絶対収束

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数学において、級数絶対収束(ぜったいしゅうそく、テンプレート:Lang-en-short)、あるいは元の数列絶対総和可能(ぜったいそうわかのう、テンプレート:Lang-en-short)であるとは、その各項の絶対値を取って得られる級数の和が有限の値になることをいう。

きちんと述べれば、実または複素級数 an

n=0|an|<

となるとき、絶対収束するテンプレート:En)という。

絶対収束が無限級数の研究において重要であるのは、それが有限和の場合に成立する(が必ずしも全ての収束級数が持つわけではない)性質を持つようにするために極めて強力な条件であるとともに、それ自身が一般的な内容を議論するのに(その強い制約条件にもかかわらず)十分広範な級数のクラスを定めるからである。

一般の定式化

ノルム・アーベル群の場合

各項 テンプレート:Mvar が任意の位相アーベル群の要素であるような列に対して、級数n=0anを考えることができる。

アーベル群 テンプレート:Mvar 上で定義された非負実数値関数 テンプレート:Math が次の条件

  1. テンプレート:Mvarテンプレート:Mvar の単位元 テンプレート:Math であるとき、かつそのときに限り テンプレート:Math,
  2. 全ての テンプレート:Math について テンプレート:Math,
  3. 全ての テンプレート:Math について テンプレート:Math

を満たすとき、テンプレート:Math はノルムと呼ばれる。このとき テンプレート:Mathテンプレート:Mvar距離空間の構造(とくに位相)を導く。

これにより、テンプレート:Mvar-値級数は n=0an< であるとき、絶対収束すると定義する。

とくに、実または複素級数の場合には、絶対値 テンプレート:Math をノルムとして、これらの主張がすべて満たされている。

半ノルム空間の場合

ノルム空間とは限らない位相線型空間においても、半ノルムの意味での「絶対」収束を論じることができる。位相線型空間 テンプレート:Mvar において、テンプレート:Mvar の元からなる(一般には非可算の)族 テンプレート:Math絶対総和可能であるとは、以下の二つの条件がみたされるときにいうテンプレート:Sfn:

  1. テンプレート:Mathテンプレート:Mvar において総和可能テンプレート:Efn;
  2. テンプレート:Mvar 上定義された任意の連続半ノルム テンプレート:Mvar に対し、実数からなる族 テンプレート:Math において総和可能。

テンプレート:Mvarノルム付け可能である場合には、テンプレート:Math が絶対総和可能であるとき、必然的に可算個の例外を除くすべての テンプレート:Mvarテンプレート:Math に等しい。

絶対総和可能族は核型空間の理論において重要な役割を果たす。

収束との関係

定理
絶対収束する実または複素級数は収束する。

これについて、完備性とコーシー列に基づく「コーシーの判定法」による簡明な証明がある:

証明
テンプレート:Math は実数列とし、テンプレート:Math は収束するとする。第 テンプレート:Mvar 部分和を テンプレート:Math と書くと、自然数 テンプレート:Math に対し、
|slsk|=|n=k+1lan|n=k+1l|an|
である。テンプレート:Math は収束するから、コーシーの定理により、任意のϵ>0に対し、あるNが存在し、N<k,lならばn=k+1l|an|<ϵとなるため、 |slsk|<ϵが言え、テンプレート:Mvarコーシー列である。従って テンプレート:Mvar はある点に収束する。
複素数列の場合は、テンプレート:Math とすると、テンプレート:Mathテンプレート:Math のため、テンプレート:Mathが絶対収束すればテンプレート:Mathテンプレート:Mathも絶対収束するため、実数の場合に帰着できる。(証明終り)

上記の証明ではコーシー列が収束するという完備性とノルムが満たす三角不等式のみが用いられているから、これは完備なノルム空間であるバナッハ空間に対するものに容易に修正できる:

