建物 (数学)

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数学における(ティッツの、あるいはブリュア–ティッツの)建物[1](たてもの、テンプレート:Lang-en-short, テンプレート:Lang-fr-short)は、テンプレート:Ill2ジャック・ティッツに名を因む、旗多様体、有限射影平面およびテンプレート:Ill2のある種の側面を一斉に一般化する組合せ論的かつ幾何学的な構造である。初め、建物はジャック・ティッツによってテンプレート:Ill2の構造を理解するための手段として導入され、その理論は自由群の研究にが用いられたのと同じ仕方で、 p-進リー群その離散的対称変換部分群の等質空間の幾何および位相を研究するのにも用いられた。

概観

建物の概念は、ジャック・ティッツによって、任意の上の単純代数群を記述するための手段として考案された。ティッツはそのような種類の任意の テンプレート:Mvar が、テンプレート:Mvar の球建物あるいは球面型建物 テンプレート:Lang と呼ばれる、テンプレート:Mvar作用を持つ単体的複体 テンプレート:Math にどのように対応させられるかを具体的に示して見せた。群 テンプレート:Mvar はこの方法によって得られる複体 テンプレート:Math に、非常に強い組合せ論的正則性条件を強いることになる。それらの条件を単体的複体のクラスに対する公理として扱うことにより、ティッツは建物の最初の定義に到達した。建物 テンプレート:Math を定義するデータの一部は、ワイル群と呼ばれるある種のコクセター群 テンプレート:Mvar であり、これはコクセター複体と呼ばれる高度に対称的な単体的複体 テンプレート:Math を決定する。建物 テンプレート:Math は、そのアパート[1]と呼ばれる テンプレート:Math の複数のコピーをある正則なやり方で貼合せることによって得られる。テンプレート:Mvar が有限型コクセター群ならば、コクセター複体は位相的球面であり、対応する建物は球面型 テンプレート:Lang と呼ばれる。テンプレート:Mvar がアフィンワイル群(つまり、コクセター群としてアフィン)ならば、コクセター複体はアフィン平面の細分であり、建物はアフィン型あるいはユークリッド型であるという。テンプレート:Math-型のアフィン型建物は、終端頂点を持たない無限と同じものである。

半単純代数群の理論は建物の概念に対する最初の動機を与えるものであったけれども、全ての建物が群から得られるわけではない。特に、射影平面およびテンプレート:Ill2は、テンプレート:Ill2において研究される、建物の公理を満足するが群と無関係であるような、グラフの二つのクラスを形成する。この現象は、対応するコクセター系が低階数(つまり二階)であるようなものに関係することが分かる。ティッツは、

階数が テンプレート:Math 以上の任意の球面型建物は群に関連する。さらに階数が テンプレート:Math 以上の建物が群に関連するならば、その群は建物によって本質的に決定される。

という驚くべき定理を証明した。

岩堀-松本、ボレル-ティッツ、およびブリュア-ティッツは、球面型建物に関するティッツの構成のアナロジーとして、アフィン型建物もある種の群(つまり非アルキメデス局所体上の簡約代数群)から構成できることを示した。さらに、そのような群の分裂階数が テンプレート:Math 以上であるならば、それは本質的にその建物から決定される。後にティッツは、建物の理論の基礎となる部分を、専ら最も大きい次元の単体の隣接性のみを用いて建物の情報を記述する、小部屋系 テンプレート:Lang の概念を用いて再構成している。これにより、球面型、アフィン型ともに簡略化されることとなった。ティッツは球面型の場合のアナロジーとして、アフィン型の階数が 4 以上の任意の建物が群から得られるということを示した。

定義

テンプレート:Mvar-次元建物 テンプレート:Mvarテンプレート:Ill2であって、アパート テンプレート:Lang と呼ばれる以下の条件を満たす部分複体 テンプレート:Mvar の和となっているようなものである。

