分岐群 (数学)

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テンプレート:TOC right 数論、特にテンプレート:仮リンクにおける分岐群(ぶんきぐん、テンプレート:Lang-en-short)とは、局所体ガロア群テンプレート:仮リンクであり、体拡大における分岐の現象について詳細な情報を提供してくれるものである。

付値の分岐理論

付値の分岐理論(ramification theory of valuations)は、 K付値 vK拡大体 L への延長の集合を研究する数学の理論。デデキント環の分岐理論の一般化である [1] [2]

L/Kガロア拡大のとき、付値の延長からなる集合の構造は詳しく知ることができる。

分解群と惰性群

(Kv) を付値体LK有限次ガロア拡大とする。SvvL への延長の同値からなる集合とし、GLK 上のガロア群とする。このとき、GSv に σ[w] = [w ∘ σ] で作用する。つまり、w を同値類 [w] ∈ Sv代表元としたとき、[w] の行き先を自己同型 テンプレート:Nowrapw合成が定める同値類とすることにより作用を定義する。これは [w] の代表元 w の取り方によらない。この作用は推移的である。

vL への延長 w を1つとる。w の分解群(decomposition group of w)とは、[w] の固定部分群 Gw(同値類 [w] ∈ Sv を固定する G の元全体からなる部分群)のことを言う。

Rww についての付値環mw をその極大イデアルとする。w の惰性群(inertia group of w)とは、Gw の元 σRw の全ての元 x に対して σx ≡ x (mod mw)が成り立つもの全体からなる部分群 Iw のことである。言い換えると、Iw は分解群の要素で w に関する剰余体自明に作用するもの全体である。これは Gw正規部分群である。

テンプレート:訳語疑問点範囲 e(w/v) は w によらないので、e(v) と表す。同様に、剰余次数(または相対次数、relative degree)f(w/v) も w によらないので、f(v) と表す。

下付き分岐群

局所体[3]の有限次ガロア拡大 L/K のガロア群 G の詳しい理解を可能にしてくれるものが分岐群である。K の整数環を 𝒪K と置き、L の付値、その整数環、その極大イデアルを、それぞれ w,𝒪L,𝔭 とする。ヘンゼルの補題により、ある αL を使って 𝒪L=𝒪K[α] と書くことができる(これは原始元定理より強い主張である)[4]。整数 i1 に対して、Gi を次の同値な条件を満たす sG 全体の集合として定義する。

  • (i) s𝒪L/𝔭i+1 に自明に作用する
  • (ii) 全ての x𝒪L について w(s(x)x)i+1 が成り立つ
  • (iii) w(s(α)α)i+1

この群 Gi のことを i 次分岐群i-th ramification group)という。これらは減少テンプレート:仮リンク

G1=GG0G1{*}

を定める。(i) より Gi は正規であることが分かり、(iii) より十分大きな i に対して自明になることが分かる。G0 は、ガロア拡大での素イデアルの分解との関係に鑑み、慣例的に Gテンプレート:仮リンクと呼ばれている。G1Gテンプレート:仮リンク(または暴分岐群、wild inertia subgroup)、商 G0/G1テンプレート:訳語疑問点範囲(tame quotient)と呼ばれている。

ガロア群 G とその部分群 Gi はこのフィルトレーションと商を使って調べることができる。次が成り立つ。

  • G/G0=Gal(l/k) が成り立つ。l,kL,K の剰余体(有限体である)[5]

i0 に対して Gi=(G0)i が成り立つので、分岐群の研究は完全分岐の場合に帰着される。

G 上の関数 iG を、sG に対して iG(s)=w(s(α)α) として定義する。先ほどの (ii) から iGα の取り方によらない。また、フィルトレーション Gi の研究は本質的に iG の研究と同値である[6]s,tG に対して、iG は次を満たす。

  • iG(s)i+1sGi
  • iG(tst1)=iG(s)
  • iG(st)min{iG(s),iG(t)}

πL の素元とすると、ss(π)/π は単射 Gi/Gi+1UL,i/UL,i+1,i0 を誘導する。ここで、UL,0=𝒪L×,UL,i=1+𝔭i である。この写像は素元の取り方によらない[7]。これを使うと次がわかる [8]

  • G0/G1 は位数が p と互いに素な巡回群
  • Gi/Gi+1 は位数が p の巡回群の積

特に、G1pで、G0可解群である。G/G0 は有限体のガロア群と同型であったので、特にアーベル拡大である。したがって(局所体の任意のガロア拡大のガロア群としてとっていた) G は可解群である。

分岐群を使って、体拡大 L/K やその部分拡大のテンプレート:仮リンク 𝔇L/K を計算することもできる[9]。次が成り立つ

w(𝔇L/K)=s1iG(s)=i=0(|Gi|1)

HG の正規部分群とすると、σG に対して iG/H(σ)=1eL/KsσiG(s) が成り立つ[10]

これと先ほどの式をあわせると、H に対応する部分拡大 F/K に対して

vF(𝔇F/K)=1eL/Fs∉HiG(s)

が成り立つ。

sGi,tGj,i,j1 とすると、sts1t1Gi+j+1 が成り立つ[11]テンプレート:仮リンクの言葉を使うならば、これはリー代数 gr(G1)=i1Gi/Gi+1 がアーベルであるということになる。