定理
任意のバナッハ空間 テンプレート:Math において、絶対収束する級数は収束する

テンプレート:Math proof 逆に、絶対収束⇒収束が成り立つノルム空間はノルムの導く距離に関して完備、したがってバナッハ空間となることが示せる。 テンプレート:Math proof

収束するが絶対収束しないような級数は条件収束すると言う。このような級数の例として交項調和級数がある。級数の収束判定法の多くのもの、例えばダランベールの収束判定法コーシーの冪根判定法などは、絶対収束性を判定する。それは、実用的に重要な冪級数収束円の内部で絶対収束するためである。

無条件収束との関係

テンプレート:Main ノルムつきアーベル群 テンプレート:Mvar に値を持つ級数 n=0an と、自然数の置換 テンプレート:Mvar が与えられたとする。このとき、n=0aσ(n) は元の級数の並べ替え (rearrangement) と呼ばれる。任意の並べ替えが(置換の選び方によらず)同じ値に収束するとき、この級数は無条件収束すると言われるテンプレート:Efn

テンプレート:Mvar が完備なら絶対収束から無条件収束が導かれる。すなわち、ノルムつきアーベル群 テンプレート:Mvar がノルムに関して完備とすると、テンプレート:Mvar上の級数n=0an は絶対収束するなら無条件収束する。次節ではノルムが完備でない場合も含めて証明する。

定理
テンプレート:Mvar は一般の(完備性を仮定しない)ノルム空間上の列であり、i=1ai=A<, i=1ai< とする。テンプレート:Mvar は自然数 テンプレート:Mathbf の任意の置換とする。このとき、i=1aσ(i)=A である。すなわち収束かつ絶対収束する級数は無条件収束する。(完備とは限らない空間においては絶対収束性から収束性を導けないので、収束性と絶対収束性の両方を仮定する必要がある)

テンプレート:Math proof

実または複素数列に対しては、リーマンの級数定理の対偶として、無条件収束から絶対収束が導かれることも言える。すなわち、実または複素数列に対しては無条件収束と絶対収束は同値である。さらに、有限次元ノルム空間に値を持つような級数は、各次元に射影した成分が絶対収束するなら絶対収束するから、n値の列に対して絶対収束性と無条件収束性が同値であることを導くのは容易である。

一般のノルムつきアーベル群テンプレート:Mvar上の列においては、絶対収束と無条件収束は区別される。完備なノルム空間であっても無条件収束から絶対収束は導かれない。例えばヒルベルト空間2において、{en}n=1 を直交基底としたときの列 an=1nenによる級数は無条件収束するが絶対収束はしない。もっと一般に、Dvoretzky–Rogersの定理によれば、すべての無限次元バナッハ空間には無条件収束するが絶対収束しないような級数が存在する。テンプレート:Sfnテンプレート:Sfn

級数の積と絶対収束

積の分配法則

二つの絶対収束する実または複素級数の積もまた絶対収束する。すなわち二つの収束する級数 n=0an=A,n=0bn=B がともに絶対収束するならば、級数

nanmbm=mbmnan=(m,n)×anbm

は無条件収束、したがって絶対収束し、その値は テンプレート:Mvar に等しい。これは、絶対収束する級数同士の積においては、有限和の場合と同様に積と和の分配法則が成り立つことを意味する。テンプレート:Sfn 絶対収束級数は無条件収束、すなわち和の順序も自由に交換できるから、絶対収束する級数はおおむね有限和に近い性質を持つといえる。

コーシー積

テンプレート:Main 実または複素数を項とする二つの収束級数 n=1an,n=1bn のコーシー積とは、各級数の係数列の畳み込み cn=k=1nakbnk を項として定まる級数 ∑cn である。これは少なくともどちらか一方が絶対収束するならば、各級数の収束値の積に収束する。

