ローレンツ因子
ローレンツ因子 (テンプレート:Lang-en-short) とは、物体が動いているときに物体の時間、長さ、相対論的質量に依存して変化する因子である。ローレンツ変換の結果現われる因子であり、特殊相対性理論の方程式にしばしば現われる。相対性理論よりも前にオランダ人の物理学者・ヘンドリック・ローレンツにより提唱されたローレンツ電磁気学に現われることからこう呼ばれる[1]。
その遍在性から、一般にギリシャ文字 テンプレート:Mvar (小文字のガンマ)により表わされる。場合によっては(特に超光速運動の文脈では) テンプレート:Mvar (大文字のガンマ)により表わされることもある。
定義
ローレンツ因子は下のように定義される[2]。
ここで、
- テンプレート:Mvar: 慣性系間の相対速度
- テンプレート:Mvar: テンプレート:Mvar と テンプレート:Mvar との比(テンプレート:Math)
- テンプレート:Mvar: 観測者の固有時(観測者自身の慣性系で測定される時間間隔)
- テンプレート:Mvar: 座標時
- テンプレート:Mvar: 真空中における光速
とする。
上の定義が最もよく実用に用いられているが他の定義も存在し、たとえば次のように上の定義の逆数と定義することもある[3]。
テンプレート:仮リンク も参照。
使用例
下に テンプレート:Mvar を含む特殊相対性理論中の数式の簡単な一覧を示す[2][4]。
- ローレンツ変換:もっとも簡単な テンプレート:Mvar 方向へのローレンツブーストを示す(より一般的な、任意の方向と回転を含む変換はここに示さない)。 慣性系 (テンプレート:Mvar, テンプレート:Mvar, テンプレート:Mvar, テンプレート:Mvar) から相対速度 テンプレート:Mvar をもつ別の慣性系 (テンプレート:Mvar, テンプレート:Mvar, テンプレート:Mvar, テンプレート:Mvar) への変換は以下のように表わされる。
上式の系として以下が得られる。
- 時間の遅れ (Time dilation): 時計に対して動いている慣性系で測った二つの刻みの間の時間 (テンプレート:Mvar) は、時計の静止系で測った時間 (テンプレート:Mvar) よりも長く、以下のようになる。
- テンプレート:仮リンク (Length contraction): ある物体に対して動いている慣性系で測ったその物体の長さ (テンプレート:Mvar) は、その物体の静止系で測った長さ (テンプレート:Mvar) よりも短く、以下のようになる。
運動量・エネルギー保存則を適用することで以下の結果が得られる。
- テンプレート:仮リンク: 動いている物体の相対論的質量 テンプレート:Mvar は テンプレート:Mvar と静止質量 テンプレート:Math を用いて以下のように表わされる。
- 相対論的運動量: 相対論的な運動量の関係式は非相対論的運動量の関係式と同じだが、上記の相対論的質量を用いた下式で表わされる。
- 相対論的運動エネルギー: 相対論的運動エネルギーの関係式は非相対論的なものと若干異なり、以下のようになる。
数値

下表の左列には光速との比で表わした (単位を テンプレート:Mvar とする) 様々な速度を示す。中列にはローレンツ因子、右列にはその逆数を示す。 太字で表わした数値は厳密な値である。
| 速さ (単位 c) | ローレンツ因子 | ローレンツ因子の逆数 |
|---|---|---|
| 0.000 | 1.000 | 1.000 |
| 0.050 | 1.001 | 0.999 |
| 0.100 | 1.005 | 0.995 |
| 0.150 | 1.011 | 0.989 |
| 0.200 | 1.021 | 0.980 |
| 0.250 | 1.033 | 0.968 |
| 0.300 | 1.048 | 0.954 |
| 0.400 | 1.091 | 0.917 |
| 0.500 | 1.155 | 0.866 |
| 0.600 | 1.250 | 0.800 |
| 0.700 | 1.400 | 0.714 |
| 0.750 | 1.512 | 0.661 |
| 0.800 | 1.667 | 0.600 |
| 0.866 | 2.000 | 0.500 |
| 0.900 | 2.294 | 0.436 |
| 0.990 | 7.089 | 0.141 |
| 0.999 | 22.366 | 0.045 |
| 0.99995 | 100.00 | 0.010 |
様々な表式
上記の表式以外にも、ローレンツ因子は様々な表式で表わすことができる。 上式では速度 テンプレート:Mvar が用いられているが、運動量やラピディティのような関連する物理量を用いた表式が便利なこともある。
運動量
上記の相対論的運動量の関係式を テンプレート:Mvar について解くと以下を得る。
この表式が用いられることはほとんどないが、テンプレート:仮リンクに用いられる[5]。
ラピディティ
ラピディティの定義、すなわち以下で定義されるテンプレート:仮リンク テンプレート:Mvar[6]
を用いて テンプレート:Mvar は(双曲線関数についての恒等式を用いて)以下のように表わされる。
ローレンツ変換の性質を用いて、ラピディティの加法性を示すことができる。これは速度にはない有用な性質である。従って、ラピディティは物理モデルの基礎となるテンプレート:仮リンクを成す。
級数展開(速度)
ローレンツ因子は下記のように二項級数の形にマクローリン展開できる。
上式を二次までで打ち切った近似式 テンプレート:Math は低速における相対論効果を計算するために用いられる。 この近似式は テンプレート:Math の範囲において誤差 1% 以下に納まり、 テンプレート:Math の範囲においては誤差 0.1% に納まる。
この級数を打ち切った近似式から、特殊相対性理論が低速域ではニュートン力学に帰着することを示すことができる。例えば、次の二つの方程式は
それぞれ テンプレート:Math および テンプレート:Math を代入することで次のニュートン力学の方程式に帰着する。
ローレンツ因子の方程式を逆に解くと以下を得る。
この式は下のような漸近形式に直すことができる。
これを初めの2項までで打ち切った近似式 テンプレート:Math が大きな値の テンプレート:Mvar から速度を概算することに使われることがある。誤差は テンプレート:Math の範囲において 1%、 テンプレート:Math の範囲において 0.1% に納まる。
天文学における応用
長寿命ガンマ線バーストの標準モデルでは、いわゆる「コンパクトさ」問題を説明するため、この現象が超相対論的爆発(テンプレート:Mvar の初期値がおよそ 100 以上)であるとする。すなわち、超相対論的拡大がなければ放出物は対生成を起こすほど光学的に厚くなるはずであり、初期放射は熱的なエネルギースペクトルではなく典型的に テンプレート:Val 程度にピークのあるスペクトルを持つはずである[7]。
関連項目
出典
外部リンク
- ↑ One universe, by Neil deGrasse Tyson, Charles Tsun-Chu Liu, and Robert Irion.
- ↑ 2.0 2.1 テンプレート:Cite book
- ↑ Yaakov Friedman, Physical Applications of Homogeneous Balls, Progress in Mathematical Physics 40 Birkhäuser, Boston, 2004, pages 1-21.
- ↑ テンプレート:Cite book
- ↑ Synge, J.L (1957).
- ↑ Kinematics, by J.D. Jackson, See page 7 for definition of rapidity.
- ↑ Cenko, S. B. et al., iPTF14yb: The First Discovery of a Gamma-Ray Burst Afterglow Independent of a High-Energy Trigger, Astrophysical Journal Letters 803, 2015, L24 (6 pp).