リース=ソリンの定理

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数学におけるリース=ソリンの定理(リース=ソリンのていり、テンプレート:Lang-en-short)とは、「作用素の補間」に関する一結果で、しばしばリース=ソリンの補間定理(Riesz-Thorin interpolation theorem)やリース=ソリンの凸性定理(Riesz-Thorin convexity theorem)と呼ばれる。リース・マルツェルとその指導学生テンプレート:仮リンクの名にちなむ。

この定理は、Lpの間の線形写像のノルムを評価する。この定理の有用性は、Lpのいくつかが、その他の空間よりも簡単な構造を備えることに由来する。通常はそのような空間として、ヒルベルト空間である L2 や、L1, L などが考えられる。したがって、リース=ソリンの定理を使うことで、2つの簡単な場合に成り立つ定理を、より複雑な場合へ拡張することができる。マルチンケーヴィッチの定理は同様の定理であるが、それはある非線形写像のクラスに対しても適用される。

動機

はじめに次の定義が必要となる:

定義 p0,p1 を、0<p0<p1 を満たす2つの数とする。このとき 0<θ<1 に対して、pθ を次の関係式を満たすものとして定義する:1pθ=1θp0+θp1.

fLpθ を積 |f|=|f|1θ|f|θ に分解し、その pθ 次の冪にヘルダーの不等式を適用することで、Lp 空間の研究の基礎となる次の結果を得ることが出来る:

命題(Lp-ノルムの対数凸性)

fLp0Lp1 は次を満たす:

fpθfp01θfp1θ.

この結果の名前は、[0,] 上の写像 plogfLp の凸性に由来するものである。これにより Lp0Lp1Lpθ が分かる。

一方、レイヤーケーキ分解 テンプレート:Math を考えると、テンプレート:Math および テンプレート:Math であることが分かり、したがって次の結果が得られる:

命題 テンプレート:Math 内の各 テンプレート:Math は和 テンプレート:Math として書くことが出来る。ただし テンプレート:Math および テンプレート:Math である。

特に上述の結果は、テンプレート:Math はすべての可測函数からなる空間内の テンプレート:Math および テンプレート:Mathテンプレート:Mathテンプレート:仮リンク に属することを意味する。したがって、包含関係に関する次の系が得られる:

テンプレート:Math.

実際、加法的和集合 テンプレート:Math 上で定義される作用素を扱うことはしばしばある。例えば、テンプレート:仮リンクによると、フーリエ変換テンプレート:Mathテンプレート:Math に写す有界作用素であり、プランシュレルの定理によるとフーリエ変換は テンプレート:Math からそれ自身への有界作用素である。したがってフーリエ変換 は、次のように定めることで テンプレート:Math へと拡張することが出来る:

(f1+f2)=L1(f1)+L2(f2)

ただし テンプレート:Math および テンプレート:Math である。したがって、そのような作用素の振る舞いを「補間部分空間」テンプレート:Math 上で調べることは自然な成り行きとなる。

そのため、元の例に戻り、加法的和集合 テンプレート:Math 上のフーリエ変換は同じ作用素の二つの具体化の和を取る事で得られることに注意されたい。すなわち

L1:L1(𝐑d)L(𝐑d),
L2:L2(𝐑d)L2(𝐑d)

が成立する。これらは実際、部分空間 テンプレート:Math 上で一致するという意味で「同一の」作用素である。その共通部分には単函数が含まれるため、その作用素は テンプレート:Math および テンプレート:Math の両空間において稠密である。稠密に定義された連続函数は一意な拡張を許すため、L1 および L2 は「同一」と考えることに問題はない。

したがって、加法的和集合 テンプレート:Math 上の作用素を研究する問題は、本質的には二つの自然な空間 テンプレート:Math および テンプレート:Math から二つの目的空間 テンプレート:Math および テンプレート:Math への有界作用素を研究する問題に帰着される。そのような作用素は加法的和集合の空間 テンプレート:Mathテンプレート:Math に写すため、それらの作用素は補間空間 テンプレート:Math を対応する補間空間 テンプレート:Math に写すものであると期待することは自然である。

