ARCHモデル

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ARCHモデル(アーチモデル、テンプレート:Lang-en-short)とは、金融経済学統計学計量経済学などにおいて分散不均一性を示す時系列データに適用されるモデル。日本語では、「分散自己回帰モデル」「分散不均一モデル」等と称される。1982年ロバート・エングルによって提案された[1]。特に金融時系列データへの適用事例が多い。

分散不均一性

株式の収益率をプロットすると、ある時期(景気が安定して拡大している時期など)には変動の程度(ボラティリティ)が平均して小さく、別の時期(不況の直前など)にはボラティリティが平均して大きくなる傾向が観察される。このようなボラティリティが時期によって異なった水準を示すことをボラティリティ・クラスタリング(テンプレート:Lang-en-short)、または分散不均一性(テンプレート:Lang-en-short)と呼ぶ。分散不均一性は金融時系列データをはじめ幅広く見られる現象である。

ARCH(q)モデル

時刻 t における時系列データ yt の時刻 t1 までの情報による条件付き期待値を μt とする。ytμt の差を ut=ytμt とする。さらに

ut=σtεt

と分解できるとする。ただし εt は平均が0、分散が1の確率変数で、σt はボラティリティであり、時刻 t1 までの情報で確定していると考える。すなわち、時刻 t1 の時点で、時刻 t におけるこの時系列データのボラティリティは予測できる、と考えるのである。他方、ut そのものは実際に時刻 t になり確率変数 εt の値が確定するまでは確定しない。よって yt 自体は

yt=μt+ut=μt+σtεt

と表せる。ARCH(q)モデルの下で条件付ボラティリティ σt は以下の式で決定される。

σt2=α0+α1ut12++αqutq2=α0+i=1qαiuti2

つまりARCH(q)モデルでは、q 期前までの平均からの乖離部分 uti の2乗が条件付きボラティリティに影響を与えている。仮定から vt=ut2Et1[ut2]=ut2σt2 であるのでARCHモデルの決定式は

ut2=α0+i=1qαiuti2+vt

と書き直すことが出来る。さらに vtE[uti2vt]=0,i=1, であることも分かる。つまり ut2 から見ると q 次の自己回帰モデルと見なせる。よって ut2 について自己回帰(テンプレート:Lang-en-short)であり、条件付き(テンプレート:Lang-en-short)ボラティリティ σt が分散不均一性(テンプレート:Lang-en-short)を示すことから頭文字を取りARCHモデルと名付けられている。ut2 についての定常性条件から次の z についての方程式

1i=1qαizi=0

の全ての解の絶対値が1より大きくなるように係数 αi,i=1,,q に条件が課される場合が多い。

GARCH(p,q)モデル

1986年にロバート・エングルの弟子テンプレート:仮リンクはARCHモデルを一般化したGARCHモデル(がーちモデル、テンプレート:Lang-en-short)を提案した[2]。GARCHモデルでは、条件付ボラティリティ σt は以下のように決定される。

σt2=α0+α1ut12++αqutq2+β1σt12++βpσtp2=α0+i=1qαiuti2+i=1pβiσti2.

すなわち、現在の条件付ボラティリティは p 期前までの条件付ボラティリティと q 期前までの平均からの乖離部分の2乗により決定される。Bollerslev も当該論文中の実証分析の節で述べているが、ARCHモデルを金融時系列データに適用すると分散の長期記憶性を再現する為に次数 q が大きくなる傾向があったが、GARCHモデルは比較的小さい次数(p = 1, q = 1)でも十分に分散の長期記憶性が再現されるので、ARCHモデルに比べると倹約的なモデルとなる。GARCHモデルにおいては ut2自己回帰移動平均モデルとして表され、その定常条件は

1i=1max{p,q}(αi+βi)zi=0

の全ての解の絶対値が1より大きくなることである。ただし αi=0,i>q かつ βi=0,i>p である。

GARCHモデルの拡張

GARCHモデルは様々な拡張がなされている。以下で代表的なものを述べる。

EGARCHモデル

Daniel B. Nelson が1991年に提案したExponential GARCH(p,q)モデル(EGRACH(p,q)モデル)は以下のようにボラティリティが決定する[3]

logσt2=ω+i=1pβilogσti2+i=1q(αiεti+γi(|εti|E[|εti|]))

EGARCHモデルにおいては通常のGARCHモデルと異なり、uti ではなく、それを σti で割った εti がボラティリティに影響を与える。条件付き分散の対数に対してモデル化が行われているため、通常のGARCHモデルに比べると非負性や定常性のための制約が緩くなるという利点がある。

GJR GARCHモデル

Lawrence R. Glosten, テンプレート:仮リンク, David E. Runkle によって1993年に提案されたGJR GARCHモデルは以下のようにボラティリティが決定する[4]

σt2=ω+αut12+βσt12+γut12It1

ただし、It1ut1 が負ならば1、正ならば0を取る変数である。株価収益率などが持つ、下落局面でボラティリティがより増加するレバレッジ効果を捉えるためのモデルである。

Heston-Nandi GARCH モデル

テンプレート:仮リンク, Saikat Nandi により2000年に提案されたHeston-Nandi GARCH(p,q)モデルは以下のようにボラティリティが決定する[5]

σt2=ω+i=1pβiσti2+i=1qαi(εtiγiσti)2

Heston-Nandi GARCHモデルもEGARCHモデルと同様に uti ではなく εti がボラティリティに影響を与える。また、このモデルもGJR GARCHモデルと同様にレバレッジ効果を捉えることができる。さらにデリバティブオプションと親和性が高く、Heston-Nandi GARCHモデルに従う株式のオプションについて、その無裁定価格が導出されている。しかし、Heston-Nandi GARCHモデルはモデルが過適合を起こしやすいという欠点もある。

多変数モデルへの拡張

ここまで述べてきたGARCHモデルはいずれも単一変数の時系列データに対して適用されるものであったが、多変数の時系列データに対してその相関構造を内包しつつ適用可能なGARCHモデルも存在する。例としてBEKKモデル[6]やCCC-GARCHモデル[7]、DCC-GARCHモデル[8]などがある。

脚注

参考文献

関連項目

テンプレート:統計学