定理
n=1an=A,n=1bn=B であるとき、その少なくとも一方が絶対収束ならば n=1cn=AB が成立する。テンプレート:Sfn

無限積

絶対収束は無限積の収束性を判定することもできる。

複素数列の級数i=1aiが絶対収束するならば、無限積i=1(1+ai)も収束する。

証明テンプレート:Sfn
i=1|ai|は仮定より収束するからその値を S とする。また、pn=(1+a1)(1+a2)(1+an)、およびy1=p1,yn=pnpn1=(1+a1)(1+a2)(1+an1)anとする。すると、pn=i=1nyiおよび、 yn=pn1an である。そこで
|pn|i=1n(1+|ai|)i=1nexp(|ai|)=exp(i=1n|ai|)
exp(i=1|ai|)=eS
より、
|yn|=|pn1an|eS|an|
となる。よってi=1|yi|eSi=1|ai|=eSS. すなわちi=1yiは絶対収束するから、i=1nyi=pn=i=1n(1+ai)も収束する。(証明終り)

積分の絶対収束

実数値または複素数値関数の、テンプレート:Math における定積分 Af(x)dx は、A|f(x)|dx< となるとき「絶対収束する」と言う。またこのとき テンプレート:Mvar絶対可積分と言う。

A=[a,b]を有界閉区間とすると、テンプレート:Mvar 上のすべての連続関数は可積分であり、テンプレート:Mvar が連続ならばテンプレート:Mathも連続だから、有界閉区間上のすべての連続関数は絶対可積分である。

しかし、[a,b]上の絶対可積分関数は可積分である、ということは一般にはいえない。それは次のような例を考えればわかる: S[a,b]はルベーグの意味で非可測な部分集合とし、χSテンプレート:Mvar定義関数とする。するとf:=χS12ルベーグ可測ではないが、|f|は定数関数12に一致して可積分関数である。よって関数fは可積分ではないが絶対可積分である。

標準的な結果としては、テンプレート:Mvarリーマン可積分(またはルベーグ可積分)なら テンプレート:Math も同様である、といえる。

一方で、関数テンプレート:Mvarヘンストック・カーツヴァイル積分 (テンプレート:Sname)またはゲージ積分可能であったとしても、テンプレート:Mathがそうであるとは限らない。これは広義リーマン可積分関数の例を含んでいる。 同じ様に テンプレート:Mvar が長さ無限の区間であるとき、絶対可積分でないような広義リーマン可積分関数が存在することはよく知られている。

実際のところ、任意の級数 n=0an が与えられたとき、fa([n,n+1))=an で定義される階段関数 fa:[0,) を考えることが出来る。このとき、0fadx は、対応する n=0anの収束性に応じて絶対収束、条件収束、あるいは発散する。

他にも、収束するが絶対収束しない広義リーマン積分の例として、sinxxdxがある。

任意の可測空間 テンプレート:Mvar において、実数値関数のルベーグ積分は正部分、負部分によって定義される。 そこで、次の事実

  1. テンプレート:Mvar が可積分なら テンプレート:Math も可積分。
  2. テンプレート:Mvar が可測なら テンプレート:Math の可積分性から テンプレート:Mvar の可積分性が導かれる。

は本質的にルベーグ積分の定義に組み込まれている。特にルベーグ積分論を集合 テンプレート:Mvar 上の可算測度に応用することで、ムーア (テンプレート:Sname) とスミス (テンプレート:Sname) によりネットを使って構成された級数の非順序和の概念を再構築できる。S= が自然数の集合のとき、ルベーグ可積分性と級数の非順序和可能性(無条件収束性)と絶対収束性は同値な概念になる。数え上げ測度も参照のこと。

最後に、これらのすべてはバナッハ空間に値を持つ積分に対しても成り立つ。バナッハ空間に値を持つリーマン積分の定義は普通の積分の自然な拡張である。 ルベーグ積分の拡張は、ダニエル (テンプレート:Sname) の関数解析的方法にともなう正値部分と負値部分への分解を回避するために絶対収束性が必要であり、ボホナー積分になる。

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脚注

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注釈

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出典

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参考文献