アーベル群
テンプレート:出典の明記 テンプレート:Group theory sidebar テンプレート:代数的構造 数学、特に抽象代数学におけるアーベル群(アーベルぐん、テンプレート:Lang-en-shortテンプレート:Efn)または可換群(かかんぐん、テンプレート:Lang-en-short)とは、交換法則を有する群である。マグマの分類の一つである。名称は、ノルウェーの数学者ニールス・アーベルに因むテンプレート:Sfnテンプレート:Efn。
アーベル群は環や体、環上の加群やベクトル空間といった抽象代数学の概念において、その基礎となる加法に関する群(加法群)としてしばしば生じる。任意の抽象アーベル群についても、しばしば加法的な記法(例えば群演算は "+" を用いて表され、逆元は負符号を元の前に付けることで表す)が用いられ、その場合に用語の濫用で「加法群」と呼ばれることがある。また任意のアーベル群は整数全体の成す環 テンプレート:Math 上の加群とみることができ、その意味でやはり用語の濫用だがアーベル群のことを「加群」と呼ぶこともある。
一般に可換群はテンプレート:仮リンクに比べて著しく容易であり、とくに有限アーベル群の構造は具さに知られているが、それでも無限アーベル群論はいまなお活発な研究領域である。
定義
テンプレート:Group-like structures テンプレート:Seealso 集合 G に二項演算("*" と書くことにする)が定義されていて、以下の条件
(ただし、a, b, c は G の任意の元)を全て満たすとき、G と演算 "*" の組 (G, *) をアーベル群という。考えている演算があきらかなときは省略して単に G をアーベル群と呼ぶ。
アーベル群ではしばしば演算子を "+" と記す。このとき単位元を零元と呼んで 0 などで表し、逆元も −a のように負符号を用いて表してマイナス元あるいは反数ともよぶ。また、a + (−b) は a − b と書かれ、a から b を引くという減法が定義される。このような記法を加法的な記法と呼び、対して先に述べたような通常の群でよく使われる記法を乗法的な記法ということがある。アーベル群の定義を加法的に記せば
- 結合法則: .
- 零元の存在: .
- マイナス元の存在: .
- 交換法則: .
のようになる。
例と反例
- 整数全体、有理数全体、実数全体、複素数全体の各集合は、全て算術的加法とアーベル群を成す。
- 自然数全体の集合は、可逆性の公理に反する(算術的減法について閉じていない)ため、算術的加法とはアーベル群を成さない。
- 乗法に関し、有理数全体の集合 Q は 0 の逆元が無いので群にならないが、Q から 0 を除いた集合(これを慣習的に Q* と書く)で乗法を考えたものは群になり(乗法群と言われる)、これもアーベル群の例である。同様に、0 以外の実数全体 R* や 0 以外の複素数全体 C* も乗法に関してアーベル群となる。また例えば 0 以外の整数の全体 Z* は乗法に関して群にはならないが、その部分集合 {±1} は乗法に関するアーベル群である。
- 楕円曲線 y2 = x3 + ax + b の解集合には、加法を定義することができ、アーベル群になる。
性質
自然数 テンプレート:Mvar と加法的に書かれたアーベル群 テンプレート:Mvar の元 テンプレート:Mvar に対して、テンプレート:Mvar の テンプレート:Mvar-重累加(n 個の和)を テンプレート:Math とし、テンプレート:Math と定めれば、これにより、 テンプレート:Mvar を "整数全体の成す可換環 テンプレート:Math 上の加群" とみなすことができる。実は テンプレート:Math-加群の概念をアーベル群の概念と同じものと考えることができる。
(主イデアル整域たる テンプレート:Math 上の加群としての)アーベル群に関する諸定理は、しばしば任意の主イデアル整域上の加群に関する定理にまで一般化することができる。その典型が有限生成アーベル群の分類定理であり、これをPID上有限生成加群の構造定理の特別の場合とみることができる。有限生成アーベル群の場合、この定理によりそのような任意のアーベル群がねじれ群と自由アーベル群の直和に分解できることが保証される。そのときのねじれ群は、適当な素数 テンプレート:Mvar に対する素冪位数巡回群 テンプレート:Math の形の群の有限個の直和であり、自由アーベル群は無限巡回群 テンプレート:Math の有限個のコピーの直和になっている。
アーベル群の間の二つの群準同型 テンプレート:Math に対し、それらの和 テンプレート:Math は テンプレート:Math で定義され、これもまた一つの群準同型を与える(これが準同型となるために テンプレート:Mvar の可換性は必要である)。これにより、テンプレート:Mvar から テンプレート:Mvar への群準同型全体の成す集合 テンプレート:Math はそれ自身ひとつのアーベル群となる。
ベクトル空間の次元のようなものとして、任意のアーベル群は階数と呼ばれるものを持つ。整数の加法群 テンプレート:Math および有理数の加法群 テンプレート:Math は階数 テンプレート:Math であり、テンプレート:Math の任意の部分群についても同様である。
一般の群 テンプレート:Mvar の中心 テンプレート:Math は テンプレート:Mvar の任意の元と交換する テンプレート:Mvar の元全体の成す部分群であった。明らかに群 テンプレート:Mvar が可換であるための必要十分条件は テンプレート:Mvar が中心 テンプレート:Math に一致することである。中心 テンプレート:Math は必ず テンプレート:Mvar の特性部分アーベル群となる。中心で割った剰余群 テンプレート:Math が巡回群ならば テンプレート:Mvar はアーベルである[1]。
