オイラーの分割恒等式

数論、組合せ論におけるオイラーの分割恒等式（オイラーのぶんかつこうとうしき）は、自然数（正の整数）を「互いに異なる自然数に分割する方法の個数」(distinct partition; 異分割) と「奇数の自然数に分割する方法の個数」(odd partotion; 奇分割) が等しいことを示す恒等式である。

分割の例

例えば、自然数 8 を互いに異なる自然数に分割する方法

8 = 1+2+5

8 = 1+3+4

8 = 1+7

8 = 2+6

8 = 3+5

8 = 8

と奇数の自然数に分割する方法

8 = 1+1+1+1+1+1+1+1

8 = 1+1+1+1+1+3

8 = 1+1+1+5

8 = 1+1+3+3

8 = 1+7

8 = 3+5

の個数は等しく 6 である。

自然数 n をこのように分割する方法の個数を Q(n) で表すと、

Q(1) = 1, Q(2) = 1, Q(3) = 2, Q(4) = 2, Q(5) = 3, Q(6) = 4, Q(7) = 5, Q(8) = 6, Q(9) = 8, Q(10) = 10, … （テンプレート:OEIS）

などと続く。

母関数による表現

オイラーは2種類の分割の方法の個数が等しいことを、母関数を用いて示した。自然数 n を互いに異なる自然数に分割する方法の数を P_d(n) とすると

$1+\sum _{n=1}^{\mathrm{\infty }}{P}_d(n)x^n=\prod _{m=1}^{\mathrm{\infty }}(1+x^m)$

である。また、自然数 n を奇数の自然数に分割する方法の数を P_o(n) とすると

$1+\sum _{n=1}^{\mathrm{\infty }}{P}_o(n)x^n=\prod _{m=1}^{\mathrm{\infty }}(1+\sum _{k=1}^{\mathrm{\infty }}{x}^{k(2m-1)})=\prod _{m=1}^{\mathrm{\infty }}\frac{1}{1-x^{2m-1}}$

である。従って、オイラーの分割恒等式は

$\prod _{m=1}^{\mathrm{\infty }}(1+x^m)=\prod _{m=1}^{\mathrm{\infty }}\frac{1}{1-x^{2m-1}}$

と書き表される。

証明

母関数で書き表したものの左辺を変形すると右辺が得られる。

$\begin{array}{cc}\prod _{m=1}^{\mathrm{\infty }}(1+x^m)& =\prod _{m=1}^{\mathrm{\infty }}\frac{(1+x^m)(1-x^m)}{1-x^m}\\ & =\prod _{m=1}^{\mathrm{\infty }}\frac{1-x^{2m}}{1-x^m}\\ & =\frac{1-x^{2\cdot 1}}{1-x^1}\cdot \frac{1-x^{2\cdot 2}}{1-x^2}\cdot \frac{1-x^{2\cdot 3}}{1-x^3}\cdot \frac{1-x^{2\cdot 4}}{1-x^4}\cdot ...\\ & =\prod _{m=1}^{\mathrm{\infty }}\frac{1-x^{2m}}{(1-x^{2m-1})(1-x^{2m})}\\ & =\prod _{m=1}^{\mathrm{\infty }}\frac{1}{1-x^{2m-1}}\\ \end{array}$

初等的な説明

例として 8 を分割することを考える。ここで P を「異なる数による分割」に現れる一つの偶数をその半分の二つの整数の和にする変換、U を「奇数のみの分割」に現れる同じ二つの整数を一つの偶数にする変換とすると

$1+(2)+5\stackrel{P}{\to }1+[1+1]+5\stackrel{U}{\to }1+2+5$

$1+3+(4)\stackrel{P}{\to }1+[(2)+(2)]+3\stackrel{P}{\to }1+[1+1]+[1+1]+3\stackrel{U}{\to }1+((2)+(2))+3\stackrel{U}{\to }1+3+4$

$1+7\stackrel{I}{\to }1+7$

$(2)+(6)\stackrel{P}{\to }[1+1]+[3+3]\stackrel{U}{\to }2+6$

$3+5\stackrel{I}{\to }3+5$

$(8)\stackrel{P}{\to }[(4)+(4)]\stackrel{P}{\to }[(2)+(2)]+[(2)+(2)]\stackrel{P}{\to }[1+1]+[1+1]+[1+1]+[1+1]\stackrel{U}{\to }(2+2)+(2+2)\stackrel{U}{\to }(4+4)\stackrel{U}{\to }8$

このように「異なる数による分割」の方法と「奇数のみの分割」の方法との間に1対1対応がつけられる。これはPとUが互いに逆の変換であることから導かれる。したがってそれらの方法の個数は互いに等しい。ただし上記の 1+7 や 3+5 のような「異なる数による分割」と「奇数のみの分割」の両方に属するような方法は自分自身に対応づけることとする。その場合は恒等写像 I で表した。

参考文献

• テンプレート:Citation
  • テンプレート:Cite book - 注記：原著第2版の翻訳。
• テンプレート:Citation
  • テンプレート:Cite book - 注記：原著第5版の翻訳。

関連項目

• 自然数の分割
• 分割数
• ロジャース＝ラマヌジャン恒等式: 和因子が±1 (mod 4)であるオイラーの分割恒等式のmod 5版
• シューアの分割定理: 和因子が±1 (mod 4)であるオイラーの分割恒等式のmod 6版
• グレイシャーの定理: オイラーの分割恒等式、およびロジャース＝ラマヌジャン分割恒等式を一般化する。グレイシャー対応。

外部リンク

• テンプレート:MathWorld
• Alexander D. Healy, Partition Identities
• テンプレート:PDFlink