リエナール・ヴィーヘルト・ポテンシャル

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リエナール・ヴィーヘルト・ポテンシャルテンプレート:Lang-en-short)は運動する点電荷によって生じる古典的電磁場を記述する、ローレンツ・ゲージにおける電気ベクトル・ポテンシャルと磁気スカラー・ポテンシャルである。提案者であるテンプレート:仮リンクエミール・ヴィーヘルトに因む。

リエナール・ヴィーヘルト・ポテンシャルはマクスウェルの方程式から直接導かれ、点電荷の任意の運動に対する時間変化する電磁場を完全に、相対論的に正しく記述する。によって表される電磁輻射はリエナール=ヴィーヘルト・ポテンシャルから得られる。一方で、を古典的に扱うがゆえに量子力学的な効果は表されない。

リエナール・ヴィーヘルト・ポテンシャルの表式は、一部を1898年にアルフレド=マリー・リエナールが、1900年[1]から1900年初頭にかけてエミール・ヴィーヘルトがそれぞれ独立に与えた。

影響

古典電磁気学を規範として、アルベルト・アインシュタイン特殊相対性理論を導いた。 電磁波の運動と伝播を調べることで、相対論的な空間時間の記述を導いた。 リエナール・ヴィーヘルトの公式は運動する相対論的な粒子系のより詳細な解析をするための出発点として重要な役割を果たす。

巨視的で互いに独立に運動する粒子に対しては、リエナール・ヴィーヘルトの公式による記述は正確だが、粒子の運動が量子論的になる領域においては正確ではなくなる。

量子力学では粒子の電磁放射について制限が加わる。粒子の放射現象に関する古典的な記述は、実験結果と明らかに食い違ってしまう。例えば原子を構成する電子は古典論が示すような放射現象を起こさず、原子は安定に存在できる。このことは電子のエネルギー状態が量子化されることによって説明される。

放射を理解するには電磁場を量子化する必要があり、量子電磁力学として20世紀の後半に構築された。

定義

リエナール・ヴィーヘルト・ポテンシャルは運動する点電荷が作る電磁ポテンシャルである。電磁場の源(source)となる運動体の、時刻 t における位置を 𝒓s(t) するとき、その観測位置 𝒓 について、伝播速度すなわち光速 c に基づく遅滞時刻 tr が定義され、この時刻の電荷位置 𝒓s(tr) からポテンシャルが与えられる。

運動体の運ぶ電荷q速度𝒗s とすると、スカラー・ポテンシャル φベクトル・ポテンシャル 𝑨 は次のように表される。

φ(𝒓,t)=14πϵ0(q(1𝒏βs)|𝒓𝒓s|)tr,
𝑨(𝒓,t)=μ0c4π(qβs(1𝒏βs)|𝒓𝒓s|)tr=βs(tr)cφ(𝒓,t).

ここで、

  • 速度因子 βs(t)=𝒗s(t)cは、光速に対する比率で規格化した速度ベクトル、
  • 𝒏=𝒓𝒓s|𝒓𝒓s|は、電場源からの方向を示す単位ベクトル、
  • ()tr は 、括弧の中が、遅滞時刻における量であることを示す。ただし観測位置 𝒓 は時刻によらず一定とする。

遅滞時刻 Retardant time

遅滞時刻の定義は以下である。

tr=tr(𝐫,𝐫s,t)=t1c|𝐫(t)𝐫s(tr)|

右辺にも tr が含まれる陰的な式であり、もっぱら反復解法で計算される。

対応する電磁場

電磁ポテンシャルからは、対応する電場磁場が導かれる。

𝑬=φ𝑨t,
𝑩=×𝑨.

上式により、リエナール・ヴィーヘルト・ポテンシャルに対しては、次の共変でない電磁場の表式が得られる。

𝑬(𝒓,t)=14πϵ0(q(𝒏β)γ2(1𝒏β)3|𝒓𝒓s|2+q𝒏×((𝒏β)×β˙)c(1𝒏β)3|𝒓𝒓s|)tr,
𝑩(𝒓,t)=μ04π(qc(β×𝒏)γ2(1𝒏β)3|𝒓𝒓s|2+q𝒏×(𝒏×((𝒏β)×β˙))(1𝒏β)3|𝒓𝒓s|)tr=𝒏(tr)c×𝑬(𝒓,t).

