グリーン関数 (多体理論)

多体理論においてグリーン関数（グリーンかんすう、テンプレート:Lang-en-short）とは、相関関数と同じ意味で用いられ、特に場の演算子や生成消滅演算子についての相関関数を意味する。

この名前は数学における非同次な微分方程式を解くために用いられるグリーン関数に由来しているが、多体理論におけるものと数学におけるものとは大まかにだけ関係している。

実時間グリーン関数

1粒子グリーン関数

場の量子論では、遅延グリーン関数 テンプレート:En $G_{A.B}^{\mathrm{r}}$、先進グリーン関数 テンプレート:En $G_{A.B}^{\mathrm{a}}$、因果グリーン関数 テンプレート:En $G_{A.B}^{\mathrm{c}}$ を総称している。これらはまとめて二時間グリーン関数 テンプレート:En とも呼ばれ、次のように定義される。

$\begin{array}{cc}{G}_{A.B}^{\mathrm{r}}& =\frac{\theta (t-t^{\prime })}{i\hslash }⟨[\hat{A}(t),\hat{B}(t^{\prime }){]}_{\pm }⟩\\ G_{A.B}^{\mathrm{a}}& =-\frac{\theta (t-t^{\prime })}{i\hslash }⟨[\hat{A}(t),\hat{B}(t^{\prime }){]}_{\pm }⟩\\ G_{A.B}^{\mathrm{c}}& =\frac{1}{i\hslash }⟨T[\hat{A}(t)\hat{B}(t^{\prime })]⟩\end{array}$

ここで $⟨\cdot ⟩$ は基底状態での期待値を表す。演算子の時間依存性はハイゼンベルク描像を表す。テンプレート:Math は階段関数、テンプレート:Math は交換子、テンプレート:Mvar は時間順序積である。

テンプレート:Math がそれぞれ場の演算子 テンプレート:Math あるいは生成消滅演算子である場合、二時間グリーン関数 テンプレート:Math は1粒子グリーン関数（あるいは、1体グリーン関数； テンプレート:En）と呼ばれる。

$\begin{array}{cc}{G}^{\mathrm{r}}(𝒓t,{𝒓}^{\prime }{t}^{\prime })& =\frac{\theta (t-t^{\prime })}{i\hslash }⟨[\hat{\psi }(𝒓,t),{\hat{\psi }}^{†}({𝒓}^{\prime },t^{\prime }){]}_{\pm }⟩\\ G^{\mathrm{a}}(𝒓t,{𝒓}^{\prime }{t}^{\prime })& =-\frac{\theta (t-t^{\prime })}{i\hslash }⟨[\hat{\psi }(𝒓,t),{\hat{\psi }}^{†}({𝒓}^{\prime },t^{\prime }){]}_{\pm }⟩\\ G^{\mathrm{c}}(𝒓t,{𝒓}^{\prime }{t}^{\prime })& =\frac{1}{i\hslash }⟨T[\hat{\psi }(𝒓,t){\hat{\psi }}^{†}({𝒓}^{\prime },t^{\prime })]⟩\end{array}$

これらの関数がグリーン関数と呼ばれる理由は、二時間グリーン関数が、相互作用がない場合の時間依存シュレーディンガー方程式の数学的な意味でのグリーン関数になっているからである。

n粒子グリーン関数

テンプレート:Mvar 粒子因果グリーン関数は次のように定義される。

$G({𝒓}_1{t}_1,{𝒓}_2{t}_2,\dots ,{𝒓}_{2n}{t}_{2n})=(-i{)}^n⟨T[\psi ({𝒓}_1,t_1)\dots \psi ({𝒓}_n,t_n){\psi }^{†}({𝒓}_{n+1},t_{n+1})\dots {\psi }^{†}({𝒓}_{2n},t_{2n})]⟩$

温度グリーン関数

テンプレート:Main 以上は基底状態におけるグリーン関数であり、絶対温度が テンプレート:Math K である場合のみ使える。有限温度では期待値のとり方を密度行列を使った平均値にすればよい。このグリーン関数は時間だけでなく温度にも依存し、温度グリーン関数（または松原グリーン関数；テンプレート:En）$G_{A.B}^{\tau }$ という。温度グリーン関数は1955年に松原武生によって提案されたもので、次のように定義される。