テンプレート:Mvar に属する テンプレート:Mvar-単体を部屋[1]または小部屋 テンプレート:Langテンプレート:Lang と呼ぶ。

この建物の階数テンプレート:Math と定められる。

基本的性質

建物の任意のアパート テンプレート:Mvarコクセター複体である。実は、平行または テンプレート:Math-次元単体で交わる任意の二つの テンプレート:Mvar-次元単体に対して、テンプレート:Mvar鏡映 テンプレート:Lang と呼ばれる周期 テンプレート:Math の単体的自己同型で、二つの テンプレート:Mvar-単体の共有点を動かさず、一方を他方の上に移すようなものが一意的に存在する。このような鏡映は テンプレート:Mvarワイル群と呼ばれるコクセター群 テンプレート:Mvar を生成し、単体的複体 テンプレート:Mvarテンプレート:Mvar の標準幾何的実現に対応する。このコクセター群の標準生成系は テンプレート:Mvar のある固定された小部屋の壁(境界となる テンプレート:Math-次元の単体)に関する鏡映によって与えられる。アパート テンプレート:Mvar は同型を除いて建物によって決定されるから、同じことは共通のアパート テンプレート:Mvar に属する テンプレート:Mvar の任意の二つの単体に対しても正しい。テンプレート:Mvar が有限型のとき、建物は球面的であると言い、アフィンワイル群となるとき建物はアフィンあるいはユークリッド型であるという。

小部屋系は小部屋の全体の成す隣接グラフによって与えられ、さらに隣接する小部屋の各対に対してコクセター群の標準生成元によるラベル付けを行ったものであるテンプレート:Sfn

任意の建物は、頂点をヒルベルト空間正規直交基底と同一視することによって得られる幾何的実現から受け継がれる標準テンプレート:Ill2を持つ。アフィン型建物に対して、標準長さはテンプレート:Ill2の比較不等式テンプレート:Ill2を満足する。この設定は測地三角形に対するブリュア-ティッツの非正値曲率条件として知られる。つまり、頂点から対辺の中点までの距離は、辺長が同じであるような対応するユークリッド的三角形での距離よりも大きくはならないテンプレート:Sfn

ティッツ系との関係

テンプレート:Mvar の建物 テンプレート:Mvar への単体的な作用が、小部屋 テンプレート:Mvar とそれを含むアパート テンプレート:Mvar の対の上に推移的であるとき、そのような対の安定部分群としてBN対あるいはティッツ系と呼ばれるものが定まる。実は、部分群の対

テンプレート:Math および テンプレート:Math

はBN対の公理を満足し、そのワイル群は テンプレート:Math と同一視される。逆に、建物はBN対から復元することができるから、任意のBN対は自然に建物を定義する。実は、BN対の用語法を用いて、テンプレート:Mvar の任意の共軛をテンプレート:Ill2、ボレル部分群を含むような部分群を抛物型部分群と呼べば、次のことが言える。

同じ建物が、相異なるBN対によって記述されることもしばしば起こる。さらに、必ずしも全ての建物がBN対から得られるものではない。これは階数や次元が低い場合に、分類が上手くいかないことに対応している(後述)。

SLテンプレート:Sub に対する球面型・アフィン型建物

テンプレート:Math に対応するアフィン型および球面型の建物の単体構造は、それらの相互接続同様、初等的な代数学および幾何学の概念のみを用いて直接的に説明することが容易であるテンプレート:Sfn。この場合、三種類の異なる建物が存在する(球面型二種類とアフィン型一種類)。それぞれは「アパート」の和として、それ自身単体的複体である。アフィン群に対して、アパートは単にユークリッド空間 テンプレート:Math の等辺 テンプレート:Math-次元単体による標準空間分割から得られる単体複体である。一方、球面型建物に対しては、アパートは与えられた共通の頂点に関する テンプレート:Math 個の単体全体の成す有限型単体的複体で、テンプレート:Mathの空間分割に対応する。

各建物は単体的複体テンプレート:Mvar であって、以下の公理

  • テンプレート:Mvar はアパートの和集合である。
  • テンプレート:Mvar の任意の二つの単体は共通のアパートに含まれる。
  • 単体が二つのアパートに含まれるならば、一方のアパートから他方への単体同型で、共有点を固定するようなものが存在する。

を満足するものでなければならない。

球面型建物

テンプレート:Mvar と、テンプレート:Math の非自明な部分線型空間を頂点とするような単体的複体テンプレート:Mvar を考える。ただし、二つの頂点(つまり部分空間)テンプレート:Math が連結されるのは、一方が他方の部分集合となっているときとする。テンプレート:Mvarテンプレート:Mvar-次元単体は互いに連結された テンプレート:Math 個の部分空間からなる集合であり、連結性が極大となるのは、テンプレート:Math 個の部分空間をとったときであり、対応する テンプレート:Math-次元単体はテンプレート:Ill2

