コンパクト空間

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位相空間がコンパクトテンプレート:Lang-en-short, テンプレート:IPA[1])であるとは、後述する所定の性質を満たす「性質の良い」空間であり、n上の有界閉集合の性質を抽象化したもの。

「完閉」という訳語もあるが、ほとんど使われていない。

位相空間テンプレート:Mvarの部分集合テンプレート:Mvarに対し、テンプレート:Mvarテンプレート:Mvarにおける閉包がコンパクトであるときテンプレート:Mvarテンプレート:Mvar相対コンパクトテンプレート:Lang-en-short)であるという。

なおブルバキなどでは、本項でいうコンパクトを準コンパクト(テンプレート:Lang-en-short)、準コンパクトでハウスドルフの分離公理を満たすものをコンパクトと定義することもある。これは現代でも代数幾何学においては慣習的にそうである。

概要

動機

nの有界閉集合テンプレート:Mvarは位相空間として「性質が良く」、例えば以下が成立する事が知られている:

このような「性質の良い」空間を一般の位相空間に拡張して定義したものがコンパクトの概念である。


ただし、「nの有界閉集合」という概念自身は、「有界」という距離に依存した概念に基づいているため、一般の位相空間では定義できず、別の角度からコンパクトの概念を定義する必要がある。


そのために用いるのがボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理ハイネ・ボレルの被覆定理である。これらの定理はいずれも「nの有界閉集合であれば◯◯」という形の定理であるが、実は逆も成立する事が知られており、nにおいては

  1. 有界閉集合である事
  2. ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理の結論部分
  3. ハイネ・ボレルの定理の結論部分

の3つは同値となる。しかも上記の2,3はいずれも位相構造のみを使って記述可能である。


したがって2もしくは3の一方を満たす(同値なので実は2,3の両方を満たす)事をもってコンパクト性を定義する。ただしテクニカルな理由により、上記の2に関しては若干の補正が必要になるが、これについては後述する。

2種類の同値な定義

コンパクトの概念は以下に述べる同値な2性質の少なくとも一方(したがって両方)を満たす事により定義される。

ボルツァーノ・ワイエルシュトラス性による定式化

1つ目の性質は(有向点族に対する)ボルツァーノ・ワイエルシュトラス性といい、これはnの有界閉集合に対するボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理の結論部分を若干拡張した形で定式化したものである。この性質は直観的には点列の拡張概念である有向点族の極限が発散する事がない事を意味する。

コンパクトな空間では有向点族がテンプレート:Mvarの「外」に「発散」する事がないので、テンプレート:Mvar内で「収束」するか「振動」するかのいずれかとなる[注 1]。よって任意の有向点族には収束する部分列が取れるはずであり、厳密にはこの事実を持ってコンパクト性を定義する。

コンパクトな空間は「テンプレート:Mvarの外に発散する有向点族がない」という意味において、閉集合よりもさらに「閉じた」空間だと言え、実際ハウスドルフ空間においてはコンパクトな部分集合は必ず閉集合になる事が知られている。こうした事情から、コンパクトな空間には「閉」という接頭辞をつけて呼ぶ事があり、例えばコンパクトな多様体は「閉多様体」と呼ばれる[注 2]

ハイネ・ボレル性による定式化

コンパクトを特徴づける2つ目の性質(前述のようにこれはボルツァーノ・ワイエルシュトラス性と同値)はハイネ・ボレル性といい、これはnの有界閉集合に対するハイネ・ボレルの被覆定理の結論部分に相当する性質である。

ハイネ・ボレル性は非常に抽象的な性質なので、その詳細は後の章に譲るが、コンパクトな空間に対する定理を証明する際、無限に伴う証明の困難さを回避するのにこの性質を用いる事ができる。なお、学部レベルの教科書ではハイネ・ボレル性の方をコンパクトの定義として採用しているものが多い。

距離空間における特徴づけ

テンプレート:Mvar距離空間(もしくはさらに一般的に一様空間)であれば、上記2つのいずれとも異なる角度からコンパクト性を特徴づける事ができる。距離空間テンプレート:Mvarがコンパクトである必要十分条件はテンプレート:Mvar全有界かつ完備である事である。ここで全有界性とは、有界性を強めた条件で、任意のテンプレート:Mathに対し、テンプレート:Mvarが有限個のテンプレート:Mvar-球の和集合で書ける事を意味する。また完備性テンプレート:Mvar上のコーシー列が必ず収束する事を意味する。

