームの数学的業績のほとんどは失われてしまったが、彼は恐らく高階の二項定理についてよく知っていた[2]。低次の二項展開は13世紀中国の楊輝[6]や朱世傑[2]の数学的業績にも見られる。楊輝は遥か旧く11世紀のテンプレート:仮リンクの書の方法に従った(しかし、それらもまた今日では失われてしまった)[3]テンプレート:Rp。
1544年にテンプレート:仮リンク[7]は "binomial coefficient"(「二項係数」)の語を導入し、テンプレート:Math2 の テンプレート:Math2 での表し方を、「パスカルの三角形」により示した[8]。ブレーズ・パスカルは、今日彼の名を冠して呼ばれる三角形の包括的な研究をテンプレート:仮リンクTraité du triangle arithmétique (1653) に著したが、これらの数の規則性はルネッサンス後期ヨーロッパの数学者たち(例えばシュティーフェル、タルタリア、シモン・ステヴィンなど)には既に知られていた[8]。
アイザック・ニュートンは有理数冪に対して成り立つ一般化された二項定理を示したと考えられている[9][8](二項級数を参照)。
定理の主張
定理によれば、テンプレート:Math2 の冪を展開すると、冪指数 テンプレート:Mvar を自然数として、 テンプレート:Numblk となる。この展開した式の係数 テンプレート:Math を二項係数と呼び、正整数となる。この等式はしばしばテンプレート:仮リンクあるいは二項(恒)等式とも呼ばれる。
テンプレート:Math2[注 1]と定義すれば、全ての項を総和記号 テンプレート:Math で一律に表示できる: テンプレート:Numblk 最後の等号は、テンプレート:Math2 についての対称性と、二項係数の列の対称性により得られる。
二項公式を簡略化した一変数版もよく知られる:
逆に、二項定理の一変数版からもとの二項定理を、指数法則などの基本的な計算法則により導くことができる[10]。
- 注
-
- テンプレート:EquationNote は、可換環において成り立つ。
- テンプレート:EquationNote は、可換環がさらに単位的環があるとき成り立つ。このとき、項 テンプレート:Math2 は環の元の積 テンプレート:Mvar の整数 テンプレート:Math によるスカラー倍である。つまりここでは環を テンプレート:Mathbf-加群と見做している。
- 必ずしも可換でない一般の単位的環においても、テンプレート:Mvar と テンプレート:Mvar が可換である(つまり テンプレート:Math2 を満たす)ならば、二項定理は成り立つ。
定理の主張を、多項式列 テンプレート:Math2は二項型であると述べることもできる。
証明
帰納的証明
数学的帰納法とテンプレート:仮リンクにより、簡単に証明できる。
により成り立つ。
以下、非負整数 テンプレート:Mvar に関する帰納法で示す。
ある テンプレート:Mvar について成り立つと仮定する。
より、
となり、パスカルの法則を用いて
を得る。これは所期の式である[11]。
組合せ論的証明
テンプレート:Mvar個の テンプレート:Math2 の積を一度に展開し切ることにより、より直接的に、直観的な証明ができる[12]。
一度に展開すると、それぞれの テンプレート:Math2 から テンプレート:Mvar または テンプレート:Mvar を取った文字 テンプレート:Mvar個の総乗の総和となる。
これらの積のうち、並び替えて テンプレート:Math2 になるものは、テンプレート:Math2個の テンプレート:Mvar、テンプレート:Mvar個の テンプレート:Mvar を並べる場合の数だけあるから、二項係数 テンプレート:Math、すなわち テンプレート:Math2 の係数は テンプレート:Math2 となる。
- 注
- テンプレート:Mvar個の積を一度に展開し切る方法により、次のことも分かる:
- 等式
- において テンプレート:Mvar個の テンプレート:Mvar を区別して テンプレート:Math2 と考えた場合、展開式は基本対称式 テンプレート:Mvar を用いて
- と書ける。
一般化
ニュートンの一般化された二項定理
テンプレート:Main 1665年ごろアイザック・ニュートンは従来の二項定理を一般化して非整数冪に対する公式(ニュートンの一般二項定理)を得た[13]。この一般化において、有限和は級数になる。また、二項係数 テンプレート:Math の上の添字 テンプレート:Mvar は自然数とは限らないから、二項係数を階乗を用いて表すこともできない。一般化された二項係数を任意の数 テンプレート:Mvar に対して テンプレート:Numblk で定義する。右辺の テンプレート:Math はポッホハマー記号で、ここでは下方階乗を表す。このとき実数 テンプレート:Math2 が テンプレート:Math2 を満たすとき[注 2]、任意の複素数 テンプレート:Mvar に対して テンプレート:Numblk が成り立つ。テンプレート:Mvar が非負整数のとき、テンプレート:Math2 に対する二項係数は零であるから等式 (テンプレート:EquationNote) は等式 (テンプレート:EquationNote) に特殊化され、非零項は高々 テンプレート:Math2個である。テンプレート:Mvar がそれ以外の値のときは級数 (テンプレート:EquationNote) は(少なくとも テンプレート:Math2 が非零のとき)無数の非零項を持つ。