ここで γ(t)=11|β(t)|2ローレンツ因子である。

上式中の観測位置 𝒓 は時間によらないが、 𝒓s は遅延時刻の量である。それにもかかわらず電界 E は観測時刻の運動体位置を通る方向となる。

また、もし電荷が一定の速度 cβ で運動する場合、速度因子の時間微分 β˙(t)=dβ(t)dt はゼロになるので、電場は 𝒏β の項だけが残る。このとき電場の向きは 𝒏β によって決まる。 電場の初項は、特に速度因子がゼロ β(t)=0 としたときに残る部分は、電荷 q の点電荷の周りの静電場に一致し、電荷のもたらす電磁場の静的な成分とみなされる。

第二項は運動する電荷が放射する電磁波に対応する。位置 𝒓 で電場 𝑬(𝒓,t) を観測するとき、 電荷と観測点を結ぶ方向に直交するように電荷が加速されると第二項の輻射項が観測される。 この輻射項の電磁場の向きは遅延時刻における電荷の位置を向いている。

導出

外界電磁場ソーステンプレート:要曖昧さ回避がない境界条件の下で、非斉次波動方程式における電磁ポテンシャル遅延解は、ローレンツ・ゲージを採用すれば、電荷密度 ρ(𝒓,t) および電流密度 𝑱(𝒓,t) をソースとして、

φ(𝒓,t)=14πϵ0ρ(𝒓,tr)|𝒓𝒓|d3𝒓

および

𝑨(𝒓,t)=μ04π𝑱(𝒓,tr)|𝒓𝒓|d3𝒓

となる。ここで tr=t1c|𝒓𝒓|遅延時間 (retarded time) である。

ソースとなる点電荷の運動の軌跡は時間の関数 𝒓s(t) として与えられる。電荷密度および電流密度は以下のものを考える。

ρ(𝒓,t)=qδ3(𝒓𝒓s(t)),
𝑱(𝒓,t)=q𝒗s(t)δ3(𝒓𝒓s(t)).

ここで δ3 は 3 次元のディラックのデルタ関数であり、𝒗s(t) は点電荷の速度である。

電荷密度と電流密度を具体的な形に書き直せば、以下の電磁ポテンシャルが与えられる。

φ(𝒓,t)=14πϵ0qδ3(𝒓𝒓s(tr))|𝒓𝒓|d3𝒓
𝑨(𝒓,t)=μ04πq𝒗s(tr)δ3(𝒓𝒓s(tr))|𝒓𝒓|d3𝒓

これらの積分を簡単にするために、デルタ関数 δ(ttr) を用いて trt で置き換え、t の積分に直せば次のようになる。

φ(𝒓,t)=14πϵ0qδ3(𝒓𝒓s(t))|𝒓𝒓|δ(ttr)dtd3𝒓,
𝑨(𝒓,t)=μ04πq𝒗s(t)δ3(𝒓𝒓s(t))|𝒓𝒓|δ(ttr)dtd3𝒓.

また、積分の順序を入れ替えれば以下の式を得る。

φ(𝒓,t)=14πϵ0δ(ttr)|𝒓𝒓|qδ3(𝒓𝒓s(t))d3𝒓dt,
𝑨(𝒓,t)=μ04πδ(ttr)|𝒓𝒓|q𝒗s(t)δ3(𝒓𝒓s(t))d3𝒓dt.

デルタ関数によって 𝒓=𝒓s(t) となるような対角成分だけが取り出され、内側の積分が簡単になる。 tr𝒓 の関数であることに注意し、tr=tr(𝒓s(t),t) と書き直して積分を行う。

φ(𝒓,t)=14πϵ0qδ(ttr)|𝒓𝒓s(t)|dt,
𝑨(𝒓,t)=μ04πq𝒗s(t)δ(ttr)|𝒓𝒓s(t)|dt.

遅延時間 tr およびソースの位置 𝒓s(t)(𝒓,t) の関数であり、従って t に依存する。 この積分を計算するために、以下の恒等式を利用する。

δ(f(t))=iδ(tti)|f(ti)|

ここで ti はそれぞれ関数 f(t) がゼロとなるような点である。 任意の与えられた時間と空間の座標 (𝒓,t) とソースの軌跡 𝒓s(t) に対して、 遅延時間 tr は唯一つに定まるので、デルタ関数は次のように簡単にできる。

δ(ttr)=δ(ttr)t(ttr)|t=tr=δ(ttr)t(t(t1c|𝒓𝒓s(t)|))|t=tr=δ(ttr)1+1c(𝒓𝒓s(t))/|𝒓𝒓s(t)|(𝒗s(t))|t=tr=δ(ttr)1βs(𝒓𝒓s)/|𝒓𝒓s|

ここで βs=𝒗s/c, βs および 𝒓s は遅延時間 tr の関数であり、また恒等式 |𝒙|=𝒙^𝒗 を用いた。最後に、デルタ関数で t=tr となる点を取り出せば、

φ(𝒓,t)=14πϵ0(q|𝒓𝒓s|(1βs(𝒓𝒓s)/|𝒓𝒓s|))tr=14πϵ0(q(1𝒏βs)|𝒓𝒓s|)tr,
𝑨(𝒓,t)=μ04π(q𝒗|𝒓𝒓s|(1βs(𝒓𝒓s)/|𝒓𝒓s|))tr=μ0c4π(qβs(1𝒏βs)|𝒓𝒓s|)tr.

となる。これがリエナール・ヴィーヘルト・ポテンシャルである。

関連項目

参考文献

テンプレート:Reflist

  • David Griffiths, Introduction to Electrodynamics, Prentice Hall, 1999. ISBN 0-13-805326-X.
  1. [1]: Some Aspects in Emil Wiechert's Scientific Work(エミール・ヴィーヘルトの科学的研究におけるいくつかの側面)。