符号数

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数学、とくに線型代数学における符号数（ふごうすう、テンプレート:Lang-en-short）は固有値の符号（正・負・零）を重複度を込めて数えたものである。

概観

実有限次元線型空間上の、計量を与える実二次形式および付随する内積（実対称双線型形式）の符号数 テンプレート:Math は、これを適当な基底に関して表示した時に得られる同伴実対称行列あるいはそれと同値な計量テンソルの、固有値の符号が正・負・零であるものがそれぞれ重複度込みで テンプレート:Mvar 個であることを表す。これはそれぞれ正・負・零な部分空間のうち極大なものの次元と言ってもよい。シルヴェスターの慣性法則によれば、これらの数は基底のとり方に依らない。従って符号数は基底の取り方の違いに依らない計量を分類する。

複素係数の場合は、エルミート二次形式およびエルミート半双線型形式を考えれば、同様の結果を得る。

定値性

テンプレート:Math のとき計量は正値あるいは正の定符号であるといい、テンプレート:Math のとき負値あるいは負の定符号であるという。リーマン計量は定符号であるような計量テンソルである。ローレンツ計量は符号数 テンプレート:Math または テンプレート:Math を持つものを言う。また、不定符号 (indefinite) あるいは混合型 (mixed) であるとは テンプレート:Math が何れも非零であるときに言い、退化しているとは テンプレート:Mvar が非零であるときに言う。定符号二次形式の項も参照。

非退化の場合

「非退化」（テンプレート:Math）な計量に関して、符号数はしばしば（符号 テンプレート:Math に対応する部分を除く）整数の対として テンプレート:Math と書いたり、あるいは符号数 テンプレート:Math や テンプレート:Math を固有値の符号列として明示的にそれぞれ テンプレート:Math や テンプレート:Math のように書いたりもする[1]。文献によっては テンプレート:Math の代わりにひとつの数 テンプレート:Math を符号数と呼ぶこともある。暗黙に全体の次元 テンプレート:Math が与えられていると考えればこの テンプレート:Mvar の意味での符号数から、上で述べた意味での符号数 テンプレート:Math は復元できる。例えば, 符号数 テンプレート:Math は テンプレート:Math のことであり、テンプレート:Math は テンプレート:Math のことである。

性質

符号数と次元の関係

スペクトル論によれば テンプレート:Math 実対称行列は常に対角化可能であり、したがって（テンプレート:仮リンクを込めて）ちょうど テンプレート:Mvar 個の実固有値を持つから、テンプレート:Math を満たす。

シルヴェスターの慣性法則

シルヴェスターの慣性法則によれば、実対称双線型形式としての内積 テンプレート:Mvar の符号数は基底の取り方に依らない。さらに言えば、計量 テンプレート:Mvar が符号数 テンプレート:Math を持つとき、

となるような基底が必ずとれる。これにより、テンプレート:仮リンク テンプレート:Math が存在するための必要十分条件がテンプレート:Math および テンプレート:Math の符号数が等しいことであることが従う。同様にして、合同な行列の符号数は互いに等しく、合同を除いた行列の分類ができる。言葉を替えれば、二階共変対称テンソルの空間 テンプレート:Math への一般線型群 テンプレート:Math の作用に関する軌道上で符号数は一定であり、これらの軌道を分類する。

各数の幾何学的解釈

符号数 テンプレート:Math に対して、テンプレート:Mvar は対称双線型形式 テンプレート:Mvar がその上で正定値となるような部分線型空間の次元の最大値であり、同様に テンプレート:Mvar は負定値となるような部分線型空間の最大値である。また テンプレート:Mvar は テンプレート:Mvar の根基（付随する対称行列の核空間）の次元である。従って、非退化な計量は符号数 テンプレート:Math を持ち、テンプレート:Math を満たす。この特別の場合として テンプレート:Math および テンプレート:Math はそれぞれ正定値および負定値の内積に対応し、負号反転によって互いに読み替えることができる。

例

対称行列の符号数

次の二つの行列

(100−1),(0110)

はともに符号数 テンプレート:Math を持つから、シルヴェスターの慣性法則によればこれらは互いに合同である。

内積の符号数

数ベクトル空間 テンプレート:Math の標準内積の符号数は テンプレート:Math である。実対称双線型形式の意味での内積がこの符号数を持つための必要十分条件は、それが正定符号となることである。

負の定符号内積は符号数 テンプレート:Math を持つ。半負定符号内積は テンプレート:Math (テンプレート:Math) を符号数に持つ。

ミンコフスキー空間は集合としては テンプレート:Math であり、行列

(−1000010000100001)

の定める符号数 テンプレート:Math の内積を持つ。符号を反転して符号数 テンプレート:Math とすることもある。

符号数の計算

行列の符号数の計算法はいくつかある。

  • テンプレート:Math非退化対称行列は、対角化して（あるいは固有値を全て求めて）、正符号と負符号の数を数えればよい。
  • 対称行列に対して、固有多項式の根が全て実根ならば、デカルトの符号法則から符号数を決定できる。
  • ラグランジュアルゴリズムは直交基底を計算することができるから、合同な対角行列を計算してその符号数を決めればよい。
  • ヤコビの判定法によれば、対称行列が正定値となる必要十分条件はその主小行列式が全て正であることである。

物理学における符号数

数学においては正定値計量テンソルを備えたリーマン多様体を考えるのが普通である。

理論物理学では時空のモデルとして擬リーマン多様体を用いる。符号数は、時空が（特殊相対論に言う意味で）どのくらい空間的でどのくらい時間的であるかの指標として働く。素粒子物理学での用例では、計量は時間的部分空間上で正定値であり、空間的部分空間上で負定値である。特にミンコフスキー計量

ds2=c2dt2−dx2−dy2−dz2

を挙げれば、これは符号数 テンプレート:Math で、時間方向には正定値、そのほかの三つの空間方向 テンプレート:Mvar には負定値である。（ここでは テンプレート:Mvar が固有時を直接的にはかるものとして与えているのでこうなるが、符号を逆にする流儀もある。）

符号変化

計量が至る所正則ならば、計量は一定である。しかし、適当な超曲面上で計量が退化したり不連続になったりすることを許すならば、その計量の符号数はそれら曲面上で変化し得る[2]。そのような符号変化をもたらす行列は宇宙論や量子重力論に応用を持ち得る。

関連項目

注釈

テンプレート:Reflist

  1. ↑ Rowland, Todd. "Matrix Signature." From MathWorld--A Wolfram Web Resource, created by Eric W. Weisstein. http://mathworld.wolfram.com/MatrixSignature.html
  2. ↑ テンプレート:Cite journal
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