冪対象
テンプレート:簡易区別 数学、特に圏論における指数対象(しすうたいしょう、テンプレート:Lang-en-short)は、集合論における配置集合に相当する、圏論的な対象である。指数対象は配置対象(map object; 写像対象)や冪対象(べきたいしょう、テンプレート:Lang-en-short)とも呼ばれるが、「冪対象」という呼称は、トポス理論において(本項で言うのとは異なり)、冪集合を一般化した概念を表すために用いられるため文脈に注意すべきである。
任意の有限積と指数対象を持つ圏はデカルト閉圏と呼ばれ、理論計算機科学への応用などの観点から重要視されている。
定義
テンプレート:Math は二項積を持つ圏とし、テンプレート:Mvar は テンプレート:Math の対象とする。指数対象 テンプレート:Mvar は関手 テンプレート:Math から テンプレート:Mvar への普遍射として定義することができる。ここで、 テンプレート:Math は テンプレート:Math から テンプレート:Math への関手であって対象 テンプレート:Mvar を テンプレート:Math へ写し、射 テンプレート:Mvar を テンプレート:Math へ写すようなものである。
以上の定義は次のようにして述べることもできる。評価射
を伴う対象 テンプレート:Mvar が指数対象であるとは、任意の対象 テンプレート:Mvar と射 テンプレート:Math に対し、射
で次の図式

を可換とするものが一意的に存在するときに言う。ここに現れる射 テンプレート:Mvar を テンプレート:Mvar のカリー化あるいは転置などという。テンプレート:Math の各対象 テンプレート:Mvar に対して指数対象 テンプレート:Mvar が存在するならば、テンプレート:Mvar を テンプレート:Mvar へ写す関手は、関手 テンプレート:Math の右随伴となる。この場合、射集合の間の自然な全単射
が取れる。射 テンプレート:Mvar と テンプレート:Mvar は互いに「指数随伴」(exponential adjoints) であるともいう[1]。
理論計算機科学における概念との対応
以上の諸概念は、理論計算機科学における計算手続きの抽象化に重要な役割を果たす。データ型 テンプレート:Mvar と テンプレート:Mvar に対し、テンプレート:Mvar は テンプレート:Mvar の型のデータを入力とし、テンプレート:Mvar の型のデータを出力とするような計算手続きの型を表していると考えることができる。このとき、テンプレート:Math とは個々の計算手続きと入力データに対して出力データを計算する手続きであると解釈することができる。また、射 テンプレート:Math に対して テンプレート:Math を考えるということは、テンプレート:Mvar が表していた複数の入力を取る計算手続きに対してカリー化を行うということに対応している。したがって、テンプレート:Math という等式はカリー化された手続きと元の手続きとの関係を表していることになる。
計算機科学やそれに関係した文脈では、これらの概念を以下のように異なった記号や用語で表すことに注意する必要がある。指数対象は テンプレート:Math で表し、テンプレート:Mvar は テンプレート:Math などによって、また、テンプレート:Math は テンプレート:Math(適用)という用語を用いる。これらの記号が用いられた理由はコンピュータスクリーン上の組版の制約のためであったり、ラムダ計算との記号の重複を避けるためであったりということである。
例
集合の圏における指数対象 テンプレート:Mvar は テンプレート:Mvar から テンプレート:Mvar への写像全体の成す集合(配置集合)として与えられる。射 テンプレート:Math は、順序対 テンプレート:Math を テンプレート:Math へ写す評価写像 (evaluation) に他ならない。任意の射 テンプレート:Math に対して、射 テンプレート:Math は テンプレート:Mvar のカリー化
によって与えられる。
テンプレート:仮リンクとしてのハイティング代数における指数対象 テンプレート:Mvar は相対擬補元 テンプレート:Math に他ならない。前述の随伴は
と対応する。束論も参照のこと。
位相空間の圏における指数対象 テンプレート:Mvar は テンプレート:Mvar が局所コンパクトハウスドルフ空間であれば存在する。この場合、空間 テンプレート:Mvar は テンプレート:Mvar から テンプレート:Mvar への連続写像全体の成す集合にコンパクト開位相を入れたものとして与えられる。評価射に関しては集合の圏のときと同様である。テンプレート:Mvar が局所コンパクトハウスドルフでないならば、指数対象は存在しない(空間 テンプレート:Mvar 自体は存在するのだが、評価射が連続とは限らないために指数対象になれないのである)。このことから、位相空間の圏はデカルト閉でないことが従う。そこで、局所コンパクト位相空間の圏を考えたとしても、テンプレート:Mvar と テンプレート:Mvar が局所コンパクトでも空間 テンプレート:Mvar は必ずしも局所コンパクトではないから、やはりデカルト閉圏にはならない。
参考文献
外部リンク
- テンプレート:Nlab
- テンプレート:PlanetMath
- Interactive Web page which generates examples of exponential objects and other categorical constructions. Written by Jocelyn Paine.