定理の内容

リース=ソリンの補間定理を述べる上でいくつかの方法がある[1]:前節での記号を利用するために、ここでは加法的和集合を用いた方式を採用する。

リース=ソリンの補間定理 テンプレート:Math および テンプレート:Mathテンプレート:Mvar-有限測度空間とする。テンプレート:Math とし、テンプレート:Mathテンプレート:Mathテンプレート:Math)から テンプレート:Mathテンプレート:Math)への有界線型作用素とする。また テンプレート:Math に対し、テンプレート:Math を前節のように定義する。このとき テンプレート:Mvarテンプレート:Math から テンプレート:Math への有界作用素であり、作用素ノルムに関する次の不等式を満たす:
TLpθLqθTLp0Lq01θTLp1Lq1θ.

言い換えると、テンプレート:Mvarテンプレート:Math-型かつ テンプレート:Math-型であるなら、テンプレート:Mvar はすべての テンプレート:Math に対して テンプレート:Math-型ということになる。このため、この補間定理は絵を用いて表現することが出来る。実際 テンプレート:Mvarリース図(Riesz diagram)は、単位正方形 テンプレート:Math 内の点 テンプレート:Mathテンプレート:Mvarテンプレート:Math-型であるようなものすべての集合として描かれる。補間定理は、テンプレート:Mvar のリース図が凸集合であることを述べている。すなわち、リース図内の与えられた二点に対して、それらを結ぶ線分もまたその図に含まれる。

この補間定理は、元々リース・マルツェルによって1927年に証明された[2]。その1927年の論文では、リース図の下半分の三角形、すなわち、テンプレート:Math かつ テンプレート:Math が成り立つ部分においてのみ証明が与えられた。テンプレート:仮リンクはその残りの部分も含めた正方形全体に対して補間定理を拡張した。ソリンの証明は元々1938年に出版され、1948年の彼の学位論文で拡張された[3]

証明の概要

リース=ソリンの補間定理の証明は、必要な上界を得る上で、テンプレート:仮リンクに主に依っている。Lp空間の双対空間の特徴付けにより、次の等式が成立することが分かる。

Tfqθ=supgpθ1|(Tf)gdμ2|.

テンプレート:Math 内の各 テンプレート:Mvar に対し、テンプレート:Math および テンプレート:Mvar の適切な派生形 テンプレート:Math および テンプレート:Math を定義することで、次の整函数

ϕ(z)=(Tfz)gzdμ2

を得ることが出来る。この テンプレート:Math での値は

(Tf)g

となる。このとき、直線 テンプレート:Math および テンプレート:Math 上での テンプレート:Math の上界を得るために仮定を用いることが出来る。するとアダマールの三線定理によって、直線 テンプレート:Math 上の テンプレート:Math の補間的な上界を得ることが出来る。あとはその テンプレート:Math での上界が求めるものであることを調べればよい。


作用素の族の補間

前節で紹介されている証明の概要は、すでに テンプレート:Mvar が解析的に変動する場合に対しても一般化されている。実際、整函数

φ(z)=(Tzfz)gzdμ2

の上界を得る上ためには、同様の証明を行えば良い。すると、エリアス・スタインの1956年の論文において出版された次の結果が導かれる[4]

スタインの補間定理. テンプレート:Math および テンプレート:Mathテンプレート:仮リンクとする。テンプレート:Math を仮定し、次を定義する:
テンプレート:Math,
テンプレート:Math.
テンプレート:Math 内の単函数の空間から、テンプレート:Math 上のすべての テンプレート:Math-可測函数の空間への線型作用素の集まり テンプレート:Math を考える。この作用素に対し、次の性質を仮定する:
  • 写像
z(Tzf)gdμ2
は、すべての単函数 テンプレート:Math および テンプレート:Mvar に対して、テンプレート:Math 上連続かつ テンプレート:Mvar 上正則である。
supzSek|Im(z)||(Tzf)gμ2|<
supRe(z)=0,1ek|Im(z)|logTz<.
すると、各 テンプレート:Math に対し、作用素 テンプレート:Mathテンプレート:Math から テンプレート:Math への有界作用素となる。