距離空間においてコンパクトの概念は、点列コンパクト性と呼ばれる性質とも同値になる。これは前述したボルツァーノ・ワイエルシュトラス性が点列に対して成立するという趣旨の概念である。この概念は一般にはコンパクト性よりも弱いが、距離空間であればコンパクト性と同値になる事が知られている。

ベクトル空間における特徴づけ

もしくは上の有限次元ベクトル空間(あるいはより一般に有限次元の完備リーマン多様体)の部分集合テンプレート:Mvarがコンパクトである必要十分条件は、テンプレート:Mvarが有界閉集合である事である。それに対し無限次元ベクトル空間の場合は有界閉集合であってもコンパクトにならない場合がある。前述のように距離空間においてはコンパクト性は全有界かつ完備な事と同値だが、無限次元のベクトル空間の場合は全有界ではない有界閉集合が存在するからである。

なお、もしくは上のノルム空間テンプレート:Mvarの閉単位球がコンパクトである必要十分条件はテンプレート:Mvarが有限次元である事である(リースの補題から直接従う)。ただし以上の議論はテンプレート:Mvarにノルムから定まる位相を入れた場合の話であり、それ以外の位相を入れた場合はこの限りではない。例えばテンプレート:Mvarの双対空間テンプレート:Mvarに*弱位相を入れた場合、テンプレート:Mvarの閉単位球は(たとえテンプレート:Mvarが無限次元であっても)コンパクトである(バナッハ・アラオグルの定理)。

ボルツァーノ・ワイエルシュトラス性によるコンパクトの定義

すでに述べたようにコンパクト性には2種類の同値な定義がある。本章ではこの2つの定義のうち、ボルツァーノ・ワイエルシュトラス性による定義について述べる。

有向点族

テンプレート:Main本節ではボルツァーノ・ワイエルシュトラス性の定式化に必要な概念である有向点族の概念を導入する。有向点族とは有向集合を添え字とする族である: テンプレート:Math theorem なお、有向集合の二項関係「≤ 」は、反射律と推移律を満たすのものの反対称律は満たす必要がないので、前順序ではあるものの順序の定義は満たしていない。

点列と同様、有向点族に対して収束概念や部分有向点族の概念を定義する事ができる。詳細は有向点族の項目を参照されたい。

有向点族の概念は、点列概念と違い、添字が可算である事も全順序である事も要求しない。この事が有向点族に点列にはない優位性をもたらしており、例えば有向点族の収束の概念を用いれば、閉集合など位相空間の諸概念を特徴づける事ができる事が知られているが、点列の場合はそうではない。なぜなら点列概念は添字が可算である事が原因となり、点列で閉集合を特徴づけるには位相空間の方にも何らかの可算性を要求する必要が生じてしまうからである。詳細は列型空間を参照。

定義

テンプレート:Math theorem

上記の定義は、𝐑n上の有界閉集合に関するボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理の結論部分を有向点族に自然に拡張したものである: テンプレート:Math theoremなお、コンパクトの定義において、元々のボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理と同様、有向点族ではなく点列に対してのみ収束部分列を要求したものを点列コンパクト性と呼ぶが、点列コンパクト性は距離空間においてはコンパクト性と同値(より一般的に擬距離空間でも同値)であるものの、無条件にはこの同値性は成立しない。点列コンパクト性に関する詳細は後述する。

ハイネ・ボレル性によるコンパクト性の定義

次にコンパクトの概念を全く違う角度から特徴づける。この特徴付けの基盤となるのは𝐑nの有界閉集合に対するハイネ・ボレルの被覆定理である。そこでまず、この定理の記述に必要な概念を定義する。

テンプレート:Math theorem

定義

コンパクト性の概念は以下のように特徴づける事ができる:テンプレート:Math theorem テンプレート:Math theorem

上述の定義における𝒯の事を𝒮有限部分被覆という。

もともとのハイネ・ボレルの定理は以下のように記述できる:テンプレート:Math theorem

後述するように、実は逆向きも成立する事が知られているので、nにおいてはコンパクト性は有界閉集合である事と同値である。なお、一般の距離空間では「コンパクト部分集合⇒有界閉集合」は言えるが逆向きは成立するとは限らない。

