ボレル総和

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数学、特に解析学において、ボレル総和(ボレルそうわ、テンプレート:Lang-en-short)とはエミール・ボレルによって1899年に導入された、発散級数に対する総和法のひとつである。これは発散するような漸近級数に対して有用で、級数に対してある意味で最適な「和」と呼ばれる値を与える。同じ「ボレル総和」という語で呼ばれる数種類の手法があり、さらにその一般化にミッタク=レフラー総和法がある。

定義

ボレル総和にはわずかに異なる(少なくとも)3種類の方法がある。それらは適用できる級数の範囲が異なるものの、一貫性がある。すなわち、同じ級数に対して以下のうちの2種類の方法で総和した場合、収束するならば同じ値を与える。

記事全体を通して、テンプレート:Math形式的べき級数

A(z)=k=0akzk

を表すことにし、テンプレート:Math のボレル変換 テンプレート:Math を指数型の形式的べき級数

(A)(t):=k=0akk!tk

として定義する。

ボレルの指数型総和法

非負整数テンプレート:Mvarに対して、テンプレート:Math の第 テンプレート:Mvar 部分和を テンプレート:Math で表す:

An(z)=k=0nakzk.

テンプレート:Math弱-ボレル総和は以下のように定義される。まず、テンプレート:Math のボレル和を次で定義する:

limtetn=0An(z)n!tn.

この テンプレート:Math での極限がある テンプレート:Math で値 テンプレート:Math に収束するとき、テンプレート:Math の弱-ボレル総和は テンプレート:Mvar で収束すると言い、

akzk=a(z)(wB)

と書く。

ボレルの積分総和法

すべての正の実数について、テンプレート:Math のボレル変換 テンプレート:Math が、次の広義積分がwell-definedになるほど緩やかに増加する関数に収束すると仮定する。このとき、テンプレート:Mathボレル総和を次で定義する:

0et(A)(tz)dt.

この積分がある テンプレート:Math で値 テンプレート:Math に収束するとき、テンプレート:Math のボレル総和は テンプレート:Math で収束すると言い、

akzk=a(z)(B)

と書く。

解析接続を伴うボレルの積分総和法

これはボレルの積分総和法と同様であるが、すべての テンプレート:Mvar についてボレル変換が収束することまでは要求しない。しかし、正の実軸に沿って解析接続した結果が テンプレート:Math の近傍においてある解析関数に収束することは要求する。

基本性質

正則性

弱-ボレル総和(wB)とボレル総和(B)はどちらも正則な総和法である。すなわち、テンプレート:Math が通常の意味で収束するならば、弱-ボレル総和とボレル総和も同じ値に収束する:

A(z)=k=0akzk<akzk=A(z)(wB,B).

ボレル総和(B)の正則性は積分と級数の順序を変更することで簡単に確認できる。これは絶対収束性により妥当であって、今 テンプレート:Mathテンプレート:Mvar で収束すると仮定すれば、

A(z)=k=0akzk=k=0ak(0ettkdt)zkk!=0etk=0akk!(tz)kdt=0et(A)(tz)dt

と計算でき、最右辺は テンプレート:Mvar における テンプレート:Math のボレル総和である。

弱-ボレル総和(wB)とボレル総和(B)の正則性から テンプレート:Math の解析接続が得られる。

弱-ボレル総和とボレル総和の非等価性

ある テンプレート:Math で弱-ボレル総和可能な任意の級数 テンプレート:Math は、常に同じ点 テンプレート:Mvar でボレル総和可能である。しかし弱-ボレル総和法では発散し、かつボレル総和可能であるような級数の例を構築できる。次の定理により2つの方法はある条件の下で同値となることが示される。

定理 テンプレート:Harv
テンプレート:Mathを形式的べき級数とし、テンプレート:Mathを固定する。このとき:
  1. wB)の意味でakzk=a(z)ならば、(B)の意味でakzk=a(z)である。
  2. B)の意味でakzk=a(z)であり、かつlimtet(A)(tz)=0であるならば、(wB)の意味でakzk=a(z)である。

他の総和法との関係

一意性定理

与えられた関数が漸近展開となるような関数は常に多く存在する。ただし、ある領域における有限次元での近似誤差が可能な限り小さいという意味で、最良の関数が存在する場合がある。以下に提示するワトソンの定理カーレマンの定理は、漸近級数に対する「最良の和」をボレル総和が与えることを示す。

ワトソンの定理

ワトソンの定理は、関数がその漸近級数のボレル総和になる条件を与える。テンプレート:Mvar が次の条件を満たす関数であると仮定する。

  1. ある正の定数 テンプレート:Mvarテンプレート:Mvar が存在して、領域 テンプレート:Mathテンプレート:Math 上で テンプレート:Mvar が正則となる。
  2. ある定数 テンプレート:Mvar が存在して、上述の領域の任意の点 テンプレート:Mvar
|f(z)a0a1zan1zn1|<Cn+1n!|z|n
を満たす漸近展開 テンプレート:Math を持つ。

