松原振動数

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テンプレート:複数の問題 熱場の量子論において松原振動数の和とは、離散的な虚数振動数についての和のこと。松原武生に因んで名付けられた。松原振動数の和は次の形をとる。

Sη=1βiωng(iωn)

ここでβ=/kBTは逆温度で、振動数ωnは次の2種類のどちらかである(ただしn)。

ボソン振動数: ωn=2nπβ
フェルミオン振動数: ωn=(2n+1)πβ

g(z=iω)zの極限でz1よりも速く0に収束するとき、この和は収束する。 ボソン振動数についての和は SB (with η=+1)と表され、フェルミオン振動数についての和はSF (with η=1)と表される。ここでηは統計的な記号である。

熱場の量子論に加えて、松原振動数の和は固体物理学における有限温度でのファインマン・ダイアグラムを考える上で重要な役割を果たす[1]。 一般的にファインマン・ダイアグラムは、T=0Kでは積分T=0dω g(ω)で表されるが、有限温度では和Sηで与えられる。

松原振動数の和

一般的形式

Figure 1.
Figure 2.

松原振動数の和を評価する上手なやり方は、z=iωを持つ松原重み関数hη(z)を使う方法である。 ボソンの場合η = +1とフェルミオンの場合η = −1で重み関数は異なる。 重み関数の選択について後述する。 和は、重み関数を使って複素平面での閉曲線積分に置き換えることができる。

Sη=1βiωg(iω)=12πiβg(z)hη(z)dz

Fig. 1において、重み関数は虚数軸上に極(赤バツ印)を作る。 閉曲線積分はこれらの極の留数をピックアップし、これは和に等しい。 閉曲線をg(z)の極(Fig. 2、緑バツ印)を囲むように変形すると、和はg(z)hη(z)の留数の全ての極g(z)についての和によって形式的に遂行される。

Sη=1βz0g(z) polesResg(z0)hη(z0)

ここで閉曲線が極を時計回りの方向で囲むように変形し、負の留数を生むため、マイナスがつくことに注意。

松原重み関数の選択

ボソン振動数z=iωnの極を作るために、どちらの半平面で収束がコントロールされるかに依存して次の2つのタイプの松原重み関数を選ぶことができる。

hB(1)(z)=β1eβz=βnB(z)=β(1+nB(z))
hB(2)(z)=β1eβz=βnB(z)

hB(1)(z)は左半平面(Re z < 0)での収束をコントロールし、hB(2)(z)は右半平面(Re z > 0)での収束をコントロールする。 ここでnB(z)=(eβz1)1ボース分布関数である。

フェルミオン振動数の場合も同様である。 2つのタイプの松原重み関数があり、z=iωmに極を作る。

hF(1)(z)=β1+eβz=βnF(z)=β(1nF(z))
hF(2)(z)=β1+eβz=βnF(z)

hF(1)(z)は左半平面(Re z < 0)での収束をコントロールし、hF(1)(z)は右半平面(Re z > 0)での収束をコントロールする。 ここでnF(z)=(eβz+1)1フェルミ分布関数である。

グリーン関数への応用では、g(z)は常に次の構造を持つ。

g(z)=G(z)ezτ

これは0 < τ < βで与えられる左半平面で発散する。 収束をコントロールするために、第一のタイプの重み関数は常にhη(z)=hη(1)(z)と選ぶ。 しかし松原振動数の和が発散しないときは収束をコントロールする必要はない。 そのような場合、どんな松原重み関数を選んでも同じ結果が得られる。

松原振動数の和の表

以下の表に、 いくつかの簡単な有理関数g(z)での松原振動数の和をまとめる。

Sη=1βiωg(iω).

η = ±1 は統計的記号である。

g(iω) Sη
(iωξ)1 ηnη(ξ)[1]
(iωξ)2 ηnη(ξ)=βnη(ξ)(η+nη(ξ))
(iωξ)n η(n1)!ξn1nη(ξ)
1(iωξ1)(iωξ2) η(nη(ξ1)nη(ξ2))ξ1ξ2
1(iωξ1)2(iωξ2)2 η(ξ1ξ2)2(2(nη(ξ1)nη(ξ2))ξ1ξ2(nη(ξ1)+nη(ξ2)))
1(iωξ1)2ξ22 ηcη(ξ1,ξ2)
1(iω)2ξ2 ηcη(0,ξ)=12ξ(1+2ηnη(ξ))
(iω)2(iω)2ξ2 ξ2(1+2ηnη(ξ))
1((iω)2ξ2)2 η2ξ2(cη(0,ξ)+nη(ξ))
(iω)2((iω)2ξ2)2 η2(cη(0,ξ)nη(ξ))
(iω)2+ξ2((iω)2ξ2)2 ηnη(ξ)=βnη(ξ)(η+nη(ξ))
1((iω)2ξ12)((iω)2ξ22) η(cη(0,ξ1)cη(0,ξ2))ξ12ξ22
(1(iω)2ξ12+1(iω)2ξ22)2 η(3ξ12+ξ222ξ12(ξ12ξ22)cη(0,ξ1)nη(ξ1)2ξ12)+(12)[2]
(1(iω)2ξ121(iω)2ξ22)2 η(5ξ12ξ222ξ12(ξ12ξ22)cη(0,ξ1)nη(ξ1)2ξ12)+(12)[2]