有限交差性

ハイネ・ボレル性による定義における「開集合」の補集合を取って「閉集合」とし、さらに対偶を取る事で、コンパクト性の以下の特徴づけが得られる:テンプレート:Math theorem テンプレート:Math theoremこの条件は区間縮小法の一般化になっているとみなすことができ、位相空間における存在証明に重要な役割を果たす。

利用例

ハイネ・ボレル性は定理の証明などでテンプレート:Mvarの各点テンプレート:Mvarの近傍Ox上で局所的に示されている性質をテンプレート:Mvar全体に広げる際に用いられる。この場合、ハイネ・ボレル性でいう開被覆𝒮は典型的には各点の近傍の集合𝒮={OxxX}であり、ハイネ・ボレル性はこの無限個の開集合からなる開被覆から有限部分被覆𝒯を抽出して、無限に伴う証明の困難さを回避する事を可能にする。

具体的には以下の定理の証明をもとに、ハイネ・ボレル性の使い方を説明する:テンプレート:Math theorem

この定理は、ハイネ・ボレル性を利用して以下のように証明する。まずテンプレート:Mvarの連続性により、任意にテンプレート:Mathを固定するとき、テンプレート:Mvarの各点テンプレート:Mvarの、あるテンプレート:Math-近傍がf(Bδx(x))Bε(f(x))を満たす。ここでBε(y)は点テンプレート:Mvarε-近傍を表す。

このδxテンプレート:Mvarに依存しているが、もしも正数εを与えたときにf(Bδ(x))Bε(f(x))を満たす正数テンプレート:Mvarが点テンプレート:Mvarに依らずに選べるのであればfXにおける一様連続性が言える。そのようなテンプレート:Mvarを見つける単純な方法は

δ=infxXδx

とする事だが、テンプレート:Mvarの選択は無限にあるので、テンプレート:Mvarは0になる可能性があるからうまくいかない。

そこでハイネ・ボレル性を使って開被覆𝒮={Bδx/2(x)|xX}の有限部分被覆𝒯={Bδxi/2(xi)|i=1,,n}を選び、

δ=miniδxi/4

とすればδxi個数は有限個なのでテンプレート:Mathであることが保証される。

しかも𝒯テンプレート:Mvarを被覆している事から、任意のテンプレート:Mathに対し、xBδxi(xi)となるテンプレート:Mvarが存在して、

f(Bδ(x))f(Bδi(x))Bε(f(x))

となることからfXにおける一様連続性が言える。

それ以外の特徴づけ

コンパクト性は、有向点族と本質的に同値な概念であるフィルターの収束によっても特徴づけられる。また普遍有向点族やその対応概念である超フィルターを用いても特徴づける事ができる。これまでに述べて特徴づけも含め、こうしたコンパクト性の様々な特徴づけを列挙するテンプレート:Math theorem

性質

閉集合

コンパクトな位相空間の部分集合に関し、以下が言える:

  • コンパクト空間の部分集合が閉集合ならコンパクトである。
  • ハウスドルフの分離公理を満たす位相空間のコンパクト部分集合は閉集合である。

したがってコンパクトかつハウスドルフな位相空間(コンパクトハウスドルフ空間)では部分集合Aが閉集合である事とAがコンパクトである事は同値である。

コンパクト性の遺伝

  • コンパクト空間から位相空間への連続写像の像はコンパクト集合である。
  • (有限個または無限個の)コンパクト空間の直積はコンパクトである。(チコノフの定理。この定理はZF のもとで選択公理と同値である[2]

その他

  • コンパクト空間からハウスドルフ空間への連続な全単射写像は同相写像である。
  • コンパクト空間から実数体への連続関数は一様連続である。(ここから連続関数がリーマン可積分であることが言える)
  • コンパクトハウスドルフなら正規[3]

距離空間におけるコンパクトの特徴づけ

X距離空間であれば、コンパクト性をまた別の方法で特徴づける事ができる。まずは結論となる定理を提示し、それから定理の記述に必要な概念を順に導入する。

テンプレート:Math theorem

定理の記述に必要な諸概念

全有界性

距離空間テンプレート:Mvarが全有界であるとは任意の ε > 0 に対し、X を半径 ε の有限個の開球で被覆する事ができる事を指す:

テンプレート:Math theorem

全有界性は以下のようにも特徴づけられる事が知られている:

