テント写像

テント写像(テントしゃぞう、テンプレート:Lang-en-short)は、力学系あるいはカオス理論における基礎的な写像の一つである。パラメータ(定数)を一つ持つ、以下のような区分線形関数 テンプレート:Math で与えられる。
テンプレート:Math では、写像を反復合成して生成される テンプレート:Mvar の軌道は、ほとんどの初期値でカオスとなる。テント写像は最も簡素な単峰写像の例であり、カオス力学系の教科書などでもしばしば採り上げられる[1]。
写像

テント写像 テンプレート:Math は、テンプレート:Math, テンプレート:Math として次のように与えられる。
テンプレート:Math として、テンプレート:Math の テンプレート:Mvar 回反復合成を テンプレート:Math と表す。すなわち、テンプレート:Math2 であるとする。テンプレート:Math の軌道は、
という数列となる。ここで テンプレート:Math は軌道の初期値である。テンプレート:Math と テンプレート:Math の漸化式の形では、
である。テント写像では単位区間の範囲で初期値を与えるのが一般的である[2]。以下でも特に断りがない限り、テンプレート:Math である。
テント写像のグラフは点 テンプレート:Math を頂点とした区分線形曲線となる。グラフはテントのような形をしており、このためテント写像と呼ばれる[3]。テント写像の初期値鋭敏性を示すリアプノフ指数 テンプレート:Mvar は、傾きの絶対値が テンプレート:Mvar で一定であるため テンプレート:Math と求めることができる[4]。
軌道の振る舞い
テンプレート:Anchors 0 < μ ≤ 1

まず、パラメータが テンプレート:Math のとき、テンプレート:Math が テンプレート:Math を満たす不動点である。この不動点は漸近安定かつ大域安定で、任意の テンプレート:Math の軌道全ては テンプレート:Math で テンプレート:Math へと収束する[1]。
テンプレート:Math のときも軌道は不動点に収束するが、このときは区間 テンプレート:Closed-closed 上の点全てが不動点となる。すなわち、テンプレート:Math であれば全ての テンプレート:Mvar について テンプレート:Math であり、テンプレート:Math であれば テンプレート:Math について テンプレート:Math である。このときの各不動点の安定性はリアプノフの意味で安定な状態にある[2]。
テンプレート:Anchors 1 < μ < 2
テンプレート:Mvar が テンプレート:Math を超えると、テンプレート:Math に加えて テンプレート:Math が不動点となる。ただし、テンプレート:Math および テンプレート:Math の値は テンプレート:Math を超えるため、これらの不動点は不安定となる[2]。さらに、テンプレート:Math では軌道が周期的になる初期値が現れる。このとき、周期2, 周期3, 周期4,...といったように2以上の全ての自然数に対応する周期軌道が存在している[1]。例えば、周期2であれば2つの周期点 テンプレート:Math は次のように明示的に求めることができる[3]。
テンプレート:Math で現れる全ての周期点は、2つの不動点と同様に不安定である。初期値が不動点と周期点の値を取る場合を除き、全ての軌道は非周期変動すなわちカオスとなる[2]。
テンプレート:Math の範囲では、テンプレート:Mvar は複数の小領域を交互に行き来するカオス軌道となる[3][5]。そして、テンプレート:Math の範囲では1つの領域内で テンプレート:Mvar が変動するようになる[5]。テンプレート:Mvar を1から2まで増加させるに従い、カオス軌道の取り得る領域 テンプレート:Closed-closed は徐々に大きくなっていき、最終的には テンプレート:Math で単位区間 テンプレート:Closed-closed に一致する。テンプレート:Math における テンプレート:Closed-closed は、テンプレート:Mvar を変数として テンプレート:Closed-closed で与えられる[3]。
テンプレート:Anchors μ = 2

テンプレート:Math のとき、区間 テンプレート:Math 全域に軌道が及ぶ。このとき、テンプレート:仮リンクの定義で テンプレート:Math のテント写像 テンプレート:Math はカオス的である[6]。このときのリアプノフ指数 テンプレート:Mvar は、テンプレート:Math より、 テンプレート:Math である。
このときのテント写像の軌道の非周期性は、確率的に全くランダムな非周期性と次のような繋がりを持つ[7]。任意の テンプレート:Math から始まる軌道 テンプレート:Math において、テンプレート:Math が左半分の区間 テンプレート:Closed-closed の値を取るときに記号"L"を割り当て、テンプレート:Math が右半分の区間 テンプレート:Closed-closed の値を取るときに記号"R"を割り当てれば、軌道は LRRLRLL... といったような L と R の記号列に変換できる[8]。一方で、テント写像とは無関係に、コイントスのように全くランダムに L と R を選んでいくことで同じようなLR記号列を作成する。ランダムによる記号列にはありとあらゆる L と R の並びが考えられる。しかしこのとき、任意のランダムによる記号列とテント写像による記号列を一致させる初期値 テンプレート:Math が一つ存在する。言い換えれば、適当な テンプレート:Math を選ぶことで、テント写像はあらゆる並びのLR記号列を生み出すことができる。
また、テント写像 テンプレート:Math は、パラメータ テンプレート:Math のロジスティック写像 テンプレート:Math と位相共役な関係にある[9]。すなわち、テンプレート:Math を満たす同相写像 テンプレート:Math を取ることができ、それは
である。ここで テンプレート:Math は写像の合成を意味する。この位相共役性を利用して、テンプレート:Math のリアプノフ指数の値を解析的に得ることができる[9]。1947年、スタニスワフ・ウラムとジョン・フォン・ノイマンは テンプレート:Math と テンプレート:Math が位相共役であることを示し、ロジスティック写像 テンプレート:Math の軌道の乱雑さを明らかにした[10]
出典
- ↑ 1.0 1.1 1.2 テンプレート:Cite journal
- ↑ 2.0 2.1 2.2 2.3 テンプレート:Cite book ja-jp pp. 179–185
- ↑ 3.0 3.1 3.2 3.3 テンプレート:Cite book ja-jp pp. 65–70
- ↑ テンプレート:Cite book ja-jp p. 402
- ↑ 5.0 5.1 テンプレート:Cite web
- ↑ テンプレート:Cite book ja-jp pp. 349–351
- ↑ テンプレート:Cite book ja-jp pp. 29–44.
- ↑ ここで 0.5 が重複している曖昧さは特に問題とならない(山口, 1986)。
- ↑ 9.0 9.1 テンプレート:Cite book ja-jp pp. 124–133
- ↑ テンプレート:Cite book ja-jp