実ハーディ空間テンプレート:仮リンクの理論により、ハーディ空間 テンプレート:Math と有界平均振動の空間 テンプレート:Math 上の作用素を扱う上でスタインの補間定理を使うことが可能となる。これはチャールズ・フェファーマンエリアス・スタインによる結果である[5]

応用

ハウスドルフ=ヤングの不等式

テンプレート:Main

本記事の第一節で、フーリエ変換 テンプレート:Math から テンプレート:Math への有界作用素かつ テンプレート:Math からそれ自身への有界作用素であることが確かめられた。同様の議論により、周期函数 テンプレート:Math を、値がフーリエ係数

f^(n)=12πππf(x)einxdx

であるような函数 f^:𝐙𝐂 に写すフーリエ級数作用素は、テンプレート:Math から テンプレート:Math への有界作用素かつ テンプレート:Math から テンプレート:Math への有界作用素であることが分かる。このとき、リース=ソリンの定理は次を意味する:

fLq(𝐑d)fLp(𝐑d)f^q(𝐙)fLp(𝐓).

ただし テンプレート:Math かつ テンプレート:Math である。これはハウスドルフ=ヤングの不等式である。

ハウスドルフ=ヤングの不等式はまた、局所コンパクトアーベル群上のフーリエ変換に対しても成立することが示される。ここで 1 のノルム評価は最適ではないことに注意されたい。例えばハウスドルフ=ヤングの不等式の記事を参照されたい。

畳み込み作用素

テンプレート:Main

テンプレート:Math を固定された可積分函数とし、テンプレート:Mvarテンプレート:Math との畳み込み作用素、すなわち各函数 テンプレート:Mvar に対して テンプレート:Math で与えられる作用素とする。

このような テンプレート:Mvarテンプレート:Math から テンプレート:Math への有界作用素であることはよく知られており、テンプレート:Math から テンプレート:Math への有界作用素であることは自明である(いずれの場合も、テンプレート:Math によって評価される)。したがって、リース=ソリンの定理より次が成立する。

f*gpf1gp.

この不等式に対し、作用素と被作用子の役割を変える、すなわち テンプレート:Mvarテンプレート:Mvar との畳み込み作用素とし、テンプレート:Mvarテンプレート:Math から Lp への有界作用素である場合を考える。テンプレート:Mvarテンプレート:Math に属すため、ヘルダーの不等式の観点から、テンプレート:Mvarテンプレート:Math から テンプレート:Math への有界作用素であることが再び分かる。ただし テンプレート:Math である。したがって補間により

f*gsfrgp

が得られる。ただし pr および s の間の関係は次で与えられる。

1r+1p=1+1s.

ヒルベルト変換

テンプレート:Main

テンプレート:Mathヒルベルト変換は次で与えられる。

f(x)=1πp.v.f(xt)tdt=(1πp.v.1tf)(x),

ここで p.v. は積分のコーシーの主値を表す。このヒルベルト変換は、ある特定の単純な乗数を伴うテンプレート:仮リンクである:

f^(ξ)=isgn(ξ)f^(ξ).

プランシュレルの定理より、ヒルベルト変換は テンプレート:Math からそれ自身への有界作用素となる。

しかし、ヒルベルト変換は テンプレート:Math あるいは テンプレート:Math 上で有界とはならず、直接的にリース=ソリンの補間定理を用いることは出来ない。それらの終点の境界が得られない理由を探るためには、簡単な函数 テンプレート:Math および テンプレート:Math のヒルベルト変換を計算すれば十分である。しかし、すべてのシュワルツ函数 テンプレート:Math に対しては

(f)2=f2+2(ff)

が成り立ち、この等式は、すべての テンプレート:Math に対してヒルベルト変換が テンプレート:Math からそれ自身への有界作用素を示すために、コーシー=シュワルツの不等式と組合せて用いることが出来る。補間によって、次の評価が得られる:

fpApfp.