テンプレート:Math theorem

完備性

テンプレート:Math theorem 詳細は完備距離空間の項目を参照されたい。

点列コンパクト

位相空間が点列コンパクトとは、一般の有向集合ではなく点列に対してのみボルツァーノ・ワイエルシュトラス性が保証される事を意味する[注 3]テンプレート:Math theoremコンパクトと点列コンパクトの同値性は擬距離空間でも成立するが、無条件には成立しない。点列コンパクト性に関する詳細は後述する。

有限次元ベクトル空間におけるコンパクト性

テンプレート:Anchors距離空間においてはコンパクト性と「全有界かつ完備」が同値になる事をユークリッド空間に適用すると、以下の系が従う:テンプレート:Math theorem

より正確に言うと有限次元のユークリッド空間や完備リーマン多様体の部分集合に対しては、有界性と全有界性が同値であり、完備性と閉集合である事が同値である。これらの事実は簡単に証明できる。

一様空間への一般化

コンパクト性と「全有界かつ完備」が同値になる事は距離空間よりも一般的な一様空間でも成立する: テンプレート:Math theorem

一様空間の定義は当該項目を参照されたい。一様空間における全有界性と完備性は以下のように定義される:テンプレート:Math theoremテンプレート:Math theorem 上で「少なくとも1つ極限を持つ」という言い方をしているのは、𝒰が定める位相構造がハウスドルフでない限り、有向点族の収束の一意性は保証されないからである。

Niemytzki-Tychonovの定理

擬距離化可能空間においてコンパクト性は以下のようにも特徴づける事ができる:テンプレート:Math theorem

無限次元空間におけるコンパクト性

すでに述べたように、有限次元ベクトル空間やより一般に有限次元の完備リーマン多様体の部分集合に対してはコンパクト性は有界閉集合と等しい。一方無限次元の空間の場合は、どのような空間にどのような位相を入れるかにより結論が異なる。

無限次元ベクトル空間

ノルムから位相を入れた場合

ノルムから位相を入れたベクトル空間(ノルム空間)に対してはリースの補題から直接的に次の事実が従う: テンプレート:Math theorem

テンプレート:Anchors

この定理を具体例を通して説明すると、例えば2空間

2={x=(xn)nnxn2<}

にℓ2ノルム

x=(nxn2)12

から定まる距離を入れた空間の閉単位球

B={x2x1}

はコンパクトではない

実際、

𝕖n=(δn,k)k

とすると(ここでテンプレート:Mvarクロネッカーのデルタ)、

𝕖n𝕖m=2 for テンプレート:Math

であるので、(𝕖n)nBのいかなる部分列(𝕖ni)iもコーシー列の条件

limi,j𝕖ni𝕖nj=0

を満たしえず、したがって(𝕖n)nBは収束部分列を持たない為点列コンパクトではなく、よってコンパクトでもない。

2空間の閉単位球テンプレート:Mvarがコンパクトにならない原因は、テンプレート:Mvarは有界であっても全有界ではないからである。実際、𝕖n𝕖m=2 for テンプレート:Mathであるので、ε<2/2を満たす正数テンプレート:Mvarに対しては、各𝕖1,𝕖2,を覆うために一つずつテンプレート:Mvar-球を用いる必要があるので、可算無限個のテンプレート:Mvar-球が必要となり、全有界ではない。

*弱位相の場合

一方、無限次元空間であってもノルムから定まる位相以外の位相に関しては閉単位球がコンパクトになる事もある:テンプレート:Math theoremここでノルム空間テンプレート:Mvar双対空間テンプレート:Mvarテンプレート:Mvar上のテンプレート:Mvar値連続線形写像全体を関数としての和と定数倍によりベクトル空間とみなしたものであり、*弱位相とはテンプレート:Mathに対し、

μx:αV*α(x)K

とするとき、テンプレート:Mvarが全て連続になるテンプレート:Mvar上の最弱の位相の事である。なおテンプレート:Mvar作用素ノルムによりノルム空間とみなせ、上記の定理で言う「閉単位球」はこのノルムに関する閉単位球の事である。

*弱位相はハウスドルフ性を満たす事が知られており、コンパクトな空間の閉部分集合はコンパクトなので、以下の系が成立する:テンプレート:Math theoremなお、テンプレート:Mvarが再帰的であればテンプレート:Mvar上の弱位相に関しても同様な事が成立する事が知られているが、再帰的でない場合には反例がある事が知られている[4]

