ゲルファント=ナイマルクの定理
作用素環論において、ゲルファント=ナイマルクの定理(—のていり、テンプレート:Lang-en-short)は、C*環の基本構造定理である。単位的可換C*環があるコンパクト・ハウスドルフ空間上の連続な複素数値関数のなす関数環と等距離∗同型となることを主張する。1943年にロシアの数学者イズライル・ゲルファントとテンプレート:仮リンクによって導かれた[1][2]。C*環の構造を分類する基本定理であるともに、位相群上の抽象調和解析や正規作用素のスペクトル理論に応用される。圏論的な観点では、局所コンパクト・ハウスドルフ空間のなす圏と可換なC*環のなす圏の反変同値を意味しており[3]、アレクサンドル・グロタンディークによるスキーム理論の形成にも影響を与えた。なお、可換とは限らない一般のC*環については、あるヒルベルト空間上の有界作用素がなすC*環と等距離∗同型となるが、この定理もゲルファント=ナイマルクの定理と呼ばれる。可換及び非可換なC*環における構造を示した二つのゲルファント=ナイマルクの定理は、アラン・コンヌによる非可換幾何の創設の動機付けの一つともなっている。
導入
C*環 テンプレート:Mvar は有界作用素の有する性質を抽象化した複素数体 テンプレート:Math 上の多元環であり、積 テンプレート:Mvar、和 テンプレート:Math、複素数倍 テンプレート:Mvar の演算(テンプレート:Math, テンプレート:Math)に加えて、対合と呼ばれる随伴作用に対応する作用 テンプレート:Math を持つ。さらに、テンプレート:Mvar にはノルム テンプレート:Math が付随し、ノルムから定まる一様位相についてバナッハ空間である。加えて テンプレート:Mvar において、ノルムは劣乗法性 テンプレート:Math を満たすとともに、C*性と呼ばれる条件 テンプレート:Math を満たす。
可換なC*環の例としては、コンパクト・ハウスドルフ空間 テンプレート:Mvar 上の連続な複素数値関数のなす集合 テンプレート:Math が挙げられる。テンプレート:Math に積を各点毎に テンプレート:Math で、対合を複素共役 で定義し、ノルムを一様ノルム テンプレート:Math とする。このとき、テンプレート:Math は単位元として定数関数 テンプレート:Math を持つ可換な単位的なC*環となる。
また、非可換なC*環の例としては、ヒルベルト空間 テンプレート:Mvar 上の有界作用素のなす代数 テンプレート:Math が挙げられる。ここで、ノルムは作用素ノルム で与えられ、対合は内積 テンプレート:Math に対し、 を満たす随伴作用素 テンプレート:Math により定義される。
二つのゲルファント=ナイマルクの定理は、抽象的に定義されたC*環の構造がこれらの例に分類できることを述べている。
可換なC*環のゲルファント=ナイマルクの定理
テンプレート:Mvar を乗法における単位元を持つ可換なC*環とする。このとき、テンプレート:Mvar はあるコンパクト・ハウスドルフ空間 テンプレート:Mvar 上の複素数値連続関数のなす関数環 テンプレート:Math と等距離∗同型である。テンプレート:Mvar が単位元を持たない場合には、テンプレート:Mvarはある局所コンパクト・ハウスドルフ空間 テンプレート:Mvar 上の無限遠で消える複素数値連続関数のなす関数環 テンプレート:Math 上と等距離∗同型となる。
定理の証明の本質的部分は、可換な単位的C*環 テンプレート:Mvar 上の指標全体がなす空間 がコンパクト・ハウスドルフ空間であり、テンプレート:Mvar から へのゲルファント変換 と呼ばれる写像が等距離∗同型を与えることによる。ここで指標 テンプレート:Mvar とは、テンプレート:Mvar から複素数体 テンプレート:Math への恒等的にゼロではない線形汎関数で、準同型性 テンプレート:Math を満たすものである。
もう一つのゲルファント=ナイマルクの定理
可換とは限らない任意のC*代数 テンプレート:Mvar はあるヒルベルト空間 テンプレート:Mvar 上の有界作用素のなす具体的なC*代数 テンプレート:Math と等距離∗同型となる。この定理もゲルファント=ナイマルクの定理と呼ばれ、可換なC*代数の場合と同じ1943年の論文の中でゲルファントとナイマルクによって示された。
この結果は、GNS表現と呼ばれる テンプレート:Mvar の特別な表現、すなわち、 テンプレート:Mvar からヒルベルト空間の テンプレート:Math への∗準同型 テンプレート:Mvar の存在に基づき、導かれる。GNS表現では、状態と呼ばれる テンプレート:Mvar から複素数体 テンプレート:Math への規格化された正値線形汎関数 テンプレート:Mvar により、あるヒルベルト空間 テンプレート:Mvar への表現 テンプレート:Math を導入することができる。テンプレート:Mvar を状態全体からなる集合としたときに、GNS表現の族 テンプレート:Math から直和表現による普遍表現
を構成すると、これは テンプレート:Math を満たす忠実な表現であり、 テンプレート:Mvar は テンプレート:Math と等距離∗同型となる。
脚注
関連項目
- ↑ I. M. Gelfand and M. A. Naimark, "On the imbedding of normed rings into the ring of operators on a Hilbert space," Mat. Sbornik N. S. 12 (2) pp. 197–217 (1943)
- ↑ Robert S. Doran and Josef Wichmann, "The Gelfand-Naimark theorems for C* -algebras," Enseignement Math. 23 pp. 153–180 (1977) テンプレート:Doi
- ↑ Joan W. Negrepontis, "Duality in analysis from the point of view of triples," J. Algebra 19 pp. 228–253 (1971) テンプレート:Doi