サバテサイクル

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サバテサイクル(Sabathe cycle)は、中・高速の圧縮着火機関ディーゼルエンジン焼玉エンジン)の理論サイクル(空気標準サイクル)であり、 複合サイクルとよばれることもある [1] [2]。 実際のディーゼルエンジンでは燃料噴射後、着火するまでに着火遅れがあり、 この間に噴射された燃料はシリンダー内に燃料・空気の混合気を形成する。 これに着火すると短期間で燃焼し(予混合燃焼)、等積に近い燃焼となり、 低速機関でない限り、これを無視することはできない。 その後、続いて噴射される燃料が空気と混合しつつ順次燃焼し(拡散燃焼)、 等圧に近い燃焼となる。 この等積燃焼と等圧燃焼の双方を考慮したものが、サバテサイクルである。

サイクル

サバテサイクルは、圧縮着火機関の実際のサイクルを、 下表 1 のような比熱一定の理想気体(空気)の可逆なクローズドサイクル (空気標準サイクル)で置き換えたものと考えることができる [1] [2]

表 1 サイクルの置き換え
実機関の状態変化 置換後の状態変化 備考
1 → 2 空気の圧縮 断熱(等エントロピー)圧縮
2 → 3 予混合燃焼 等積加熱 この間のピストン移動を無視
3 → 4 拡散燃焼 等圧加熱膨張 噴射の間もピストンは移動
4 → 5 噴射締切・燃焼ガスの膨張 断熱(等エントロピー)膨張
5 → 1 排気・吸気(または掃気) 等積冷却 この間のピストン移動を無視

サバテサイクルのp-V 線図および T-S 線図を図 1、2 に示す。 また、吸気状態を V1、p1、T1、S1 としたときの、 サイクル上の各点の状態量を下表 2 に示す。

表 2 サイクル各点の状態量
体積 圧力 絶対温度 エントロピー
1 V1 p1 T1 S1
1→2 p=p1(V1V)κ T=T1(V1V)κ1 S=S1
2 V2=V1/ϵ p2=p1ϵκ T2=T1ϵκ1 S2=S1
2→3 V=V2 T=T2pp2 S=S2+mcvlnTT2
3 V3=V1/ϵ p3=p1αϵκ T3=T1αϵκ1 S3=S1+mcvlnα
3→4 p=p3 T=T3VV3 S=S3+mcplnTT3
4 V4=V1σ/ϵ p4=p1αϵκ T4=T1ασϵκ1 S4=S1+mcvlnα+mcplnσ
4→5 p=p4(V4V)κ T=T4(V4V)κ1 S=S4
5 V5=V1 p5=p1ασκ T5=T1ασκ S5=S1+mcvlnα+mcplnσ
5→1 V=V5 T=T5pp5 S=S5+mcvlnTT5
ϵ=V1V2圧縮比、   α=p3p2:圧力(上昇)比、   σ=V4V2:噴射締切比、

κ=cpcv=1.40比熱比、   m:質量、   cp:定圧比熱、   cv:定積比熱

熱量、仕事、熱効率

上で求めた各点の状態量を用いて、1 サイクルあたりの加熱量、冷却量、仕事、 および熱効率平均有効圧力は下記のように求まる。

  • シリンダー内空気質量: m=P1V1RT1,R=cpcv=287.2J/(kgK)
  • 加熱量:Q1=mcv(T3T2)+mcp(T4T3)=mcvT1[α1+κα(σ1)]ϵκ1
  • 冷却量:Q2=mcv(T5T1)=mcvT1(ασκ1)
  • 仕事:W=Q1Q2=mcvT1{[α1+κα(σ1)]ϵκ1(ασκ1)}
  • 熱効率:η=1Q2Q1=11ϵκ1(ασκ1)[α1+κα(σ1)]
  • 平均有効圧力:pm=WV1V2=p1[α1+κα(σ1)]ϵκ(ασκ1)ϵ(κ1)(ϵ1)

この結果より、以下のことがわかる。

  1. 圧縮比 ε を大きく(高く)すれば熱効率が大きく向上する。
  2. このサイクルは、噴射締切比 σ が小さくなれば (1 に近づけば) オットーサイクルに近づき、圧力比 α が小さくなれば (1 に近づけば) ディーゼルサイクルに近づく。
  3. オットーサイクル(σ=1)とディーゼルサイクル(α=1)を比較すると、圧縮比 ε が等しければ、オットーサイクルの方が熱効率が良いが、最高温度 T4 が等しければ、(図 2 で点 3 が左方へ移動する方が平均加熱温度が高くなるので、)ディーゼルサイクルの方が熱効率が良い。実際はディーゼルエンジンの方が圧縮比が格段に高く、最高温度も高いので、理論サイクルの面でもディーゼルエンジンの方が熱効率が良い。

参考文献

  1. 1.0 1.1 柘植盛男、『機械熱力学』、朝倉書店(1967)
  2. 2.0 2.1 谷下市松、『工学基礎熱力学』、裳華房(1971)、ISBN 4-7853-6008-9.

関連項目