ただし テンプレート:Math である。テンプレート:Math の場合にこの評価を適用する上では、ヒルベルト変換の自己共役性が活用される。

実補間法との比較

リース=ソリンの補間定理とその変形版は、補間された作用素ノルムに関する明確な推定を与える上で有用な道具となる一方、それらには多くの欠点も存在する。欠点にはそれほど問題にならないものもあるが、深刻なものもある。はじめに、リース=ソリンの補間定理の証明における複素解析的な設定により、スカラー場は テンプレート:Math とされることに注意されたい。拡大実数値函数に対しては、この制限は函数を至る所で有界であるように再定義することによって回避することが出来る。可積分函数に関してはほとんど至る所で有界とすればよい。より深刻な問題は、実際、ハーディ=リトルウッド極大作用素テンプレート:仮リンクといった多くの作用素には良い終点評価が存在しないことである[6]

前節のヒルベルト変換の場合では、いくつかの中点でのノルム評価を陽的に計算することによって、この問題を回避することが出来た。しかし、このような評価は手間がかかり、一般の場合ではしばしば不可能である。そのような作用素の多くは次の弱型評価(weak-type estimates)

μ({x:Tf(x)>α})(Cp,qfpα)q

を満たすものであるから、テンプレート:仮リンクのような実補間定理がそれらに対してより適切なものとなる。さらに、ハーディ=リトルウッド極大作用素のような重要な作用素の多くは、テンプレート:仮リンクであるに過ぎない。これは実補間定理を適用する上では障害にならないが、複素補間定理は非線型作用素を扱うことができない。一方、実補間法は中間の作用素ノルムに関して複素補間法ほど良い評価を与えず、リース図における非対角でも良く振舞わない。マーシンキウィッツの補間定理の非対角版では、ローレンツ空間の構成が求められ、テンプレート:Math-空間上のノルム評価が得られるとは限らない。

ミチャギンの定理

B. ミチャギンは、リース=ソリンの定理を次のように拡張した:ここで述べられる拡張は、テンプレート:仮リンクを伴う数列空間の特別な場合に対して定式化されるものである。

次を仮定する。

A11,AM.

このとき

AXXM

が任意の無条件バナッハ空間の列 テンプレート:Mvar 、すなわち、任意の (xi)X および (εi){1,1} に対して (εixi)X=(xi)X が満たされるようなものに対して成り立つ。

この証明は、クレイン=ミルマンの定理に基づく。

関連項目

注釈

テンプレート:Reflist

参考文献

  1. Stein and Weiss (1971) および Grafakos (2010) では単函数上の作用素が用いられ、Muscalu and Schlag (2013) では共通部分 テンプレート:Math の一般の稠密部分集合上の作用素が用いられている。それらとは対照的に、Duoanddikoetxea (2001)、Tao (2010) および Stein and Shakarchi (2011) では、本節で説明している加法的和集合の式が用いられている。
  2. Riesz (1927) を参照。証明では双線型形式の理論における凸性に関する結果が利用された。このため Stein and Weiss (1971) などの多くの古典的な文献では、この定理のことはリースの凸性定理(Riesz convexity theorem)と呼ばれている。
  3. Thorin (1948)
  4. Stein (1956). チャールズ・フェファーマンの書 Fefferman, Fefferman, Wainger (1995) で指摘されているように、スタインの補間定理の証明は本質的にはリース=ソリンの定理と同じであるが、作用素には テンプレート:Mvar が加えられている。この埋め合わせのために、Isidore Isaac Hirschman, Jr.によるテンプレート:仮リンクのより強いヴァージョンが用いられ、求める上界が得られている。詳細な証明については Stein and Weiss (1971) を参照されたい。またこの定理のハイレヴェルな解説については a blog post of Tao を参照されたい。
  5. Fefferman and Stein (1972)
  6. エリアス・スタイン は、調和解析に現れる興味深い作用素が テンプレート:Mathテンプレート:Math 上で有界であることは滅多にないと述べている。