このとき、この領域で テンプレート:Mvar は漸近級数のボレル和によって与えられるというのがワトソンの定理の主張である。より正確には、ボレル変換された級数が原点の近傍上で収束し、正の実軸に沿って解析接続可能であり、ボレル和(B)を定義する積分はこの領域で テンプレート:Math に収束する。

やや一般的には、テンプレート:Mvar の漸近展開に対する誤差評価を テンプレート:Math から テンプレート:Math に緩めても、領域の条件を テンプレート:Math へ強めることで テンプレート:Math は決定できる。これは最良の評価であって、テンプレート:Math をより小さい数に置き換えた場合には反例が存在する。

カーレマンの定理

カーレマンの定理は、扇状領域内における有限次近似の近似誤差が急速に増大しない限り、関数は漸近級数によって一意的に定まることを示す。より正確には以下の通りである。

  1. テンプレート:Mvar が扇状領域 テンプレート:Mathテンプレート:Math の内部で解析的である。
  2. この領域内においてすべての非負整数 テンプレート:Mvar に対して テンプレート:Math が成り立つ。

このとき、逆数和 テンプレート:Math が発散するならば テンプレート:Math が成立する、ということを主張する。

カーレマンの定理は、各項がそれほど急速に増加しないような漸近級数に対する総和法を与え、その和は適切な扇状領域が存在する場合には漸近級数から一意的に定まる関数の値として求められる。ボレル総和法はカーレマンの定理において テンプレート:Mathテンプレート:Mvar はある定数)としたものより弱い。より一般的には、数列 テンプレート:Mathテンプレート:Mathテンプレート:Mvar はある定数)などとすることにより、ボレル総和法よりもわずかに強い総和法を定義できる。しかし、この方法が適用できるようなボレル総和できない自然な例がほとんど無いため、この一般化はあまり有用ではない。

カーレマンの定理の具体例

関数 テンプレート:Math は、任意のテンプレート:Math に対する領域 テンプレート:Math において、上述のような誤差範囲をもつ漸近級数 テンプレート:Math を持つが、この漸近級数のボレル総和にならない。ここからもワトソンの定理における テンプレート:Math は誤差項がより小さくできない限り最良の値であることが示される。

具体例

幾何級数

次のような幾何級数

A(z)=k=0zk

は通常の意味で テンプレート:Math に対して テンプレート:Math に収束する。このボレル変換は

(A)(tz)=k=0zkk!tk=etz

であり、ここからより広い領域 テンプレート:Math で収束するボレル和

0et(A)(tz)dt=0etetzdt=11z

が得られ、これは元の級数の解析接続を与える。

この代わりに弱-ボレル変換を考えると、テンプレート:Math の部分和 テンプレート:Mathテンプレート:Math と与えられるから、弱-ボレル和は

limtetn=01zn+11ztnn!=limtet1z(etzetz)=11z

となり、再び テンプレート:Math に対して テンプレート:Math に収束する。あるいは上記の定理の2によって、テンプレート:Math において

limtet(A)(tz)=limtet(1z)=0

が成立することからも示される。

交代階乗級数

次の級数を考える。

A(z)=k=0k!(1z)k

この級数は テンプレート:Math を除く テンプレート:Math で収束しない。このボレル変換は テンプレート:Math において

(A)(t)=k=0(1t)k=11+t

となり、これはすべての テンプレート:Math に対して解析接続できる。したがってボレル和は

0et(A)(tz)dt=0et1+tzdt=e1/zzΓ(0,1z)

(ここに テンプレート:Math第二種不完全ガンマ関数を表す)となる。この積分はすべての テンプレート:Math に対して収束するので、元の発散級数もすべての テンプレート:Math に対してボレル総和可能となる。この関数は テンプレート:Math の極限において元の級数を漸近展開にもつ。これは、時として発散するような漸近展開をボレル総和法が「正しく」総和するという事実の典型的な例である。

再び、

limttoet(A)(tz)=limtet1+tz=0

がすべての テンプレート:Math に対して収束することと上記の同値性定理から、同じ領域 テンプレート:Math において弱-ボレル総和可能であることが保証される。

同値性が成り立たない例

次の例はテンプレート:Harvでの例を拡張したものである。次の級数

A(z)=k=0(l=0(1)l(2l+2)k(2l+1)!)zk

を考える。和の順序を変更することで、ボレル変換は

(A)(t)=l=0(k=0((2l+2)t)kk!)(1)l(2l+1)!=l=0e(2l+2)t(1)l(2l+1)!=etl=0(1)l(et)2l+1(2l+1)!=etsin(et)

と計算できる。テンプレート:Math におけるボレル和は

0etsin(e2t)dt=1sin(u2)du=π8S(1)<

となる(ここに、テンプレート:Mathフレネル積分を表す)。線分に沿って収束定理を適用することにより、ボレル積分は テンプレート:Math を満たすすべての テンプレート:Mvar に対して収束する(明らかに テンプレート:Math を満たす テンプレート:Mvar に対しては積分は発散する)。 弱-ボレル和について、

limtet(1z)sin(etz)=0

が成立するのは テンプレート:Math のみであるから、弱-ボレル和はこの領域でのみ収束する。

存在性定理と収束領域

線分上での総和可能性

形式的べき級数 テンプレート:Math がある テンプレート:Math でボレル総和可能であるとすれば、それはまた複素平面において原点 テンプレート:Mvarテンプレート:Math を結ぶ線分 テンプレート:Math 上の任意の点でボレル総和可能である。さらに、線分 テンプレート:Math を半径とする円盤上で解析的かつ テンプレート:Math を満たす任意の点 テンプレート:Math

akzk=a(z)(B)

