アーベル総和法

解析学において、アーベル総和法（アーベルそうわほう、テンプレート:Lang-en-short）とは、級数に対し、有限値を対応させる総和法の一つ。ベキ級数におけるアーベルの定理に因む。

導入

複素数値の数列 テンプレート:Math に対し、級数 テンプレート:Math が値 テンプレート:Mvar に収束するとは、部分和

$s_n=\sum _{k=0}^n{a}_k$

が通常の数列の収束の意味で値 テンプレート:Mvar に収束することで定義される。一方、総和法では、通常の収束の意味を超えて、より広い形での級数の収束を定義する。

例えば、テンプレート:Mathとするグランディ級数 テンプレート:Mathは

$s_0=1,s_1=0,s_2=1,s_3=0,\cdots$

となり、通常の意味では収束しない。ここで、テンプレート:Mvar を テンプレート:Math を満たす複素数とし、テンプレート:Mvar を各項 テンプレート:Math に収束因子として乗ずると、ベキ級数

$f(x)=\sum _{n=0}^{\mathrm{\infty }}(-1{)}^n{x}^n=1-x+x^2+\cdots$

は、テンプレート:Math で

$f(x)=\frac{1}{1+x}$

に一様収束する。このとき、左極限 テンプレート:Math は収束し、

$\underset{x\to 1-}{\lim }f(x)=\frac{1}{2}$

となり、級数 テンプレート:Math に値 テンプレート:Math を対応させることができる。

定義

複素数値の数列 テンプレート:Math に対し、ベキ級数

$f(x)=\sum _{n=0}^{\mathrm{\infty }}{a}_n{x}^n$

が テンプレート:Math で収束し、左極限が

$\underset{x\to 1-}{\lim }f(x)=s$

と有限値 テンプレート:Mvar になるとき、値 テンプレート:Mvar にアーベル総和可能 (Abel summable) といい、

$\mathrm{A-}\sum _{n=0}^{\mathrm{\infty }}{a}_n=s$

もしくは

$\sum _{n=0}^{\mathrm{\infty }}{a}_n=s\mathrm{(A)}$

と記す。また、このように テンプレート:Math の級数を テンプレート:Math の左極限 テンプレート:Math で定義する総和法をアーベル総和法と呼ぶ。

なお、テンプレート:Math は部分和

$s_n=\sum _{k=0}^n{a}_k$

によって、

$f(x)=(1-x)\sum _{n=0}^{\mathrm{\infty }}{s}_n{x}^n$

とも表すことができる。したがって、テンプレート:Math は部分和の列 テンプレート:Math に

$\sum _{n=0}^{\mathrm{\infty }}(1-x)x^n=(1-x)\frac{1}{1-x}=1$

を満たす因子 テンプレート:Math を乗じて、和を取っていることになる。

性質

アーベル総和法はチェザロ総和法より強い。すなわち、チェザロ総和可能な級数はアーベル総和可能である。より一般的に テンプレート:Math について、テンプレート:Math-総和可能であれば、アーベル総和可能である。

例

$a_n=(-1{)}^n(n+1)(n=0,1,2,\cdots )$

で定義される数列 テンプレート:Math に対し、

$\sum _{n=0}^{\mathrm{\infty }}{a}_n=1-2+3-4+\cdots$

は通常の意味では収束せず、またチェザロ総和法でも収束しない。一方でベキ級数

$f(x)=\sum _{n=0}^{\mathrm{\infty }}(-1{)}^n(n+1)x^n$

は テンプレート:Math で収束し、

$f(x)=\frac{1}{(1+x{)}^2}$

となることから1/4にアーベル総和可能である。

拡張

(A, λ_n)-総和法

テンプレート:Math を

$0\le {\lambda }_0<{\lambda }_1<\cdots <{\lambda }_n<\cdots$

を満たす単調増加な数列とする。ここで級数

$f(x)=\sum _{n=0}^{\mathrm{\infty }}{a}_n\exp (-{\lambda }_{n}x)$

が任意の テンプレート:Math について収束し、かつ左極限 テンプレート:Math が存在し、

$\underset{x\to +0}{\lim }f(x)=s$

と有限値 テンプレート:Mvar になるとき、級数 テンプレート:Math は テンプレート:Mvar に テンプレート:Math-総和可能という。 特に テンプレート:Math の場合は、アーベル総和法に一致する。

