鈴木＝トロッター分解

物理学において、鈴木＝トロッター分解（すずき＝トロッターぶんかい、テンプレート:Lang-en-short）、または鈴木＝トロッター公式（テンプレート:Lang-en-short）とは演算子の和の指数演算子を各々の演算子の指数演算子の積に分解する公式。量子系の時間発展や分配関数の計算に応用される。数学者テンプレート:仮リンクはバナッハ空間の半群の研究において、トロッター公式を与えた。日本の物理学者 鈴木増雄はトロッター公式を拡張した指数積の高次分解公式を研究し、系統的に求める手法を提案した。

概要

量子力学における量子状態の時間発展や量子統計力学における分配関数の計算ではハミルトニアンの指数演算子が現れる。これを数値計算するには二つの非可換な演算子 テンプレート:Mvar の指数演算子 テンプレート:Math の計算が必要になる。ここでテンプレート:Mvar は実数または複素数のパラメータである。トロッター公式によれば、指数演算子は

$e^{x(A+B)}=e^{xA}{e}^{xB}+O(x^2)$

を満たし、

$e^{x(A+B)}=\underset{n\to \mathrm{\infty }}{\lim }(e^{\frac{x}{n}A}{e}^{\frac{x}{n}B}{)}^n$

が成り立つ。但し、テンプレート:Mathはランダウの記号である。 より高次の テンプレート:Mvar 次分解公式

$\begin{array}{cc}{e}^{x(A+B)}& =e^{t_{1}xA}{e}^{t_{2}xB}{e}^{t_{2}xA}{e}^{t_{4}xB}+\cdots e^{t_{M}xB}+O(x^{m+1})\\ & =:F_m(xA,xB)+O(x^{m+1})\end{array}$

が得られると、パラメータ テンプレート:Mvar が小さくない場合にも、

$e^{x(A+B)}={\left(F_m(\frac{x}{n}A,\frac{x}{n}B)\right)}^n+O\left(\frac{x^m+1}{n^m}\right)$

であり、十分 テンプレート:Mvar を大きくとれば、テンプレート:Math の高精度の近似が得られる。 こうした指数演算子の積の形での近似計算では、量子力学での波動関数の時間発展が満たすユニタリ性や古典力学でのテンプレート:Illの時間発展が満たすシンプレクティック性が保証されるなどの利点がある。このような指数演算子の分解公式を鈴木＝トロッター分解という。 例えば、

$F_2(xA,xB)=e^{\frac{x}{2}A}{e}^{xB}{e}^{\frac{x}{2}A}$

は2次の公式の１つの例である また、Ruthの公式として知られている

$F_{6(\text{Ruth})}(xA,xB)=e^{\frac{7x}{27}A}{e}^{\frac{2x}{3}B}{e}^{\frac{3x}{4}A}{e}^{-\frac{2x}{3}B}{e}^{-\frac{x}{24}A}{e}^{xB}$

は6次の公式の例の１つである。 一般に テンプレート:Mvar 次分解公式 テンプレート:Math を与えるには、条件を満たすパラメータの組 テンプレート:Math を定める必要がある。こうしたパラメータの組の求め方には、テンプレート:Mvar と テンプレート:Mvar の交換子積のなす自由リー代数の理論に基づく方法や漸化式による方法、量子解析による方法がある。

漸化式による構成

テンプレート:Math が テンプレート:Math の テンプレート:Math 次分解公式であるとき、漸化式

$Q_m(x)=Q_{m-1}(p_{m,1}x)Q_{m-1}(p_{m,2}x)\cdots Q_{m-1}(p_{m,s}x)$

で定義される テンプレート:Math がテンプレート:Math 次分解公式となるためにテンプレート:Math が条件

$p_{m,1}+p_{m,2}+\cdots +p_{m,s}=1,p_{m,1}^m+p_{m,2}^m+\cdots +p_{m,s}^m=0$

を満たせば良い。 テンプレート:Mvar が奇数 テンプレート:Math である場合、この条件を満たすテンプレート:Math の実数の組が存在するが、テンプレート:Mvar が偶数 テンプレート:Math である場合、この上記の条件を満たす実数の組は存在しない。 しかしながら、一般に奇数 テンプレート:Math 次の分解公式 テンプレート:Math が対称性の条件

$S_{2l-1}(x)S_{2l-1}(-x)=1$

を満たすとき、これは自動的に テンプレート:Math 次の分解公式となる。よって、奇数の場合にこの漸化式を適用していくことでパラメータを実数とする高次の公式が導かれる。但し、テンプレート:Math が対称性の条件を満たすようにパラメータには テンプレート:Math の条件を課すものとする。

例えば、テンプレート:Math の場合、奇数 テンプレート:Mvar における上記の条件を満たすパラメータの組として、

$p_{m,1}=p_{m,3}=\frac{1}{2-2^{\frac{1}{m}}}:=p_m$

$p_{m,2}=-\frac{2^{\frac{1}{m}}}{2-2^{\frac{1}{m}}}=1-2p_m$

をとることができる。2次の公式

$S_2(x)=e^{\frac{x}{2}A}{e}^{xB}{e}^{\frac{x}{2}A}$

は対称性の条件 テンプレート:Math を満すことから

$\begin{array}{cc}{S}_3(x)& (=S_4(x))=S_2(p_{3}x)S_2((1-2p_3)x)S_2(p_{3}x)\\ & =e^{\frac{p_3}{2}xA}{e}^{(1-2p_3)xB}{e}^{\frac{1-p_3}{2}xA}{e}^{(1-2p_3)xB}{e}^{\frac{(1-p_3)}{2}xA}{e}^{(1-2p_3)xB}{e}^{\frac{p_3}{2}xA}\end{array}$

$p_3=\frac{1}{2-2^{\frac{1}{3}}}$

とテンプレート:Math を構成できる。

参考文献

論文

• テンプレート:Cite journal
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書籍

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関連項目

• 行列指数関数
• トロッター公式
• シンプレクティック数値積分法