が成立するような関数 テンプレート:Math が存在する。

直ちに得られる結果として、ボレル和の収束領域C上の星状領域になることがあげられる。この星状収束領域はボレルポリゴンと呼ばれ、級数 テンプレート:Math の特異点により決定される。

ボレルポリゴン

級数 テンプレート:Math の収束半径が厳密に正であると仮定すると、テンプレート:Math は原点を含む非自明な領域で解析的となる。今、テンプレート:Mvarテンプレート:Mvar の特異点集合とすると、テンプレート:Mathテンプレート:Math を満たすということと テンプレート:Mvar が原点 テンプレート:Mvar から テンプレート:Mvar への開線分に沿って解析接続できるということが同値となる。テンプレート:Math に対して、テンプレート:Mvarテンプレート:Mvar を通り直線 テンプレート:Mvar に垂直な直線の集合とする。集合 テンプレート:Math

ΠP={z𝐂:OzLP=}

と定めると、この集合の元は原点と テンプレート:Mvar が同じ側にあるような点からなる。テンプレート:Mvar のボレルポリゴン テンプレート:Math

ΠA=cl(PSAΠP)

となる。

ボレルと Phragmén の手による別の定義が用いられることもあるテンプレート:Harvテンプレート:Mvarテンプレート:Mvar が解析的となるような最大の星型領域とするとき、テンプレート:Math は任意の点 テンプレート:Math に対してテンプレート:Mvar を直径とする円の内部がテンプレート:Mvar に含まれるような、テンプレート:Mvar の最大の部分集合となる。この集合 テンプレート:Math多角形とは限らないので、「ポリゴン」と呼ぶことはいささか不適切ではあるが、しかし テンプレート:Math が特異点を有限個しか持たなければ テンプレート:Math は実際に多角形となる。ボレルと Phragmén による次の定理はボレル総和法に対する収束判定法を与える。

定理 テンプレート:Harv
B)の意味において、級数 テンプレート:Mathテンプレート:Math 上総和可能であり、テンプレート:Math 上発散する。

境界上の点 テンプレート:Math での総和可能性については、その点における級数の性質に依存する。

例1

正の整数 テンプレート:Mvarに対し、テンプレート:Math は1の テンプレート:Mvar 乗根を表すとする。次の級数

A(z)=k=0(ω1k++ωmk)zk=i=1m11ωiz

開球 テンプレート:Math 上収束する。テンプレート:Math 上の関数として テンプレート:Mathテンプレート:Nowrap を特異点に持ち、したがってボレルポリゴン テンプレート:Math は原点を中心とし、テンプレート:Math を辺の中心とする[[正多角形|正テンプレート:Math角形]] として与えられる。

例2

次の形式的べき級数

A(z)=k=0z2k

テンプレート:Math で収束する(たとえば、幾何級数との比較判定法による)。しかし、ある非負整数 テンプレート:Mvarに対して テンプレート:Math を満たすような任意の テンプレート:Math に対しては収束しないことが示される[2]。このような テンプレート:Mvar は単位円上で稠密に存在するため、テンプレート:Mathテンプレート:Math の外部へ解析接続することはできない。従って、テンプレート:Math を解析接続できる最大の星型領域は テンプレート:Math であり、ここからボレルポリゴン テンプレート:Mathテンプレート:Math となる。特に、ボレルポリゴンは必ずしも多角形とはならないことが判る。

タウバー型定理

タウバー型定理は、ある総和法の収束性が別の総和法の収束性を導く条件を提示する。ボレル総和に対する主なタウバー型定理は、弱-ボレル総和法での総和可能性から級数の収束性が導かれる十分条件を与える。

定理 テンプレート:Harv
テンプレート:Mathテンプレート:Math において(wB)の意味で収束してakz0k=a(z0)となり、かつすべての テンプレート:Math において
akz0k=O(k1/2)
が成立するとき、k=0akz0k=a(z0)が成立してかつ テンプレート:Math を満たすすべての テンプレート:Mvar で収束する。

応用

ボレル総和は、場の量子論における摂動展開へ応用される。特に、2次元ユークリッド場の理論では、しばしばボレル総和法を利用することで摂動級数からテンプレート:仮リンクを復元できることがあるテンプレート:Harv。ボレル変換の特異点には、場の量子論におけるテンプレート:仮リンクテンプレート:仮リンクと関連するものもあるテンプレート:Harv

脚注

テンプレート:脚注ヘルプ

  1. Hardy, G. H. (1992). Divergent Series. AMS Chelsea, Rhode Island.
  2. テンプレート:Cite web

参考文献

関連項目