ファインマン–カッツの公式

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ファインマン–カッツの公式(ファインマン–カッツのこうしき、テンプレート:Lang)とは、放物型偏微分方程式コーシー問題の解u(𝐱,t)を、ウィーナー過程Wtを用いて表現した公式のことである。

概要

ファインマン経路積分による量子化を発見したのが、この公式の研究の発端である [1]カッツは、シュレディンガー方程式ではなく拡散方程式[注釈 1]を考察することで、確率過程として数学的に厳密な定式化を行った[2]。ファインマン-カッツの公式は拡散方程式に対する公式であることに注意すべきである。実時間でのシュレディンガー方程式に対する解までこみでファインマン-カッツの公式と呼ぶこともあるが、拡散方程式に対してのみこう呼ぶのが厳密には正しい。実時間のシュレディンガー方程式に対しては、測度論を基礎にして解の公式を構成することはできない[注釈 2][3]。実時間での経路積分を、虚時間の理論でファインマン・カッツの公式を適用したあとで時間パラメータに関しての解析接続によって導こうという方法論は、一般的に適用可能な数学的厳密性を持ったアプローチなのか否かはおそらくわかっていない。現在のところ、時間を無限に分割し、分点ごとに積分し、その後で極限値をとることで経路積分は定義されていると考えるのが一般的に適用可能なアプローチである。事実、経路積分を数学的に明確に定義しようとしている書物[4]ではこのように極限で定義されたものとして扱っている。

状態空間が無限の場合(𝐱d)は基本的なブラウン運動[注釈 3]を用いるだけなので形式的表現は簡単である。ただし、遷移確率(テンプレート:Lang)を用いて解の具体的な関数形を導出する際、計算が簡単に済むか否かはポテンシャルの関数形に依存する[注釈 4][注釈 5][5][6]。 定義域が半無限や有限の場合は境界条件が現れるためブラウン運動ではなく反射ブラウン運動弾性ブラウン運動などを用いる必要がある[注釈 6]。特に第3種の境界条件の場合は、弾性ブラウン運動で表現する必要があり、局所時間(テンプレート:Lang)[注釈 7]が公式に現れるので、形式的な表現は別として具体的に計算するのは面倒である。


定理(ファインマン-カッツの公式)

v(t,x)は、状態空間[0,T]×dで 連続実数値、 かつC1,2級関数[注釈 8]と仮定する。 さらに、任意のxdに対して、 ある定数K>0が存在し、定数0<a<1/(2Td)に対して 条件

max0tT|v(t,x)|+max0tT|g(t,x)|Kea||x||2,

を満足すると仮定する[注釈 9]。 このとき、コルモゴロフの後退方程式のコーシー問題

vt+k(t,x)v=122v+g(t,x),t[0,T],xd,v(T,x)=f(x),

の解v(t,x)は、

v(t,x)=Ex[f(WTt)exp(0Ttk(Ws)ds)+0Ttg(t+θ,Wθ)exp(0θk(Ws)ds)dθ],t[0,T],xd,

で与えられる。v(t,x)は一意である [7]。 ただし、Exは、初期時刻t=0において 𝐱から出発するブラウン運動に関する期待値を表す [注釈 10]

確率過程から見たポテンシャル

確率過程の観点から解釈しなおすと、ポテンシャルは時刻tにおいて k(𝐱,t)dtのレートで、運動する粒子を確率的に消去する作用(テンプレート:Lang)に 相当すると解釈できる。ポテンシャルが局所的に負になる場合は、負の最小値の分だけかさあげしてやれば 同様に解釈できる。

証明の基本方針

証明は、伊藤の公式(テンプレート:Lang)(または伊藤の補題(テンプレート:Lang))と、 確率積分局所マルチンゲール性を適用して得られる。 基本的な確率過程|Bt|のように2回微分不可能な場合は伊藤の公式は適用できない。 しかし、関数|x|凸関数(テンプレート:Lang)であるので 一般化されたされた伊藤の公式(テンプレート:Lang)を適用することで類似の公式が得られる。

証明

tを固定して、 v(t+θ,Wθ)exp(0θk(Ws)ds) に対して伊藤の補題を適用して、

d[v(t+θ,Wθ)exp(0θk(Ws)ds)]=exp(0θk(Ws)ds)[g(t+θ,Wθ)dθ+j=1dxjv(t+θ,Wθ)dWθ(j)],

を得る。ここで、右辺第2項は局所マルチンゲール[注釈 11]であることに注意して、停止時刻Sn:=inf(t0|||Wt||nd,n1)を導入すると、 0<r<Ttに対して、

v(t,x)=Ex[0rSng(t+θ,Wθ)exp(0θk(Ws)ds)dθ]+Ex[v(t+Sn,WSn)exp(0Sndsk(Ws))𝟏{Snr}]+Ex[v(t+r,Wr)exp(0rdsk(Ws))𝟏{Sn>r}],

が言える。ただし、

xy:=max(x,y),

𝟏S:={1if S is true.0otherwise,

である。ここで、右辺第1項は

Ex[0Ttg(t+θ,Wθ)exp(0θk(Ws)ds)dθ],n,rTt,

へ収束する。一方、右辺第2項については

Ex[|v(t+Sn,WSn)|1{SnTt}]2Keadn2j=1d(Px[WT(j)n]+Px[WT(j)n]),

が言える。ところが

eadn2Px[±WT(j)n]eadn2T2π1nx(j)e(nx(j))2/(2T)0,n,

ただし、0a1/(2Td)である。 右辺第3項については、

Ex[v(T,WTt)exp(0Ttk(Ws)ds)],n,rTt,

へ収束する。したがって、ファインマン-カッツの公式が証明された[7]QED

脚注

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注釈

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出典

  1. R.P.Feynman, Rev.Mod.Phys. 20(1948)367.
  2. M.Kac, Transactions of the American Mathematical Society 65(1949)1-13.
  3. 中村徹著「超準解析と物理学」、日本評論社、1998、ISBN 4-535-78248-2。同書での引用文献を参照。
  4. 例えば、藤原大輔著「ファインマン経路積分の数学的方法」シュプリンガー・ジャパン、1999年、ISBN 978-4-431-70748-6 .
  5. D.Peaks and A.Inomata, J.Math.Phys.10(1969)1422.
  6. 具体的な計算テクニックについては、H.Kleinert, Path Integrals in Quantum Mechanics, Statistics, Polymer Physics and Financial Markets(fifth edition), World Scienctific, ISBN 978-981-4273-56-5 や C.Grosche and F.Steiner, Handbook of Feynman Path Integrals, Springer Verlag, 1998, ISBN 3-540-57135-3 などを参照。
  7. 7.0 7.1 I.Karatzas and S.E.Shreve, Brownian Motion and Stochastic Calculus(second edition), Springer Verlag, 1991, ISBN 0-387-97655-8 (New York), pp.268-269.

参考文献

  • I.Karatzas and S.E.Shreve, Brownian motion and Stochastic Calculus(second edition), Springer verlag, 1991, ISBN 0-387-97655-8 (New York).
  • L.C.G.Rogers and D.Williams, Diffusions, Markov processes and Martingales vol.1 and vol.2(second edition), Cambridge University Press,


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