ジェフィメンコ方程式

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ジェフィメンコ方程式(じぇふぃめんこほうていしき、テンプレート:Lang-en-short)とは、電磁気学におけるマクスウェルの方程式の解のひとつであり、時間変動する電荷密度電流密度に起因する電場磁場の振る舞いを記述する等式である[1][2][3][4]

真空中に所望の電流密度と電荷密度のみが与えられていて、かつ、それ以外に起因する電磁場が存在しない場合(無限の過去において発生した電磁場が存在しない場合)における、マクスウェル方程式の解である。ジェフィメンコ方程式の名前は、テンプレート:仮リンクに因む。

電場と磁場

真空中に電荷密度 ρ電流密度 𝑱 が、時刻 t と位置 𝒓=(x,y,z) の関数として与えられた場合を考える。また、以下の仮定[注釈 1]を課すことにする。

  • 電荷密度 ρ(𝒓,t) 及び電流密度 𝑱(𝒓,t)𝒓,t のみの関数である(自分自身の作り出す電場や磁場の影響を受けない)。
  • 前記の電流密度と電荷密度以外に、電場、磁場を生み出すものが存在しない
  • 電荷密度と電流密度は、無限の過去では0に収束する
  • 電荷密度と電流密度は、無限遠では0に収束する
  • 電荷密度と電流密度は、自由空間に配置されている(境界のない時空間を仮定している)
  • 時空因果律が成り立つ

このとき、電場 𝑬 は、以下の式(時間依存がある場合のクーロンの法則)で与えられる。

𝑬(𝒓,t)=14πϵ0𝑽[(ρ(𝒔,t)|𝒓𝒔|3+1|𝒓𝒔|2cρ(𝒔,t)t)(𝒓𝒔)1|𝒓𝒔|c2𝑱(𝒔,t)t]d3𝒔.

また、磁束密度 𝑩 は、以下の式(時間依存がある場合のビオ・サバールの法則[注釈 2])で与えられる。

𝑩(𝒓,t)=μ04π𝑽[𝑱(𝒔,t)|𝒓𝒔|3+1|𝒓𝒔|2c𝑱(𝒔,t)t]×(𝒓𝒔)d3𝒔.

上記の二式を総称し、ジェフィメンコ方程式と言う[5]

ここで、tテンプレート:Sub は、遅滞時間を表し、以下の式で与えられる。

tt|𝒓𝒔|c.

また、

を表す。

同様の式が、DH に対しても導くことができる[6].

導出

ジェフィメンコ方程式は、遅延ポテンシャル (ϕ,𝑨) から導くことができる。ここに、ϕ𝑨 はポテンシャル形式のマクスウェル方程式から導出され[7][8]、以下のように与えられる[5][7]

ϕ(𝒓,t)=14πϵ0ρ(𝒔,tr)|𝒓𝒔|d3𝒔,𝑨(𝒓,t)=μ04π𝑱(𝒔,tr)|𝒓𝒔|d3𝒔.

ジェフィメンコ方程式は、上記の遅延ポテンシャル (ϕ,𝑨) に、電場、磁場の定義式

𝑬=ϕ+𝑨t,𝑩=×𝑨

と、

c2=1ϵ0μ0

を考慮することで、導出される。

遅延ポテンシャルからの導出

ジェフィメンコ方程式は、遅延ポテンシャル (ϕ,𝑨) から導出される。その過程を以下説明する。

電磁スカラーポテンシャル ϕ勾配ベクトル場は、次式である:

ϕ(𝒓,t)=14πϵ0𝑽(ρ(𝒔,t))d3𝒔=14πϵ0𝑽[ρ(𝒔,t)+ρ(𝒔,t)(1)]d3𝒔.

