ディオファントス近似

ディオファントス近似（ディオファントスきんじ、テンプレート:Lang-en-short）とはある数（実数など）を別のより単純な構造を持つ数（有理数など）で近似する方法やその値、あるいはそれについて研究する数論の一分野である。アレクサンドリアのディオファントスに因む。

最初の問題は、実数が有理数によってどのぐらいよく近似できるかを知ることであった。この問題のために、有理数テンプレート:Math が実数テンプレート:Mvar の「良い」近似であるとは、テンプレート:Math とテンプレート:Mvar の差の絶対値が、テンプレート:Math を分母が小さい別の有理数に置き換えたときに小さくならないこととする。この問題は連分数によって18世紀に解かれた。

与えられた数の「最もよい」近似が分かり、この分野の主要な問題は、上記の差のよい上界と下界の分母の関数としての表示を見つけることである。

これらの上下界は近似される実数の性質に依存すると思われる。有理数の別の有理数による近似に対する下界は代数的数に対しての下界よりも大きい。後者はそれ自身すべての実数に対する下界よりも大きい。したがって代数的数に対する上下界よりもよく近似できる実数はもちろん超越数である。これによりリウヴィルは1844年に最初の明示的な超越数を生み出した。後にテンプレート:Math やテンプレート:Mvar が超越数であることの証明が類似の方法により得られた。

ディオファントス近似は、無理数や超越数の研究と深く関連している。実際、代数的数については次数や高さに依存して近似の精度に限界があることが知られている。また、不定方程式など、数学上の他の問題でもディオファントス近似に帰着することが多い。例えば、ペル方程式 y²=2x²-1 の整数解は 2 の平方根のディオファントス近似に帰着する。

ディリクレの定理

基本的な問題としては、任意の無理数テンプレート:Mvar に対して、

| x - y α | < \frac{1}{y}

となるような整数テンプレート:Math を求めることが挙げられる。ディリクレのディオファントス近似定理により、上式を満足するテンプレート:Math とテンプレート:Math は無数に存在する。不等式は

| \frac{x}{y} - α | < \frac{1}{y^{2}}

と書き直すことができることから、「任意の無理数テンプレート:Mvar に対して、誤差がテンプレート:Math 以下であるような、近似有理数テンプレート:Math を求める」と言い換えることができる。

円周率テンプレート:Math を小数点以下3桁まで十進数表記するとすればテンプレート:Math である。これを分数で表記すればテンプレート:Math であり、

| 3141 / 1000 - π | < 1 / 1000

が成立するので誤差を1/1000以下に出来る。しかしディオファントス近似は、より小さい分母によって、より良い近似ができる可能性を示唆するものである。

実際

| 355 / 113 - π | < 0.00000027 < 1 / 1000000

である。したがって、ディオファントス近似は無理数を有理数で近似する、より良い近似方法の存在を示しているとも言える。

ディオファントス近似の不等式を満たすテンプレート:Math が無限にあることの証明は鳩の巣原理を使って証明可能である。この証明の過程を利用して、テンプレート:Math の近似で性能が良いものを分母が小さい順に求めると、以下のようになる。

\begin{matrix} | 3 - 1 π | & < 1 \\ | 22 - 7 π | & < 1 / 7 \\ | 333 - 106 π | & < 1 / 106 \\ | 355 - 113 π | & < 1 / 113 . \end{matrix}

これからテンプレート:Math の近似として、[[3|テンプレート:Math]], [[22/7|テンプレート:Math]], テンプレート:Math, テンプレート:Math, ... を得ることができる。これらの近似値は古代からよく知られた円周率の近似値である。

また、近似値と連分数展開は深い関係にある。例えばテンプレート:Math の連分数展開は

3 + \frac{1}{7 + \frac{1}{15 + \frac{1}{1 + \frac{1}{292 + \frac{1}{⋱}}}}}

であるが、テンプレート:Math の時点で計算を打ち切るとテンプレート:Math、テンプレート:Math の時点で打ち切るとテンプレート:Math となる。この手法で5番目の近似値を求めると、円周率の近似として、テンプレート:Math を得ることができる。また実際

| 103993 - 33102 π | < 1 / 33102

である。

主な定理

リウヴィルの定理

テンプレート:Main 1840年代、ジョゼフ・リウヴィル (Joseph Liouville) は、代数的数の近似に対する最初の下界を得た。テンプレート:Mvar が有理数体上次数テンプレート:Mvar の代数的無理数であれば、ある定数テンプレート:Math が存在して、任意の整数テンプレート:Mvar とテンプレート:Mvar, ただしテンプレート:Math, に対し、

| x - \frac{p}{q} | > \frac{c (x)}{q^{n}}

が成り立つ。

この結果によってジョゼフ・リウヴィルは、超越数であることが初めて証明された例であるリウヴィル数、

\sum_{j = 1}^{\infty} 1 0^{- j!} = 0.110001000000000000000001000 \dots

を得た。この数は、次数テンプレート:Mvar をどのようにとっても、リウヴィルの定理を満たさない。

ディオファントス近似と超越数論の間のこのつながりは、今日まで続いている。証明の技術の多くが2つの分野の間で共有されている。

その後の改良

その後、上記リウヴィルの定理の右辺のテンプレート:Mvar の指数部分は、以下の様に次第に改良されてきた。

発表年	発見者	結果
1844年	リウヴィル	$d$
1909年	トゥエ	$\frac{n}{2} + 1$
1921年	ジーゲル	$2 \sqrt{n}$
1947年	ゲルフォント, ダイソン	$\sqrt{2 n}$
1955年	ロス	$2$