例:円分拡大

ζ1の原始 pn乗根とする。円分拡大 Kn:=𝐐p(ζ)/𝐐p の分岐群は次のように具体的に計算できる[12]

Gs=Gal(Kn/Ke)

ここで epe1s<pe となるものである。

例:4次拡大

K を テンプレート:Mathx1=2+2  で生成される拡大体とする。x1 の共役は x2=22 x3 = −x1x4 = −x2 である。

簡単な計算からこれらの元の任意の2つの商は単数であることが分かる。したがってこれらは全て同じイデアルを生成する。そのイデアルを テンプレート:Pi と置く。2テンプレート:Pi2 を生成し、(2)=テンプレート:Pi4 である。

x1x3 = 2x1 で、これは テンプレート:Pi5 に入る。

x1x2=422テンプレート:Pi3 に入る。

計算方法は色々あるが、K のガロア群は位数 4 の巡回群 C4 であることが分かる[13]。そして、

G0=G1=G2=C4

かつ G3=G4=(13)(24) である[14]

w(𝔇K/Q2)=3+3+3+1+1=11 なので、共役差積は 𝔇K/Q2=π11 となる。

x1x4 − 4x2 + 2 を満たし、これの判別式は 2048 = 211 である。

上付き分岐群

u1 である実数 u に対して、Guiu である最小の整数 iGi として定義する。sGuiG(s)u+1 となるように定義する、と言ってもいい。 関数 ϕ

ϕ(u)=0udt(G0:Gt)

で定義する[15]。ここで、t=1 に対しては (G0:Gt)(G1:G0)1 とし、1<t0 に対しては 1 とする[16]。定義により 1u0 に対して ϕ(u)=u が成り立つ。ϕ が連続かつ狭義単調増加であることはすぐ分かり、したがって連続な逆関数 ψ であって [1,) 上定義されたものが存在する。Gv=Gψ(v) と定義する。Gvv 上付き分岐群v-th ramification group in upper numbering)という。言い換えれば Gϕ(u)=Gu である。G1=G,G0=G0 が成り立つ。上付きの添字は商をとる操作と整合するよう定義されており[17]HG の正規部分群なら、全ての v に対し

(G/H)v=GvH/H

が成り立つ。

(一方、下付きの添字は部分群に行く操作と整合する。)

エルブランの定理

エルブランの定理は、下付き分岐群について GuH/H=(G/H)v が成り立ち(H に対応する部分拡大を L/F とし、v=ϕL/F(u) とおいている)、上付き分岐群について GuH/H=(G/H)u が成り立つという主張である[18][19]。これから、局所体の絶対ガロア群をはじめとする無限次ガロア拡大に対して、有限次部分拡大についての分岐群の逆系を使って、上付き分岐群を定義することが可能になる。

アーベル拡大の上付き分岐群について、テンプレート:仮リンクという定理が知られている。これは、G がアーベルならフィルトレーション Gv の跳躍は整数、つまり ϕ(i) が整数でなかったら Gi=Gi+1 が成り立つという定理である[20]

上付き分岐群によるフィルトレーションは、単数群によるノルム剰余群(norm residue group)のフィルトレーションと、アルティン同型写像のもとで両立する。すなわち、同型写像

G(L/K)abK*/NL/K(L*)

による Gn(L/K) の像は、ちょうど

UKn/(UKnNL/K(L*))

になる[21]

関連項目

脚注

テンプレート:Reflist

参考文献

  1. テンプレート:Cite book
  2. テンプレート:Cite book
  3. 剰余体が有限体、特に完全体であることを仮定している。非完全な剰余体への一般化も存在する。『分岐理論と有限平坦 Galois表現』参照。
  4. Neukirch (1999) p.178
  5. G/G0 は分解群と標準的に同型であることによる。
  6. Serre (1979) p.62
  7. Conrad
  8. これは UL,0/UL,1l×UL,i/UL,i+1l+ であることによる。
  9. Serre (1979) 4.1 Prop.4, p.64
  10. Serre (1979) 4.1. Prop.3, p.63
  11. Serre (1979) 4.2. Proposition 10.
  12. Serre, Corps locaux. Ch. IV, §4, Proposition 18
  13. x2 = (x12 - 2)/x1 が成り立つので、Kx1 の共役を全て含み、Kテンプレート:Math 上のガロア拡大であることが分かる。σ をこのガロア拡大のガロア群の元で σ(x1) = x2 となるものとする。簡単な計算から、σ(x2) = x3, σ(x3) = x4, σ(x4) = x1 が分かり、これから σ は位数 4 の元である。まとめると、Kテンプレート:Math 上の4次のガロア拡大で、そのガロア群は位数4の巡回群である。
  14. #下付き分岐群の定義に現れる α として x1 をとり、分岐群の定義と x1x3 の計算結果を使うと確かめられる。
  15. Serre (1967) p.156
  16. Neukirch (1999) p.179
  17. Serre (1967) p.155
  18. Neukirch (1999) p.180
  19. Serre (1979) p.75
  20. Neukirch (1999) p.355
  21. Snaith (1994) pp.30-31