算術幾何平均

テンプレート:出典の明記 数学において算術幾何平均（さんじゅつきかへいきん、Arithmetic-geometric mean）とは、2 つの複素数（しばしば正の実数）に対して算術平均（相加平均）と幾何平均（相乗平均）を繰り返し用いて作られる数列の極限のこと。

定義

$|\arg (b/a)|\ne \pi$ である複素数 $a,b$ について テンプレート:Indent と定めれば数列 $\{a_n\}$ と $\{b_n\}$ は同じ値に収束する。その極限を $a,b$ の算術幾何平均と呼ぶ。ただし、幾何平均 $b_n$ の根号の符号は算術平均 $a_n$ の側にあるものを選ぶものとする。 テンプレート:Indent $\mathrm{\Re }(b/a)>0$ の場合、算術幾何平均は次式の楕円積分で表される。 テンプレート:Indent $\mathrm{\Re }(b/a)=0$ の場合は、次式になる。 テンプレート:Indent

概要

$a,b$ が正の実数である場合、 テンプレート:Indent が成り立ち（相加・相乗平均の関係式）、 テンプレート:Indent となることから テンプレート:Indent という関係が成り立っている。{a_n} は下に有界な単調減少数列であり、{b_n} は上に有界な単調増加数列であるので、それぞれが収束する。{a_n} の極限を α とし、{b_n} の極限を β とすると定義の漸化式から テンプレート:Indent が両立しなければならない。2 式とも整理すれば α = β となるので、2 つの数列 {a_n}, {b_n} は n → ∞ とした極限で同じ値に収束することが確かめられる。

性質

正の定数 $c>0$ に対し テンプレート:Indent が成り立つ。

この数列の収束は テンプレート:Indent を満たすので、1回のステップで精度が2倍になる。

また次のことが知られている。 テンプレート:Indent 右辺の積分は、楕円積分であり簡単には積分できない。しかし、算術幾何平均の収束が速いので、数値計算による円周率の計算に用いられることがある。

証明

複素数 $a,b$ の算術幾何平均が収束することは、以下によって証明できる。 テンプレート:Indent $|a_n-b_n|<|a_n+b_n|$となるように $b_n$ の根号の符号を決めると約束したので、 テンプレート:Indent である。$d_n$ を $a_n$ の階差とすれば テンプレート:Indent である。したがって、級数 $\sum d_n$ は絶対収束する。すなわち、数列 $\{a_n\}$ は収束し、数列 $\{b_n=2a_{n+1}-a_n\}$ は $\{a_n\}$ と同じ値に収束する。

算術幾何平均と楕円積分の関係は以下によって証明できる。ただし、$a,b$ は正の実数とする。 テンプレート:Indent $x=\tan \theta$ と置換すると、 テンプレート:Indent $t=\frac{b{x}^2-a}{2\sqrt{ab}x}$ と置換することによって、 テンプレート:Indent となる。したがって、 テンプレート:Indent

$a,b$ が複素数である場合は、積分路 $t=\frac{b{x}^2-a}{2\sqrt{ab}x}$ と実軸との間に（留数をもつ）極がないことを確かめなければならない。 $u=\mathrm{\Re }(b/a)$, $v=\mathrm{\Im }(b/a)$ とすれば、 テンプレート:Indent これに $x^2=\frac{1+u}{u+u^2+v^2}$ を代入すると テンプレート:Indent であり、$u>0$ となるように幾何平均の根号の符号を決めると約束したので、積分路は極 $\pm i\frac{a+b}{2}$ の間（原点に近いところ）を通る。また、$u^{\prime }=\mathrm{\Re }\left(\sqrt{b/a}\right)$, $v^{\prime }=\mathrm{\Im }\left(\sqrt{b/a}\right)$ とすると、 テンプレート:Indent これに $x^2=\frac{1}{u{\text{'}}^2+v{\text{'}}^2}$ を代入すれば テンプレート:Indent であるから、積分路は極 $\pm i$ の間を通る。

算術調和平均

$|\arg (b/a)|\ne \pi$ である複素数 $a,b$ について算術平均と調和平均を繰り返して得られる数列 テンプレート:Indent である。つまり、算術調和平均は $a,b$ の幾何平均に等しい。このことは テンプレート:Indent から明らかである。

調和幾何平均

$|\arg (b/a)|\ne \pi$ である複素数 $a,b$ について幾何平均と調和平均を繰り返して得られる数列 テンプレート:Indent である。つまり、調和幾何平均と算術幾何平均の積は幾何平均の自乗に等しい。このことは、$a_n,b_n$ を逆数にして テンプレート:Indent から明らかである。

関連項目

• 平均