これは級数を扱っていてそれをテンプレート:仮リンクで表そうとするときに重要である。
テンプレート:Math2 と置けば有用な等式
を得る。これをさらに テンプレート:Math2 と特殊化すれば等比級数を得る。
- 注
- 式 (テンプレート:EquationNote) は テンプレート:Math2 が複素数の場合にも一般化することができる。この場合、テンプレート:Math2[注 2]に加えて、テンプレート:Mvar を中心とする半径 テンプレート:Math の開円板上で定義されたlogの正則な枝を用いて テンプレート:Math2 および テンプレート:Mvar の冪を定義しなければならない。
- 式 (テンプレート:EquationNote) は テンプレート:Math2 がバナッハ環の元であるときも、テンプレート:Math2 かつ テンプレート:Mvar が可逆で テンプレート:Math2 である限り成り立つ。
多項定理
テンプレート:Main 二項定理は三項以上の和の冪展開に拡張することができる:
ここで和は、非負整数列 テンプレート:Math2 の総和が テンプレート:Mvar であるもの全体にわたって取るから、右辺の展開式は項の次数が何れも テンプレート:Mvar次である斉次多項式である。展開式の係数 テンプレート:Math2 は多項係数と呼ばれ、
となる。組合せ論的には、多項係数 テンプレート:Math2 は、テンプレート:Mvar元-集合を各位数が テンプレート:Math2 となる、互いに素な部分集合へ分割する場合の数となる。
多重二項定理
二項式の総乗といった、より次元の高いものを取り扱う場合にも二項定理はしばしば有用である。二項定理により等式
が成り立つ。この式は多重指数を用いれば
とより簡潔に表される。
応用
三角函数の多倍角公式
複素数に対する二項定理とド・モアブルの定理を合わせれば、正弦函数、余弦函数の多倍角公式が得られる。ド・モアブルの公式によれば
が成り立つから、二項定理を用いて右辺を展開して実部と虚部を比較すれば テンプレート:Math2 および テンプレート:Math2 に対する公式を得る。
テンプレート:Math2 の場合は、
から倍角公式
を得る。
テンプレート:Math2 の場合は、
から三倍角公式
を得る。
一般に
となる。
ネイピア数の級数表示
ネイピア数 テンプレート:Mvar を極限
で定義するとき、二項定理と単調収束定理を用いれば テンプレート:Mvar の級数表示を得る。
であり、これは テンプレート:Mvar に関して単調増加である。この和の第 テンプレート:Mvar 項
は テンプレート:Math2 のとき に収束する。 故に テンプレート:Mvar は級数として
と書ける。
冪函数の微分
自然数 テンプレート:Mvar に対する冪函数 テンプレート:Math2 の導函数を定義に基づいて求めるには、二項冪 テンプレート:Math2 を展開すればよい。
一般のライプニッツの法則
2つの函数の積の高階導函数の公式は、一般のライプニッツの法則 (Leibniz rule) と呼ばれ、二項定理と同様の形式になる[14]:
逆に、ライプニッツの公式から二項定理を導くこともできる。実際、テンプレート:Mvar の函数 テンプレート:Math2 の両辺を テンプレート:Mvar で テンプレート:Mvar 回微分すると、
を得るから、両辺を テンプレート:Math2 で除して所期の式を得る。
脚注・参照
脚注
参照
参考文献
関連項目
外部リンク
- テンプレート:Kotobank
- テンプレート:高校数学の美しい物語
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- テンプレート:MathWorld
- テンプレート:MathWorld
- テンプレート:MathWorld
- テンプレート:SpringerEOM
- テンプレート:SpringerEOM
- Wolframデモンストレーションプロジェクト
- Binomial Theorem スティーブン・ウルフラム
- Binomial Theorem (Step-by-Step) by Bruce Colletti and Jeff Bryant.
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- ↑ 1.0 1.1 テンプレート:MathWorld
- ↑ 2.0 2.1 2.2 2.3 テンプレート:Cite journal
- ↑ 3.0 3.1 3.2 テンプレート:Cite book
- ↑ 4.0 4.1 テンプレート:Cite journal
- ↑ 5.0 5.1 テンプレート:MacTutor
- ↑ テンプレート:Cite web
- ↑ テンプレート:Kotobank
- ↑ 8.0 8.1 8.2 テンプレート:Cite book
- ↑ テンプレート:Cite book
- ↑ テンプレート:高校数学の美しい物語
- ↑ テンプレート:Youtube
- ↑ テンプレート:Youtube
- ↑ E.ハイラー、G.ヴァンナー 『解析教程(上)』p.29 シュプリンガー・ジャパン
- ↑ テンプレート:Cite book