対称双線型形式
線型代数学における対称双線型形式(たいしょうそうせんけいけいしき、テンプレート:Lang-en-short)は、ベクトル空間上の対称な双線型形式を言う。平たく言えば、実ベクトル空間上の標準内積を一般化した概念である。対称双線型形式は、直交極性や二次曲面の研究に非常に重要である。
文脈上、双線型形式について述べていると明らかな場合は、単に短く対称形式と呼ぶこともある。対称双線型形式は二次形式と近しい関係にあり、この両者の差異に関する詳細はテンプレート:仮リンクの項目を参照。
定義
テンプレート:Mvar を体 テンプレート:Mvar 上の有限次元ベクトル空間とする。写像 テンプレート:Math が、テンプレート:Mvar 上の双線型形式であるとは、すべてのベクトルテンプレート:要曖昧さ回避 テンプレート:Math とスカラー テンプレート:Math に対して次の3条件を満たすことである。
これらの3条件に加えて条件
を満たすとき テンプレート:Math を対称双線型形式というテンプレート:Sfn。
具体例
平面 テンプレート:Math のベクトル テンプレート:Math と テンプレート:Math に対して
で定まる標準内積 テンプレート:Math は対称双線型形式である。また
で定まる写像 テンプレート:Math や
で定まる自明な写像 テンプレート:Math なども対称双線型形式である。
表現行列
有限次元ベクトル空間 テンプレート:Math の基底 テンプレート:Math をひとつ固定する。このとき テンプレート:Mvar 上の双線型形式 テンプレート:Math に対して テンプレート:Mvar 次正方行列 テンプレート:Math を
で定義する。これを双線型形式 テンプレート:Mvar の基底 テンプレート:Mvar に関する表現行列という。表現行列 テンプレート:Mvar は、双線型形式 テンプレート:Mvar が対称であるとき、かつそのときに限り対称行列であるテンプレート:Sfn。ベクトル テンプレート:Math に対して値 テンプレート:Math は表現行列 テンプレート:Mvar を用いて
と表される。逆に(対称)行列 テンプレート:Mvar が与えられると(対称)双線型形式 テンプレート:Mvar が上の関係式から定まる。
新たな基底 テンプレート:Math をとり、基底の変換行列 テンプレート:Math が テンプレート:Math で与えられているとする。このとき、 双線型形式 テンプレート:Mvar の基底 テンプレート:Mvar に関する表現行列 テンプレート:Mvar は
で与えられるテンプレート:Sfn。
二次形式
テンプレート:Mvar 上の対称双線型形式 テンプレート:Math に対して テンプレート:Math を
で定める。これを テンプレート:Mvar 上の二次形式という。 テンプレート:節スタブ
直交性と特異性
双線型形式は対称ならば反射的である。ふたつのベクトル テンプレート:Math が テンプレート:Mvar 上の対称双線型形式 テンプレート:Mvar に関して直交するとは テンプレート:Math が成り立つことをいう。(反射性より、これは テンプレート:Math と同値。)これを記号 テンプレート:Math で表すテンプレート:Sfn。
部分集合 テンプレート:Math に対して テンプレート:Mvar のすべてのベクトルと直交するベクトル全体からなる集合を テンプレート:Math と表すテンプレート:Sfn。これは テンプレート:Mvar の部分空間となるテンプレート:Sfn。とくに テンプレート:Math は対称双線型形式 テンプレート:Math の根基 (radical) と呼ばれるテンプレート:Sfn。 ベクトル テンプレート:Mvar が根基に属するための必要十分条件は、適当な基底 テンプレート:Mvar に関する表現行列 テンプレート:Mvar を用いて述べれば、テンプレート:Mvar を テンプレート:Mvar に関して列ベクトルと同一視したとき が成り立つことである。これは とも同値である。
対称双線型形式 テンプレート:Mvar が特異 (singular) であるとは、その根基が非自明なことをいう。また対称双線型形式 テンプレート:Mvar が非退化あるいは非特異 (non-degenerate, non-singular) であるとは、特異でないことをいう。これは随伴写像
が同型写像であることと同値であるテンプレート:Sfn。ただし テンプレート:Math は テンプレート:Mvar の双対空間 テンプレート:Math である。対称双線型形式 テンプレート:Mvar が非退化ならば テンプレート:Mvar の部分空間 テンプレート:Mvar に対し テンプレート:Math の次元は テンプレート:Math であるテンプレート:Sfn。
直交基底
テンプレート:Mvar の基底 テンプレート:Math が テンプレート:Mvar 上の対称双線型形式 テンプレート:Mvar に関して直交するとは、
が成り立つことを言う。基礎体の標数が テンプレート:Math でないとき、テンプレート:Mvar は常に直交基底を持つテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn。このことの証明は数学的帰納法による。
基底 テンプレート:Mvar が テンプレート:Mvar に関して直交するための必要十分条件は、その表現行列 テンプレート:Mvar が対角行列となることである。
符号数とシルベスターの慣性法則
最も一般の場合にシルベスターの慣性法則の主張は順序体 K 上で意味を持ち、表現行列の対角成分の テンプレート:Math である個数、正である個数、負である個数が、直交基底の選択には依存しないことを主張する。これらの 3つの数値は、双線型形式の符号数と呼ばれる。
実係数の場合
実数体上の空間を考える場合には、もう少し詳しく述べることができる。テンプレート:Math を直交基底とする。
新たな直交基底 テンプレート:Math を
で定義すると、新たな表現行列 テンプレート:Math は対角線上に テンプレート:Math のみを成分に持つ対角行列になる。テンプレート:Math が現れるのは、根基が非自明となるときであり、かつそのときに限る。
複素係数の場合
複素数体上の空間を扱う場合も、同様に詳しくしかもより平易な形に述べることができる。テンプレート:Math を直交基底とする。
新たな基底 テンプレート:Math を
で定義すると、新たな表現行列 テンプレート:Math は対角線上に テンプレート:Math と テンプレート:Math のみを成分に持つ対角行列となる。テンプレート:Math が現れるのは根基が非自明なときであり、かつそのときに限る。
直交偏極
テンプレート:出典の明記 標数が テンプレート:Math でない体 テンプレート:Math の上のベクトル空間 テンプレート:Math 上で定義される、自明な根基を持つ対称双線型形式 テンプレート:Math に対し、テンプレート:Math の部分空間全体の成す集合 テンプレート:Math からそれ自身への写像
を定義することができる。この写像は射影空間 テンプレート:Math 上の直交極性 (orthogonal polarity) である。逆に、すべての直交極性はこの方法により得られる、自明な根基を持つ二つの対称双線型形式が同じ極性を持つための必要十分条件は、それらがスカラー倍の違いを除いて一致することである。