ここで、 は、以下の式で定まる実数である。

=|𝒓𝒔|

また、電荷密度 ρ全微分は、

dρ(𝒔,t)=ρd𝒔+ρtdt=ρd𝒔+ρt(ttdt+td)=ρd𝒔+ρt(dt1cd)=ρd𝒔+ρt[dt1c(d𝒓+d𝒔)]

で与えられる。ここで、 は、𝒔 に関する勾配微分作用素を意味する。今、

ρ(𝒔,t)t=tt ρ(𝒔,t)t=ρ(𝒔,t)t,

に注意すると、電荷密度 ρ の勾配ベクトル場は、

ρ(𝒔,t)=1c ρ(𝒔,t)t=1c ρ(𝒔,t)t^=ρ˙(𝒔,t)c^

となる。ここで、

ρ˙(𝒔,t)=ρ(𝒔,t)t

を意味する。また、

^

とする。

以上から、ϕ の勾配ベクトル場は、

ϕ(𝒓,t)=14πϵ0𝑽[ρ˙(𝒔,t)c^ρ(𝒔,t)(^2)]d3𝒔

となる。同様に、𝑨 についても

𝑨(𝒓,t)t=μ04π𝑽𝑱˙(𝒔,t)|𝒓𝒔|d3𝒔=14πϵ0c2𝑽𝑱˙(𝒔,t)|𝒓𝒔|d3𝒔

が成り立つ。

脚注・参考文献

脚注

  1. 1番目以外の仮定以外は、物理学的に考えもっともらしい仮定だが、1番目の仮定(電荷密度と電流密度は位置と時刻のみの関数であること)は近似的である。例えば、仮に真空中であってもベルシュ効果 (テンプレート:En) 等の自己相互作用が無視できない場合には適用できないことを意味する。加えて物質が介在するような一般的な場合には、電流密度の存在が新たな電流密度(磁化電流)を発生させたり(磁化)、電荷密度の存在が、あらたな電荷密度(分極電荷)を発生させる効果(分極)があるため、適用に注意を要する。 この意味で、ジェフィメンコ方程式は数学的は厳密解であると同時に、物理的には近似解としての性格を持つ。
  2. 交流磁場に対しビオ・サバールの法則を適用してよいかという議論がある。 ジェフィメンコ方程式を見ると、低周波かつ電流密度が「光速×1周期」に対し十分 局在している場合に限り、ビオ・サバールの法則が比較的よい精度で成り立つことが分かる。

参考文献

  1. Oleg D. Jefimenko, Electricity and Magnetism: An Introduction to the Theory of Electric and Magnetic Fields, Appleton-Century-Crofts (New-York - 1966). 2nd ed.: Electret Scientific (Star City - 1989), ISBN 978-0-917406-08-9. See also: David J. Griffiths, Mark A. Heald, Time-dependent generalizations of the Biot-Savart and Coulomb laws, American Journal of Physics 59 (2) (1991), 111–117.
  2. 清水 忠雄(著) ; 「電磁気学〈2〉遅延ポテンシャル・物質との相互作用・量子光学 (基礎物理学シリーズ) 」 朝倉書店 (2009/12)
    遅延ポテンシャルP214、ジェフィメンコ方程式P222(但しジェフィメンコ方程式の名は出ていない。)
  3. 中村 哲 (著),須藤 彰三 (著) ;「電磁気学 (現代物理学―基礎シリーズ)」 朝倉書店 (2010/01)
    遅延ポテンシャルP193、ジェフィメンコ方程式P205
  4. https://web.archive.org/web/20130921055207/http://kashalpha.files.wordpress.com/2013/04/e98185e5bbb6e3839de38386e383b3e382b7e383a3e383ab.pdf
  5. 5.0 5.1 Introduction to Electrodynamics (3rd Edition), D.J. Griffiths, Pearson Education, Dorling Kindersley, 2007, ISBN 81-7758-293-3
  6. Oleg D. Jefimenko, Solutions of Maxwell's equations for electric and magnetic fields in arbitrary media, American Journal of Physics 60 (10) (1992), 899-902
  7. 7.0 7.1 http://homepage2.nifty.com/eman/electromag/retarded.html
  8. ファインマン (著), 宮島 龍興 (翻訳) 「ファインマン物理学〈3〉電磁気学」岩波書店 (1986/1/8)