注意しなければならないのは、*弱位相における有界閉集合には内点が無く、有界閉集合上の点は必ず境界点になる事である。これはすなわち、たとえ閉単位球がコンパクトであっても*弱位相をいれたテンプレート:Mvarが後述する局所コンパクトにはなっていない事を意味する。

コンパクト空間の直積

本節では位相空間の(有限個または無限個の)直積には2種類の位相が入り、コンパクト空間の無限個の直積に前者の位相を入れた場合はコンパクトになるが、後者の位相を入れた場合はそうなるとは限らない事を見る。

直積位相と箱型積位相

(Xλ)λΛを位相空間の族するとき、λΛXλには以下の2種類の位相が入る。 テンプレート:Math theoremこれら2つの位相は有限個の直積X1××Xnを考えている場合は同一であるが、無限積を考えた場合には箱型積位相のほうが直積位相よりも強い(弱くない)位相になる。これを見るために直積位相を具体的に書き表すと、以下のようになる事が知られている:テンプレート:Math theoremΛが無限集合のときは、「有限個のλを除いて…」という条件が原因で、箱型積位相と差が生じる。例えば1,2,の(可算)無限個のコピーとし、U1,U2,U=(0,1)の無限個のコピーとするとき、直積

iUi

は直積位相に関して

ii

の開集合ではない。実際、前述の「有限個を除いて…」という条件を満たしておらず、条件をみたすものの和集合としても書けないからである。

チコノフの定理

コンパクト空間の(有限個または無限個の)直積に直積位相位相を入れたものはコンパクトである:テンプレート:Math theorem

なおチコノフの定理は(ZF公理系を仮定した上で)選択公理と同値である事が知られている[5]

チコノフの定理より例えば上の単位区間I=[0,1]の無限個のコピーI1,I2,の直積iIiに直積位相を入れたものはコンパクトである。

一方iIiに箱型積位相を入れたものはコンパクトではない。実際、x=(xi)iiIiに対し、ノルムを

x=supi|xi|

と定義すると、箱型積位相はこのノルムから定まる位相と一致する事を簡単に確かめる事ができる。そこで𝕖n=(δn,k)kとして無限次元ノルム空間の場合と同様の議論でコンパクトでない事を示せる。

コンパクト化

位相空間Xコンパクト化とは X をコンパクトな位相空間に稠密に埋め込む操作を指す。コンパクトな空間は数学的に取り扱いやすい為、X をそのような空間に埋め込む事で X の性質を調べやすくする事ができる。コンパクトでない位相空間に一点付け加えるだけでコンパクト化する方法が必ず存在する(アレクサンドロフの一点コンパクト化)他、いくつかのコンパクト化の方法が知られている。実用上は X の構造を保つなど、X の性質が調べやすくなるコンパクト化の方法を選ぶ必要がある(例えば X が多様体であるときにコンパクト化 K として多様体になるものを選ぶ等)。 テンプレート:See also

関連概念とその関係性

コンパクト性は位相空間論における重要概念の一つなので、コンパクト性の定義を拡張したり修正したりした概念が複数存在する。本節ではこうした概念を紹介し、それらの関係性を述べる。

可算コンパクト、点列コンパクト、擬コンパクト

テンプレート:Anchorsこれらの概念は以下のように定義される。点列コンパクトの定義は前の章ですでに述べたがが再掲している:

名称 名称(英語) 定義
可算コンパクト countably compact space テンプレート:Mvarの任意の可算開被覆𝒮は有限部分開被覆𝒯𝒮を持つ。ここでテンプレート:Mvar可算開被覆𝒮とは開被覆で可算集合であるものをいう。
点列コンパクト sequentially compact space X 上の任意の点列は収束部分列を持つ事を指す。すなわち X 上の任意の点列 {xn}n に対し適当な部分列 {xni}i を取れば {xni}iX 上のいずれかの点に収束する事を指す。点列コンパクト性の事を点列に対するボルツァーノ・ワイエルシュトラス性とも言う。
擬コンパクト pseudocompact テンプレート:Mvarから実数体への連続関数 f が必ず有界となる

これらの概念は以下の関係性を満たす:テンプレート:Math theorem 擬距離化可能な空間ではこれら4つの概念は同値である:テンプレート:Math theoremテンプレート:Mvarが擬距離化可能とは限らない場合はこれらは同値とは限らないが、以下のような関係を満たす:テンプレート:Math theorem