(0)U1Un1V

である。低次元単体は中間部分空間 テンプレート:Mvar のより少ない部分旗に対応する。

テンプレート:Mvar のアパートを定義するために、テンプレート:Mvar(順序付けられた基底)を定義することは有効である。枠は、基底 テンプレート:Math から、その各ベクトル テンプレート:Mvar のスカラー倍の違いを除いたものとして決まる。別な言い方をすれば、枠は一次元部分空間 テンプレート:Math たちの成す集合で、それらのうちの任意のテンプレート:Mvar 個が必ず テンプレート:Mvar-次元部分空間を張るようなものをいう。いま、順序付けられた枠 テンプレート:Math から

Ui:=L1Li

とおくことにより極大旗を定める。テンプレート:Mvar たちの順番を入れ替えたものもやはり枠となるから、テンプレート:Mvar たちの和として得られるこのような部分空間の全体が球面型建物のアパートに対して初期の型の単体的複体をなすことが直接的に分かる。建物の公理を満足することは、ジョルダン・ヘルダー分解の一意性証明に用いられる古典的なテンプレート:Ill2を用いれば容易に示せる。

アフィン型建物

テンプレート:Mvar を有理数体 テンプレート:Mathbfテンプレート:Mvar-進数体 テンプレート:Math との中間体とする(テンプレート:Math は、適当な素数 テンプレート:Mvar に対する テンプレート:Mathbf 上の通常の非アルキメデス的 p-進ノルム テンプレート:Math に関する テンプレート:Mathbf p-進完備化)。また テンプレート:Mvar

R:={x:xp1}

で定まる テンプレート:Mvar部分環とする。テンプレート:Math のとき テンプレート:Mvar は有理整数環 テンプレート:Mathbfp における局所化 テンプレート:Math であり、テンプレート:Math のとき テンプレート:Mvar は [[p進数|テンプレート:Mvar-進整数]]環 テンプレート:Math(すなわち テンプレート:Math における テンプレート:Mathbf の閉包)。

建物テンプレート:Mvar の頂点は テンプレート:Mathテンプレート:Mvar-格子すなわち

L:=Rv1Rvn

の形の テンプレート:Mvar-部分加群である。ただし、テンプレート:Mathテンプレート:Mvarテンプレート:Mvar 上の基底である。二つの格子が互いに同値であるとは、一方が他方の テンプレート:Mvar の乗法群 テンプレート:Mvar の元(実は、テンプレート:Mvar-冪となる整数のみが必要である)によるスカラー倍となるときにいう。また、二つの格子 テンプレート:Math隣接する テンプレート:Lang とは、テンプレート:Math に同値な格子で テンプレート:Math とその部分格子 テンプレート:Math の間にあるものが存在するときに言う(この関係は対称的である)。テンプレート:Mvarテンプレート:Mvar-次元単体は テンプレート:Math 個の互いに隣接する格子からなるクラスに同値であり、テンプレート:Math-次元単体は、適当にラベルを付け替えれば、鎖

pLnL1L2Ln1Ln

に対応する。ただし、それぞれの隣り合う項の商は位数 テンプレート:Mvar を持つものとする。アパートは テンプレート:Mvar の固定された基底 テンプレート:Math に対して基底 テンプレート:Math に関する格子全体をとることによって定義される。ただし、テンプレート:Mathテンプレート:Math の元で、各成分に同じ整数を加える違いを除いて一意的に定まるものとする。

定義により、このような各アパートは所期の形となり、それらの和は テンプレート:Mvar 全体と一致する。二番目の公理は、シュライヤー細分の一種から従う。最後の公理を満たすことは

(L+pkLi)/pkLi

の形の有限アーベル群の順序に基づく単純な数え上げ法によって示される。標準コンパクト性論法により、テンプレート:Mvar が実は テンプレート:Mvar の取り方に独立であることが示される。特に、テンプレート:Math ととれば テンプレート:Mvar の可算性が従う。他方、テンプレート:Math をとれば、定義から テンプレート:Math が建物 テンプレート:Mvar に自然な単体作用を持つことが分かる。