$G_{A.B}^{\tau }=-⟨T_r[\hat{A}(\tau )\hat{B}({\tau }^{\prime })]⟩$

ここで $⟨\cdot ⟩$ はグランドカノニカル平均、$\hat{A}(\tau )=e^{\hat{H}\tau /\hslash }\hat{A}{e}^{-\hat{H}\tau /\hslash }$ はハイゼンベルク表示を虚時間に拡張したものである。$T_r$ は $\tau$ と ${\tau }^{\prime }$ の大小関係に応じて時間順序積と同じ並べ替えをする演算子である。

テンプレート:Math がそれぞれ場の演算子 テンプレート:Math あるいは生成消滅演算子である場合、1粒子温度グリーン関数と呼ばれる。

$G^{\tau }(𝒓\tau ,{𝒓}^{\prime }{\tau }^{\prime })=-⟨T_r[\hat{\psi }(𝒓,\tau ){\hat{\psi }}^{†}({𝒓}^{\prime },{\tau }^{\prime })]⟩$

n粒子温度グリーン関数は次のように定義される。

$G^{\tau }({𝒓}_1{\tau }_1,{𝒓}_2{\tau }_2,\dots ,{𝒓}_{2n}{\tau }_{2n})=-⟨T_r[\psi ({𝒓}_1,{\tau }_1)\dots \psi ({𝒓}_n,{\tau }_n){\psi }^{†}({𝒓}_{n+1},{\tau }_{n+1})\dots {\psi }^{†}({𝒓}_{2n},{\tau }_{2n})]⟩$

温度グリーン関数は他の実時間グリーン関数と比べて、摂動展開がブロッホ＝ドミニシスの定理（ウィックの定理）によって簡単にでき、場の量子論で開発されたファインマン・ダイアグラムを使うことで視覚的にまとまった形で規則づけることができるという利点がある。

物理量の計算

任意の第二量子化された一体演算子$\hat{A}=\int {\hat{\psi }}^{†}(𝒓)\hat{A}(𝒓)\hat{\psi }(𝒓)d𝒓$の平均値$⟨\hat{A}⟩$は、1粒子温度グリーン関数で表すことができる。

$⟨\hat{A}⟩=\int ⟨{\hat{\psi }}^{†}(𝒓)\hat{A}(𝒓)\hat{\psi }(𝒓)⟩d𝒓=\mp \int \underset{{𝒓}^{\prime }\to 𝒓,{\tau }^{\prime }\to \tau +0}{\lim }\hat{A}(𝒓)G^{\tau }(𝒓\tau ,{𝒓}^{\prime }{\tau }^{\prime })$

2体の演算子の平均値は、一般に2粒子グリーン関数を必要とする。

グランドポテンシャル

グランドポテンシャルは、ハミルトニアンの相互作用項が2体の演算子であるにも関わらず1粒子温度グリーン関数を用いて表すことができる。グランドポテンシャルが求まれば、そこからあらゆる熱力学的な物理量を計算することができる。

線形応答

線形応答理論の久保理論の応答関数${\mathrm{\Phi }}_{A,B}$は、遅延グリーン関数$G_{A.B}^{\mathrm{r}}$と同じ形をしている。遅延グリーン関数は温度グリーン関数$G_{A.B}^{\tau }$を解析接続すると得られる。物理量$A,B$は一組の生成演算子と消滅演算子を用いて表されることが多く、その場合の温度グリーン関数は2粒子温度グリーン関数となる。2粒子温度グリーン関数は、ファインマンダイアグラムで展開することができる。

非平衡グリーン関数

以上のグリーン関数は平衡状態のものである。非平衡状態のグリーン関数として代表的なものに、ケルディッシュ形式におけるKeldyshグリーン関数がある。

参考文献

• テンプレート:Cite book

関連項目

• グリーン関数
• 伝播関数