[1] 和は収束しないため、松原重み関数の選択が異なると結果は定数分だけ異なる。

[2] (1 ↔ 2)は、手前の項のインデックス1と2を置き換えたものを表す。

物理学での応用

温度ゼロの極限

極限βでの松原振動数の和は、虚数振動数の虚軸についての積分に等しい

1βiω=iid(iω)2π

いくつかの積分は収束しない。 それらは振動数カットオフΩを導入し、Ωの極限をとる前に積分から発散部分(Ω-依存)を差し引いて繰り込む必要がある。 例えば自由エネルギーは、対数の積分によって得られる。

ηlimΩ[iΩiΩd(iω)2π(ln(iω+ξ)πξ2Ω)Ωπ(lnΩ1)]={0ξ0,ηξξ<0,

これは、温度ゼロにおいて自由エネルギーは化学ポテンシャルに満たない内部エネルギーと単純な関係にあることを意味している。 また分布関数は次の積分によって得られる。

ηlimΩiΩiΩd(iω)2π(1iω+ξπ2Ω)={0ξ0,ηξ<0,

これは温度ゼロでの階段関数のふるまいを示している。

グリーン関数との関連

時間領域

虚時間区間(0,β)で定義される関数G(τ)を考える。 これはフーリエ級数の観点で与えられる。

G(τ)=1βiωG(iω)eiωτ,

ここで振動数は 2テンプレート:Pi/β間隔の離散的な値のみとる。

振動数の選択は、関数G(τ)の境界条件に依存している。 物理学ではG(τ)はグリーン関数の虚時間表現を表す。

G(τ)=𝒯τψ(τ)ψ*(0).

これはボソン場の周期的境界条件G(τ+β)=G(τ)を満たす。 一方フェルミオン場では、境界条件は反周期的G(τ + β) = −G(τ)である。

振動数領域でのグリーン関数G()が与えられたとき、その虚時間表現G(τ)は松原振動数の和によって評価できる。 その和がボソン振動数かフェルミオン振動数のどちらでとるかに依存して、得られるG(τ)は異なる。 これらを区別するため、次を定義する。

Gη(τ)={GB(τ),if η=+1,GF(τ),if η=1,
GB(τ)=1βiωnG(iωn)eiωnτ,
GF(τ)=1βiωmG(iωm)eiωmτ.

ここでτは区間(0,β)に制限されていることに注意。 境界条件は区間の外にG(τ)を拡張するために用いることができる。 よく用いられる結果を以下の表にまとめる。

G(iω) Gη(τ)
(iωξ)1 eξ(βτ)nη(ξ)
(iωξ)2 eξ(βτ)nη(ξ)(τ+ηβnη(ξ))
(iωξ)3 12eξ(βτ)nη(ξ)(τ2+ηβ(β+2τ)nη(ξ)+2β2nη2(ξ))
(iωξ1)1(iωξ2)1 eξ1(βτ)nη(ξ1)eξ2(βτ)nη(ξ2)ξ1ξ2
(ω2+m2)1 emτ2m+ηmcoshmτnη(m)
iω(ω2+m2)1 emτ2ηsinhmτnη(m)

演算子スイッチング効果

ここでは小さな虚時間が決定的な役割を果たす。 小さな虚時間の負号が変わると、演算子の順番が変わる

ψψ*=𝒯τψ(τ=0+)ψ*(0)=Gη(τ=0+)=1βiωG(iω)eiω0+.\
ψ*ψ=η𝒯τψ(τ=0)ψ*(0)=ηGη(τ=0)=ηβiωG(iω)eiω0+

分布関数

τ = 0でのグリーン関数G(τ)の不連続性のため、分布関数の評価は難しくなる。 次の和を評価するためにボソンとフェルミオンどちらの重み関数を選択することもできるが、結果は異なる。

G(0)=iω(iωξ)1

これは、G(τ)をτ = 0からわずかに遠ざけたとき、収束をコントロールするため、G(τ=0+)での重み関数としてhη(1)(z)をとらなければならず、G(τ=0)ではhη(2)(z)をとらなければならないと理解できる。

ボソン

GB(τ=0)=1βiωneiωn0+iωnξ=nB(ξ),
GB(τ=0+)=1βiωneiωn0+iωnξ=(nB(ξ)+1).

