体球調和関数

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物理学数学において、体球調和関数(たいきゅうちょうわかんすう、テンプレート:Lang-en-short)は球面座標系でのラプラス方程式の解を指す。原点で0になる正則な(regular)体球調和関数 Rm(𝒓) と、原点が特異点となる非正則な(irregular)体球調和関数 Im(𝒓) の2種がある。いずれの関数集合もポテンシャル論で重要な役割を演じ、また適当にスケーリングすることで球面調和関数が得られる。

Rm(𝒓)4π2+1rYm(θ,φ)
Im(𝒓)4π2+1Ym(θ,φ)r+1

導出および球面調和関数との関係

空間ベクトル r の球面極座標として r, θ, φ を導入すると、ラプラス方程式は以下の形になる。

2Φ(𝒓)=(1r2r2rl^2r2)Φ(𝒓)=0,𝒓0,

ここで l2 は無次元化した角運動量演算子

𝒍^=i(𝒓×)

の2乗である。

知られているように、球面調和関数 Ylm は演算子 l2 の固有関数である。

l^2Ym[l^x2+l^y2+l^z2]Ym=(+1)Ym.

Φ(r) = F(r) Ylm をラプラス方程式に代入し、両辺を球面調和関数で割ると、以下の動径方向の方程式とその一般解が得られる。

1r2r2rF(r)=(+1)r2F(r)F(r)=Ar+Br1.

ラプラス方程式の解のうち一部が正則な体球調和関数

Rm(𝒓)4π2+1rYm(θ,φ),

であり、また一部が非正則な体球調和関数

Im(𝒓)4π2+1Ym(θ,φ)r+1.

である。

ラカーの正規化

テンプレート:仮リンクの正規化(Racah's normalization、またはシュミットの準正規化(Schmidt's semi-normalization))はいずれの関数にも適用でき、単位("1")への正規化の代わりに

0πsinθdθ02πdφRm(𝒓)*Rm(𝒓)=4π2+1r2

とするものである(非正則な体球調和関数についても同様)。応用上多くの場合、ラカーの正規化因子は微分の下で形を変えないため便利である。

加法定理

正則な体球調和関数を平行移動したものは、次のように有限項に展開される。

Rm(𝒓+𝒂)=λ=0(22λ)1/2μ=λλRλμ(𝒓)Rλmμ(𝒂)λ,μ;λ,mμ|m,

ここでクレブシュ–ゴルダン係数は次式で与えられる。

λ,μ;λ,mμ|m=(+mλ+μ)1/2(mλμ)1/2(22λ)1/2.

類似の展開が非正則な体球調和関数に対しても行え、無限級数に展開される。

Im(𝒓+𝒂)=λ=0(2+2λ+12λ)1/2μ=λλRλμ(𝒓)I+λmμ(𝒂)λ,μ;+λ,mμ|m

ここで |r||a| とする。ブラケットで囲まれた因子は再びクレブシュ–ゴルダン係数である。

λ,μ;+λ,mμ|m=(1)λ+μ(+λm+μλ+μ)1/2(+λ+mμλμ)1/2(2+2λ+12λ)1/2.

参考文献

加法定理は著者によって様々な方法で証明されている。例えば、以下の2文献にはそれぞれの証明が載っている。

  • R. J. A. Tough and A. J. Stone, J. Phys. A: Math. Gen. Vol. 10, p. 1261 (1977)
  • M. J. Caola, J. Phys. A: Math. Gen. Vol. 11, p. L23 (1978)

実関数形式

テンプレート:Unreferenced section ±m についての簡単な線形結合によって、体球調和関数は実数値関数の集合に変換される。デカルト座標系で表示された実の正則体球調和関数は、x, y, z についての l 次斉次多項式である。これらの明示的に書かれた多項式は、例えば(球面座標で書かれた)原子軌道や実数値のテンプレート:仮リンクに現れ、重要である。以下でその導出を行う。

線形結合

先述と同じ定義で、

Rm(r,θ,φ)=(1)(m+|m|)/2rΘ|m|(cosθ)eimφ,m,

ただし

Θm(cosθ)[(m)!(+m)!]1/2sinmθdmP(cosθ)dcosmθ,m0,

ここで P(cosθ)l 次のルジャンドル多項式である。

この m に依存した位相はコンドン・ショートレー位相(Condon–Shortley phase)として知られている。

実の正則体球調和関数は次のように定義される。

(CmSm)2rΘm(cosmφsinmφ)=12((1)m1(1)mii)(RmRm),m>0.

また m = 0 に対しては

C0R0.

線形変換はユニタリ行列によるものなので、正規化因子は実数値の場合も複素数値の場合も同じになる。

z-依存因子

u = cosθ と書くと、ルジャンドル多項式の m 階導関数は次のような u の多項式で書ける。

dmP(u)dum=k=0(m)/2γk(m)u2km

ここで

γk(m)=(1)k2(k)(22k)(2k)!(2km)!.

z = r cosθ だから、この導関数には適当な r の冪乗を掛ければ z のシンプルな多項式になる。

Πm(z)rmdmP(u)dum=k=0(m)/2γk(m)r2kz2km.

(x,y)-依存因子

次に、x = r sinθcosφy = r sinθsinφ に注意すると

rmsinmθcosmφ=12[(rsinθeiφ)m+(rsinθeiφ)m]=12[(x+iy)m+(xiy)m]

同様に

rmsinmθsinmφ=12i[(rsinθeiφ)m(rsinθeiφ)m]=12i[(x+iy)m(xiy)m].

これらより、次のように定義する。

Am(x,y)12[(x+iy)m+(xiy)m]=p=0m(mp)xpympcos(mp)π2
Bm(x,y)12i[(x+iy)m(xiy)m]=p=0m(mp)xpympsin(mp)π2.

まとめ

Cm(x,y,z)=[(2δm0)(m)!(+m)!]1/2Πm(z)Am(x,y),m=0,1,,
Sm(x,y,z)=[2(m)!(+m)!]1/2Πm(z)Bm(x,y),m=1,2,,.

低次の関数のリスト

l = 5 以下の関数の明示式を記す。ここで

Π¯m(z)[(2δm0)(m)!(+m)!]1/2Πm(z).

Π¯00=1Π¯31=146(5z2r2)Π¯44=1835Π¯10=zΠ¯32=1215zΠ¯50=18z(63z470z2r2+15r4)Π¯11=1Π¯33=1410Π¯51=1815(21z414z2r2+r4)Π¯20=12(3z2r2)Π¯40=18(35z430r2z2+3r4)Π¯52=14105(3z2r2)zΠ¯21=3zΠ¯41=104z(7z23r2)Π¯53=11670(9z2r2)Π¯22=123Π¯42=145(7z2r2)Π¯54=3835zΠ¯30=12z(5z23r2)Π¯43=1470zΠ¯55=31614

低次の Am(x,y)Bm(x,y) は次の通りである。

m Am Bm
0 1 0
1 x y
2 x2y2 2xy
3 x33xy2 3x2yy3
4 x46x2y2+y4 4x3y4xy3
5 x510x3y2+5xy4 5x4y10x2y3+y5

参考文献

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