この建物は、その頂点に テンプレート:Math に値を持つ「ラベル付け」を持つものになる。実際、格子 テンプレート:Mvar を固定すれば、テンプレート:Mvar のラベルは十分大きな テンプレート:Mvar に対して

label(M)=logp|M/pkL|modn

で与えられる。テンプレート:Mvar の任意の テンプレート:Math-次元単体は テンプレート:Math の全体を亘ってそれぞれ相異なるラベルを持つ。テンプレート:Mvar の任意の単体自己同型 テンプレート:Mvarテンプレート:Math の置換 テンプレート:Mvarテンプレート:Math を満たすようなものを定める。特に テンプレート:Mvarテンプレート:Math の元とすれば、

label(gM)=label(M)+logpdetgpmodn

が成り立つ。故に、テンプレート:Mvar がラベルを保つのは テンプレート:Mvarテンプレート:Math に属するときである。

自己同型

ティッツは、アフィン型建物のラベルを保つ任意の自己同型テンプレート:Math の元から得られることを示した。建物の自己同型はラベルの置換を引き起こすから、自然な準同型

AutXSn

が存在する。テンプレート:Math の作用は [[巡回置換|テンプレート:Mvar-巡回置換]] テンプレート:Mvar を生じる。建物のほかの自己同型は、ディンキン図形の自己同型に関係のある テンプレート:Mathテンプレート:Ill2から得られる。正規直交基底 テンプレート:Math に関する標準対称双線型形式をとるとき、格子をその双対格子に移す写像は、(各ラベルを法 テンプレート:Mvar に関する反数へ移すような置換 テンプレート:Mvar を与えるとき)平方が恒等変換となるような自己同型を与える。上記の準同型の像は テンプレート:Mvarテンプレート:Mvar によって生成され、位数 テンプレート:Math二面体群 Dn に同型となる。テンプレート:Math のときはこれは テンプレート:Math と一致する。

テンプレート:Mvarテンプレート:Math の有限次ガロワ拡大とし、建物を テンプレート:Math の代わりに テンプレート:Math から構成されるものとすると、ガロワ群 テンプレート:Math はこの建物の上にも自己同型として作用する。

幾何学的関係

球面型建物は、テンプレート:Math に対するアフィン型建物 テンプレート:Mvar に関連した二種類のきわめて異なる方法から得られる。

分類

ティッツは、階数が テンプレート:Math より大きい任意の既約球面型建物(つまり有限型ワイル群を持つ建物)が単純代数群または古典群に対応することを示した。同様のことが、次元が テンプレート:Math よりも大きい既約アフィン型建物(これは「無限遠」において階数が テンプレート:Math よりも大きい球面型建物になる)についても成立する。低階数あるいは低次元においては、このような分類は存在しない。実際、任意のテンプレート:Ill2から階数 テンプレート:Math の球面型建物が得られるテンプレート:Sfn。また、ボールマンとブリンは、有限射影平面内のテンプレート:Ill2に同型な頂点のリンクを持つ任意の二次元単体的複体が、必ずしも古典的でない建物の構造を持つことを示した。多くの二次元アフィン型建物が、双曲的テンプレート:Ill2や他のテンプレート:Ill2に関連するより奇妙な構造を用いて構成された。

ティッツは、建物が常に群のティッツ系によって記述されるならば、殆どすべての場合において建物の自己同型は群の自己同型に対応することも示したテンプレート:Sfn

応用

建物に理論は、いくつかの全く異なった分野に重要な応用を持つ。一般の局所体上の簡約代数群の構造に関してすでに述べたことに加えて、建物はそれらの群の表現の研究にも用いられる。建物による群の決定についてのティッツの結果は、モストウマーグリス剛性定理およびマーグリスの算術性に深い関連がある。

球面型建物は離散幾何学において研究され、有限単純群の分類問題において単純群の特徴付けに対する幾何学的手法の考え方が非常に実り豊かなものであることが証明された。球面型やアフィン型以外のより一般の種類の建物の理論は、未だ比較的発達していないけれども、しかし既にこれらの一般化された建物は、代数学におけるカッツ・ムーディ群や位相幾何学および幾何学的群論における非正値的に曲がった多様体およびテンプレート:Ill2の構成に応用が見出されている。

関連項目

テンプレート:Div col

テンプレート:Div col end

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注釈

テンプレート:Notelist

出典

テンプレート:Reflist

参考文献

関連文献

外部リンク

  1. 1.0 1.1 1.2 ブルバキ『リー群とリー環 3』杉浦光夫訳、東京図書