局所コンパクト、σ-コンパクト、リンデレーフ、パラコンパクト、メタコンパクト

これらは以下のように定義される:

名称 名称(英語) 定義
局所コンパクト locally compact テンプレート:Mvarの任意の点がコンパクトな近傍を持つ事。
σ-コンパクト(しぐま-) σ-compact space テンプレート:Mvarは可算個のコンパクト集合の和集合として書ける
リンデレーフ Lindelöf space X の任意の開被覆は可算部分被覆を持つ
パラコンパクト paracompact テンプレート:Mvarはハウスドルフであり、テンプレート:Mvarの任意の開被覆は局所有限な細分を持つ[6]。ここで X の被覆𝒯が被覆𝒮細分(テンプレート:Lang-en-short)であるとは、𝒯の任意の元テンプレート:Mvarに対して𝒮の元テンプレート:Mvarが存在してテンプレート:Mathを満たす事を言う[7]。またX の被覆𝒯局所有限(テンプレート:Lang-en-short)であるとは、任意のテンプレート:Mathに対し、テンプレート:Mvarの近傍テンプレート:Mvarが存在し、NTとなるT𝒯が有限個しかない事を指す[7]
メタコンパクト metacompact X の任意の開被覆はpoint finiteな細分を持つ。ここで被覆𝒯point finiteであるとは任意のテンプレート:Mathに対し、テンプレート:MathとなるT𝒯が有限個である事を言う[8]

σ-コンパクトの定義に関して留意点を述べる。σ-コンパクトは局所コンパクトと違い、コンパクトな近傍(すなわち内点を持つ集合)である事を要求されていない。これが原因でσ-コンパクトであっても局所コンパクトではない事があり得る。例えば有理数の集合は一点集合(これはコンパクトである)の可算和で書けるのでσ-コンパクトだが、の各点のいかなる近傍も距離空間として完備でないのでコンパクトではなく、よっては局所コンパクトではない。

関係性

以上の概念は以下の関係性を満たす:テンプレート:Math theorem

パラコンパクト

以上で述べた概念の中で重要なものの一つにパラコンパクトがある。本節ではパラコンパクトの性質について述べる。なおパラコンパクトの定義において我々は文献Kellyに従い、ハウスドルフ性を条件として課したが、書籍によってはハウスドルフ性を仮定していないので、注意が必要である。

パラコンパクトに関しては以下のようにも特徴づけられる。なお(ハウスドルフ性を満たす)パラコンパクトな空間は必ず正規空間になる事が知られている[6]テンプレート:Math theorem

ここで細分が開であるとは細分が開被覆になっている事を意味する。同様に細分が閉であるとは細分が被覆になっている事を意味する。上記の定理はパラコンパクトな空間において開被覆が単に局所有限な細分を持つだけでなく、局所有限でしかも開な細分や閉な細分を持つ事を保証している。

コンパクト性は開被覆が、(開な)部分被覆を持つ事を保証しているので、パラコンパクトな空間において開で局所有限な細分が保証される事は、コンパクト性において成り立っている議論をパラコンパクト性に拡張する際に有益である。

パラコンパクトな空間の重要な性質の一つとして、開被覆に従属する1の分割の存在が保証されるというものがある。この事実を述べるためにまず1の分割の定義、およびそれが開被覆と両立する事の定義を述べる: テンプレート:Math theorem

なお上述の条件1に対する関連概念として関数の台(テンプレート:Lang-en-short)

supp(f)={xXf(x)0}

が存在するが、1の分割の定義では関数の台と違い閉包を取っていない事に注意されたい。また条件2において和を取っているが、この和は条件1より各テンプレート:Mathに対して有限和である事が保証されているので、族テンプレート:Mathが仮に非可算無限個の元を持っていても和は意味を持つ。

テンプレート:Math theorem

パラコンパクトな空間は開被覆に従属する1の分割で特徴づけられる: テンプレート:Math theorem

脚注

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注釈

テンプレート:Reflist

出典

テンプレート:Reflist

参考文献

関連項目

テンプレート:Topology

  1. テンプレート:Cite web
  2. #Schechter p.461.
  3. #Kelly p.141.
  4. #Heil p.3.
  5. #内田 p.118.
  6. 6.0 6.1 #Kelly pp.156-161.
  7. 7.0 7.1 #Kelly pp.126,128.
  8. #Kelly p.171.


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