(J, p_n)-総和法

アーベル総和法において、ベキ級数 テンプレート:Math は部分和の列 テンプレート:Math によって、

$f(x)=(1-x)\sum _{n=0}^{\mathrm{\infty }}{s}_n{x}^n=\frac{\sum _{n=0}^{\mathrm{\infty }}{s}_n{x}^n}{\sum _{n=0}^{\mathrm{\infty }}{x}^n}=\frac{\sum _{n=0}^{\mathrm{\infty }}{p}_n{s}_n{x}^n}{\sum _{n=0}^{\mathrm{\infty }}{p}_n{x}^n}(p_n=1)$

と表すことができる。より一般に、数列 テンプレート:Math が

$p_n\ge 0,\sum _{k=n}^{\mathrm{\infty }}{p}_k>0$

を満たし、テンプレート:Math によって定義されるベキ級数

$p(x)=\sum _{n=0}^{\mathrm{\infty }}{p}_n{x}^n$

が収束半径 テンプレート:Math を持つとする。このとき、

$p_s(x)=\sum _{n=0}^{\mathrm{\infty }}{p}_n{s}_n{x}^n$

が テンプレート:Math で収束し、かつ

$\underset{x\to r-}{\lim }\frac{p_s(x)}{p(x)}=s$

が成り立つとき、値 テンプレート:Mvar に テンプレート:Math-総和可能という。

タウバー型定理

テンプレート:Main 一般に級数はアーベル総和であっても、通常の意味では収束しない。すなわち、ベキ級数におけるアーベルの定理の逆は成り立たない。しかしながら、級数にある種の条件を付与すれば、アーベルの定理の逆が成り立つことがある。そのような例として、1897年にオーストリアの数学者アルフレッド・タウバーが示したタウバーの定理がある。後に英国の数学者G. H. ハーディとJ. E. リトルウッドはタウバーの定理を原型とする種々の拡張を与え、それらをタウバー型定理と呼んだ。

フーリエ級数の収束

アーベル総和法はフーリエ級数の収束の議論に応用される。テンプレート:Mathを長さ テンプレート:Math の有界区間 テンプレート:Math で定義されたリーマン積分可能な複素数値関数で、かつ テンプレート:Math を満たす周期関数とする。このとき、テンプレート:Math は次の形のフーリエ級数展開を持つ。

$f(x)\sim \sum _{n=-\mathrm{\infty }}^{\mathrm{\infty }}\widehat{f_n}{e}^{2n\pi ix/L}$

$\widehat{f_n}=\frac{1}{L}\underset{a}{\overset{b}{\int }}f(x)e^{-2n\pi ix/L}dx$

第一式の右辺におけるフーリエ級数が意味を持つために収束性を考える必要がある。この級数はアーベル総和可能であり、テンプレート:Math が連続となる点においてテンプレート:Math に収束する。特に テンプレート:Math が連続関数であれば、フーリエ級数はアーベル総和の意味で一様収束する。すなわち、

$A_r(x)=\sum _{n=-\mathrm{\infty }}^{\mathrm{\infty }}{r}^{|n|}\widehat{f_n}{e}^{2n\pi ix/L}$

を導入すると、この級数は テンプレート:Math で収束し、かつ テンプレート:Math が連続となる点で左極限 テンプレート:Math は テンプレート:Math に一致する。この結果の議論はポアソン核

$P_r(x)=\sum _{n=-\mathrm{\infty }}^{\mathrm{\infty }}{r}^{|n|}{e}^{2n\pi ix/L}$

の性質に基づく。 テンプレート:Math 上で可積分な関数テンプレート:Math、テンプレート:Mathに対して、畳み込み積分を

$g*h(x)=\frac{1}{L}\underset{a}{\overset{b}{\int }}g(y)h(x-y)dy$

で定義すると、

$f*P_r(x)=A_r(x)$

であり、総和核としてのポアソン核の性質から上述のアーベル総和に関する収束性が示される。

参考文献

• G. H. Hardy, Divergent Series , Clarendon Press (1949)
• Elias M. Stein and Rami Shakarchi, Fourier Analysis: An Introduction (Princeton Lectures in Analysis, Volume 1), Princeton Univ Prress (2003) ISBN 978-0691113845
• 石黒一男『発散級数論』森北出版 (1977) ISBN 978-4627031494
• 江沢洋『漸近解析（岩波講座　応用数学14）』岩波書店 (1995) ISBN 4000105248

関連項目

• アーベルの連続性定理
• ボレル総和法
• タウバー型定理