最後のロスによる結果は、以下の様に表現される：

テンプレート:Anchors ロスの定理(トゥエ・ジーゲル・ロスの定理)(1955年)。テンプレート:Mvar が、2次以上の実代数的数ならば、任意の正数テンプレート:Mvar に対して、テンプレート:Mvar に依存する正定数テンプレート:Math が存在して、

| α - \frac{p}{q} | > \frac{c}{q^{2 + ε}}

が、全ての有理数テンプレート:Math に対して成立する。

リドゥ (D. Ridout) は、近似分数の分母、分子に現れる素因数を制限することで、ロスの結果が改良されることを示した。

ロス–リドゥの定理(1957年)。テンプレート:Mvar を、2次以上の実代数的数とする。テンプレート:Math, テンプレート:Mathを相異なる素数、テンプレート:Mvar を正整数とする。また、テンプレート:Mvar を、テンプレート:Math, テンプレート:Math を満たす実数とする。正整数テンプレート:Mvar は、

(*)　

p = p^{*} P_{1}^{σ_{1}} \dots P_{s}^{σ_{s}}, q = q^{*} Q_{1}^{τ_{1}} \dots Q_{t}^{τ_{t}},

但し、

σ_{1}, \dots, σ_{s}, τ_{1}, \dots, τ_{t}

は、非負整数で、

1 \leq p^{*} \leq d p^{λ}, 1 \leq q^{*} \leq d q^{ρ}

を満たす。

このとき、任意の

κ > λ + ρ

に対して、

α, κ, λ, ρ, d, P_{1}, \dots, P_{s}, Q_{1}, \dots, Q_{t}

に依存する正定数 c が存在して、

| α - \frac{p}{q} | > \frac{c}{q^{κ}}

が、(*) を満たす全てのテンプレート:Math に対して成立する。

注意　ロスの定理は、テンプレート:Math の場合に相当する。

テンプレート:Mvar の値の導出

リウヴィルの結果では、右辺に現れる正定数テンプレート:Math は、テンプレート:Mvar が与えられれば、具体的に計算することが可能であるが、ロス（およびトゥエ以降の全ての結果に対しても）の結果では、テンプレート:Math の値を計算することはできない（有効な結果ではない）。

もし、与えられたテンプレート:Mvar に対して、テンプレート:Math の値を求めることが可能になれば、不定方程式の整数解に対して、解が有限個しか存在しないことだけでなく、整数解の存在範囲を示すことが可能となる。

ベイカーによる対数の1次形式の評価定理を用いて、以下のことが証明されている。

テンプレート:Mvar を次数テンプレート:Math の実代数的数としたとき、テンプレート:Mvar に依存する計算可能な定数テンプレート:Math とテンプレート:Math が存在して、

| α - \frac{p}{q} | > \frac{c}{q^{κ}}

が、全ての有理数テンプレート:Math に対して成立する。

現状では、テンプレート:Mvar の結果は、ロスの結果には及ばず、例えば、

$α = \sqrt[3]{2}$ の場合、 $c = 1 0^{- 6}, κ = 2.955$
$α = \sqrt[3]{17}$ の場合、 $c = 1 0^{- 9}, κ = 2.4$

である。

脚注

テンプレート:Reflist

参考文献

武隈良一：「ディオファンタス近似論」、槇書店（1972年9月20日）
三井孝美：「解析数論：超越数論とディオファンタス近似論」、共立出版（1977年）.
テンプレート:Cite book
テンプレート:Cite book
野口潤次郎：「多変数ネヴァンリンナ理論とディオファントス近似」、共立出版、ISBN 4-320-01694-7 (2003年6月20日)
Daniel Duverney; 塩川宇賢(訳)：「数論 : 講義と演習」、森北出版、ISBN 4-62708142-1 (2006年3月). ※ ディオファンタス問題をテーマにした数論の入門書。
テンプレート:Citation 本書の冒頭に、リウヴィルの定理、e や π の超越性の証明について記載がある。
テンプレート:Cite journal
テンプレート:Cite book
Grigory Margulis, Diophantine approximation, lattices and flows on homogeneous spaces. A panorama of number theory or the view from Baker's garden (Zürich, 1999), 280–310, Cambridge Univ. Press, Cambridge, 2002 テンプレート:MR ISBN 0-521-80799-9.
Wolfgang M. Schmidt. Diophantine approximation. Lecture Notes in Mathematics 785. Springer. (1980 [1996 with minor corrections])
Wolfgang M. Schmidt.Diophantine approximations and Diophantine equations, Lecture Notes in Mathematics, Springer Verlag 2000
テンプレート:Cite book

テンプレート:Refbegin

テンプレート:Refend

Nigel P. Smart: The Algorithmic Resolution of Diophantine Equations, Cambrdige Univ. Press, ISBN 0-521-64156-X (1998).
J.H.Evertse: Upper Bounds for the Numbers of Solutions of Diophantine Equations, Mathematisch Centrum, ISBN 90-6196-265-X (1983年).
Kurt Mahler: Lectures on Diophantine Approximations, Part 1: G-adic Numbers and Roth's Theorem, Univ. Notre Dame, (1961).

外部リンク

Diophantine Approximation: historical survey. From Introduction to Diophantine methods course by Michel Waldschmidt.
テンプレート:SpringerEOM

テンプレート:Authority control

ディオファントス近似

目次

ディリクレの定理

主な定理

リウヴィルの定理

その後の改良

テンプレート:Mvar の値の導出

関連項目

脚注

参考文献

外部リンク

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ディリクレの定理

主な定理

リウヴィルの定理

その後の改良

テンプレート:Mvar の値の導出

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