サイクロトロン運動

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真空管内の陰極線のビームがヘルムホルツコイルによって生成された磁場によって円状に曲げられ、サイクロトロン運動する様子。陰極線は通常目に見えないが、このデモンストレーションでは、十分な残留気体が真空管内に残されており、高速電子が気体原子に衝突することで蛍光を発する

物理学において、サイクロトロン運動テンプレート:Lang-en-short)とは空間的に一様な定常磁場中における荷電粒子等速円運動[1][2]。一様な定常磁場中で荷電粒子の運動の軌道は、一般に磁力線に巻き付く形で螺旋軌道となるが、速度ベクトルが磁場に垂直な場合にはサイクロトロン運動での等速円運動となる。加速器の一種であるサイクロトロンでは、サイクロトロン運動における回転の周期が粒子の速度や円運動の半径に依存しないことを利用し、周期的な電場印加による加速を行う。

概要

一様な静磁場中での電子の旋回運動。軌道は磁場の方向を中心軸とする螺旋軌道となる。負の電荷をもつ電子は磁場の方向に対し、右回りに旋回運動する。

磁場中で電荷テンプレート:Mvarの荷電粒子は磁場テンプレート:Mathと粒子の速度ベクトルテンプレート:Mathに垂直な方向にローレンツ力を受け、磁場に巻き付く旋回運動をする。このとき、正の電荷を持つ粒子は磁場方向に向かって左回り、負の電荷を持つ粒子は磁場方向に向かって右回りに運動する。磁場が空間的に一様で時間的に定常である場合、荷電粒子の運動は磁場の方向を中心軸とする螺旋運動となる。粒子の運動を磁場に垂直な平面に射影した場合、運動成分はサイクロトロン周波数またはジャイロ周波数と呼ばれる角周波数[注 1][注 2] での等速円運動となる。この運動をサイクロトロン運動という[1][2]。速度ベクトルの磁場に垂直な成分をテンプレート:Math、回転の半径をテンプレート:Mathとすると、向心力 テンプレート:Mathとローレンツ力 テンプレート:Mathは釣り合うことからテンプレート:Mathである[3]。この半径テンプレート:Mathサイクロトロン半径、またはラーモア半径ジャイロ半径という。また、速度ベクトルの磁場に水平な成分をテンプレート:Mathとすると、磁場に水平な方向についての運動は、テンプレート:Mathでの等速直線運動となる。特に速度ベクトルの磁場に水平な成分テンプレート:Mathがゼロであり、垂直な成分テンプレート:Mathのみが存在する場合、粒子の運動は磁場に水平な面内での等速円運動となる。

磁場中の粒子の運動

電荷テンプレート:Mvar 、質量テンプレート:Mvar の粒子が一様の定常磁場中テンプレート:Math古典力学に従い運動することを考える。粒子の位置座標をテンプレート:Math、速度テンプレート:Mathをすると、ローレンツ力を受けて運動する粒子の運動方程式は以下で与えられる。

md𝒗dt=q(𝒗×𝑩)

磁場の方向をテンプレート:Mvar 軸方向にとってテンプレート:Math とすると、運動方程式は

mdvxdt=qBvymdvydt=qBvxmdvzdt=0

となる。この解は

vx(t)=vsin(ωct+α)vy(t)=vcos(ωct+α)vz(t)=v

で与えられる。ここでテンプレート:Mathテンプレート:Mathテンプレート:Mvar積分定数であり、角周波数テンプレート:Math

ωc=qBm=q|𝐁|m

で定義されるサイクトロン振動数である[注 3] 。このとき、対応する位置座標は

x(t)=Xvωccos(ωct+α)y(t)=Y+vωcsin(ωct+α)z(t)=Z+vt

となる。テンプレート:Mvarテンプレート:Mvarテンプレート:Mvarは積分定数である。この粒子の運動をサイクロン運動という。 この運動の軌道をテンプレート:Mvar平面内に射影するとテンプレート:Mathを中心とし、半径を

rc=v|ωc|=mv|q|B

とし、一定の角周波数テンプレート:Mathで旋回する等速円運動になる。この半径をサイクロトロン半径、またはラーモア半径ジャイロ半径という。 粒子はテンプレート:Mvar軸方向には等速直線運動をしており、空間内の軌道は等速直線運動と等速円運動を組み合わせた螺旋となる。

物質は温度を上げていくと固体、液体、気体と状態が相変化する。さらに温度を上げると気体分子は気体原子に分離し、やがて、電子とイオンに電離したプラズマ状態となる。 磁場の値をテンプレート:Mathとしたとき、電子のサイクロトロン周波数テンプレート:Mvarとイオンのサイクロトロン周波数テンプレート:Mvarは角周波数の表示で

ωe=1.76×1011B[rad/s]
ωi=9.58×107Ziμi1B[rad/s]

となり、対応する周波数は

fe=ωe2π=2.80×1010B[Hz]
fi=ωp2π=1.52×107Ziμi1B[Hz]

となる[2][4][5]。ここでテンプレート:Mvar はイオンの価数、テンプレート:Mvarテンプレート:Math (テンプレート:Mvar:イオンの質量、テンプレート:Mvar:プロトンの質量)で定まるイオンとプロトン(=水素イオン)の質量比であり、例えば、テンプレート:Mathである[4]

テンプレート:Mathテンプレート:Mathテンプレート:Mvarボルツマン定数テンプレート:Mvar:温度)の場合、電子とプロトンのサイクロトロン半径、サイクロトロン周波数は下記の表に示される値になる[3]。 但し、温度テンプレート:Mvar における粒子が熱速度テンプレート:Mathで運動しているとし、磁場との垂直方向の速度成分の大きさテンプレート:Mathテンプレート:Math に等しいとする。

項目 電子 プロトン
熱速度 テンプレート:Math テンプレート:Math テンプレート:Math
サイクロトロン半径 テンプレート:Math テンプレート:Math テンプレート:Math
サイクロトロン周波数(角周波数表示) テンプレート:Math テンプレート:Math テンプレート:Math
サイクロトロン周波数(周波数表示) テンプレート:Math テンプレート:Math テンプレート:Math

歴史

一様な磁場中の荷電粒子の運動を理論的に扱ったのは、ドイツの物理学者テンプレート:仮リンクである[6] [7]。リーケは1881年の論文「一様な磁場中での電気的な粒子の運動と負の電気的なグリム光」の中で一様な磁場中をローレンツ力を受けて運動する粒子の軌道が螺旋となることを示した。

脚注

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出典

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参考文献

論文

和文誌記事

書籍

関連項目

外部リンク


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