有限アーベル群
テンプレート:Main 整数全体のなす加法群の法 テンプレート:Mvar に関する剰余類の成す巡回群 [[剰余類環|テンプレート:Math]] は有限アーベル群のもっとも単純な例として挙げることができるが、逆に任意の有限アーベル群は適当な素数冪に対するこの形の有限巡回群の直和に同型であり、そのときそれら直和因子の位数は全体として一意に決定され、与えられた有限アーベル群の不変系 (complete system of invariants) と呼ばれる。有限アーベル群の自己同型群はその不変系によって直接的に記述することができる。有限アーベル群の理論はフロベニウスとテンプレート:仮リンクの1879年の論文に始まり、のちに整理され主イデアル整域上の有限生成加群にまで一般化されて、線型代数学の重要な章を成すものとなった(単因子論)。
素数位数の任意の群は巡回群に同型であり、ゆえにアーベル群である。また、位数が素数の平方であるような任意の群はアーベル群となる[2]。実は任意の素数 テンプレート:Mvar に対して位数 テンプレート:Math の群は、同型を除いて テンプレート:Math と テンプレート:Math のちょうど二種類しかない。
- 有限アーベル群の基本定理
- 任意の有限アーベル群 テンプレート:Mvar は素冪位数の巡回群の直和に表される。
これは有限生成アーベル群の基本定理の特別の場合(階数 テンプレート:Math の場合)である。位数 テンプレート:Mvar の巡回群 テンプレート:Math が テンプレート:Math と テンプレート:Math の直和に同型となるための必要十分条件は テンプレート:Mvar と テンプレート:Mvar が互いに素となることである(中国の剰余定理)。これにより任意の有限アーベル群 テンプレート:Mvar が
なるかたちの直和に同型となることが従うが、位数 テンプレート:Mvar に関しては標準的に二種類:
- 各数 テンプレート:Math はそれぞれ適当な素数の冪である
- テンプレート:Math は テンプレート:Math を割り切り、テンプレート:Math は テンプレート:Math を割り切り、… テンプレート:Math は テンプレート:Math を割り切る
の仮定のうちの何れかを課すことで一意に定まる。
無限アーベル群
もっとも単純な無限アーベル群は無限巡回群 テンプレート:Math である。任意の有限生成アーベル群 テンプレート:Mvar は テンプレート:Math の適当な テンプレート:Mvar 個のコピーと有限個の素冪位数巡回群の直和に分解可能なアーベル群との直和に同型である。この場合、分解は一意ではないけれども、上記の定数 テンプレート:Mvar は一意に定まり(テンプレート:Mvar の階数と呼ばれる)、分解に現れる素数冪は全体として有限巡回直和因子すべての位数を一意的に決定する。
これと対照に、一般の無限生成アーベル群の分類は完全とは程遠いものしか知られていないことを理解しなければならない。可除群(任意の自然数 テンプレート:Mvar と テンプレート:Math に対し方程式 テンプレート:Math が常に解 テンプレート:Math を持つような群 テンプレート:Mvar)は完全な特徴づけが知られている無限アーベル群の重要なクラスの一つである。任意の可除群は、有理数の加法群 テンプレート:Math といくつか適当な素数 テンプレート:Mvar に対するプリューファー群 テンプレート:Math を直和因子に持つ直和に同型で、それぞれの種類の直和因子の数は濃度の意味で一意に決定されるテンプレート:Efn。さらに言えば、可除群 テンプレート:Mvar が何らかのアーベル群 テンプレート:Mvar の部分群となるとき、テンプレート:Mvar は テンプレート:Mvar における直和補因子を持つ(すなわち、テンプレート:Mvar の適当な部分群 テンプレート:Mvar で テンプレート:Math なるものがとれる)。したがって、可除群はアーベル群の圏における入射対象であり、逆に任意の入射アーベル群は可除である(テンプレート:仮リンク)。非零可除部分群を持たないアーベル群は被約 (reduced) であるという。
対極的な性質を持つ無限アーベル群の重要な二つのクラスに、テンプレート:仮リンクとテンプレート:仮リンクがある。例えば、加法群の商 テンプレート:Math はねじれアーベル群の、加法群 テンプレート:Math はねじれのないアーベル群のそれぞれ例になっている。
ねじれ群でもねじれのない群でもないアーベル群は混合群 (mixed group) という。アーベル群 テンプレート:Mvar とその(最大)ねじれ部分群 テンプレート:Math に対して、剰余群 テンプレート:Math はねじれがない。しかし一般に、ねじれ部分群は テンプレート:Mvar の直和因子とは限らない(つまり テンプレート:Mvar は テンプレート:Math に同型でない)から、混合群の理論はねじれ群とねじれのない群の理論を単純に合わせればよいという話にはならない。
関連項目
脚注
注釈
出典
参考文献
- テンプレート:Citation
- テンプレート:Cite book Unabridged and unaltered republication of a work first published by the Cambridge University Press, Cambridge, England, in 1978.