フェルミオン

GF(τ=0)=1βiωmeiωm0+iωmξ=nF(ξ),
GF(τ=0+)=1βiωmeiωm0+iωmξ=(1nF(ξ)).

自由エネルギー

ボソン

1βiωnln(β(iωn+ξ))=1βln(1eβξ),

フェルミオン

1βiωmln(β(iωm+ξ))=1βln(1+eβξ).

ダイアグラムの評価

ここでは、よく使われる単一モードのダイアグラムを評価する。 多重モード問題は、スペクトル関数積分によってアプローチできる。

フェルミオン自己エネルギー

Σ(iωm)=1βiωn1iωm+iωnε1iωnΩ=nF(ε)nF(Ω)iωmε+Ω.

粒子-空孔バブル

Π(iωn)=1βiωm1iωm+iωnε1iωmε=nF(ε)nF(ε)iωnε+ε.

粒子-粒子バブル

Π(iωn)=1βiωm1iωm+iωnϵ1iωmϵ=1nF(ϵ)nF(ϵ)iωnϵϵ.

付録: 分布関数の性質

分布関数

一般的表記nηはボース分布関数(η = +1)かフェルミ分布関数(η = −1)のどちらかを表す。

nη(ξ)=1eβξη

必要であればボース分布関数とフェルミ分布関数を区別するために、それぞれ記号nBnFを用いる

nη(ξ)={nB(ξ),if η=+1,nF(ξ),if η=1.

双曲線関数との関係

ボース分布関数は双曲線コタンジェント関数と次の関係にある。

nB(ξ)=12(cothβξ21).

フェルミ分布関数は双曲線タンジェント関数と次の関係にある。

nF(ξ)=12(1tanhβξ2).

パリティ

どちらの分布関数も決まったパリティを持っていない。

nη(ξ)=ηnη(ξ)

これは関数cηを用いて次のようにも書ける。

nη(ξ)=nη(ξ)+2ξcη(0,ξ)

しかしこれらの導関数は決まったパリティを持つ。

ボーズ・フェルミ変質

ボース分布関数とフェルミ分布関数は、フェルミオン振動数による変数のシフトの下で変質する。

nη(iωm+ξ)=nη(ξ)

しかしボソン振動数によるシフトでは違いは生じない。

微分

一次

nB(ξ)=β4csch2βξ2,
nF(ξ)=β4sech2βξ2.

積で表すと、

nη(ξ)=βnη(ξ)(1+ηnη(ξ)).

温度ゼロの極限では、

nη(ξ)=ηδ(ξ) as β.

二次

nB(ξ)=β24csch2βξ2cothβξ2,
nF(ξ)=β24sech2βξ2tanhβξ2.

Formula of difference

nη(a+b)nη(ab)=sinhβbcoshβaηcoshβb.

a = 0の場合

nB(b)nB(b)=cothβb2,
nF(b)nF(b)=tanhβb2.

a → 0の場合

nB(a+b)nB(ab)=cothβb2+nB(b)a2+,
nF(a+b)nF(ab)=tanhβb2+nF(b)a2+.

b → 0の場合

nB(a+b)nB(ab)=2nB(a)b+,
nF(a+b)nF(ab)=2nF(a)b+.

関数cη

定義:

cη(a,b)nη(a+b)nη(ab)2b.

ボソンとフェルミオンでは:

cB(a,b)c+(a,b),
cF(a,b)c(a,b).

双曲線関数との関係

cη(a,b)=sinhβb2b(coshβaηcoshβb).

cF(a,b)は正の定関数であることは明らかである。 数値計算でのオーバーフローを避けるため、tanh関数やcoth関数が用いられる。

cB(a,b)=14b(cothβ(ab)2cothβ(a+b)2),
cF(a,b)=14b(tanhβ(a+b)2tanhβ(ab)2).

a = 0の場合

cB(0,b)=12bcothβb2,
cF(0,b)=12btanhβb2.

b = 0の場合

cB(a,0)=β4csch2βa2,
cF(a,0)=β4sech2βa2.

低温極限

a = 0において: cF(0,b)=12|b|.

b = 0において: cF(a,0)=δ(a).

一般的に、

cF(a,b)={12|b|,if |a|<|b|0,if |a|>|b|

関連項目

外部リンク

Agustin Nieto: Evaluating Sums over the Matsubara Frequencies. arXiv:hep-ph/9311210
Github repository: MatsubaraSum A Mathematica package for Matsubara frequency summation.

参考文献

  1. A. Abrikosov, L. Gor'kov, I. Dzyaloshinskii: Methods of Quantum Field Theory in Statistical Physics., New York, Dover Publ., 1975, テンプレート:ISBN2